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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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Season1 Welcome to Sword World 09

ラスボスがソロで倒せると、いつから錯覚していた?

あれから、魔犬と獄猟犬の群れを軽々と引き離したコーイチローさんは、冒険者ギルドまでやってきました。

この辺りは全員避難が済んでいるのか、人らしきものは一人も見当たりません。

「アリシアさん。支部長ってのは普段どこにいる?」

いつもとは違う、緊張をはらんだ声にわたしも緊張しながら答えます。

「……二階の、窓にガラス板が嵌められてる部屋! あそこが、支部長室です!」

「了解!」

わたしの言葉に反応し、コーイチローさんは壁を駆け上がって、支部長室の窓をぶち抜いて転がり込みました。

硝子の破片と共に飛び込んだ部屋にいたのは支部長……の姿をしたもの!

こんな状況にも拘わらず笑顔を浮かべ、怪人の姿をしているコーイチローさんを見ても驚きもしない人が、人間なはずありません!

コーイチローさんも何も言わず、矢のように早い脚の一撃を食らわせました。

その強烈な一撃を受けて支部長の姿をしたものが窓の外に吹き飛ばされて地面を跳ねながら転がり……何事も無かったかのように立ち上がりました。

「ふむ、君、いささか乱暴すぎやしないかね? 僕が只の人間だったら、死んでいたところだよ?」

「……その状態で普通に話できる奴には言われたくないな」

コーイチローさんの意見に心から同意します。

腕や脚が変な方向に曲がり、首も折れている様子なのに、痛がるどころか気にする様子すら話を続ける姿はとても不気味です。

「ははは。言うねえ……正直、もうちょっと僕を特定するのに時間がかかると思っていたんだけどねえ。あてが外れたよ。

 避難誘導して、誘導先で手ぐすね引いてる犬どもを使って、ロクな抵抗が出来ない獲物を狩る。そう言う予定だったんだがなあ」

さして残念そうでもなく人の姿をした悪魔がつぶやきます。

「悪いな。敵の予定は全力でぶち壊せって結社で習ったもんでね」

「結社? ……ああ、君は別の混沌の勢力の組織の所属なのか。やっと合点がいったよ」

魔人がコーイチローさんの言葉に何か勘違いをし、納得したように頷きました。

「いやはや、やはり混沌の敵は混沌だね……人狼(ウェアウルフ)じゃなくて人間と狼の合成獣(キメラ)とはね。僕も初めて見たよ」

そう言って、悪魔はコーイチローさんを値踏みするように上から下まで見ました。

その視線には悪意が満ちていて……まるで獲物を見るような目でした。

「ただ……君だけで勝てると思っているなら、君の結社とやらは少々僕を舐めすぎているね」

その言葉と共にめきめきと音を立てて、支部長の姿が変わっていきます。


インクで染め上げたように真っ黒な、目も鼻も口も無い人の姿へと変わり、折れた腕や脚、首が治っていきます。

どこからともなく現れた緑色の外套を纏い、その外套についたフードを下ろすと同時に、闇色のフードの奥に二つの赤い光が灯りました。


「……初めましてと言っておこう。僕の名はレラジェ。狩人なんて呼ばれてる、しがない魔神のしもべさ」


「……怪人、サージェントウルフ5126号。コードネーム、光一郎」

「うんうん。礼儀正しい人間は嫌いじゃないよ」

コーイチローさんの答えに大仰に頷きを返し、そのまま腕を天に掲げました。

「でも死ね。炎、この手に集い、焼き尽くす……《火炎球(ファイアーボール)》」

その言葉と共に狩人の魔人の頭上に人を容易く飲み込むほどに巨大な火の玉が現れ、コーイチローさんに向かって落ちてきます。

落ちた瞬間に辺りを火の海に変える、火の玉。その炎をコーイチローさんは建物の壁を蹴って大きく飛ぶことでやり過ごします。

「ほう、かわすか! じゃあこれは? 天の雷、この手に集い、焼き払う……《雷光(ライトニング)》」

コーイチローさんが己の魔法を回避したことに驚きもせずに狩人の魔人が次の魔法を完成させて放ちます。

まっすぐに飛び、射線上にいるすべてを貫く魔法の雷がコーイチローさんめがけて飛んでいきます。

普通の魔術師なら一日に使える魔法は多くても2回とか3回ですから魔法はこれで打ち止めですが、

狩人の魔人にはそんな制限は無いのでしょう……魔力の強さが人間とは比べ物にならないのですから。


ですが、コーイチローさんも負けてはいません。

まるで地面に吸い付くように身を低くして、迫りくる雷のほんの少しだけ下をすさまじい勢いで駆け抜けていきます。

それが右や左、上であったならば手を動かすだけでとらえられたのでしょうが、下は想定出来なかったらしく、一瞬の遅れがありました。

「ほう! そう来るか!」

そして、雷が地面を焼くように下に向けられた瞬間には既に、コーイチローさんは狩人の魔人の喉元まで迫っていました。

「貰った!」

いつの間にか抜き放たれていた聖銀の刃が見事にその首を捕らえます!

如何に魔人と言えども人を越えた膂力を持つ怪人の刃を止めることは出来ません。

「……なるほどねえ。聖銀を苦手としない合成獣で更に熟練の暗殺者を混ぜ合わせたのなら、聖銀の武器だって扱えるというわけか」

そう、コーイチローさんの聖銀の短剣は完全に魔人の首を捕らえました。首は中ほどまで切れているらしく、首の部分からはもうもうと煙が上がっています。


「だがやはり甘い。君は名付きの上級魔人(グレーターデーモン)と言うものを舐めすぎている」

……そんな状態になってもなお、狩人の魔人は余裕の姿勢を崩しませんでした。

「この深さは、人間なら即死。されど魔人にとってはただの痛手さ。殺すつもりならせめて、首を斬り飛ばすくらいはすべきだったね。

 それくらいでは死なないけどさ」

そう言うと同時に、傷口から上がっていた煙が消え、時間を戻したかのように首の傷が消えていきます。

……いくら聖銀で出来ていると言えども、上級魔人の恐ろしいほど強靭な生命をたったの一発で消すことはできなかったのです。

「さあこちらの番だ。魔力、矢となりて、どこまでも追う《魔力の(マジックボルト)》」

それに追い打つように狩人の魔人の指先から魔力の矢が飛び出しました。

何度かわそうとも敵を狙い続け、更に不規則に軌道を変える、絶対に当たる矢を生み出す魔法。

「……っ!?」

変幻自在の軌道でどこまでも追い続けるとあってはコーイチローさんでもかわすことは出来ず、お腹に魔力の矢が刺さりました。

「どうだい? 上級魔人の魔力ならたかが《魔力の矢》でもこれだけの威力が出せる。魔力だって、人間と比べれば無尽蔵さ」

《魔力の矢》は絶対に命中しますが、威力はさほどではない初級の魔術です。

当たった瞬間、魔力の矢は消滅し……、コーイチローさんのお腹の傷がどんどん塞がっていきます。

そう、怪人の生命力相手には、例え使ったのが上級魔人であっても魔力の矢では力不足なのです。

「……おや、再生能力まであるのか、すごいな。君を作った人たちに会いたくなったよ」

そのすごい勢いでの再生を見ても狩人の魔人は動じません。

そのどこまでも続く余裕に、わたしは怖くなってきました。

「じゃあ、これはどうかな? 瘴気、矢となりて、どこまでも追う《腐蝕の(ロッツボルト)》」

「……ちぃ!?」

次に放たれたのは先ほどとは違う、紫色をした《魔力の矢》でした。

……それをコーイチローさんは咄嗟に持っていた聖銀の短剣で弾きます。

魔を退ける聖なる力で魔力を打ち消すことは出来ましたが、その代償だというように、聖銀の短剣が中ほどから折れたのが見えました。

「ははははは! 良い判断だ! 褒めてあげよう! 防がなければ死んでたね!」

「……嫌な予感は大当たりってことか」

狩人の魔人が哄笑しながら言い放った言葉に、コーイチローさんは緊張を隠し切れない声で返しました。

「そうさ。さっきのは僕が独自に開発した奴でね。あの忌々しい聖騎士どもに延々傷を治されて持久戦に持ち込まれないように、腐蝕の呪いを付与してみたんだ。

 当たると傷口が腐って治らなくなるって寸法の特別性さ」

……誰も聞いたことが無い魔法!? そんなものまで使えるなんて!?

「さあどんどん行こう! おいで!」

コーイチローさんを追い打つように、外套が翻り、中に広がる闇から何頭もの魔犬が飛び出しました!

「驚いたかい? 仕掛けは単純、僕の身体の中に召喚の魔法陣を刻み込んでいるだけ。あとは魔法陣で屋敷に置いてる僕の犬たちを呼び寄せる。簡単だろ?

 ……さあ犬たち、死ぬまで戦え! 狩りの時間だ!」

狩人の魔人の命令を受けて、目を赤く輝かせた魔犬が、死ぬことを厭わずにコーイチローさんに殺到します!

コーイチローさんも次々と倒してはいますが……倒し切れていません。

「ああ、そう! その調子だ! 魔力、鎖となりて、彼のものを縛る《魔力の(マジックチェイン)

 そして、瘴気、矢となりて、どこまでも追う《腐蝕の矢》」

「ぐぅ!?」

地面から飛び出した魔力の鎖と、動きの邪魔になる魔犬に囲まれたコーイチローさんはついにかわし切れず、悪魔の魔法の矢を脚に受けました。

毒々しい紫の魔力がコーイチローさんの足を腐らせたことに、コーイチローさんが初めて苦痛の悲鳴を上げました。

わたしも、コーイチローさんの脚に刻まれた痛々しい化膿した傷口が目に映って吐きそうになります。

「……さあまずは右脚に手傷を負わせたよ? これで動きは鈍るんじゃないかな?」

……あのコーイチローさんが手も足も出ないなんて。

その様子に、わたしはようやく一つの事実に思い至りました。


上級魔人は、竜や巨人に匹敵し、英雄や勇者とか呼ばれるような人でもなければ単独撃破など不可能な化け物であるという、子供でも知っている事実に。


「……クソっ!」

コーイチローさんも同じことを思ったのでしょう。無事な脚で思いっきり飛び、踵を返して逃げ出します。

「勝てないと分かった途端に逃げるのかい!? ……いい判断だ! どこまで逃げきれるか、試してみようじゃあないか!」

コーイチローさんの背中に、心底面白そうに嘲笑う魔人の声が浴びせられました。

もう1話投下します。短いし、レイニー止めはよくないので。

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