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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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Season2 Double Justice 11

常識が色々食い違うコメディ回

そして翌日になり、わたしたち三人は、装備を買いに行くことにしました。

「地形調査は私に任せておけ。装備の調達はお前らに一任する。光一郎、ベリルの健康診断の結果だ。参考にするがいい」

コーイチローさんから頼まれたのがうれしかったのか、やる気満々のプロフェッサーさんにお金と共に部屋を追い出されたわたしたちは、馬車に乗って紹介された武具を扱う店に向かいました。

「……ね、ねえ。これ本当に使って大丈夫? あとで返せとか言われても多分返せないわよ?」

ずっしりとお金が入った袋を膝の上に乗せながら、ベリルさんがちょっと不安げに聞き返してきました。


ベリルの装備は、ベリル自身に選んで貰う。この金で調達してくれ。


そう言ってコーイチローさんはベリルさんに装備を買うお金を渡しました。

何やら、プロフェッサーさんの『健康診断結果』を見てそう決めたようです。

……わたしもこっそり見てみましたが、コーイチローさんたちの世界のものであろう文字で書かれていたため、

わたしに分かったのは、プロフェッサーさんは多分字を書くのがあまりお得意ではないということだけでした。

「残念ながら、オレたちには魔法の武具の善し悪しってのは良く分からない。一見よさげに見えた装備が実戦では役立たずなんてのはよくあることだしな。

 だから、実戦経験豊富なベリル自身に選んで欲しいんだ。お前がつけるに相応しい、お前のための装備をな。

 ……金で買えないものは沢山あるが、少なくとも装備は金で買える。惜しむ理由はない。足りなかったら言ってくれれば出すから」

「まあ、ちょっと多すぎる気はしないでも無いですが」

その問いかけにコーイチローさんが真顔で答え、わたしは苦笑します。

「そういうことなら有難く使わせてもらうけど……奴隷に金貨を百枚も渡すとかおかしいと思わないの? 持ち逃げとかされたらどうするつもり」

そのお金は、間違いなくベリルさんにとっても大金でしょう。渡された袋の中身を見て固まってましたし。

……そこでわざわざ自分が不利になることを言う辺り、やっぱり根が善良と言うか、悪いことが出来ないタイプなのだと思います。

「本当に持ち逃げする奴はそんなことそもそも聞かないし、この状況で逃げるほど馬鹿じゃないだろ。ベリルは」

どうやらコーイチローさんはここ二日の行動から、ベリルさんを信用することにしたようです。

驚くほどあっさりと、ベリルさんを受け入れています……少なくとも表面上は、そう見えます。

「当たり前じゃない!……でも、アタシ、奴隷なのよ?」

「ああ、オレたちの奴隷、所有物だ。大切なものを大事するのは当然だと思わないか? ましてや、ヤバい連中に狙われてるんだ。

 ……それに、ベリルは経験豊富な熟練の冒険者でもある。だから、自分の命を守る装備は、ベリルを信用して任せるのが一番良いと思ったんだ」

確認するようなベリルさんの言葉に大きく頷きながら、コーイチローさんがまっすぐに言葉をぶつけていきます。

「……そ、そう。そういう、ことなら……アタシ、頑張ってみる」

その言葉にベリルさんは返す言葉が無くなったのか、真っ赤になって俯いてしまいました……

その表情は、困ったような、それでいて嬉しそうな感じで……


なんだか、とても面白くありません。


いや、頭では分かっているのです。コーイチローさんはベリルさんの信頼を勝ち取りたいと心から思い、行動しているのだと。

コーイチローさんは、そう言う人です。相手の信頼を勝ち取るためには手段を選ばないし、その上でちゃんと約束を守ってくれる人でもあります。

だからこそ、気位の高い猫みたいに自分の興味がすべてな性格をしているプロフェッサーさんもあれだけ心を許してるのでしょう。

分かっていても、心が納得してくれません。

もしかして、ベリルさんに勝てるところがあまりないわたしは飽きられてしまったのでは……そんな気持ちが膨れ上がり、不安になります。

「それで、コーイチローさん? 冒険者としての経験なんてないわたしの装備はどうすればいいですか?」

そんな気持ちがあふれたせいか、思わずわたしはコーイチローさんにきつい口調で尋ねてしまいました。

……しまった。と思いましたが、一度口に出した言葉は取り消せません。

そしてコーイチローさんはちょっとだけわたしの方をじっと見つめた後、言いました。

「ベリルとオレやアリシアでは多分装備選ぶ基準が違うと思うし、オレと一緒に選ばないか? 二人で相談してさ……それじゃあ、ダメか?」

「……それなら、いいです」

そんなことで、あっさりと許してしまうわたしは、もしかしたら扱いやすい女なのかもしれないと、我ながら不安になりました。



銀の祝福亭から紹介されたお店『ダグとメリルの店』は、大きな二階建ての建物でした。

「へえ。ここか……割とデカいな」

「そりゃあこの交易都市でも特に品ぞろえがいいことで知られる大店だもの……質は間違いないけどすごい高いし、値引き交渉すら出来ないからここで買ったことは無いけど」

コーイチローさんの言葉に、この街での暮らしも長いのであろうベリルさんが解説しています。

ベリルさんによればどうやらここは、それこそ自身も貴族である銀の祝福亭を利用するようなやんごとなき方々の護衛や、

生涯遊んで暮らせるような大金を得てなお冒険を続けているような方々向けのお店らしく、

品揃えと質の良さ、そしてお値段においては他の追随を許さない、交易都市最大の大店だそうです。

全身鎧と槍で武装した、入り口を守る店の用心棒らしき方々の脇を通り抜け、わたしたちはお店の中に入ります。

「へえ……やっぱり辺境の街とは大違いですね」

お店の中に入ると、店の奥に陣取った、愛想が全くない店主がむっつりと、わたしたちを見てきました。

強面で小柄、筋骨隆々で傷だらけで髭もじゃな如何にも鍛冶人(ドワーフ)とはこうでなくては、と主張する気難しそうな男の人です。

すぐ手に取れると思われる場所に巨大な戦斧が置かれていて、怒らせたらタダではすまないのだろうな、と思わせる辺りが、いかにも歴戦の戦士のようで、楽しいと思います。

ここのご主人は冒険者の凄腕の戦士として鳴らしていて、同じ一党の魔法使いだった鍛冶人の奥さんと結婚した後、高いけど絶対に騙さない誠実な商売でここまで店を大きくしたという商売人らしいです。

宿屋の店主が同じ一党の仲間だったとかで、銀の祝福亭では武具の紹介を頼まれたらここに案内するのだと言っていました。

中は魔法の明かりでも使っているのか、広いわりには明るく、無数の武器や鎧、盾に兜などの大物が並んでいます。

やはり交易都市一番の大店だけあって、数も種類もとても多く、それを眺めて付けた様子を想像するだけでちょっとした娯楽になりそうなほどです。

冒険者ギルドがお休みの時に見に行った辺境の街の、工房部分を除くと乱雑にごく普通の武器や防具が置かれた、ちょっとした物置きくらいの大きさしかない武器屋とは大違いです。

「あ、ここに釣り書きが書いて……やっぱり高いんですね。魔法の武器や防具って」

割引交渉お断り、とわざわざ銘打つだけはあって、武器や防具にはすべて何で出来ているか、どんな魔法が掛かっているか、そしてお値段がどれくらいかが書いてある釣り書きがついています。

武器や防具の目利きが出来ないわたしやコーイチローさんにはとても有難い話だとは思いますが、やはりとても高いです。

わざわざ高い、と教えてくれた案内役の方が苦笑していただけはあります。

「……どうやら片手で扱えるような軽い武器とか小物は、二階にまとめて置いてあるみたいね……行ってくるわ」

キョロキョロと辺りを見た後、ベリルさんは強い決意を秘めて、店の奥にあった小さな階段を上っていきます。

……一応魔法使い用と思われる大きな杖もいくつか置かれていたのですが見もしない辺り、どういうものが欲しいのかがはっきり決まっているようです。

「……ありゃあほっといても大丈夫そうだな」

「そうですね」

それを見送った後、わたしたちは装備を見て回ることにしました。

「……あの、コーイチローさん。わたしは武器は何が良いと思いますかね?」

かつては聖銀の短剣(ダガー)一本でも重かったわたしですが、今のわたしなら大槌(バトルハンマー)であっても両剣(クレイモア)であっても大鉾斧(ハルバード)であっても軽々と振り回せるでしょう。

流石に妖精人でもなければ年単位の習練をしないと使いこなせないという大弓を使う気はありませんが、高い筋力に恵まれた戦士にのみ使いこなせる大業物ならばぴったりだと思います。

幸いここは武器屋なだけあり、そう言う巨大な武器も普通に売っていますし、中には聖銀で出来たものや魔法が掛かっているらしいものまであります。

今のわたしは冒険者としての分類に従うなら間違いなく『戦士』になると思われますので、そう言う武器を使いこなすのは良さそうな気がします。

「……そりゃまあ素手、だろうな」

「え? 素手なんですか?」

ですが、コーイチローさんの答えはとても簡単で、わたしとしてはちょっと残念なものでした。

確かにコーイチローさんは格闘術を使いこなしていますので格闘武器が一番似合うと思いますが、わたしは格闘術については素人同然なので、普通に武器を使った方が良いように思います。

と言うか、普通に素手で殴りかかったり、岩や馬車を投げつけるのは、とても蛮族(バーバリアン)風味と言うか、王都で生まれ育った貴族の娘っぽくないように思うのはわたしだけでしょうか。


―――バーサークタウロスの怪力と不器用さだと、大概の武器は耐えられない。怪人の姿でまともに使ったら大体へし折れるか変な曲がり方して使い物にならなくなると思う。

   オレの知る限りでは、引っこ抜いたりへし折った標識とか電柱とか木を即席のこん棒代わりにするのは見たことあるが、専用の武器を使うバーサークタウロスは見たことが無いな。


そんな不満を見て取ったのか、コーイチローさんがいつものように《沈黙の命令》でわたしに語り掛けてきます。

……なるほど、力が強すぎるとそう言う弊害もあるんですね。

「そうなんですか……残念です」

心からそう思い、わたしは目の前に置いてあった大剣を手に取ってみます。

「……ああ、確かに、これはダメそうですね」

ただでさえわたしの背丈より大きく、分厚い剣と言うより鉄塊と言うに相応しい大剣を手に取って掲げ、わたしはコーイチローさんの言葉を実感しました。

その剣は重量増加の魔法まで掛かっていて、普通の戦士なら持ち上げることすら困難であろう大剣にも拘わらず、擬態している今の状態でも軽く感じます。

三割程度の力しか出ない今の状態でこれなら、その三倍以上の力が出る怪人状態ではどんな武器でも簡単に壊してしまうのは、なんとなくわかりました。

「……となると素手か、格闘用の手袋とか、そう言うものになるんですかね」

「格闘用武器は……あんまりないな。ごつい籠手とかはちょっとあんまり使いたくないんだよなあ。サイズの問題もあるし」

「あ、もしかしたら格闘用武器は二階にあるのかも知れませんよ。格闘家さんの魔法の武器って小さくて軽そうなのも多いですし」

「なるほど、じゃあ二階か……先に防具見るか」

そんな会話をしながら、とりあえず武器は後回しにすることにします。

……わたしが軽々と大剣を持ち上げたのを見て、思わず大斧を手に立ち上がった店主の方は、見ないようにしながら。


武器はダメと言うことが分かったので、今度は防具を見ることにしました。

「さて、ボディアーマーは動きやすいかどうかが一番大事なんだが……」

コーイチローさんは装備品の一角に並ぶ様々な鎧を見ながら、何やら考え込んでいます。

思えば普段から普段着とほとんど変わらない布の服くらいしか着ない人なので、あまり興味が無いのかもしれません。

「あ、これとかどうですか?」

ですが、ここは冒険者さんからの色々なご相談に乗ることも多いギルド職員としてのわたしが出来るところを見せるチャンスでもあります。

わたしは鎧をよく見て、コーイチローさんにぴったりそうなものを見つけて勧めてみます。

黒い、革で出来た革鎧(レザーアーマー)です。硬くなるような加工がされていない後衛向けの鎧ですが、動きの邪魔にならないし軽いので格闘家の方が着ているのをよく見るタイプの鎧でもあります。

この店の武具なので当然のように魔法が掛かっている高級品でもあります。

「革で出来た鎧か。鎧と言うか、革で出来た服って感じだが……炎に強くて、刃や矢に対する防護強化魔法処理済み、自動洗浄魔法処理あり、魔法による重量軽減処理あり、サイズ自動補正……

 サイズ自動補正ってなんだ?」

わたしがお勧めした鎧を手に取り、コーイチローさんはしげしげと値札を眺めながら尋ねてきます。

「魔法の武具では割と一般的な強化魔法ですね。大きさそのものが、身体に合わせて変わる魔法です。体格って人によって違うので、ある程度高位の魔法の鎧とかには大抵ついてますよ」

「……なるほどなあ。伸縮性素材みたいなもんがあったのか。ファンタジー世界は奥が深いな……おお。こりゃすげえな」

どうやらコーイチローさんはサイズ補正魔法の存在そのものを知らなかったようです。

実際に着てみて、ぴったりと身体に張り付く革鎧を見て、驚いたうえで楽しんでいるように見えます。

普段は頼りになる大人の男の人と言う感じなのに、こういう時は若い男の子のように見えて、わたしもうれしくなります。

「ちょっとお値段はお高めですが、鎧は命を守るためのものとも言いますし、ケチらない方が良いと思いますよ」

わたしの場合は冒険者さんをサポートするギルド職員として、一般的な魔法強化くらいは一通り知識としては知っています。

サイズ補正魔法は、代々受け継がれるような家宝の品や、体格が全く違う様々な種族が行きかうこの世界で、

種族や性別を選ばずに装備できる防具を作るためには必須と言われる魔法だけあり、魔法による強化では一般的なものです。

どんな人が着てもぴったりな大きさになるのです。誰が着ても重さが全く変わらない辺りは魔法ならではでしょう。

「辺境の街だとちょっとした魔法の武具すら滅多に売ってませんからね。で、どうですか?」

「……買うか。どうせオレの毛皮より硬い鎧は無いと思ってたが、こういうのがあるなら話は変わってくる」

わたしの、店の回し者のような口上に心動かされたのか、コーイチローさんはこの鎧を買うことに決めたようです。

普通に小脇に抱え込みました。

「決まりですね。じゃあ、次はコーイチローさんの番です。わたしに似合う鎧ってありそうですかね?」

それに満足したわたしは、次にわたしに合う鎧をコーイチローさんに尋ねます。

武器はともかく、鎧ならば筋力がいくら高くても簡単に壊れる、なんてことはないでしょう。

コーイチローさんのお勧めならば、革鎧(レザーアーマー)だろうが板金鎧(プレートメイル)だろうが全身鎧(スーツアーマー)だろうがどんとこい、と言う気持ちです。

「そうだな……これとかどうだ?」

「……はい?」

ですが、しばらくあちこちを見回して、悩んだ末にコーイチローさんがわたしに渡してきた鎧は、わたしの想像をはるかに上回るものでした……主に悪い方向で。

「こ、これ下着鎧(ビキニアーマー)じゃないですか!?」

驚愕と共に、わたしは叫びました。

動きやすいのは確かですが、主に乙女の尊厳と羞恥心にダメージを与えるという呪われた品とまで言われる鎧です。

男性冒険者が恋人や妻である女性冒険者や娼婦に着て欲しいと要求することがあるとは聞いたことがあります……主に夜のベッドの上で。

そう、大体破廉恥な目的です。日常生活や冒険では裸体同然の姿と急所を晒しまくることもあって着るのはある種特殊な職業や趣味の方々だけとも言われます。

……高位の魔法の武具の中には下手な板金鎧より頑丈で強力な下着鎧もあると言う辺りは、男性の方々の言い訳とか執念とか色々なものを感じます。

「ああ、炎による損傷の軽減、寒さへの耐性、魔法防御向上、防刃魔法、布地部分の耐久性上昇に、自動洗浄、サイズの自動補正……

 釣り書きに書かれてる魔法が全部かかってる魔法の防具って奴と考えると、これが一番だと思う」

展示されていた商品について書かれている説明文を読みながら、コーイチローさんが言いました。

……ああ、コーイチローさんもそう言うの、普通に興味あるんですね。普通に真面目な感じで言っている辺りがなんとも言えません。

「そ、そうですけど、これ、下着鎧ですよ?」

「分かってる。下着の一種なんだろ。通気性とかは見た目だけでは分からんが動きやすそうではあると思う」

一応聞き返してみましたが、どうやら、完全に本気のようです。本気で、わたしに、下着鎧を勧めています。

……ちょっとその気になってきたのが、我ながら扱いやすい女な気がしてきます。

「……分かりました。そこまで言うなら、着てみます」

ここまで来たら、わたしとて覚悟を決めました。乙女としての羞恥心に、恋心が勝りました。

「ああ」

コーイチローさんが頷くの確認した後、ついに決断と共に下着鎧を手に取ります。

……まさかこの年になって下着鎧を着ることになるとは。

不愛想な店主さんに許可をもらって試着用の部屋に入り、服を脱いで、下着姿になったあと、わたしはごくりと緊張で唾をのみました。

魅せるのが仕事の剣闘士や動きやすさを最重要視する蛮族の女戦士が好む装備として有名な下着鎧ですが、わたしが着る日が来るとは思いませんでした。

わたしは改めて下着鎧を見ます。

コーイチローさんの趣味なのか、肩当ての無いタイプで上質な布を使っている下地に怪物か何かの革で出来ているらしい胸当てが縫い付けられている、シンプルな下着鎧です。

普通の下着鎧と比べればお腹と背中が出ないという意味ではまだましですが、脚はかなりきわどいところまで見えますし、

身体のラインが完全に丸わかりなのはいただけないです。

怪人の姿の時はともかく、普段のわたしはいささか細身なので、胸の大きさが小振りなのまでばっちりです……その辺りがとても恥ずかしいです。

「んっ……」

ですが、コーイチローさんが選んでくれた鎧です。つまりはそう言う関係になりたいという意思表示でもあるのでしょう。

その一心で羞恥心を抑え込み、そのままではぶかぶかの下着鎧に身体を通すと、わたしの身体に張り付くように下着鎧が縮みました。

流石はどんな体型の人にでも安心と言う魔法の品です……さきほどちらりと見えた値札のお値段もすごかったです。

ただでさえ値引き交渉禁止と言われている高級店なのに、よくこれで買う人が居るものだと思います。

「ぴったり、ですね」

当然のことながら今のわたしに、下着鎧はぴったりです……

「……あ、そうだ。『こっち』の状態でも試さないといけませんね」

しげしげと貧相な身体を眺めたあと、わたしは気づいて『擬態』を解除しました。

身体が一気に膨れ上がり、鎧の方もそれに合わせて変化します。サイズ補正魔法はばっちり機能しているようです。

「……んー。この状態ならまあ、案外いい感じな気がします」

その状態で鏡に自分の姿を映してみて……意外といける気がしてきました。

角と手足の角はともかく、擬態を解除したわたしの下着鎧姿は、普通に女性としてよいような気がします。

胸やお尻の肉付きが足りないいつもの貧相な身体と違い、豊満で女性らしい体つきだと、普通に似合っているというか、とても煽情的な姿な気がします。


……擬態解除した状態なら普通に豊満で女性らしい体つきになることにちょっと自信を覚え、わたしは意を決して擬態しなおした上で試着室から出ます。

「……え?」

その姿に見とれるコーイチローさんに、ちょっとだけお色気を意識したしなをつくりながら、わたしは赤面し、コーイチローさんに尋ねます。

「ど、どうです、か……」

「えっと、その、だな……」


……あ?


今、ついっと、目をそらしました。これは、以前も見ました。

そう、コーイチローさんが失礼なことを言う兆候です。

そして、コーイチローさんの割と容赦ない口撃が炸裂します。

「……なんで服着てないの?」

「コーイチローさんが着ろって言ったんじゃないですかあ!?」

流石の温厚なわたしでもその理不尽さにはしたなくも怒鳴り返してしまいました。



「悪かった。てっきりあれ、下着って言うか服の下に着るインナーの一種なんだと思ったんだよ」

「うう……」

女中服に着替え直し、乙女の尊厳をがっつり切り刻まれて泣きべそをかくわたしと、それをなだめるコーイチローさん。

傍目には冒険者さんのカップルの痴話げんかかなにかに見えているかもしれません。

「だってあれ、(アーマー)ですよ。上からなんか着るとか普通思いませんよ」

そりゃあ金属の鎧の下には鎧下(アンダーアーマー)を着るのは知っていますが、まさか下着鎧をそんな扱いにするとは思いませんでした。

魅せる前提の装備なんですし、上から服や鎧を着るならあんな派手なデザインにする必要もないじゃないですか。

「大体、その……ふしだらで破廉恥な目的が無いならなんであんな鎧を選んだんですか?」

「ほ、ほら、飾ってある中ではプールとかジムでなら普通に見るくらいには大人しいデザインだったし……」

それから、コーイチローさんは《沈黙の命令》に切り替えて、わたしに話しかけてきます。

―――怪人って擬態しているときとそれ以外で身体のサイズが変わるだろ。

そうですね……コーイチローさんが普段体のサイズよりちょっと大きい服を着るのも、怪人の姿に戻ったときに合わせてるからと聞きました。

実際わたしも、擬態解除して豊満な体つきになった状態で試してみたわけですし。


以前、魔人と戦うために怪人になったとき、わたしの体型に合わせて仕立てたはずの制服は内側から破れてボロボロになりました。

替えの分が何枚かあったおかげで困りはしませんでしたが、血の汚れと焦げたあとも相まってあの制服は古着を飛び越えてゴミになったのです。

一種の記念品として寮のクローゼットにしまいはしましたが、二度と袖を通すことは無いでしょう。


―――俺たちの場合は羽とか触手とか生えてこないだけマシだが、それでも伸縮性の高いインナーが無いと、擬態といた時に破けるからな。

   それと激しい戦いだと体は再生能力で無事でも服の方が持たないことも多い。

   食らって耐えるのが基本のバーサークタウロスなんかだと最悪戦闘終わったら全裸なんてこともある。


なるほど……聞いてみると意外なほどに真面目な理由がありました。

思い起こせば狩人の魔人の《火炎球》を受けた時には肉体は再生できる程度のダメージしか受けませんでしたが制服の端っこが焦げていました。

一発だけなら焦げるだけで済みましたが、あのまま何発も食らっていたら、服が全部燃え尽きていた可能性は確かにあります。

「そう言うわけで、服の下に普段から着とくのに良いのかと思ったんだ。まさかあの姿で歩き回るの前提の装備だとは思わなかった」

「……分かりました。そういうことなら、許してあげます」

コーイチローさんが本当にすまなさそうな顔をしているので、わたしは許すことにしました。

もし、これからも狩人の魔人のような凶悪な怪物と戦うことがあれば、防御力が高い鎧があった方が良いのは確かですし、コーイチローさんが初めて見立ててくれた服であるとも言えます。

「ああ、ありがとな。で、あれでいいか? その、服の下に着る用で」

「はい」

コーイチローさんの確認に頷き、わたしはその下着鎧を買うことにしました。

お互いに選んだ、お互いに一番似合う服。

それはきっと大事なものになると思います……服と言うか鎧ですが。

ちなみに光一郎は本気でエロ目的でなく本気かつ真面目に選んでいる。

……昔の特撮ではエロい服着てる女の人って割と居るけどね!

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