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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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Season1 Welcome to Sword World 14

ここね、中世ファンタジー世界なんだ……『異世界があること』自体は、ほぼ常識なんだ。

コーイチローさんから許可をいただき、わたしは質問することにしました。

「じゃあまず……コーイチローさんたちはどこから来たんですか?」

まず、最初に聞くのは、最も根本的な疑問でした。

もちろん、分かっています。

あれだけ不思議なものをたくさん持っていて、普通の人間を数百年生きる魔人ですら見たことが無い、

『怪人』に作り変える技を持っているコーイチローさんたちがこの世界の住人ではないことくらいは。

とは言えこの世界では失われた魔法を使って異界渡りしてきた魔術師なのか、人間とは違う時間を生きる妖精の国の住人なのか、

不老不死に至った魔術師たちが住まうという異界の出なのか、雄々しき戦士が死後住むことが許されるという英雄国なのか、

教会の奉じる神々の住まう天界なのか、逆に魔界から来た悪魔の類なのか、わたしたちの知らない未知の世界なのかでは、

全然心構えと言うものが違います。

もはや離れることが出来ないわたしとしても色々覚悟がいるのです。

「……信じてもらえるかどうかは分からないが……俺たちは違う世界、地球から来た」

「地球……どんな、ところでしたか?」

そこまでは予想通りの回答でした。ですが、問題はここからです。地球って、具体的に、どんな世界ですか?

「ああ。色々と違いはあるが、人間が普通に住んでて、それぞれに生活しててって意味ではあんまり変わらない世界だった。

 プロフェッサーが時々言ってるだろ? 観測番号1872とか、人類種1872とか。

 あれがプロフェッサー的にはこの世界と人間のことらしい。

 次元転移装置使って6000だか7000だかの世界に探査機送って調査した結果、怪人じゃなくても生きていける環境で、

 まともな文明社会がある世界が1872番目に調査したここだけだったとか言ってたな」

「そ、そうなんですか……」

コーイチローさんの回答に内心胸をなでおろします。

調査した世界が多すぎるとは思わなくも無いですが、少なくとも使徒や悪魔の類ではなく、お二人は普通の人間の住む地球なる世界出身のようです。

「じゃ、じゃあ、結社と言うのは?」

次にわたしが聞いたのは、プロフェッサーさんやコーイチローさんがいたと思われる、結社なる組織です。

お二人を見ている限りではさほど危険な組織ではないと思いますが、確認は必要だと思います。

「……怪人による世界征服とかマジで言ってるおかしい連中の集まり。

 ほら、この世界で言うと何だったか……そう、『邪悪の輩』ってのが一番近いな」

そう思って聞いたのに、まさかの秩序の破壊を願うような邪悪の輩の組織だったようです。

わたしは内心驚愕しながらも、尋ねます。

「……じゃあ、コーイチローさんも?」

「まあな。ただまあ一応、言い訳させてもらうと、脳改造されてたからだ。今はそんなこと思ってない。


 『脳改造は大首領の特殊能力(アビリティ)の一つだった。そのため、本体が死ねば全て解除されるのは予想範囲内だ。今回はそれが実証された形となる』


 って、プロフェッサーが言っていた。

 あいつ、基本的に嘘はつけないから、そこは信用しても良いと思う。俺もなんで結社に従ってたんだろうなって今は思うようになったし」

肯定されてしまったことに内心焦りつつも、聞き覚えがない言葉が出てきたことに機敏に反応します。

「……脳改造?」

そう言えばプロフェッサーさんも言っていたような気がします。

脳改造が出来ないからわたしに、逆らったら身体が消滅する死の呪いを掛ける、と。

「そう。結社で一番偉い奴だけが作り方知ってる薬みたいなもん頭に入れて、脳みそ直接弄繰り回すんだ。

 それやられると知識以外の怪人になる前の記憶を全部失うし、結社に逆らうとかそう言う発想が全くなくなる。

 結社のために生きて、結社のために死ぬ。結社の命令だったらどんなバカげた命令にも従うようになる」

なるほど、そう言う技術により操られていたのなら、分かります。

邪悪の輩の使う怪しげな技術にもその手の技がたくさんあって、攫った人間を信者や暗殺者に仕立て上げるというのは、

よく聞く話ですから。

「……今にして思うと、それが結社が負けた理由だな。結社が滅んだの、脳改造する前に脱走した怪人が原因だったから」

ではなぜその結社をやめたんですか?

そう聞く前に、コーイチローさんがポツリと、その理由を呟きました。

「……怪人に滅ぼされたんですか?」

「ああ、そいつは人間だった頃からすごい奴だったらしいんだが結社に拉致られて怪人に改造された後、

 脳改造される前に脱走して『俺をこんな身体にした結社は滅ぼしてやる!』と思ったらしい……んで、結社はそいつに負けた」

なるほど、怪人は人間とは比べ物にならないほど強いですが、同じ怪人ならば怪人と戦うことが出来るのは道理です。

と、そこまで考えて、ひとつ、重要なことに気づきました。

「あの、そいつと言いますと、結社はたった一人の怪人に……?」

そう、コーイチローさんが言っているのは『そいつ』なのです。そいつら、でもそれら、でもなく。

コーイチローさんがわたしとは比べ物にならないほど強いように、同じ怪人でも強さに差があるのは分かります。

しかし、コーイチローさんが5126号なことを考えれば、結社に居た怪人は最低でも五千を越えていたことになります。

それを一人で倒すなど、可能なのでしょうか。

「そいつ、シャレにならん強い上に、自分の血を分け与えたり、結社の基地襲撃して奪った機材使って、怪人作れるようになってな……

 人間が作った脳改造されてない怪人と泥沼の戦いになった。あっちは怪人作る技術開発に協力するのと引き換えに政府とか警察とか色んなもん味方につけてたな」

流石に単独で結社を全滅させたわけではないようです。そりゃそうです。

それが出来たらそれはもう勇者すら超えた神の化身かなにかでしょう。

「まあ、最後はそいつが一人で本拠地まで乗り込んできてな。

 最後の戦いのために結社が集めた怪人だけの精鋭部隊を全滅させて、結社最強の怪人だった大首領も殺されて、結社は滅亡した。

 それでオレらはここに逃げてきたってわけだ」


……なるほど、そんなのがいる世界とか逃げ出したくもなりますね!


コーイチローさんの言葉にわたしは二つのことに納得しました。

コーイチローさんたちがこの世界に来た理由と、もう一つ。

「……それで、プロフェッサーさんはあんなにわたしの同意を求めてたんですね」

思えばあのとき、プロフェッサーさんは、わたしが『怪人になることに同意する』ということに非常にこだわっていました。

もちろん同意しましたし、今のわたしはコーイチローさんとプロフェッサーさんが両方が許可すれば即座に爆発四散し消滅する身体らしいです。

……脳改造を受けていない怪人がそれほどの危険な存在だったというのなら、警戒するのもわかります。

「……マジで?」

ですが、その言葉はコーイチローさんには予想外のことだったようです。

何やら驚いた顔で聞き返してきます。

「はい。ナノマシン、でしたっけ。それの注入もわたしに自分でやれって……あれは二度とごめんですね」

「そっか。プロフェッサー、あの約束守ったのか」

わたしがあの時の、本当に死ぬかと思った記憶に身震いしながら答えますと、コーイチローさんの表情が柔らかくなりました。

「約束、ですか?」

「こっち来た時に約束したんだ。怪人は簡単に作ろうとするな。出来れば作れることすら言うな。

 変な奴を改造したら絶対にヤバいことになる。絶対にやるなとまでは言わない。本当にそれしか手がない。

 そう思った時に、せめて信用できる奴かどうか見きわめて、本人の同意貰ってからやれって」

そう言って笑うコーイチローさんの顔は少しだけ罪悪感が混じっていました。

「研究とか実験にしか興味が無いガキだと思ってたが……そっか、悪いことしたな」

どうやらコーイチローさんは、プロフェッサーさんのことをもっと理解しがたい人だと思っていたようです。

「じゃあ、謝らないと、ですね」

「だな」

そんなコーイチローさんの顔は……王都で今も元気に騎士をやっているのであろう二番目の兄を思い出させました。

「よし、こっちは準備できた。そっちは?」

「出来ました!」

そして、お話も終わったところで準備もちょうど完了しました。

「さて、ここから脱出するわけだが」

「あの扉から出て、魔犬蹴散らせばいいんですね! 分かりました!」

狩人の魔人を倒そうというときに、臆してはいられません。

今のわたしならば魔犬の百や二百、蹴散らして見せる!

そう思っていたところで、コーイチローさんは首を横に振りました。

「違う。アリシアさん、こっちへ」

「え? はい」

コーイチローさんに手招きされて、扉がある方向とは逆の方向に立ちます。

さっきまで、水がめが置いてあったそこには、何もありません。

「壁があるだろ?」

「はあ。壁ですね」

むき出しの壁があるだけです。

長年使いこまれてくすんだ、灰色の石壁です。これが一体どうしたというのでしょうか。

「この壁を思いっきり殴ってくれ」

「え? 思いっきり、ですか?」

思わず聞き返すわたしに、コーイチローさんは頷きと共に言います。

「思いっきり」

「……分かりました」

……なんとなく、コーイチローさんのやりたいことは分かりました。

「せぇの!」

力いっぱい拳を握り、振りかぶって拳を叩きつけます。

人間だった頃のわたしならただ手を痛めて終わりだったでしょう。

「……よし! 崩れました」

ですが、怪人のわたしの拳には、流石の石壁も勝てなかったようです。

轟音と共に見事に砕け散り、人ひとり余裕で通れる、階段までの通り道が出来ました。

「よし、ここから出よう。アリシアさんはそこの水がめ担いでくれ」

コーイチローさんに言われ、わたしはわたしの体重をはるかに越えるであろう水がめをひょい、と持ち上げます。

轟音に気づいてこちらへと向かってくる魔犬の声に追われるように二人して階段を駆け上がり、

魔犬が追ってこれないようにコーイチローさんが階段を破壊したのちに、言います。

「扉ってのは罠や待ち伏せに使われやすい。馬鹿正直に扉から出入りするくらいなら壁をぶち抜け……パワー系怪人の基本その2だ」

「そうですね……力が強いってすごいことなんですね」

コーイチローさんの言葉に頷きながら、力と言うものは戦い以外にも色々使い道を考えるのが大事なのだなと思いました。

脳改造されてない怪人とは、アメコミで言うヒーローやヴィランと見分けがつかない何かである。

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