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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
31/95

Season2 Double Justice 02

適材適所って知ってるか?

交易都市目指し、わたしたちは旅に出ました。

乗合馬車は使わず、徒歩での旅です……旅立った時に衛視さんたちにびっくりされました。


怪人の体力は人間とは比べ物にならず、その気になれば一日中走って移動できるほどらしく、

乗合馬車を使うとかえって遅くなると言われたらどうしようもありませんでした。


そんなわけで、わたしたちは今、街道を歩いています。

コーイチローさんはいつもの服にコンパクトにまとめた自分の荷物を持ち、

わたしが残りの荷物全部と荷物に背もたれをつけて身体を紐で固定し、荷物の上に座ったプロフェッサーさんを背負っての旅です。

「……なんか配分おかしくないですか?」

旅立ってから少しして、人目が無くなったのを確認し、わたしはお二人に確認するようにつぶやきました。

そう、いつものギルドの制服から旅用に丈夫な服に着替えたわたしの背には今、

わたし自身の荷物の他に路銀やら野宿のための品々やらプロフェッサーさんの荷物やら、

そして旅用の男の子みたいな恰好の上からいつもの白い外套を着たプロフェッサーさんやらが乗っています。

別に疲れたわけでも無いですし、背負えないほど重いわけでも無いですが、これはやっぱりおかしいと思うのです。

道中すれ違った人たちも何事かと見てましたし。

「何を言う。これが最適解だ」

背中から、反論の声が聞こえました。

そう、この配分を決めたのは、プロフェッサーさんです。

コーイチローさんは当初プロフェッサーさんはオレが背負うと言ってくれましたが、プロフェッサーさんが上司権限で押し切ったのです。

「どこがですか!?」

「分からんのか。アリシア・ドノヴァン」

わたしの反論に、プロフェッサーさんはあわてず騒がず、猫のような目でいいます。

「まずだな。光一郎には余計な荷物は持ってほしくない。道中何かに襲われた時に対応が遅れる。お前は異変に気付く能力には乏しい」

「う」

いきなりの正論にたじろぎました。冒険者の一党でも先行偵察を行う盗賊や斥候は出来るだけ身軽にするのは基本とは聞きます。

そしてわたしの場合、異変に気付く察しの良さや咄嗟の出来事に反応する能力、と言ったものは人間だった頃とあまり変わっていません。

さらにそう言う技術の経験と言う意味ではコーイチローさんと素人同然のわたしでは天と地ほどの差があるのです。

「そしてバーサークタウロスAWは筋力と体力に優れる。サージェントウルフよりはるかに強靭だ。

 筋力に関して言えば全力の3割程度しか出せん今の擬態状態であっても、擬態を解いた全力の光一郎より優れているほどだ」

代わりにわたしに授けられた能力は、筋力と体力でした。本当に、巨人にでもなったかのような筋力が今のわたしには宿っていますし、

何をどれだけやっても疲れるということを知らない無尽蔵の体力があります。

……荷物持ちをやるのにこれ以上向いている人もまずいないでしょう。

「まあ、実際そうなんだが本当に言われると少しきついな」

コーイチローさん、ちょっと悲し気に言うのはやめてください。

コーイチローさんの3倍以上の筋力があるとか、乙女的に悲しくなりますから。

怪人になったことは良いとしても、もうちょっと華麗と言うか、女らしい怪人が良かったと思います。

……なんて言えるのも、こうして生きているからこそではありますが。

「そういうわけで、荷物は出来る限りアリシア・ドノヴァンが持ち、光一郎には身軽に動ける程度の荷物を持たせる。

 それが最適解となるわけだ」

そして、なんとも言えない沈黙に包まれた場で、プロフェッサーさんが言い放ちました。


……そして数時間後。そろそろ野宿の準備をするべきか、とコーイチローさんが言い、

今日の旅はここまでにして野宿の準備を始めようかなどと話をしていたとき、プロフェッサーがポツリと呟きました。

「……どうやら私が間違っていたようだ。謝罪しようアリシア・ドノヴァン」

「はい?」

唐突過ぎる言葉に面食らって、振り返りプロフェッサーさんの顔を見ます。

「……まさか人を背負うのにすら上手下手という概念があるとは思わなかった」

そう言ったプロフェッサーさんの顔は、真っ青でした。手で口元を抑え、吐くのを必死にこらえている顔です。

さらにもう片方の手はご自身のお尻に伸びてしきりにさすっています。

「三半規管と尻に異常が発生した。アリシア・ドノヴァン。お前の背中に乗っての旅は無理だ。お前は運び方が雑すぎる」

運び方が雑!? 生まれて初めて言われましたよそんなこと。

「ま、まあオレは色々と慣れてるし、バーサークタウロスが不器用なのは普通だから」

「あんまりフォローになっていない気がします」

コーイチローさんも、わたしが怪人になってからは、病弱な人間だった頃のような配慮に乏しい気がします。

気のせいならいいですけど。

「とにかく、私の身体の輸送については、明日以降は光一郎に任せる。背負え」

いつものように、それが当然というようにプロフェッサーさんがコーイチローさんに言います。

「了解。じゃあ、明日からはプロフェッサーはオレの担当ってことで」

コーイチローさんはそれが当然とでもいうように、簡単に了解してしまいました。

いや、もうちょっと悩みましょうよそこは。

「……もうこの際ご自分で歩くというのはどうですか? プロフェッサーさん」

コーイチローさんの背中はわたしのポジションだったのに。

そんな思いからわたしは思わずそんなことを言ってしまいます。

運び方が雑とか言われて、これ以上背負う義務もないと思うのです。

「お前ら怪人と私を身体能力で並べようとするな。私の頭脳はともかく肉体は普通の人間なのだ」

……ため息とともに言われたのも、やっぱりいつものように身もふたもない正しい意見でした。


徒歩とは思えない速度でわたしたちの旅が続いて、二日目の昼に達したころでした。

「……なんだ? なんか二足歩行の、割と軽い音が追って着てる。人型。人間の限界速度くらいで走ってくる音だな」

プロフェッサーさんの体力的に二日連続野宿はちょっときついし、夕刻には適当な街道筋の宿を取ろうか、

などと話をしていたときにコーイチローさんが異変に気づきました。

「人間、なんでしょうか?」

街道を旅するのに多少急ぐことはあっても限界速度くらいと言うと、ほぼ全力で走ってるということになります。

そんな速度で旅する人間は、普通いません。伝令かなにかでしょうか?でもそれなら馬を使うはずです。

「分からん。けど体重はあまり重くないと思う。少なくとも金属の鎧の類は纏ってないな」

コーイチローさんはやはり五感がとても鋭いようです。

「どうします?」

「まあ、そのまま歩きつつ待ってみるか。すぐ追い付くだろうし」

「はぁ。まあそういうことでしたら」

そんな会話と共に普通に歩き続けます……怪人基準の速度で。


結局それから追いついたのは、それからしばらくしてからでした。

「はぁはぁ、ちょ、ちょっとそこの人たち! き、奇遇ですね!」

思った以上に遅くなったころ、途中軽く休憩を挟んだりしつつも順調に旅をしていたわたしたちにようやく追いついてきた一人の少女がわたしたちに声をかけてきました。

紅い紐で金色の髪を二つにくくった、そこそこ整った顔立ちをした少女です。年のころは16歳くらいの成人したばかり、くらいでしょうか。

動きがかなり洗練されていますが、汗だくで息を切らせているので台無しです。

腰から曲刀らしき剣を下げ、革の鎧を着た装備から見て、軽戦士なのでしょう……少なくとも追いはぎや盗賊の類には見えません。

「明らかに息を切らせるほど全力疾走しといてそれはないだろう」

「実はあたしたちは旅の冒険者なのですがここであったのも何かの縁なので一緒に旅しませんか!?」

呆れた様子のコーイチローさんの言葉を無視して少女が話を続けます。なんかこう、最初に言うこと決めてた感じですね。

「……たち?」

「後から師匠が追い付いてきます!」

どう見ても1人なんですが、と思って呟いたら、高速で回答が返ってきました。

なんかこう、すごく空回りしてる感じがします。ここまで怪しいと逆に怪しくないと思えるほどです。

「と、とにかく! 一緒に旅しましょう! あ、ダメですよ女の人に重い荷物を持たせるなんて!」

ああこの子、だいぶ話聞かないタイプみたいです。もしかして半身人(ハーフリング)の血でも混ざっているのでしょうか。

「あ!? ちょっと!?」

そうこうしているうちにするりとわたしの背中から荷物が消えました。

この子が下ろしたみたいです。素早い動きでしたので、器用さや素早さには長けているようです。

あるいはそう言うのが得意な斥候の技術でも持ってるのかも知れません。

「あたし、こう見えて結構力がぁ!?」

そうして荷物を下ろして担ごうとした瞬間、荷物のあまりの重さに少女が転げました。

「な、なんですかこれ!? 滅茶苦茶重いんですが」

地面に落ちた背負い袋を、何か理解できないものを見るような目で見つつ、少女が叫びます。

「……まあ、オレでもそれ背負いながら戦うのは無理って思うほどだからなあ」

コーイチローさんがしみじみと悲しくなるようなことを言いました。

「勝手に荷物取らないでください!……わたししか運べないから、これを運んでいるんですよ」

そう言いながら、荷物をしょいなおします。普通に。

「……一体何が入ってるんですか? それ。そんなもん背負ってあの速度ですか?」

そこ、信じられないものを見る目で見ないでください。今のわたし的には、割と軽いんですよこれ。

「別に普通のものですよ。野宿用品ですとか着替えですとか、路銀ですとか」

そう、嘘は言っていません。

……背負い袋の下半分が路銀と言うか全部金貨だとちょっと洒落にならない重量になるなんて、わたしも初めて知りました。

背負い袋事態がプロフェッサーさんが持っていた異世界産のものじゃなかったら底が抜けてるの確定です。

「……修行かなにかですか?」

「大体そんな感じです」

もう面倒くさくなったのでそれで通そうと思いました。

「いや絶対それおかし……いった!?」

どうやら少女の方はそれで納得できなかったらしく、さらに追及しようとしたところで、変な声を上げました。

「愚か者。余計な詮索なんて下衆な真似するでないわ」

いつの間にかぬっ、と現れたのは、壮年の男性でした。

少女と同じく旅装かつ軽装には違いないのですが、鎧を纏わずにこの辺りでは見慣れない、不思議な服を着ています。

腰からは、何故か曲刀が2本、両方左の腰から下げられていました。

「申し訳ない。我が弟子がご迷惑をおかけした」

「えっと、貴方がこの子の?」

状況から見てこの子が先ほど言っていた師匠が、この人なんでしょう。

全力疾走していた少女よりはゆっくりとは言え、すぐに追いつける程度の速度で歩いていたわりに、疲れらしきものは見えません。

……なるほど、師匠と呼ばれるだけはあり、実力は少女よりも上なのだと思います。

「左様。拙者、ミフネと申す。こちらは我が弟子、エリザベス・アンダーソン」

「エリーって呼んでください!」

並び立ったお二人が、わたしたちに名を名乗りました。

「……光一郎だ。冒険者って奴だ。見ての通り、格闘が専門だ」

「アリシア・ドノヴァンと申します。よろしくお願いいたしますね」

「ふむ……私のことは、プロフェッサーと呼びたまえ」

名乗られたならば、こちらも名乗り返すのが礼儀と言うものでしょう。

「よろしくお願いします!」

「うむ。コウイチロウ殿、アリシア殿、それと、プロフェッサー殿か。覚えたぞ。

 ……さて、エリザベスより聞いておられるやもしれぬが、拙者らは交易都市を目指し、旅をしておる」

挨拶を終えたところで、ミフネさんがおもむろに話を切り出しました。

「腕には多少の覚えあり。街道筋に出る怪物や野盗風情なら斬り捨てて見せる自信はある。

 されども男1人、女1人では野営の見張りにも事欠き、何かと不便も多い。そちらは」

「それは、こっちも似たようなもんだな。昨日はオレがずっと見張りしてたくらいだ」

……あの、わたしも一応夕方と朝は見張りを、と考えてその時間帯コーイチローさんはどっちも起きていたことに気づきました。

わたしのそれは、ただの遅寝早起きでした。

いやまあどっぷりつかれてたのか朝食まで目を覚まさなかったプロフェッサーさんの身支度の手伝いとかはやりましたけど!

―――大丈夫。徹夜は慣れてるし、怪人の体力なら徹夜くらいなら何の問題も無い。

やっぱりコーイチローさん全部自分でやる気満々じゃないですか!?

飛んできた声に心の中で反論しつつ、続きを聞きます。

「どのみち、向かう先は一緒と見た。旅は道連れともいう。よければ、交易都市まで同道しても良いだろうか」

そう言いながら、ちらりと鋭い眼光を向けてきます。

正直、ご一緒したくない感じです。

「……まあ、いいんじゃないか?」

「私はどちらでも構わん。好きにするがいい」

しかし、コーイチローさんとプロフェッサーさんはそれを認めるつもりなようです。

「え!? あの、ちょっと……それはどうかと」

「気持ちは分からんでも無いけど、行先一緒なら断ろうとなんだろうと一緒になるのはしょうがないさ」

思わず反論するわたしに、コーイチローさんはいつものように余裕の態度で返してきます。

「あのー……私たち、そこまで怪しいモノではないですよ?」

そんなことを言う人を怪しいと思わない人がこの世に居ると思うんでしょうか?

この子、かなり世間と言うものを知らない感じです。

「……愚か者。己で己のことを怪しいものではないという輩に、怪しくないものなどおらぬわ」

「師匠!?」

そう思っていたらミフネさんがまんま同じことを言いました。

エリーさんは裏切られた!?って顔で驚いています……もしかして、この人たち、旅の芸人かなんかでしょうか。

―――分かってると思うが、ちょっとどころじゃなく胡散臭い。けどまあ、なんかしてくるまでは様子見でいいだろ。

そう思っていたら《沈黙の命令》でわたしに声を掛けられました。

なるほど、あからさまに相手を疑うような話題を目の前でやってもバレないというのはかなり便利な能力ですね。

多分向こうはコーイチローさんがそんな力を持ってるとは思わないでしょうし。

―――まあ、向こうだって警戒されるのは分かってるだろうさ。下手に揉めるよりは、仲良くして置いた方が良い。

それはそうですが。そう思っていると、言葉が続けられました。

―――ま、このくらいのことは、結社ではよくあることだったしな。

そうわたしに伝えてくるコーイチローさんの目は、ちょっとだけ懐かしそうで、寂しそうでした。

結社ではよくあること。

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