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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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season1 Welcome to Sword World 11

じつはここまで、大体前振りだったんだ

……痛い痛い痛い痛いいだいいだいいだい!?


体中を激痛が走り、わたしはその場に崩れ落ちました。

骨という骨が折れ、小さな針を満遍なく刺されたかのようなすさまじい激痛。

噂に聞く出産の痛みすら超えるであろう人生で最も大きい痛みのあまりのすさまじさにわたしは気絶することすらできず、転げまわります。


痛い以外の感想がなく、わたしはプロフェッサーの口車に乗ったことを早くも後悔しました。

「お前の肉体は今、免疫機構と脳および卵巣以外の主要器官、筋肉並びに全神経をナノマシンにより一旦破壊され、怪人に適応するべく再構成

 ……つまりは改造されている。故に失陥や障害の度合いに比例し改造時の痛みが大きくなる。麻酔も効かんから黙って耐えろ」

芋虫のように転げるわたしに、プロフェッサーのクソがのたまいやがりました。


吐き気に襲われたかと思ったら口から真っ赤な……血の色のものが飛び出します。

それは止まらずにとめどなく口からあふれ出てきました。

「それはお前の内臓の残骸だな。使い物にならんとナノマシンが判断して作り直し、余った部分だ。恐らくは肺だったものか」

何か、すごく嫌なことを聞いた気がする。

けれど痛くて何を言われてるのか理解できない……


……わたし、ここで死ぬのかな……


止まらぬ激痛と吐き気にそんな恐ろしい考えが頭をよぎった途端に、するすると吐き気と痛みが引いていき、わたしは自分の吐き出した血と肉の塊の上に寝そべりました。

「ふむ。神経系の改造が完了。痛覚遮断が機能したようだな。喜べ。これでショック死する危険は無くなった。現時点で、改造は成功したと言っても良い」

……どうやらわたしは危うく死ぬ可能性があったようです。

「あとは筋肉、内臓、皮膚その他の肉体改造だ。そのまま寝転がっていれば、終わる」

代わりに感じているのは熱さです。

三日くらい続く熱が出た時のような熱っぽさが全身を包み込み、動く気にもなれないだるさを感じます。

同時に、私の身体が膨らんでいくのと、体の奥から力が沸きあがってくるような不思議なものも感じます。

「う、あぅ……」

そうしてぼうっしていると熱が引き、奥から湧き上がる力のみが残りました。

「……完了だ。立ち上がってみろ」

クソプロフェッサーの言葉に導かれるように、わたしは立ち上がりました。

足の裏にどろりとした、生温かな何かの感触を感じつつ、わたしは口をはしたなく手で拭いつつ身体を見て……絶句しました。

「……なに、これ」

白地に黒のまだら模様の柔らかな毛に覆われた手と脚。

わたしが吐いた血にまみれ、内側から破けてボロボロになった服。

その下から見える、慣れ親しんだ病弱で細身な己からはかけ離れた、筋肉が増えて良く発育した健康的で女らしい、豊満な体つき。

頭に妙な重さを感じて触ってみれば、髪を押しのけるようにして生えた、つるつるした角の感触を感じます。

「これが……怪人?」

手を閉じたり開いたり……わたしの想いのままに動くことを確認して、わたしはなんとも言えない気持ちになります。

どうやらわたしは、本当に人間を辞めてしまったようです。

「さて、早速だがお前に任務を与える」

そんなわたしの気持ちになんて頓着せず、プロフェッサーはわたしに命令を下しました。


「怪人、サージェントウルフ5126号の指揮下に入り、グレーターデーモン、レラジェを抹殺せよ」


ですがそれは、わたしが望んだこと……わたしの、人生が変わったきっかけ。

「……はい!」

だから、わたしは迷いません。そのために、人を辞めたのですから。


「では行くがいい。怪人、バーサークタウロスAW1号よ!」


プロフェッサーさんの言葉を聞きながら、わたしはコーイチローさんめがけて駆け出しました。



怪人って、すごい!


怪人としての初めての運動、ただ走っているだけのそれは人間だったときとは比べ物にならないほど快適なものでした。

何しろ全力で走っているのに息が切れません。疲れません。お腹が痛くなることも、足の裏が痛くなることもありません。


そして、すごく早いです。


そう、わたしは今までのわたしとは比べ物にならないほど、いえ、人間の限界を超えた速度で街を駆け抜けます。

周囲の魔犬を掃討して警戒しながらも休憩をしていた冒険者さんたちがわたしを見て慌てて武器を構え……

風のような速さで通り抜けていったのを、呆然と見送って小さくなっていくのが見えました。


街中には、あれほど怖かった魔犬が何匹もまだ残っていて、わたしを見て飛び掛かってきました。

わたしの進路上にいた魔犬の牙が、鎧などつけていない、ギルドの制服しか着ていないわたしの身体に突き立てられ……

表面の皮一枚すら貫くことが出来ずに振り落とされます。


「あは、あはは……あはははははははは!」


わたしは子供のように笑い出しました。最後にこんな声をあげて笑ったのは果たして何年前のことだったでしょうか。


これから恐るべき上級魔人と命のやり取りをするというのに、不思議な高揚感が沸いてきます。

まるで、お父様がずっと読みたかった本を借りて来てくれて、翌日に読もうと思って寝て、眠れなくて熱を出した夜のようです。


もう、何も怖くありません!


そんな気持ちのまま、わたしは慣れ親しんだギルドの前……コーイチローさんと狩人の魔人の戦いの場に到着しました。

(コーイチローさん!?)

そこに立つ、全身に血を流した跡が生々しく残るコーイチローさんの姿に、茹っていた頭が一瞬で冷えたのを感じました。

そう、わたしは今まさに危機にあるコーイチローさんを助けるために戦いに来たのです。

(何か……これ!)

一刻も早く助けないと。

そう思い辺りを見渡して、わたしは武器を見つけます。

ちょうど手のひらの大きさの石。今までの戦いで崩れた建物の破片です。

以前のわたしならば投げるどころか持ち上げようとすら思わなかったであろうそれを拾い上げて、振りかぶります。

(いまのわたしなら!)

コーイチローさんが石を次々に放って魔犬を倒していた情景が頭に浮かびます。

石投げなんて、今までの人生ではやった記憶はまったくないですが、

コーイチローさんと同じ怪人である今のわたしの力ならば、狩人の魔人の牽制くらいにはなるはず。

そう思って、思い切って放り投げました。

「え……」

……そして、わたしの投げた石が見当違いの方向、それもよりにもよってコーイチローさんめがけて飛んで行ったのを見て、

わたしはわたしの血の気が引く音を聞きました。

で、ちょっと短いし、緩い感じの設定資料代わりのSSも用意した

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