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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
35/95

Season2 Double Justice 06

出来上がり次第公開していくスタイル

着替えを終えて中央広場から少し離れた場所にある、この辺りでは特に大きな建物の一つの前に、わたしたちはやってきました。

大きな馬車が乗り降りできるような入り口と中庭があり、入り口の側には槍を持ちと板金鎧を着た兵士が二人立っています。

建物そのものも歴史ある古い建物のはずですが、こまめに修繕されているのか、外壁はきれいなまま。

入り口には銀の剣とコインが描かれた看板が下げられています。

「ここですね。銀の祝福亭。ここがギルドで紹介してもらった、一番高い宿屋です」

「ここか……確かに周りより豪華だな」

コーイチローさんが物珍しそうに辺りを見ます。

中央広場の周辺は貴族や裕福な商人のために作られた地区ですから、冒険者はあまりいません。

清掃も行き届いているのでちゃんとした服に着替えて居なかったら悪目立ちしてましたね。

「宿屋など、横になれるベッドが確保できればそれ以外はどうでもよかろう」

「いやいや、信用ですとか、警備ですとかを考えますと、お手頃価格なお宿では困るんですよ?お嬢様」

相変わらず、そう言うところには全く無頓着なプロフェッサーさんに説明しますと、プロフェッサーさんが眉をひそめていいます。

「お嬢様? どういうつもりだ、アリシア・ドノヴァン」

「いえいえ。今回はあくまで名を明かすことは出来ない貴族のお嬢様とその従者と言うことになっています。よろしくお願いしますね?」

大金を使っても納得してもらえるように、今回はそういうことにしました。そのことは、プロフェッサーさんにも説明したはずですが。

「私は別段、お嬢様と呼ばれる地位に居ないのだがな……まあ、いいだろう」

そう思っていたら、お嬢様と呼ばれるのが違和感があったようです……

コーイチローさんの上司を名乗っているのですし、偉そうな割に、そう言う扱いを受けるのは慣れていないようです。

幼い子供であるにも関わらず結社と言う怪人をまとめ上げる組織の上層部にいたそうですから、結社の支配者か幹部の方の娘とか孫とかだと思っていたんですが、違うのでしょうか。

「……実はちょっと楽しんでるだろ?」

「……ええ。少し」

……まあ、コーイチローさんのいう通り、ちょっと普段と違う人柄を演じるのは、なかなかに面白いとも思いますが。

「幸い女中なら実家で見慣れてますから、言葉遣いなどもある程度は真似できます」

何しろ子供のころはベッドから出れなかった分、女中の様子を見るか本読むくらいしか出来なかったので、なんだかんだよく見ていました。

それが役に立つのですから、世の中何が役に立つかわからないものです。

「では、参りましょうか。お嬢様」

「やめろ光一郎。普通に気持ち悪い」

それに乗ってコーイチローさんもプロフェッサーさんのことをお嬢様と呼ぼうとして……本気で嫌そうな顔をされました。

「……分かった。じゃあオレは普通に護衛の冒険者ってことで」

「うむ」

……あ、結構傷ついた感じの顔をしています。ですが、プロフェッサーさんの気持ちも分からなくはないので、放置しつつ、兵士たちの間を通って扉をくぐります。

「ようこそいらっしゃいました。お客様。お話は伺っております」

流石は一流店であるらしく、扉をくぐると同時に宿屋の主人が笑顔で出迎えてくれました。

仕立ての良い服に身を包み、首からは交易神の聖印と、銀の認識票を下げているのが見えます……

冒険者ギルドとの繋がりが強いだけあって、冒険者としては数十年前に引退した身ですが、高位の交易神の神官でもあるという話は本当だったようですね。

従業員にも怪我や病気、加齢などで引退したそこそこ以上の腕を持つ冒険者上がりが多いと聞きますし、下手な城や教会施設より襲うのが難しいと言われる宿屋だとのことです。

「はい。お嬢様は事情があり、名を明かすことが出来ません。故にわたしの名前で、最上級の部屋をお借りしたいと考えています」

下手に敵に回せば神の敵としてこの交易都市で生きていくことは出来ないでしょう。

だからこそ、交易都市で最も安全な宿であるという評判を得ているわけですが。

「ええ。そのように伺っております……失礼ながら、当店の規則でして、保証金として皆さま方の宿泊費を事前にお預かりさせていただきます。よろしいですか?」

「もちろんです」

そう言いながら、わたしは宿賃をお財布から取り出して宿屋の主人の前に並べます……恐ろしいことに、全部金貨です。

最上級の一部屋でとりあえず七日分。それだけで金貨が何枚も飛んでいくというのですから、交易都市の高級宿とは恐ろしいところです。

普通の宿屋が一泊一部屋銀貨数枚程度なことを考えると、とてつもない無駄遣いをしている気になります。

最も、今回わたしたちが持っているお金を盗まれたくないならば並みの悪人どころか、国の密偵ですら容易く入り込むことはできないという警備の厳重さは必須なので、仕方ありません。

「……はい。確かにお預かりいたしました。早速お部屋にご案内いたしますか?」

「よろしくお願いいたします……荷物はわたしが運びます。従者ですので。それと、部屋の中では使用人は要りません。お嬢様が、慣れぬ者が居ては落ち着かないとおっしゃってます」

とりあえずの宿泊費をわたし、部屋への案内を頼みます……荷物は、多分運べないと思うので、自分で運びます。

また、部屋の中では世話係は要らないというのは、みんなで決めたことです。部屋の中でくらい、下手な隠し事をしないで過ごしたいという気持ちがありますので。

……家事奴隷を買ったら、そのことはしっかり言い含めないといけません。

「なるほど、承りました。君、お客様を案内してくれ。最上階のスイートルームだ」

「ああ、あなた方がギルドが言っていた方々ですね。承りました。こちらです」

そうこうしているうちに、店主が近くを通りかかった宿の案内係にわたしたちを連れて行くように命じます。

壮年の男性……ちらりと指輪が見えたので、魔法使いか何かかもしれません。

「……お客様。交易都市は初めてですか?」

歩く道すがら、ふと、そんなことを尋ねられます。

「ええ。なので色々と紹介していただきたいのですが。銀の祝福亭の紹介ならば信用できますので」

その意図を理解し、わたしはお店の紹介を依頼しておきます。

街にある様々なお店の紹介は、宿屋では割と定番のサービスです。

料金は当然別途かかりますし、この宿屋の紹介ともなれば相応に紹介料は高いかと思いますが、まず地理からしてよく分からない街で適当に物を買うなど、正気の沙汰ではありません。

紹介料を取って紹介する以上は、向こうも変なところは絶対紹介出来ないので、懐に余裕があって安心確実を目指すのなら、これが一番でしょう。

「もちろんですとも。どのようなお店がご所望でしょうか?」

「そうですね。観光向けのお店の他に、お嬢様が書物。それと護衛のコーイチローさんが武具を欲しがっていますので、それらのお店をお願いいたします。

 とは言え差し当たっては、お世話係が欲しいと考えています。旦那様からお嬢様の世話係を一人、新たに用意せよと承っておりまして。

 良い経験になるだろうから、お嬢様自身に選ばせるように、と」

「承知いたしました……失礼ですがご予算は、いかほどでしょうか?」

「初めての交易都市でも困らぬようにと、多めに預かっております……最高級のお店で、お願いします」

慣れた様子で条件を確認していく案内係に、わたしとしての要望を伝えていきます。

どれだけ高級な店でも狩人の魔人の報奨金を全額使いきるのは難しいと思いますので、最高級の店で行くことにしました。

下手にけちって後悔したくありません……プロフェッサーさんもコーイチローさんもあんまりお金に執着してないみたいですし。

「なるほど。では後程、地図と紹介状をお持ちします」

「はい。お願いしますね」

どうやらわたしの考えは向こうにも伝わったようです。笑顔で承諾してくれました。

「では、こちらが鍵となります……この街を、存分にお楽しみくださいませ」

そんな言葉と共に、純銀で出来た細やかな細工の鍵を受け取り、特別性らしい錠前を開けて、部屋の中に入りました。


「わあ……」

案内された部屋は、宿屋の最上階に一つだけ用意された、最高級の部屋でした。

部屋の中に惜しげもなく絹らしいカーテンを下げられた、高価なガラス窓が使われているお陰で部屋はとても明るいですし、掃除も行き届いていて清潔です。

ベッドや調度品の数々も明らかに最高級品であることが分かる贅沢な作りで、まるで自分が上級貴族にでもなったかのように思えてしまいます。

貴重品を入れておく金庫も頑丈そうですし、魔法陣らしきものが刻み込まれていて、とても堅牢な感じです。

「すげえ眺め良いな……同じくらいの高さの建物は結構ある、か……いや、気にしすぎだな」

コーイチローさんは調度品にはあまり驚いた様子はなく、窓の外を見てそんなことを言っていました。

なるほど。窓の外には、王国切っての大都会である交易都市の街並みが広がり、その眺めだけで高価な絵のようです。

「採光性が高いのは良いが、少々部屋の温度が高めだな。冷房はついていないのか」

そしてプロフェッサーさんは、なんと微妙にこのお部屋が気に入らない様子です。

何やら探そうとして……無いということに気づいたのかごそごそと荷物を漁っていました。

「……まあいい。これを着ておけば周囲温度の調整は可能だ」

そう言って取り出したのは、いつもの白い外套です。

当然のようにドレスの上からそれを着て、安心したようで嬉しそうにしています。

「それ、部屋の中ではいいですけど、出かけるときは脱いでくださいね」

「なんだと? この白衣は私自ら作成したもので、周囲環境の調整には最適なのだが」

一応言っておいたら、びっくりされました。

「でも見た目があんまり良くないし、貴族のお嬢様らしくないです」

そう、それなりに時間をかけて選んだドレス。その白い外套と合わせるのは想定していません。

普通に変な恰好になります。変な人として目立ってしまうのは確定でしょう。

「……分かった。観測番号1872の文明社会での行動における現地人の助言だ。従ってやる」

プロフェッサーさんもそれを理解したのかしていないのかは良く分かりませんがプロフェッサーさんの理解は得られたようです。

「まあその分はオレとアリシアでしっかり守るから、安心しろ」

そして、その護衛の頭数としてわたしもしっかり数えられていることに、少しだけ面映ゆさを覚えました。



あの豪華な宿の食事とお風呂を堪能して翌日、わたしたちは宿に用意してもらった馬車に乗って、最初の店……家事奴隷を扱う商会へ向かいました。

「いよいよか……奴隷なあ」

何故かコーイチローさんが緊張しているというか、とても気が進まないという顔をしています。

「大丈夫ですよ。少々お高いでしょうけど、安全な子が揃ってるはずですので」

「そうだぞ光一郎。観測番号1872においては合法なのだ。気にせず購入すればよい」

どうやら乗り気でないのはコーイチローさんだけらしく、プロフェッサーさんもいつの間にか家事奴隷購入に乗り気になっています。

なにしろ銀の祝福亭の紹介をわざわざ貰って行く商会の奴隷なのですから、待遇に関わりなく手癖が悪かったり逃げ出そうとするような素行の悪いものはいないでしょう。

……コーイチローさんなら奴隷をあまり粗雑に扱わないのも目に見えてます。と言うか甘やかしすぎる可能性のがはるかに高いです。

「いや、そういうことじゃなくてな……」

とは言え、どうもコーイチローさんは、奴隷に何か拒否感というか、罪悪感を持ってるようです。

……もしかして、奴隷と言うものに縁が無かったので、どう扱っていいのか良く分からないのかもしれません。

「いいですか。コーイチローさん。奴隷と言うのは高価な財産です」

「……うん?」

そこでわたしは下級貴族として15年暮らしてきた経験を生かし、コーイチローさんに色々と教えることにしました。

「ですから、大事にしなくてはなりません。別段贅沢させたり華美である必要はありません。ちゃんとした食事に、清潔な衣服と寝床。それさえ与えておけば案外真面目に働いてくれます。

 逆にその辺をケチったり、乱暴な真似をすると明らかに働きが悪くなります……特に遊びで手籠めにするなどもってのほかですよ?」

その辺ケチると割と仕事に不熱心になる女中多かったんですよね、わたしの実家のドノヴァン家では。


生まれつき病弱でお医者さまも匙を投げた良く分からない病気の娘の世話を延々させられるというよそ様にはない悪条件があったせいで。


何分、お医者様にも良く分からない病気と言うのは恐ろしいものです。お世話していると普通に自分も同じ病気になるということもありうるのですから。

お医者様にも対処できない病に犯された人物のお世話ともなれば、それが例え大国の姫君であろうともお世話係を探すのは大変とも聞きます。

……お嬢様のお世話係だけは嫌ですと泣いてお父様に懇願してきた女中が居たとか、中にはわたしの世話が嫌で逃げ出した女中もいたとか、

そのせいでどんな仕事からも『逃げられない』家事奴隷が必要だったとか、笑い話に出来るようになったのは奇跡的に成人して家を出てギルド職員になってからです。

それまでは普通にわたしの繊細な心はビシバシえぐられてました……おかげで、我ながら図太くなった自覚はあります。

「……人を犯罪者扱いしないでくれ」

そして、わたしの指摘に、コーイチローさんはちょっとだけ目をそらして言います……これは、ちょっと家事奴隷をそういう目で見ていたようですね。

教育が必要でしょう。

「奴隷の扱いは主人なら何かの儀式の生贄にするとかしない限りは何しても許されはしますが、だからってしていいことと悪いことはあります……手籠めにするとかもってのほかです」

コーイチローさんがそういうことをしないよう、とても大事なことなので二度、言いました。

貴族の家ではうっかりご主人様やお坊ちゃまが若くて綺麗で逆らえない家事奴隷相手にやんちゃやらかして揉めることも多いのです。

我が家ではありませんでしたが追放だ庶子だ離縁だ婚約破棄だ駆け落ちだ心中だと、若くて綺麗な女中との色恋沙汰で壊れたご家庭もあるという話はよく聞きます。

それがアジトで起こったら、流血沙汰間違いなしです。何しろわたしが怪人バーサークタウロスAWなわけですから。

「それはさっき聞いたが……まあ、そうだよな。別段鎖つけて死ぬまで働かせるとか、アリシアじゃないけど嫌がるのを無理やりとか、別にオレらがやる必要は無いんだよな」

……コーイチローさん。奴隷相手であってもそこまでやるのは普通におかしい人ですよ?

わたしはコーイチローさんの中での奴隷がどういうものになっているのかちょっと心配になってきました。

お金が唸るほどあって地位と権力もあっていくらでも代わりを買えるような上級貴族の中には酷い奴隷の扱いをする方もいらっしゃるとかいう嫌な話は聞きますが、少なくともわたしはしません。

そしてコーイチローさんもしないでしょう……プロフェッサーさんは、やらかす前にコーイチローさんが止めるはずです。

「……うん。まあ、あれだな。俺たちよりひどい奴に買われる可能性もある。それを防いだと思おう」

「はい。もちろんです。ただでさえ高価な買い物なんですから、大事に使わないと」

そういってようやくコーイチローさんが家事奴隷購入に前向きになったところで、馬車が止まり、奴隷を売っている商会に到着しました。



奴隷商の店主様(紳士然とした貴族風の中年のおじさまでした)と一通り挨拶を終えたわたしたちは、店主の説明を受けながら家事奴隷を見せてもらうことにしました。

「こちらが、すぐにお譲りできる家事奴隷ですな。全員、家事は一通りこなせますし、文字の読み書きが出来るものもおります」

そう言って見せられた部屋には、現在は十人ほどの女性がいました。成人もまだであろう幼い少女から、未亡人か何かなのか、わたしより年上の年増まで、年齢は様々です。

借金を返せなくなって奴隷落ちした、債権奴隷でしょうか。

着ているものは全員、白いワンピースに、逃亡防止なのか建物の中を歩くには困らないけが外歩きにはあまり向かなさそうな粗末なサンダル。

なるほど、高級な店だけあって、清潔感がありますね。垢じみた様子もありませんし、食事もまともなものが与えられているのか血色も良いです。

家事と言うのは重労働ですが、健康な女性なら大体はこなせることでもあり、家事奴隷は奴隷の中ではそこそこ安い部類に入ります。

お店に出せるほどのお料理ですとか、専門の技能を求めると一気に高くなりますが、普通の家事奴隷にそこまで要求する必要はありませんし。

「やっぱり女の人だけなんだな」

「そりゃまあ。家事って基本女の仕事ですし」

そんな話をしながら、わたしはコーイチローさんの目が、家事奴隷の薄いワンピースを押し上げている胸元を見ているのをばっちり見てしまいました。

……ええ、家族で家事奴隷を買いに行くときも、父や二人の兄が見ているのは主にそう言うところでした。そして真面目に選べと母に怒られていました。

「言っておきますが、顔や、胸の大きさは家事の良しあしに関係ありませんからね?」

「……わ、分かってる」

図星だったようで、ちょっとだけ目をそらしているのが分かります。

……わたしなら、いつでもオッケーなんですけど。

「人類種1872-1しかおらんな……」

そして、しげしげと奴隷を見ながらぽつりと、プロフェッサーさんがわたしたちにしか聞こえないくらいの大きさでつぶやいた言葉に、戦慄しました。

……もしかしてこの人、家事奴隷とか言って妖精人とか、半身人とか、獣人とか買おうとか思ってたんじゃ?

いえ、いくら何でもそこまで……そう思い、目の前の少女がプロフェッサーさんであることを改めて思い出しました。

「……言っておきますが、家事奴隷には人間以外の種族は基本いませんからね?」

「……なん、だと?」

一応確認するように言ったその言葉にショックを受けた顔を見てわたしは確信しました。この人はやっぱりそう言う人だったと。

……とりあえず『戦闘用』の戦奴隷ならそう言う種族も多分いる、とは言わないでおきましょう。お値段が全く違いますし、大真面目に買いあさりかねません。

気を取り直し、わたしはプロフェッサーさんに尋ねます。

「それで、お嬢様は、どのようなお世話係がご所望ですか?」

年齢や、顔、家事のうちのどれを得意とするかなど、どのような部分を重視するか。

アジトで暮らすのであれば最も接する時間が長くなるのはプロフェッサーさんです。

だからある程度は要望を叶える必要があると思い、何気なく聞いたそれが……大失敗でした。


「……そうねえ。このわたくしのお世話係なのだもの。普通の子は嫌……そうね、魔法が使える子が欲しいわ」


え……プロフェッサーさんが大きな声で、普段絶対やらない、貴族向けの言葉で喋っています……ばっちり似合っているドレスなども相まって如何にも我儘なお嬢様そのままです。

まさか、この時のために!? わざわざ覚えてたんですか!?

「な!?」

「……ほほう。魔法が使える奴隷となると、桁が一つ変わりますぞ? なにしろ戦奴隷となりますからな」

予想外の反応に驚き戸惑っていると、大きな商談の匂いを嗅ぎつけた店主が確認するように問うてきます。

その目はまっすぐに今回のカモ……もとい、お客様であるプロフェッサーさんを見ています。色々うるさそうなわたしの方は見もしません。

「お、お嬢様!なぜ家事奴隷を探しに来て魔法使いの奴隷を買う、なんて話になるんですか!?」

「だってわたくし、魔法と言うものが使える人間にとても『興味がある』のだもの。わたくしは魔法が使えない。だからこそ余計に気になる。当然の話だと思わない?」

……そう言い切るプロフェッサーさんの目は、獲物を狙う猫のような目をしていて……せっかくだからと、家事もできる『研究素材』を確保しようとしているのだと理解しました。

「だん……お父様からは家事奴隷を買うためのお金を預かっているのよね? 金貨で千枚はあったかしら。

 滞在費や他の色々なものに買うのに使うお金を引いても、それくらいは出せるわよね? アリシア」

さらに突っ込むようにいきなり予算バラしやがりましたよこの人!?

いくらプロフェッサーさんにとっては降ってわいたようなお金だと言っても、ちょっと使い方が豪快すぎやしませんか!?

「なんと、そのようなご予算が!?」

店主の目の色が変わるのがよく分かりました。そりゃそうです。

世間知らずで相場も知らない、でもやんごとない貴族の筋らしい貴族の姫君が、家事奴隷なら金貨数十枚、戦奴隷でも一番安い人間の戦士なら金貨百枚前後で取引されるのに、千枚などと言っているのです。

ぼったくりであっても千枚でなら普通に売れると思うでしょう。

「で、ですが魔法使いの奴隷なんて、そうそう見つかるものではありませんし、お嬢様のお世話係を任せる以上、女性である必要がありますし、家事も出来ないくらいのご老体でも困ります。

 不具だったりおかしな病を持っている方もダメです。魔法を使いお嬢様に何かしでかさないかを言うことを考えると逃亡暗殺防止用の『死の首輪』を着ける必要もあります」

こうなったら条件を釣り上げて条件があう奴隷をいなくすべきでしょう。

お嬢様の世話係なので、女性。老人不可。これは当然。病気や怪我がない健康体なのも必須。

そして、高価だったり危険だったりする奴隷にのみ使われる『死の首輪』はそれ自体がとても高価な魔道具ですし、例え奴隷であってもよほど覚悟が決まっていないとつけたがらない呪いの品です。

何しろ逃げ出した場合はもちろん、戦いや事故などで主人が死んだら首輪がしまって自分も死ぬという代物なのですから。

戦奴隷、それも老いたりしてもあまり弱くならない魔法使いと言う特殊技能持ちが死の首輪を受け入れるはずがないのです。

「……これも、交易神のお導きと言う奴でしょうなあ」

「……はい?」

だから、店主がしみじみと言った言葉に、わたしは再び固まってしまいました……つまり、条件を満たす方が、いらっしゃると? そんな馬鹿な。

わたしは遥か天界で運と商売を司ると言う交易神様に嘲笑われているような錯覚を覚えました。

「元は優秀な女性の魔法使いで、冒険者としての経験もあるのですが、少々運が悪かったようでしたな。今は死の首輪をつけた当店の商品となっている者がおります。

 ……他に買いたいという御方がいらっしゃる品ですので、その方へお売り出来ない理由として少々お高くなります……具体的には金貨で千枚。これでお譲りいたしましょう」

「……ま、まずは商品を見せてください。なんかこう顔がダメとか生理的に無理とか色々あるかもしれないので」

完全に買う流れになってしまった今、そう言うのが、わたしには精一杯でした。

ごく自然な新キャラとの合流シーンまでのつなぎ

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