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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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ジャック・ローズには早すぎる Last

バラは散った……種は、残った。

医療施設で吹っ飛んだ左腕が生え始め、ちょっとだけ生きる気持ちを取り戻して、

『俺はテツジンの最後の弟子だ』とかちょっと頭が悪いことを言い出した健太郎のお見舞いを終えた僕は、あの日ジャック・ローズから贈られたスーツをばっちり着込み、バラ色のネクタイを締めて怪人酒場へ行くことにした。


怪人酒場は、いつも通りに盛況だった。怪人、ジャック・ローズが死んだって言うのに。

でも悪いことばかりじゃない、あの母親のように口うるさい人は、もういない。

だから、ちょっとは悪の秘密結社の怪人らしく、僕は最奥にある、VIP向けのカウンターに座る。

なんで子供がこんなところにいるのか。そんな視線を浴びながら注文する。

出来るだけ、大人の男らしく、カッコよく。

「ジャック・ローズを一杯貰おうか」

「お客様。当店では未成年にはアルコール類をお出ししないことになってるのですが」

ダメだった。こんな時でもマスターはマスターだった。

「……ジャック・ローズが死んだんだ。酒くらい、飲まなきゃやってらんない」

言い訳染みてる、カッコ悪いと思いつつ、僕は悪あがきをしてみる。

「……なるほど、見覚えがあると思ったら、貴方が光一郎様でしたか」

それを見て、マスターは何かを察したように頷く。なんだ?

「え?」

「少々お待ちください」

なんで僕の名前を知ってるのか、そう思ってる間にマスターは手早くカクテルを作り、僕の前にトン、と置く。

「こちら、ジャック・ローズでございます……ジョン・ドゥ様からのご注文です」

あの日見た、バラ色のカクテルを。

「なんで……」

「先日尋ねてまいりました。アレと戦うことになるかも知れないと、覚悟はしていたようでございます。

 いつか、光一郎様が大人の男になってジャック・ローズを注文したら出してあげて。そう、頼まれておりました」

いつの間にやってたんだ、そんなこと。そりゃあ一日中一緒にいるわけじゃないけど、普通そんなことしないだろ。

「なんだよ、全部お見通しかよ……」

どうやら18歳のガキじゃまだ、本物の男を上回ることは出来ないらしい……なんてこった。

そんなことを思いながら、僕は飲んでみたくて仕方が無かったそれを手に取り、口に運ぶ。

「……まるで、ジュースみたいな味ですね。甘ったるくて、全然苦くない。あの人みたいだ」

初めて飲むジャック・ローズは……バラのように綺麗で、ジュースみたいに僕に甘くて、そして、最高にカッコよかった。

「それはそうでございましょう。アップル・ブランデーの代わりにりんごジュースを使った当店オリジナルレシピですので」

「……それただのジュースじゃないですか」

ここに来る前に調べたジャック・ローズのレシピを思い出し、僕は言った。

僕なりにカッコつけたのに、バカみたいじゃないか。

となりから、押し殺した笑いがいくつも聞こえてくるのが、余計に恥ずかしい。

「未成年にアルコール類を出さないルールですので」

なんてこった。マスターはこんな時でも自分を曲げてはくれないらしい。

―――あと2年お待ちください。そうしたら本物のジャック・ローズをご馳走しますよ。未成年相手にお酒を出す約束をしたのは、どうぞご内密に。

そう思ってたら、いきなり『声』をかけられてびっくりした。

怪人たちに慕われる怪人酒場のマスターが怪人なのは当然のことだけど、まさかサージェントウルフだとは思わなかった。

―――あと2年生き延びろって、無茶言いますね。サージェントウルフなら、サージェントウルフがどれくらい生きられるか、知ってるでしょうに。

平均で1年生きられない僕らに、その倍の時間を生き抜けと言うのが、どれくらい過酷か、長生きしてるなら分かるだろうに。

―――これでも無駄に長生きしておりますので。生き残るものは何となくわかるのです。貴方はきっと生き残れますよ。光一郎様。

だが、そんなことなど知ったことではないとでもいうように、マスターはシレっと流してしまう。

それは多分、僕がジャック・ローズの部下だったからであろうリップサービスだろうけど、なんだかそう言われるとそんな気がしてくるから、現金なものだ。

―――それに、まだ若い。この死にぞこなった老いぼれとは比べ物にならないくらいの『可能性』を感じます。

―――そうですか。

マスターなりに考えて言ってくれてる言葉だ。落ち込む若者を励ませるような言葉。

僕もそういうのを言えるような男にならなきゃいけない。

―――ええ……どうでしょう。ここはひとつ、誓いを立てては?

そう思ってたところに、マスターが提案してきた……意味が分からない。

―――誓い?

―――ええ。故人の……ジャック・ローズ様への誓いです。きっと生きるための道しるべとなるでしょう。

なるほど。そう言うのは、大事だ。

どう思ったかなんて時間が経ってしまえばあやふやだけど、一回、言葉にしてしまえば、ましてやそれを絶対に死にそうにないこの怪人に教えてしまえば、その言葉は変えられないのだから。


そして、マスターに言われるままに、僕はいくつか誓いを立てた。他の怪人には聞かれないように、《沈黙の命令》でマスターにだけ明かした、秘密の誓いを。


ひとつ、僕はアレを絶対に『正義のヒーロー』だなんて認めない。アレは『最悪の失敗作』だ。

ひとつ、僕はカッコいい男になる。ジャック・ローズみたいに。オカマにはならないけど。

ひとつ、僕はアレをぶっ殺す。そのためにも生き延びる。敵討ちだ。そのためになら、努力は惜しまない。


そして、最後に、マスターにも明かさない誓いをひとつ。


いつか、アレを殺すか、結社が滅ぶような日が来たならば、そのときは僕は『正義のヒーロー』を目指そうと思う。


もし、アレが殺せば世界は結社のものになるだろう。それならば結社に従うことこそが正義だ。

そうなれば結社の怪人である僕が強いからって何しても良いなんて勘違いした『ダサいカボチャども』からみんなを守る『正義のヒーロー』を目指しても何もおかしくない。


もし、結社がアレに滅ぼされる日が着たら、アレから怪人を守れるものはなくなる。

結社が無くなってもジャック・ローズの予言通りにアレが怪人を絶対許さないって言うなら、

僕はジャック・ローズみたいに怪人を最悪の失敗作から守らなくちゃいけない。

最悪の失敗作から怪人のみんなを守るのは『正義のヒーロー』だ。


つまりどっちにしてもどちらかがきたら『正義のヒーロー』を目指せるようになるわけだ。

そんなの、サージェントウルフ5126号ごときには無理かも知れないけど、夢は見るだけならタダなんだしね。

……あまりに子供染みた屁理屈で恥ずかしいから、最後の、正義のヒーローのくだりだけは誰にも言わないつもりだ。


まあ当面の目標は、20歳まで生き延びて本物の『ジャック・ローズ』を飲むことだ。

……だから、天国か地獄か知らないけど、見守っててくれ、ジャック・ローズ。

その後25歳現在も元気に生きてるそうな。めでたしめでたし。

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