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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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Season1 Welcome to Sword World 02

導入回

わたしが魔犬(バーゲスト)に襲われて死にかけてから三日が経ちました。


気絶したあと目を覚ますのに一日、そしてそのまま熱を出して寝込み、熱が下がるまでに二日かかりましたので、この三日間は寮のベッドからほとんど動いていませんが。

一度寝込むと長引くのが普通の人より大分病弱なこの身体が恨めしいところです。


その三日の間はほとんど何もありませんでした。

強いて言うならば町の衛視長さんがお見舞いがてら尋ねてきて、例の魔犬について少しお話をした程度です。

それによれば、どうやら今、この街の近辺に魔犬を使う邪悪の輩が居るらしく、恐らくはその先兵だろうとのことでした。

その手掛かりとして、ジョニーを殺し、わたしを襲った魔犬の行方を見ていないかを尋ねられました。


無論、わたしとて冒険者ギルドの職員、れっきとした役人の端くれです。街を守る衛視長様相手に嘘をついたりは出来ません。

「すみません。分からないです……正直なんでわたしが助かったのかも分かりませんし」

「そうか……そう言えば君は、発見されたときには気絶していたな。分からないのも無理はないか」

「はい。お役に立てず、申し訳ありません」

残念そうに言う衛視長様に、わたしは笑顔を崩さずに答えます。

……ええ、嘘はついていません。ついていませんとも。

真実看破(センスライ)》を使った神官様だって白と判断するくらいには完璧な回答です。


人狼と思しき何かが助けてくれた。なんで助けてくれたかはさっぱり分からない。

死体は人狼が持って行ってしまったので行方も分からないと言っても魔犬に襲われたショックで頭がおかしくなったとか思われて終わりです。

むしろ信じてもらえたらそれはそれで厄介なことになるのも目に見えています。

何しろ人狼なんて恐ろしい魔物がこの街に潜んでいることになるわけですから。

本当のことは、出来ればちゃんと自分の目で確かめ、証拠を手に入れてから話をした方がよいでしょう。


……人狼と思しき人の正体に心当たりが無いでもないなんて、口が裂けても言えませんし。



四日目にしてようやく熱も下がり、わたしは仕事に復帰することにしました。

多少の蓄えはありますが、休んだ分だけお給金が減るので、いつまでも休んでいるわけにもいきません。

実家に頼めば仕送りくらいはしてくれると思いますが、それは最後の手段なのです。


そんなわけでわたしは四日ぶりにギルドに向かい……職場復帰のあいさつをしている途中で支部長に呼び出されました。

「はい?隣町に行け、ですか? ……わたしが?」

高価なガラス窓が使われている支部長室でのいきなりのお言葉に、わたしは思わず聞き返しました。

そりゃあそうでしょう。ギルドに就職して五年ほどたちますが、冒険者さんたちと依頼のやり取りをする窓口と、

各種事務処理以外の仕事を任されたことは一度もありません。

普通は手紙を冒険者さんに託すか、冒険者さんがたに知られると困るような重要な伝令でも普通は元冒険者さんだったような心得がある職員が行くもので、

わたしのような生粋の事務員が伝令役になることなど普通はあり得ない話です。

「うむ……これは君のためでもある」

とはいえ王都から配属されてこの街のギルドで働くこと数十年。

この街のギルド職員の中ではやり手で知られる支部長はわたしがそう思うことは分かっていたようです。

「ジョニーが殉職し、君が危うく殺されかけた魔犬の一件。混沌に組する者たちが関わっている可能性がある、という話は君も衛視長から聞いているね?」

「……はい」

支部長の言葉にわたしは頷きます。魔犬は基本的に自然発生しないのですから、それは当然でしょう。

「例の魔犬。門番や衛視たちの話を総合すると、あれは君らを襲うまで問題を一切起こさずに突然街中に現れた。

 そのことから僕は『魔人(デーモン)』が絡んでいると考えている」

「……魔人!?」

ですが、いきなり支部長から明かされた言葉には、流石に驚きました。

魔人なんて、聖騎士か、国軍か、それなりに経験を積んだ冒険者さんたちが出会うようなものです。

生粋の一般人であるわたしにはかかわりが無いはずなのですから。

「その通りだ。魔犬は魔の力に侵され、狂暴化した犬である、と怪物図鑑には記されている。つまりは魔人ならばその辺にいる野良犬でも捕まえれば簡単に作れる」

けれども、ああ……状況を聞けば確かに魔人が背後に居てもおかしくない案件です。

実際、似たような案件で背後関係の調査と魔人の討伐という依頼書を扱った覚えも何回かあります。

「君を襲った魔犬が確保出来ていれば、その辺りもわかったんだろうが……あいにくと行方は掴めなかった。

 となると、どこかで別の場所で発生した魔犬がたまたま街中まで誰も襲わずに入ってきた可能性はある。

 だが、それは可能性としては低いのは、君にも分かるね?」

「……はい」

そして、わたしを助けてくれたらしい人狼は捕まらなかったのは間違いないでしょうから、魔犬の死体も見つかっていないのも道理です。

「今、隣町には巡回の任についていらっしゃる聖騎士様がおられるらしい。君にはそれを呼んできて貰いたい。

 邪悪の輩にそんな動きを知られては困る。

 私の依頼書を届ける伝令役は、信頼のおけるギルド職員を送り込むべきだろう」

そう言った後、支部長は表情を崩して言います。

「……という名目があれば、ギルドとしては何かと物騒なこのご時世に戦闘の心得が無いギルド職員が隣町まで行くために冒険者の護衛を雇うことが出来るわけだ」

顔には笑顔。ですが、目は笑っていませんでした。

「なるほど……それでわたしが」

「その通り。もし、魔人が居るのならば、魔犬相手に生き延びた君を狙う可能性が高いと僕は睨んでいる。

 そうなるとこのまま街中に居ても安全とは言い難いが、君に護衛を雇い続けるほどの給料を払った覚えはないし、

 また他の職員が狙われる可能性もある」

支部長の話を聞き、その表情と理屈に、わたしは支部長がしているもう一つの懸念に気づきました。

(疑われているんですね。わたし)

魔犬に襲われ、ジョニーは殺されたのに、わたしは無傷。魔犬の行方を聞いても不明瞭な答えしか返ってこない。

状況だけ見ればわたしでもわたしが魔人である可能性は低くないと考えます。

聖騎士様には人間に化けた魔人を見分ける方法があると聞きますし、拒否すれば余計に怪しまれるのは確定です。

最悪ごうも……審問に掛けられることになるでしょう。

(受けるしか無いですよね。これ)

幸いにもわたしはわたしが魔人じゃないことを良く分かっています。

ですから、清廉潔白の身であることを証明するためにもこのお仕事を引き受けざるを得ません。

「分かりました。お引き受けします」

「……うむ。物分かりが良くて助かるよ」

わたしの回答に、支部長は安堵の表情を見せました。

わたしがこの仕事を引き受けた時点で、わたしが魔人である可能性は下がった。そう考えているのでしょう。

「話はまとまったな。冒険者の護衛の方は、既に契約済みだ。今はギルドの一階に待機してもらっているから、合流したまえ」

「はい……えっと、どなたですか?」

わたしだって二重の意味で命がかかっているこのお仕事を断るつもりはありません。

前向きに依頼を誰が受けたのかを確認します。

戦闘も想定される護衛任務ですから、実績のほとんどない木の認識票の一党辺りを割り振られていたならば変更も視野に入りますし。

「ああ。確か……コーイチローという名の、武闘家だそうだ」

「……え?」

だから、その名前が出てきた瞬間、わたしは思わず固まってしまいました。

「一党を組んでいない単独の冒険者だが、この街に来てからの成績は良好、短期間で銅の認識票を授けられている。

 一時的に他の冒険者と一党を組んだ時の評価も高いし、怪物討伐も護衛も経験ありと聞いている……窓口業務に携わる君の方が詳しいのではないか?」

「は、はい……そ、そうですね……こ、コーイチローさんなら安心ですね!」

不思議そうな支部長に向ける笑顔がぎこちなくなっているのを感じますが、仕方がありません。


コーイチローさんは、わたしが冒険者登録を担当した冒険者さんで……わたしが、人狼ではないかと疑っている人なのですから。

続きは明日

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