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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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Season1 Welcome to Sword World 12

ある日突然すごいパワーに目覚める正統派チートなのが、アリシア・ドノヴァン

こいつに任せると大体解決するけど大惨事にもなる頭脳系チートなのが、プロフェッサー

光一郎は、結社による改造により生み出されたC級怪人、サージェントウルフである。


一万八千におよぶ生産数に対し、最終防衛作戦終了時点で生きて結社に所属していた数はおよそ三千と少し……

実にその八割以上が死亡済というサージェントウルフの仇名は多い。


怪人の使い走り、戦闘員に毛が生えた奴、戦闘員けしかけるしか能が無い雑魚、結社の雑用係、人体実験専用怪人、そして消耗品。

……哀しいことにそれは、大体事実であった。


恐るべき身体能力(ポテンシャル)特殊能力(アビリティ)を持つ化け物揃いであった結社の怪人の中において、サージェントウルフは、

B級以上の怪人の補佐役で、クローン培養でいくらでも生産できる戦闘員よりはマシと言われる程度の戦闘能力しかないC級怪人で、

とにかく数が多くて、戦闘員を《沈黙の命令》でけしかけるくらいしか出来ないし、

訓練や試験で『戦闘任務に適さない』と判定された時点で命令通り動くだけの知能しかない戦闘員には出来ない結社の雑用と、

研究部門の実験で消えていく被験体扱いになる消耗品であり……

それ故に『生き残った一握りの上澄み』はとても貴重で、得難いものであった。


元は結社の怪人であった光一郎は、サージェントウルフである。

そして、実に7年もの歳月を生き残ったサージェントウルフ最強の『上澄み』でもある。



傷が治らなくとなるという恐ろしい攻撃を受けて数分。

(よし、なんとか動くな)

適当な建物に逃げ込んで息を殺しつつ、オレはふくらはぎの肉が完全に再生した脚を慎重に動かして、まだ痛みはあるがまともに動くことを確認した。

(まさか傷口が再生不能になる攻撃なんて特殊能力(アビリティ)を持ってやがるとはな……)

怪人の体内に流れるナノマシンの力でも再生できない腐り落ちた傷は、周りの肉ごと抉り取れば再生できることは分かった。

つまりなんとか単独の作戦行動中に行動不能になるという致命的な状況を避けるメドが立った一方で、

肉を抉り取るわけにもいかない顔か心臓辺りをやられると助からないという、

非常にありがたくない事実も判明したということだ。


ガルルルルル!


唸り声を上げながら建物に入ってきた犬を始末し、建物から飛び出す。

それと同時に飛んでくるのは、建物を貫く電撃のレーザー。

どうやら奴の呼ぶ犬はドローンみたいな偵察機能があるらしく、犬に見つかると即座に魔法とやらが飛んでくる。

命がけの鬼ごっこ兼かくれんぼは、終わる気配が感じられなかった。

(勝てる見込みは……やっぱり薄そうだな)

まだ再生しきってない脚が再生するときの痛みとその事実がオレの頭を冷やしていく。

多彩で厄介な攻撃手段に、現在進行形で増えているドローンを兼ねた敵、ちょっとは自信がある格闘術は役に立たず、唯一通じそうな武器ときたら折れたナイフだけ……

今、生きているのが不思議になるくらいの惨状だ。

(だがまあ、これくらいのピンチなら、これまでだって『何回も』あった……つまり、生き延びられる目はまだある)

通じるかどうかも分からない、先ほど拾っておいた貧弱な切り札をもてあそびながら、オレは冷静さを必死に保とうとする。

アホみたいに作られてアホみたいに死んでいくサージェントウルフは、動くのを戸惑ったやつ、恐怖に負けて無策で逃げたやつ、

調子にのってアホなことをしたやつ、運の悪いやつ、死ぬ覚悟を決めたやつ、そして最後に諦めたやつの順に死ぬ。

それが、オレが七年間の間に学んだ事実だ。

本当に逃げるかどうかは、切り札切ってから考える。諦めるには、早すぎる。

そう割り切ってしまえば……後は勝つか逃げるか死ぬかのどれかしかない。

「よし、ちょっと行ってくるか」

こういうときに緊張すると失敗する。

オレは限界まで身を低くして一気に走り抜ける。

「……なに!? もう治ったのか!?」

オレに気づき、オレがいつもの速さで駆け抜けるのを見た化け物が驚きの声を上げたことに内心満足しながら、オレは予定通りに切り札を用意する。

肉を抉り取れば傷が再生できるなんてすぐバレると思った方がいい。チャンスは1回しかないだろう。

オレは限界まで集中して奴の目に向かって切り札を手にした右手を伸ばし……


「私だ」


唐突に飛び込んできた通信に集中を乱され、攻撃を外した。

「瘴気、矢となりて、どこまでも追う《腐蝕の矢》!」

そので生じた隙を見逃すほど甘い相手のはずも無く、咄嗟に奴の放った紫色のエネルギー弾をゼロ距離で食らって右肩が腐る。

(戦闘中に、変なタイミングで通信入れるのはやめろぉ!)

残念だが貴重なチャンスを逃したのを確信したオレは、咄嗟に肩をやられて力が抜けそうになる右手に力を込めながら距離を取る。

「うおおおお!?」

再び飛んできた紫色のエネルギー弾を、近場に居た犬っころを盾に防いで、生き物なら紫のエネルギー弾を防ぐ盾がわりになることを確認しつつ建物の中に逃げ込む。

「ふむ。光一郎。苦戦しているようだな」

そうしてようやく一息ついたところで、つい先ほどオレを殺しかけたクソフェッサーが再び話しかけてきた。

「ああ、見ての通りだプロフェッサー。今にも死にそうだ。と言うわけで今すぐ通信切って集中乱さないでくれると助かる。ミスるとマジで死ぬから」

肩の腐った傷口を素早く慎重に抉り取りながら、オレはプロフェッサーに悪態をつく。

今のは割とマジでやばかった。もうちょっと左にずれてたら死んでいたんだ。それくらいは言ってもいいだろう。

「そうか。では、手短に伝える」

反省しているのかいないのか、プロフェッサーはいつも通りの声でオレに伝えてくる。

「増援を派遣した。使え」

産まれて初めて聞いた、とんでもない通達を。

「……は?」

一瞬、プロフェッサーの言っていることが分からなくなり……先ほどから通信越しに聞こえる吐息や心音が『一人分』であることに気づく。

「だから、増援だ。B級の怪人を1体。そろそろ到着する頃合いだろう」

「なあ、一つ聞きたいんだが、いいか?」

それらの事実がオレの中で組み立てられ、最悪な情報になったのを信じたくなくて……オレはプロフェッサーに尋ねる。

「なんだ?」

「プロフェッサー……一体どこから、新しい怪人なんて連れてきた?」

ああ、分かっている。プロフェッサーと一緒に誰が居たかを考えれば、新しい怪人が『誰』なのかなんて考えるまでも無い。

だが、それでも聞かずにはいられなかったのだ。

「現地調達だ。どんな不具合が出るか分からん試作品であることと脳改造がされていないことには注意しろ」

「……そうか分かった黙れ」

そして、予想通りの答えを突き付けられたオレに言えたのは、それだけだった。

「連絡は以上だ。増援については肉壁なり囮なりにしてお前は撤退しても構わん。

 ……アイツよりお前の方が遥かに貴重だからな。お前に死なれるのは、その、困る」

そんな言葉と共に、通信が切れる。

最後の言葉は、本心だろう。

数日前に会ったばかりの現地採用枠よりは数か月一緒にいたお世話係の方が有用性が高いとか、そう言う意味だろうが。

「……クソったれめ」

だから俺は、大きなお世話に悪態をつきながら、辺りを観察する。

(切り替えろ。戦力が増えることは悪い話じゃあない)

それが誰だとか、なんで脳改造もなしに死ににきてんだとか、そう言う話はいったん忘れることにする。

訓練されてないとは言え、文字通りの意味で超人的な能力を持つ怪人が一人増えれば、取れる手も増える。

つまり、生きて帰れる可能性も、なんならあの化け物を抹殺出来る可能性も上がるのだ。

(この際贅沢は言わん。B級ならバクダンとかじゃなければ、やりようはある……!?)

……だから、とてつもない嫌な予感にとっさにしゃがんだオレの頭があったところを、すさまじい勢いで石が通り過ぎて壁にめり込んだとき、オレは最悪の予想が大当たりしたのを感じ取っていた。

(……マジか)

でたらめな方向から飛んできて、狙ったにしてはタイミングがおかしいくせに、威力だけはあからさまに狂っている投石。

……そんなやらかしをする『怪人』に、心当たりがあった。

(よりにもよって『バクダン』か)

結社の怪人の中でも随一の圧倒的パワー、ちょっとやそっとでは倒れないタフネス、それに反比例した不器用さ、怪人名の由来にもなってる特殊能力(アビリティ)の扱いづらさ……


『味方殺し』の悪名で知られる『上司にも部下にも持ちたくない怪人、不動の一位』が来てしまったことに戦慄する。


やり直しも無かったことにも出来ない一生の選択をさせてるのによりにもよってあれを選ぶプロフェッサーのセンスには脱帽だ。悪い意味で。

「ご、ごめんなさい! コーイチローさん! 大丈夫でしたか!?」

そして、聞き覚えのある声で謝られる。

そこに立っていたのは、アリシアだ。ああ、アリシアだ。

たとえ頭から角が生えてようと、ちょっと見ない間に色々発育してようと、手足が白と黒のまだら模様の毛で覆われていようと。


バクダン……『バーサークタウロス』にしか見えなかろうとアリシアに違いない。


こういうことはまあ、『最悪の失敗作』だったアレやアレが作った怪人との戦いが激化してた末期の頃には割とあった。

出来ててほやほやの、訓練未了の怪人の投入。現場経験が少ない幹部ほどとりあえず怪人送り込めば戦力になると信じてる。

……経験と訓練が足りてない怪人はB級だろうがA級だろうが戦場ではよほどいい指揮官じゃないと足手まとい、なんて思いもしないのだ。


オレは慌てて駆け寄って、アリシアに言う……向こうから駆けよられたら、最悪『轢き殺され』かねない。

「……ああ、大丈夫だ。気にするな。ただもう、石っころ投げるのはやめような?」

「は、はい……すみませんでした」

とは言え、そんなこと本人に言えないし、ましてや怒るわけにはいかない。彼女は、善意でオレを助けに来てくれたのだ。

攫われて問答無用で改造されたわけでも、脳改造されたわけでもないし、戦いの経験なんて欠片も無いのに来たのだから、

それを補えるだけのとてつもない勇気と覚悟を抱え込んできたんだろう。

……そんな『いい女』に文句を言えるほど、オレはクズにはなれない。

(くそったれ! 1回大丈夫だったから2回目も大丈夫だなんて、なんで信じた!?)

それに、今回の件はオレが悪い。

プロフェッサーは自分以外は大体実験素材か雑用係としか見ない『結社の研究部門の幹部様』なのだ。

二人きりにしたら、何も起きないはずがない。

大方、オレを助けるためとかどうとか、そう言う口車に乗せられたんだろう……

無理やりにでも引き離しておくんだった。


―――いつか、バラの上にそそぐ太陽の光のように、みんなを包めるようなカッコいい男の人になりなさい。じゃあね……光一郎。


怪人になって最初の……プロフェッサーとは違い尊敬できる上司だったジャック・ローズの最後の言葉を思い出しながら、オレは気合を入れる。

「やるぞ。アリシアさん。あの野郎をぶっ殺す。オレたち、でな」

「……はい!」

よし、やる気だけはある。それで十分だ。

オレは今、アリシアと一緒にいる……いい女を守れるようなカッコいい男になりたいのなら、無茶でもなんでも勝つしかない。


そう、つまりは『いつものこと』だ。

そしてこいつはカッコつけつつその場しのぎで生き延びてきた判断力のチート枠である。

普通の人間なのにサメとかゾンビとかモンスターとか悪霊とかバッタ怪人とかと戦って死にかけまくるけど何故か生き延びるあれ。

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