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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
34/95

Season2 Double Justice 05

街に到着するまででもだいぶかかった。

混沌の輩をはじき返せるだけの巨大な城壁を恙なく通り抜け、城壁がある小高い丘から見える街並みにわたしは息を飲みました。

「……ここが、交易都市」


城壁内の、表通りから裏路地まで石で舗装された道。

まるでお祭りの日のように行きかう、たくさんの人と馬車。

大通り一杯に作られた一目で大店と分かる立派なお店と、市場らしき広場で布の上に小さなささやかなお店を広げる露天商たち。

街の中心に位置する巨大な交易の神の教会と、石で出来た泉に、そこで様々な芸を披露している芸人や吟遊詩人。

そこはまさに、王都よりも活気があると歌われし、王国一の交易都市。


その街並みが、かつて著名な吟遊詩人の旅の記録をまとめたという旅行記で読んだ通りであることに、わたしは感動しました。

王都から辺境まで馬車で移動するだけで死ぬかと思うほどに虚弱だったわたしが、交易都市を直に見ることが出来るとは思っていませんでした。

「ここか。確かに、観測番号1872の文明基準で見れば繁栄している集落のようだな」

「こいつが、こっちの都会ってやつか……なんかこう、ヨーロッパ風味っつうか、先輩が好きそうな感じだな」

お二人も初めて見る交易都市に悪い印象はいだかなかったようです。


「いやあ、着きましたね。あとで教会に挨拶に行かないと」

「うむ」

どうやらエリーさんとミフネさんはこの街を訪れたことがあるらしく、落ち着いて見えます。

そして、エリーさんがわたしたちを見ながら言いました。

「あ、良ければ宿を一緒しませんか? あたしたち交易都市の宿には詳しくて」

……どうやら、わたしたちの監視は続行するつもりのようです。ですが、させません。

「いいですね。それじゃあ、この街で一番高い宿を教えてもらえます?」

「……い、一番高い宿、ですか?もっと安くてサービスがいい冒険者向けの宿、も……」

わたしが堂々と宣言すると、エリーさんの顔色が変わりました。

……とっさに、懐のお財布を握ってどのくらい入ってるのか考えてるのも、ばっちり見えました。

「いえ、わたしたちが取れる範囲で一番高い宿の、一番良い部屋を取ります。

 あ、一応わたしこれでもきちんと王国から身分が保証されたギルド職員ですし、

 下級ではありますが王都の貴族の娘なんで、貴族の名前が必要なところでも大丈夫です」

ですが、そんなこと、わたしたちには関係ありません。このまま監視付きだと普通に面倒なのです。

「……あ、それは、その、お、お金が」

「それは流石にお出しできませんが、お宿を一緒にするのは、異存ありませんよ?」

ええ、分かってます。そこそこ装備がいい程度の『自称』冒険者さんらしきあなた方に渡されている予算じゃ足りないんですよね?

わたしだって背中にものすごい額の報奨金が無かったら絶対しない選択肢です。

「……すみません。どうやら宿はご一緒出来ないようです」

「うむ、拙者らは『大鹿の角亭』を定宿にしておる。何かあったら尋ねるがよい」

ついに諦めたのか、エリーさんががっくりと肩を落とし、とぼとぼと去っていきます。

まあ部屋に大金を置くことになる以上、元々信用があって警備がしっかりしてる高級宿に泊まるつもりではありましたし。

ついでと言う奴です。

「あの人ら、追い払っても良かったのか?」

「ええまあ。こっちはお買い物兼ねた観光旅行ですし、身分隠して接触してくるような手合いにいちいち付きまとわれても面倒ですので」

コーイチローさんの言葉に首を振り、答えを述べます。

「そりゃ分からんでもないがあの二人、多分だが冒険者じゃなくて警察とか軍人とかその手の人らだと思うんだが」

どうやら、コーイチローさんは正確な正体は掴めなかったようです。やはり、わたしがついてきて正解でしたね。

身分を隠し、聖銀の剣を持ち、若くて世間知らずの割に傭兵崩れを圧倒できるほど剣の腕が達者で、正義の神の奇跡を使える。

ここまで揃えば、その正体はほぼ一つです。

「ああ、それならもう、大体正体は分かりました。その上での対応です。わたしとしては、怪しいと思った瞬間に神様だよりに

 《邪悪看破》を無断で使ってくるような『聖騎士様』とはあまりご一緒したくありません」

「聖騎士。確か主にデーモンやアンデッドと呼ばれる種類のモンスターを専門的に狩るとかいう、宗教団体の戦闘要員だったか」

わたしの説明を聞いて、プロフェッサーさんが納得したように頷きます。

「そうですよ。わたしたちにやましいことはありませんが、いちいち詮索されるのは不愉快ですし」

「……まあ、そりゃそうだな」

……多分、狩人の魔人をコーイチローさんが『単独で倒した』と報告してしまったのが、不味かったんですかね。

かねがね嘘ではなくても、常識を外れた行為をしたら疑われるのは、当然のことでしょう。

わたしは己の失態に気づいて、内心で反省します。

「さて、まずは準備ですね」

「準備?」

気を取り直してこの街でお買い物をする準備を整えようと思います。

「ええ、交易都市でお買い物をする準備です……まずは、冒険者ギルドに挨拶に行った後、お洋服を買いに向かいましょう」

「……服だと?なんのためにだ?今の旅装ではだめなのか?」

不思議そうに聞いてくるプロフェッサーさんの恰好はと言えば、埃まみれで男の子みたいな恰好です。

大金もってたら、絶対怪しまれること請け合いと言えるでしょう。

「勿論です。大金持ってておかしくない恰好をしていないと、そもそも信用されないし、門前払いされますし、だまされる確率も上がりますから」


世の中、見た目って割と大事なんですよ?


そうして、ギルドに紹介して貰った古着屋は、なかなかに品ぞろえが良い店でした。

わたしたちは鏡のある小部屋付きの、身内だけで相談できるような着替え用の部屋を借り、どの服を買うかの検討を始めました。

そして、しばらくして……

「おい、いい加減にしろ。服などどれでも良いと言っているだろう」

六回目の試着を終えたプロフェッサーさんが不満げにわたしに告げてきます。

「ダメです。ちゃんとした格好で、なおかつ似合ってないと侮られますから」

それにわたしは笑顔で持って首を横に振り、都合七着目となるドレスに着替えさせ始めます。

……顔立ちが整っているお陰で、どんな服を着ても似合うのは、ちょっとずるいです。

「……理解できん。どんな格好であろうと私は私だろう」

ですが、当のプロフェッサーさんはどうにもその自覚と言うものが無いみたいです。

さっきから、面倒くさいという顔を隠そうともしません。

……そのくせ、わたしが着替えさせるのは当然、と言った態度なのはある意味お嬢様らしいと言えばお嬢様らしいのですが。

「その意見は分からなくも無いけど、ドレスコードみたいなもんがあるなら、見栄えも大事だぞ」

「それが非合理的なのだ……面倒くさい。大体お前らはすぐに選び終えたのに、何故私だけこんなに時間がかかる」

仕切りの外から声をかけてきたコーイチローさんに、不満に思っていることを隠そうともせずにプロフェッサーさんが言い放ちます。

ちなみにコーイチローさんはその辺も理解しているようで、わたしの思った通りの服をすぐに選び終えてしまいました。

「オレの場合は好みや洗濯しやすさも含めて大体どういう服が欲しいか見当がつくからな。

 アリシアが言うには基本的には仕立てが良ければ今と同じような服で良いって話だったし」

そう言ったコーイチローさんの恰好は、かねがねいつも通りのような印象を感じさせる格好です。

ちょっと大き目で、汚れが目立ちにくい、地味な色合いのものを選んでいます。

よくよく見れば仕立ては良いモノにしていますし、ちょっとだけ装飾もあったりするのですが、パッと見ではあまり変わりません。

まあ、実際に冒険者で、冒険者らしい恰好をしているのは何の問題も無いでしょう。

……黒の髪に金色の瞳を持つ悪魔殺しの格闘家、と言う評判は割と有名になりつつありますし。

「わたしの場合は、今回の役柄上、制約が多くて他に選択肢がありませんでしたから」

そう言いつつ見せる着替えを買って着替え終えたわたしは、紺色のワンピースの上から白いエプロンを纏っています。

靴はそのまま旅用の丈夫で地味な革長靴。

ええそうです。典型的な女中(メイド)のお仕着せそのままです。

主人よりも目立たず、仕事がしやすく、丈夫で、汚れも目立たない。

もろもろの要求を満たしていくと女中服は大体似通ったデザインになりますので、ご主人様がよほど特殊な趣味でない限りはどれ選んでもあんまり変わりません。

そんなわけでこの店にもいくつかあった女中服から比較的状態と仕立てが良くて、一番好みに合ったのを選びました。

ギルドには「やんごとなき貴族のお嬢様のお忍びの旅の護衛の依頼を受けたコーイチローさんの付き添い」で申請していますし、

その際に身の回りの世話はわたしがやるということで依頼をでっちあげ……もとい正式に受理していますので、これで問題ないでしょう。

「……そもそもだな。そうまでして偽装する必要があるのか?

 大金持ちだけど世間知らずの貴族のご令嬢とそれを世話するためにつけられた侍女、それを護衛する高位の冒険者。というのは」

「必要です」

とうとう、いまさらなことを言いだしたプロフェッサーさんに、笑顔で断言します。

「何故だ」

「いいですか?普通、大金を持っている人間と言うのは限られるものなんですよ?」

また、いつもの質問には、丁寧に答えていきます。

この人、理詰めで返すと意外と丸め込みやすいと最近分かってきました。

「だが、実際持っているのだ。問題はあるまい。それに、事実と違う人間を演じるというのは、詐欺の一種ではないか。詐欺は犯罪だぞ」

「別に詐欺師になろうとしているわけではありません。むしろ詐欺を働かれないための自衛です」

ついでに世の常識にも疎いので、この世界での常識を絡めるとより確実です。

「どういうことだ」

「如何にも大金を持ってなさそうなお子様が分不相応な大金を持っていたら、怪しまれますし騙そうとする輩も出てきます。

 それに高級な品を扱う店の場合、冒険者さん相手の武具屋や道具屋ならいざ知らず、これから泊まろうとしている高級宿や、

 プロフェッサーさんが行きたいという本屋や、奴隷商人の店に行くのであれば、相応の恰好してないとそもそも門前払いされかねませんよ?」

どんなぼろを着てても真の王は王たる風格が漂うとか、そういう話は今はどうでもいいのです。

いやまあ実際、礼儀作法とか動作である程度どんな身分なのか分かるとか言う人はいますが、そう言うのは一部の貴族の方々だけなのです。

高級店は基本、お金を持ってない貧乏人とお金だけあって礼儀の無い成金を嫌います。

海千山千の商人ならばわたしたちの演技くらい見抜くでしょうが、そう言う知識を持っていると分かるだけでも対応はぐんと変わるのですから、

やらないという選択肢は、ありません。

      

「……なんて非合理的な仕組みなのだ」

「そう言うものです。逆に恰好さえちゃんとしていれば、礼儀作法の方が若干おかしくても最低限の常識を持ってる人たちなんだな、

 と言うことで悪事を働かれる事も減るんですから、大人しく着替えちゃってください」

わたしの言葉に納得したのでしょう。ため息をつきながらもわたしに大人しく着替えさせます。

着替えを終えて、コーイチローさんに見せます。

「うん、これが一番よさげだな。青のドレスが涼しそうで良い感じだと思う」

「では、これでいいな」

コーイチローさんに褒められたからかちょっと照れた様子でプロフェッサーさんが買う服を決めました。

それから、ため息をつき、言います。

「この世界の文明社会で活動しようとすると意外と面倒だな。結社の怪人は簡単に人間社会に潜り込んでいるから、もっと簡単なものだと思っていた」

「見た目人間と変わらない程度には擬態できるし、一応人間社会の知識は持ってるからな。とは言え、怪人とバレる奴はそこそこ居たぞ。

 ちょっとしたことで横着して特殊能力使って監視カメラに映ったとか、とっさのときに擬態解除したり人間の限界超えた動きしたとかで」

そう言えばコーイチローさんもそれで怪人とバレてましたね。主にわたしに。

とは言えそれが無かったら今生きてないので、感謝しかありませんが。

「結社でも『本当に恐ろしい怪人は、そもそもそこに怪人が居たということに気づかせないもの』なんて言う人もいてな」

「……それはアサシン・ジェリー6号の言葉か?」

そうして、コーイチローさんが話を続けようとしたところで、プロフェッサーさんの思わぬ言葉にコーイチローさんが目を見張りました。

「……驚いたな。いつの間に調べたんだ」

「結社のデータベースを見れば部下のお前が過去、どの怪人の補佐をしていたのかの履歴を調べるのは造作もない」

コーイチローさんの質問に答えるプロフェッサーさんはとても得意げな顔をしています。

「だが、オレの上司は何人もいる。ウルフパック時代に一時的に補佐したのも含めればもっとだ。

 それで先輩を特定するのは中々難しいと思うんだが?」

「だが、お前の言動に影響を及ぼしそうなほど関係が深いと推察される怪人はそう多くない。

 それらの怪人の過去の活動履歴を見るに、アサシン・ジェリー6号が最もその言動を取る可能性が高いと判断した。

 と言うよりも、活動履歴から判断するにジャック・ローズ1号やリュウグウゴゼン1号の言動とは思えん」

更なる質問にも完璧に答えて見せます……若干わたしが置いてけぼりですが、それはこの際文句は言いません。

コーイチローさんにはたくさんの怪人の上司が居たという話はそれはそれで有意義な情報なので。

「参ったな。降参だ」

「当然だ。私は、お前の上司なんだぞ……どうだ?少しは見直したか?」

どうやらプロフェッサーさんはそのためにわざわざ調べていたようです。

ついでに言えばしてやったり、と言う顔をしています。

「ああ。少しだけな」

そう答えるコーイチローさんは、なぜかちょっとだけ、嬉しそうでした。



教会で今回の任務の報告を終え、たくさんのお説教といくばくかの予算、そしてこの交易都市で蠢く『死の教団』の調査の任務を受け取り、教会を後にした。

それから、勝手知ったる第二の我が家とも言える『大鹿の角亭』で、水と蜂蜜入りの葡萄酒を片手にため息をついた。

「結局、良く分からない人たちでしたね。師匠」

今回受けた任務は、とりあえず終わった。

あのプロフェッサーとか言う子供の正体は良く分からなかったが、コウイチローもアリシアも邪悪の輩でも魔人でもなかった。

教会としては、そこが分かれば、さしあたりは困らないらしい。

「魔人の類ではないことは分かった。任務は果たした。それでよかろう」

静かにお湯を混ぜた蒸留酒を飲みつつ言う、師匠もかねがね同じ考えらしい。

理屈抜きで殺して良いのは悪魔と不死者と怪物に、人に仇なす邪悪の輩だけ。

気に食わないから殺すなんてやってたら人間は同族同士や妖精人、鍛冶人、獣人、蟲人、蜥蜴人等の知性ある者たちと今も争い続けてただろう、と言う理屈は分かる。

いまだにお互いの考えについて、いまいちわかりあえてはいないし、たまに戦争になるけどそれなりに安定した国が出来たのは、そうやってきたからだとも。

「……それで物凄く怒られましたけどね。あたし」

だからこそ聖騎士たるもの《邪悪看破》をみだりに使ってはいけないとも教わった。

邪悪の輩であると疑った。その事実は殺し合いに発展するのに十分な理由になるし、使われたものと友好な関係を築き上げるのは難しくなるから。

明らかにおかしいと思ったとは言え、それを破り、あまつさえ『外れ』だったのだから、怒られるのは仕方がないと思う。


……こういう時、嘘をつけたらな、とは思わないでもない。


嘘をつくのはどうも苦手だ……『神様に見放されたら』どうしようってどうしても考えてしまう。

正義の神は悪意に満ちた嘘でなければ許してくださるし、ちょっとした悪事ですぐに加護を奪うほど狭量ではないとは教わったけれど、

それで調子に乗って見放されたら、いくら後悔しても、遅い。

「だが、それはそれで得るものがあったのもまた、事実」

「……そう、ですね」

あたしは咄嗟に《邪悪看破》を使い、知った。

あの巨人のごとき力と鉄の刃をも弾き返す皮を持つ女、アリシア・ドノヴァンは魔人や不死者の類でも、邪悪の輩でも無い。

……邪悪な手段に頼らず、どうやってそんな力を得たのかが分からない分、余計に怖い。

戦いに関しては如何にも素人なのにあんなに強いのならば、いずれ戦い方を身に着け、強力な魔法を宿した装備を身に纏うようになれば……上級魔人だって殺せるかもしれない。

「……師匠、コウイチローも、アリシアと同じ類ですか?」

「であろうな。宿す力も鍛えもまるで違うだろうが、邪悪なる力によってのものでないことは、間違いなかろう」

一方で師匠もまた、あの戦いの中でコウイチローさんが魔人ではないことを確認していたらしい。

あたしには二人して普通に人間離れした動きで十五人いた野盗を虐殺してたようにしか見えなかったけど。

「……ていうか、コウイチローさんの方はどうやって?」

「戦場で賊を殺すついでに聖銀の手裏剣をかすらせた。魔人であったら傷口から煙を吹いていたであろう」

……あまりに予想通りの方法に、あたしは少しだけ、笑った。

この人は、本当に目的のためなら手段をえらばない。

「……それ、ものすごく強引な方法じゃ?」

聖騎士(パラディン)がやるような方法ではない……むしろこう、盗賊(シーフ)とか悪漢(ローグ)の手管だ。

戦神は正々堂々とした戦いを好むが、卑怯な手段や卑劣な手を平気で使うものを嫌うと聞いたことがあるんだけど、これは許される範疇らしい。

「何が起こるか分からぬ戦場の出来事。死に繋がるようなものならいざ知らず、少々のかすり傷程度で文句を言う御仁ではない。

 戦場では知略の限りを尽くし、如何に目的を達するかこそが寛容。その手段を卑怯などとのたまうは弱者の戯言よ」

数日でも共に旅をすれば、大まかにどのような戦士かは分かるものらしい。そのうえで『この程度なら許す』そう考えたと思ったのだろう。

……そっか。そんな報告を受けたらしい教会の戦神の司教様の顔がひきつってたのはこういうことだったのか。ちょっと面白かったけれど。

「……いつか神様に見放されますよ?」

「構わぬ。こちらが望んで得たものではない。加護とは修行に邁進しておった拙者に、向こうが勝手に寄越してきたもの。元より当てにしておらぬ。

 そも、勝手に加護を寄越しておいて、加護をやったのだから教えに従え等と言う方が傲慢であろう」

一応忠告してみたら、いつも通りの答えが返ってきた。やっぱり、理解できない考え方だ。

「……戦神様はなんで師匠に加護を与えてるんでしょうね?」

「知らん」

そう言い切る師匠は、やっぱりおかしい人だと思う。

師匠は最強の聖騎士だが、神の奇跡なんてどうでもいいとも思っている、らしい。

いまだに使える奇跡だってたった一つだけだし、それを使うことは滅多にない。

ただただ命を懸けた戦いに身を投じていたら向こうが勝手に寄越してきた。

あるものを使わぬのも死力を尽くしたとは言えぬので使っているが、元より借り物。

例え明日なくなろうと困らないとか真顔で言うのだ。

……多分、誰よりも戦うために生きている人だからこそ、戦神様の目に留まったんだろうな、とは思う。

「ただ、惜しむらくはコウイチロー殿が秩序の側にいる御仁であることか」

……だから、続いた言葉に、あたしは驚いた。

「え?上級魔人を殺せるような人が人々に仇なす邪悪の輩でないなら、喜ばしいことじゃないですか」

「彼の御仁を相手に辻斬りのような真似をしては、世が大いに乱れることになろう。よしんば勝てても教会の評判は地に落ちる。それはよろしくない」

あたしの指摘に、帰ってくるのは、斜め上の回答……

そう言えば、前にも王国の、冒険者上がりで凄腕の魔法戦士だという騎士団長と死力を尽くし戦いたいなどと言ってた気がする。

「一体どれだけの死線を潜ればあのような『修羅』が出来るのか……いや、実に惜しい」

……心底惜しそうに言う師匠の中では、コウイチローさんは修羅で決まったようだ。


師匠の教えによれば、世に人の理を越え、偉業を成し遂げるものはおおよそ三つだという。


生まれついて神に愛され、特別な力を以て傲慢なまでに世の理をねじ伏せて正義を成すもの……勇者。

力を渇望し、邪悪に身を焦がし、魔神に魂を売ってなお己の望みを叶えんとしたもの……魔人。


そして、どのような強大な敵を相手にしても自らの持てる力をすべて使いこなし、知恵を巡らせ、ただただ目の前の敵を殺すことを考えて殺し、自らは生き延びる戦の申し子……それが修羅。

かつて名付きの上級魔人だった『槍鬼の魔人(エリゴス)』に一介の冒険者でありながら他の冒険者や聖騎士たちの協力を得て一騎打ちに持ち込んで、

激戦の末に刀で首を跳ねて滅し、聖騎士に叙勲されたという師匠もまた、修羅らしい。


師匠が『最強の聖騎士』と言われているのは『今代には、名付きの上級魔人を単独で倒した聖騎士が他に居ないから』ただそれだけの理由なのだ。

暫く書き溜め期間に入る予定です。キリもいいので。

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