Season2 Double Justice 01
アリシアさんは常識人、いいね?
その事件の始まりは、狩人の魔人を討ち取ってしばらくたった頃、いつものようにアジトを訪れた際に向けられた、プロフェッサーさんの一言でした。
「アリシア・ドノヴァン。この辺りに、大金を使えるような場所はないか?」
「大金……?」
プロフェッサーさんの唐突過ぎる質問に、首をかしげます。
「うむ。実は光一郎の奴が金を持ってきた。上級魔人討伐の報奨金だとかでな」
「ああ、なるほど。狩人の魔人の報奨金ですね」
次に続いたプロフェッサーさんの言葉で、お金の出所が分かりました。
先日、わたし“たち”が討伐した狩人の魔人は無数の街や村を狩り滅ぼしたことで数百年に渡って教会に追われていた、恐るべき上級魔人です。
本来ならば聖銀や黄金の認識票持ちの冒険者か聖騎士が一党を組んで挑んで倒せるかどうか、それくらいには危険な怪物でした。
国を揺るがすような危険で強力な名付きの上級魔人には、教会と王国が共同で高額の懸賞金を掛けていることがあるのですが、それが昨日、コーイチローさんに支払われたのです。
狩人の魔人を撃破したという報告書とその証拠として狩人の魔人だった灰を王都のギルド本部に送ったのが、三か月ほど前。
まさか一介のギルド職員にして貧弱さに定評がある乙女であるわたしが協力しましたとか書けないので、コーイチローさんが単独で倒したことにしています。
てっきりあと一年くらいは精査に時間がかかるかと思ったのですが、街の一大事を救った功績も合わさったのか、あっさり支払われました。
「それだろうな。それが予想外に多くて、使い道が思いつかん」
確かに、名持ちの上級魔人の報奨金ともなれば贅沢せず、慎ましやかに暮らせば一生遊んで暮らせるくらいの大金でしょう。
そんな大金はごく普通の商店のほかは、冒険者さん向けの装備がちょっと充実しているくらいのこの街では、あまり使い道が無いのも事実です。
「金はあって困るようなもんじゃあないが、ちょっと日常使いにするには多すぎてな。
それで、あぶく銭だしせっかくだから普段手に入らないようなものを買おうって話になったんだ」
「だが、我々はそんな高価な代物がどこに売っているかは知らん。故に、お前に聞いているのだ。アリシア・ドノヴァン」
はあ。なんとも羨ましい話ではあります。
異なる世界から来たこのお二人は、上級魔人がどれほど危険な相手か、そしてその報奨金がどれだけ莫大なものなのか、いまいち理解していないようです。
「そう言うことでしたら、街道に沿って一週間ほど行けば王国一の規模の交易都市があります。そこでなら他では出回らないような高額な商品も買えますね」
仕方がありません。金銭感覚なんて無いであろうお二人のためにも、ここは一番の常識人であるわたしがついていく必要があるでしょう。
事務仕事は他の職員がやってくれるでしょうが、お二人のサポートが出来るのは、事情を詳しく把握しているわたしにしかできません。
「ふむ。なるほど。それならば、行ってみるか。人間の足で一週間ならば、我らなら光一郎が擬態状態を維持しても三日もあれば着くだろう」
「そうだな。プロフェッサーはオレが担いで歩けばそんなもんか」
しょっぱなから乗合馬車で行くというごく普通の選択肢を投げ捨てて徒歩だけで行こうとするお二人に不安と使命感を覚え、わたしはこれからの予定を口にします。
「分かりました。色々と届けを出して手続きをしないといけませんから、出発は明後日でいいですか?」
「え?」
え? まさかついてくるとは思ってなかったのでしょうか?
コーイチローさんが間の抜けた声を上げました。
「いやその、公務員とは言え明後日からってそんな簡単に休んで大丈夫なのか? さっきの話からすると行って帰ってくるのに最低でも半月くらいは掛かると思うが」
かと思ったら、どうやらコーイチローさんはわたしのギルド職員としてのお仕事について心配していたようです。
一介の冒険者さんであるコーイチローさんは、ギルドの内部事情についてはほとんど知らないでしょうから、そこを心配するのは分かります。
「大丈夫ですよ。わたし今は窓口業務兼、冒険者同行役ですから。
ちょっとやそっと休んでも運営には何の影響もありませんし、休んでる間のお給金分くらいの蓄えもありますから」
……それに、聖銀の認識票持ちのコーイチローさんの交易都市への遠征についていくという形にすれば、立派なお仕事です。
お給金だって支払われるでしょう。ちょっとした申請の抜け道を利用するのは、女一人で生きていくための生活の知恵と言う奴です。
「あ、有給休暇じゃないのか」
ゆうきゅうきゅうか。コーイチローさんの口から、聞き覚えの無い単語がこぼれました。
いや、言葉の持つ意味は理解できたのですが、そのせいで余計に理解できません。
「はい? 休んだらその間のお給金が貰えないのは当たり前じゃないですか。むしろなんで仕事してないのにお金貰えるのって話ですよ」
わたしがちょっとした抜け道でお給金を貰おうと思っているのは横に置いておきつつ、聞き返します。
「……まあその辺は文化が違う、という奴だな」
そう言うコーイチローさんは、何かちょっと理解が追い付かないという顔でした。
……もしかしてコーイチローさんの世界では、休んだ時にお給金が支払われる夢のような話でもあるんでしょうか。
そんなもの、あるわけ無いとは思うのですが。
「そんなことはどうでもいい。お前ら、何か買うものの希望はあるか。
私はこの世界の知識をまとめた書物に興味がある。この街にはロクなものが無かった。
とは言え、知識が無いので目利きは出来ん。適当に買うことになるから全額使うのは得策では無かろう」
それで出てきてしまった変な空気を壊すように、プロフェッサーが買いたいものを口にします。
なんともまあ、プロフェッサーさんにしては普通の要望です。
血がお好きみたいなので竜の血でも買うとか言い出すのかと思ってました。
「オレは……ミスリルの武器、かな。今後必要になるかは分からんが、あるかどうかで戦い方が大幅に変わるからな。
魔人だの悪魔だのと遭遇したときの備えは持っておきたい。アリシアは?」
コーイチローさんも、凄腕の冒険者さんとしてはごく当然の選択を上げます。
確かにこの前の一連の戦いで、コーイチローさんが聖銀で出来た格闘武器を持っていたなら、もっと楽に戦えたでしょう。
それこそ、狩人の魔人を単独で倒すことすらできたかもしれません。
「わたしは別に欲しいものってあんまり無いんですよね……」
さて、わたしはと言えば、欲しいものと言ってもパッとは出てきませんでした。
年頃の乙女として、お化粧とかお洋服、装飾品には多少以上の興味はありますが、そんな贅沢品は上級魔人の報奨金で買うものじゃないでしょう。
買うならもっとこう、高価だけど実用的で、普段の活動に役立つような……
「……あ、一つ、思いつきました。高価だけど、是非とも買っておいた方が良いもの」
そうです。このアジトにはそれが足りないのです。是非とも買うべきでしょう。
「なんだ?」
「家事奴隷です」
このアジトの家事を一手に担う、家事奴隷を。
「……すまん。もう一回言ってくれるか?」
「ですから、家事奴隷ですよ。このアジトの家事を担当する、奴隷です」
我ながらいい考えだと思い披露したにも関わらず、お二人の反応は鈍いものでした。
何と言いますか、予想もしていなかった、そんな顔です。
「……あー、その、なんだ? 奴隷ってそんな簡単に買えるものなの?」
「あ、なるほど。そう言うことですか」
コーイチローさんの言葉で、わたしは何となく事情を察しました。
違う世界から着て、この街しか知らなければ、奴隷の入手が困難だと思うのは分かります。
なので、わたしはこの国の奴隷事情について簡単に説明することにしました。
「この街くらいの辺境ですと、裏社会ならともかく表では奴隷を専門に扱う商会があるって話は聞かないですね。
秋祭りの市に行商人が売りにくるくらいです。
秋祭りはまだ先ですし、行商人が扱うのって農村の口減らしに売られて教育らしい教育を受けてない子がほとんどですから、あまりお勧めはできませんね。
教育がある程度しっかりしてる有能な家事奴隷となると、多少お高くなりますが、やっぱり交易都市や王都の信頼がある商人から買うのが確実だと思いますよ」
……まあ、半分は実家に居た頃に両親から聞かされた話の受け売りですが。
身受けなり債権買戻しなり事故や病で死んだなりで女中が抜けて、新しい女中として家事奴隷を買うとなると、
あまり裕福ではなかった我が家では一大イベントで、家族総出で王都の奴隷専門の商会に行き、誰を買うか真剣に話をしたものです。
特にわたしの看病が上手くできるかは重要な判定材料でした。
「……マジかよ」
そんなわたしの説明に、何故かコーイチローさんが顔をしかめました。
(なんだろう? ちょっと理解できないって顔ですね……)
一体何が理解できなかったのでしょうか。そう考えながらもう一度説明しようとしたところで、プロフェッサーさんが言いました。
「ふむ。この世界では人身売買は合法ということでいいんだな? 買っても法に触れない、と」
「え? まあそうですね。人さらいとか非認可の商人から買うのは違法ですけど、国から奴隷商人の認可状を頂いている正式な商人から買うなら何の問題もありません」
まあ実際は買った奴隷が人さらいに攫われて売られたさる上級貴族様のご家族の方だった、とかご禁制の品に分類されているような危険な生き物でなければ、
奴隷を買ったくらいで捕まることはまず無いですけど。
とはいえ、その聞き方から考えるとコーイチローさんの世界では奴隷の売買は違法で、そもそも売ってないのが普通なのかも知れません。
わたしとしては家事ってかなり重労働ですし、長い間大事に使えば雇い女中より安くなりますし、
そもそもこんな森の奥にあるアジトでの家事を任せるのは、どれだけお給金を積んでも難しそうなので、家事奴隷は必須だと思うのですが。
「提案は理解した……が、却下だ。いらん」
プロフェッサーさんも意外なことにコーイチローさんと同意見のようです。
普通のギルド職員を躊躇なく爆発四散したうえでこの世から消滅するらしい「じばくしょり」なる呪い付きで怪人に改造したりする人なので、
奴隷などに拒否感を感じるような人ではないと思うのですが。
「そうですか? いた方が便利だと思うんですが」
「家事について、現状特に困っておらん。普通に生きていけている。それで素性の知れないものをアジトに引き入れる方が面倒だ」
……ダメでした。この人そもそも現状が認識できてないだけです。
「……いやいやいや。それはないでしょう?」
「何故だ?」
まずは現状を認識させる必要があるようです。
わたしは、プロフェッサーさんを説得すべく言葉を重ねます。現状で一番の問題点について。
「いやだってプロフェッサーさん、このアジトの家事、全部コーイチローさんに押し付けっぱなしじゃないですか!?」
そう、わたしは曲がりなりにも女性であるはずのプロフェッサーさんが家事をしているところをただの一度も見たことがありません。
炊事に洗濯、掃除まで全部コーイチローさんがやってるところしか見たことが無いのです!
「何か問題があるか? 上役の世話を部下が焼くのは当然だろう」
「名付きの上級魔人倒せるようなすごい人に家事なんてやらせてるのがそもそもおかしいんです!」
悪魔殺しの聖剣をお肉とお野菜を切る包丁替わりに使ってるような、非常にもったいないことをしている状態を、見過ごすわけにはいきません。
そう言うのはもっとこう、従者とか女中とか家事奴隷とかそう言う人の仕事でしょう。
「……面倒な奴だな。そこまで言うなら、お前がやってくれてもいいんだぞ? バーサークタウロスAW1号」
「……家事ってあんまり得意じゃないので」
プロフェッサーさんの思いもよらない言葉にそっと目をそらします。
違うんです。わたしだって出来ないわけじゃないんです。
使用人が潤沢にいるわけではない下級貴族の出なので15歳までは普通に母に色々教えてもらって身に着けました。
……ここ5年くらいは寮付きの女中が全部やってくれるので、ちょっと色々度忘れしているだけなんです。
それに実際やって、こう、コーイチローさんと比べてへっぽこなところを家事もかなり得意な部類に入るコーイチローさんに見られるというのは、
乙女としてはとても負けた気分になること請け合いです。ぶっちゃけ見られたくないです。
「と、とにかく! 家事を代わりにやる奴隷は必要だと思います!」
そんなことを堂々と口にするのもどうかと思うのでわたしは自分の結論を述べました。
「いらん。無駄だし、邪魔だ」
「いります! コーイチローさんだって暇じゃないんですよ!?」
「いらん」
「いります!」
「……意見が割れたな。光一郎。お前はどう思う?」
「え!?」
突然プロフェッサーさんが奴隷反対派らしいコーイチローさんに話題を振りました。
どうやら数の暴力でわたしの意見を圧殺するつもりのようです。
でもコーイチローさんならきっと、わたしの意見もちゃんと理解してくれてますよね?ね?
そんな懇願を込めたまなざしを向け、コーイチローさんの言葉を待ちました。
「……あー、そのなんだ。とりあえず、交易都市に行くのは確定でいいんだよな?」
「そうだな。それには同意する」
少し考えたあと、コーイチローさんはそんなことを言いました。
そのこと自体にはプロフェッサーさんも異存は無いらしく、頷き返します。
「なら、一旦交易都市まで行って、見るだけ見るってのはどうだ? その、奴隷、って奴を」
「見るだけ、ですか?」
交易都市まで行って、奴隷も買わずに帰るのは旅費が無駄になるのではないでしょうか?
そう思いつつ、何か考えがあるのだと思い、聞き返します。
「ほら、買おうと思って行ってみても思ったよりいいのが無いとか、そういうことってあるだろ?
それでとにかく買うって決めて無理に決めると、変なのつかまされることも考えられる」
「……ええ。そうですね。焦って買うと失敗することってありますよね」
言われてみると、そういう経験はあります。お祭りの日や市場の日に、その日にしか売ってないものを買って、
数日後になんでこんなものを買ってしまったのかと後悔するのは定番と言えば定番です。
「だから見るだけ見て、良さそうなのが居たら買う。いなかったら買わない。それでいいだろ。どうせ交易都市までは行くんだし」
確かに奴隷ともなれば、わたしのお給金が年単位で飛ぶほどの高額なものです。
食事や寝床だって与えなければなりませんから、選ぶのに失敗したときのダメージは計り知れないことでしょう。
「なるほど。まずは品定めをすべきと言うことか」
「そうですね……確かに、奴隷って高価なものですから失敗すると困りますね」
プロフェッサーさんも、コーイチローさんの意見に異存はないようです。
「よし、それで決まりだな」
コーイチローさんの一言で、方針がまとまりました。
かくしてわたしたちは、3人連れ立って交易都市に行くこととなりました。
……そのときはまだ、あんな事件が起きるとは思っていなかったのです。
*
そのお墓の前で、あたしは跪いて墓石を撫でた。
「……まさか、あんたが先に死ぬなんてね。リック」
師匠に無理を言って連れて来てもらったお墓には、こう刻まれている。
―――聖騎士リック・バクスター。邪悪なる悪魔と最後まで勇敢に戦い、倒れ、ここに眠る。
別に、恋人だったとか、ひそかに思っていたとか、そう言うのじゃない。
ただ同じ時期に孤児院で出会い、二人して聖騎士を志し、あの地獄の訓練を耐え抜いて、同時に叙勲された。
……そしてあたしは師匠と共に旅をしていて、リックは教会の命令で一人で上級魔人の行方を追い、旅をして……戦いに負けて、死んだ。
「そう悲しむものではない。彼の者は名誉の戦死を遂げたのだぞ」
「師匠……」
墓の前で落ち込むあたしに、あたしの知る限りで『最強の聖騎士』である人があたしを励ます……ように見える言葉をかけた。
「おぬしとて、死の覚悟くらいとうに決めておろう? エリザベス」
この人の言葉は、一見すると慰めているようにも見える。見えるだけだけど。
「そうだけど! ……でも早すぎるじゃないですか」
「早すぎるものか。戦場に置いて最初に死ぬるは戦場より去る引き際を誤った老いぼれか、
初陣を終えたばかりの血気盛んな若武者と相場が決まっておる」
……ああ、やっぱり。こんなときでも師匠は、師匠だ。
「頑張ったかどうかなぞ戦場では無意味ぞ。一度戦場に出たならば、あとはただ生きるか死ぬるかが残る」
この人は、おかしい。それはこの人の従者兼聖騎士として、東方流の剣術を習いつつ一緒に行動しているうちに分かった。
なんて言うか、戦うことにしか興味が無いのだ。根本的に。
「……それにだな。彼の聖騎士殿は幸運とも言える。事故、災害、怪我、病……世の中にはつまらぬ死に方をするものの方が多い。
だが、彼の聖騎士殿は邪悪なる悪魔と正々堂々と戦い果てたのだぞ。
それと比べればなんと幸運なことか。これぞ聖騎士の本懐。名誉の死。あやかりたいものだ」
そう、この人は、死ぬことを微塵も恐れていない……ただただ、死ぬまで戦いたいだけなのだ。
死んだら多分、天界じゃなくて英雄国送りになることは間違いないと、みんな言っている。
信仰しているのが正義の神じゃなくて戦の神だし。
「……分かりました。じゃあ、一つお願いしてもいいですか?リックを殺した悪魔、あたしに殺させてください! 仇を取らせてください!」
多分一番強い……黒幕は師匠が戦いたがるだろう。だからせめてとばかりに、譲歩する。
あたしだって、聖騎士だ……一対一で、下級悪魔程度は討ち取れるくらいじゃないと、聖騎士とは認めてもらえない。
「無理だな」
だが、そんなあたしの懇願はあっさりと却下された。
「なんで!? あたしが、見習い上がりで、まだ弱いからですか!?」
「……落ち着け。いつも言っておろう。戦場では、心は熱く、頭は冷やせと」
思わず激したあたしにたいして師匠は繰り返す。
「じゃあ、冷静になったら、殺しに行ってもいいですか」
「だから、無理だと言っておる」
なんと、冷静になってもダメらしい……あたしってそんなに未熟に見えるんだろうか?
「そんな……なんで!」
「……仇を取る以前の問題だ。聖騎士殿を殺した下級悪魔も、それを操っておった名付きの上級魔人も既に討ち果たされた。
既に冥府に引き釣りこまれたものを討ち取るなぞ、できぬ」
そう思っていたら、唐突にとんでもないことを師匠が言い出した。
「……え?」
「聖騎士殿を殺せしは瘴毒の悪魔。その背後に居りしは狩人の魔人。どちらも討たれたのだ。冒険者によってな」
「……こんな辺境に、そんな凄腕の冒険者の一党がいたんですか?」
その言葉には本気で驚いた。下級悪魔ならともかく、上級魔人、それも名付きの上級魔人なんて、
悪魔狩りに特化して鍛え抜かれた聖騎士が何人も集まり、更に冒険者や軍隊と連携してようやく倒せるものと、習った。
稀に冒険者の中にはそれを成し遂げる一党が現れるとは聞くけど、そんな『おとぎ話の英雄様』がこんな田舎にいるとは思わなかった。
「おらん」
「え?」
だが、その問いかけを明確に否定されて、あたしは混乱する。つまり、どういうこと?
「……先ほど、王都から連絡があった。彼の地にて『単独で』狩人の魔人を討ち果たせし冒険者『コウイチロウ』なる者を密かに調べよ。聖騎士と明かしてはならん、とな」
続いて言われたその言葉に、あたしは驚きすぎて言葉が出なくなった。
「教会はな、知りたがっておる。どちらなのかを」
「……どちらって」
あたしの問いかけに師匠は、いつものように教えてくれた。
「この世に単独で名付きの上級魔人を討てる者など大方二種類しかおらぬ。神に選ばれし勇者か……上級魔人であろうとな」
その言葉で、アタシも理解した。
そうだ、その『コウイチロウ』と言う人が上級魔人ならば、上級魔人を倒せてもおかしくはない。
「……もう一種類いるのは、忘れられておるようだ……拙者としては『修羅』であるのが、好みなのだがな」
相変わらずいまいちわけの分からないことを言う師匠と共にアタシたちはそのコウイチロウのいるという隣の町に向かい……
入れ違いになったことを知った。なんでも交易都市に旅立ったらしい、徒歩で。
まあ、今から追えば多分追い付けるだろう。あたしたち、聖騎士はその辺の冒険者なんかとは比べ物にならないくらい、鍛えられてる。
『人間並み』の脚の速さならちょっと急げば追い付ける。
そうして、あたしたちの新しい『任務』が幕を開けたのだ。
伝説の悪魔(賞金は日本円にして10億円くらい)を単独撃破しましたとか言ったらそりゃ疑われるよね、と。




