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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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season1 Welcome to Sword World 08

もうこの人だけでいいんじゃないかな?(被害から目をそらしつつ)

あまりに色々なことがあった夜が明け、わたしたち3人は、アジトから街へと続く獣道を歩いていました。

「大丈夫か? アリシアさん、辛くない?」

「わたしは大丈夫です……けど」

アジトから街までの森の中の獣道は、わたしの足ではとてもじゃありませんが歩けないので、またもやコーイチローさんに背負われての移動です。

それ自体は良いのですが……わたしはすぐ上を見て言います。

「なんでプロフェッサーさんがついてきているんですか?」

「なんだ? 不満か?」

幼い子供が父親にせがむ肩車のようにコーイチローさんの肩にまたがったプロフェッサーさんがわたしに聞き返してきます。

「いえ……いつものようにアジトから支援でよかったのでは、と」

「今回のケースではアジトからでは緊急支援が必要となった時に間に合わん可能性があると判断した。

 故に私が出る。感謝されるいわれはあれど文句を言われる筋合いはないと思うぞ」

わたしの言葉にかぶりを振り、プロフェッサーさんがそれらしい言葉で返してきます……なんかこう、信用できないのは、わたしだけでしょうか?

「……本当にそれだけか?」

どうやらコーイチローさんも同じ気持ちだったようです。

疑うように、プロフェッサーさんに問いかけます。

「無論他にもある」

そして、当然のようにそう答えるプロフェッサーさんにわたしたちは同時にため息をつきました。

「レラジェは、極めて威力の高い攻撃を除けばミスリルという物質を使った攻撃か魔法しか通じないし、

 完全に生命活動を止めれば灰になる。そうだったな?」

「はい……上級魔人(グレーターデーモン)下級悪魔(レッサーデーモン)よりも高位ですが悪魔の一種なので、そうなるはずです」

そんなわたしたちを全然気にしないプロフェッサーさんの問いに頷きます。

上級下級問わず、違う次元に住む悪魔は投石機や破城槌、弩砲による攻撃のような、

人間に向けて使ってはいけないほどの威力がある攻撃でもない限り、

聖銀か魔剣、あとは聖職者や魔術師の魔法の類でないとまともに通じないと、本で読みました。

冒険者さんでも、ある程度以上の経験と実力を備えた人たちは不死者や一部の魔法生物にも聖銀や魔法の武器は有効なのもあって、

大抵は何かしらの悪魔対策を持っていたりします。

「つまり生体サンプルを入手するには撃破後、生命活動を停止させる前に確保せねばならんと言うことだ」

しかし、プロフェッサーさんの懸念は完全に斜め上のところにありました。

「……え、もしかしてそのために……?」

「……この人研究のためなら無茶苦茶やるから……」

思わずわたしが呆然と呟くと、コーイチローさんが諦めたような声が返ってきました。

「それだけではないぞ。最悪の場合、私自ら、この事件を終わらせる準備もしてきている」

そんなわたしたちに、少しすねたようにプロフェッサーさんが言い返してきました。

「そうなんですか?」

「ああ、過信は禁物だが極めて威力の高い攻撃なら有効というのなら、超小型戦術核で街ごと攻撃すれば、流石に死ぬだろう。念のため3発用意した。

 起動は遠隔式も時限式にも対応しているから起爆前に退避も可能。なんなら次元断裂障壁装置の用意もある。私たちだけならば影響を受けることも無いから心配するな」

……ちょうこがたせんじゅつかく?

聞きなれない言葉で、わたしにはそれが何なのかは良く分かりませんが、察するに魔力を帯びていないけれど、

プロフェッサーさんが運べるくらいには小さくて、城や砦を攻撃できるような強力な武器かなにかなのでしょうか?

いくら上級魔人討伐のためとはいえ、街ごと壊すというのは、流石に不味い気がします。

壁にちょっと穴が開く程度ならともかく、家や建物が崩れたり、巻き込まれて死ぬ人が出たりしたら目も当てられません。

「絶対やめろ。すぐに解体して二度と作るな」

「何故だ? 核に関する理論が確立されていないと推定される観測番号1872では核の製造、使用を禁ずる法律も無いはずだぞ。

 放射能汚染についても我々の健康に影響しないよう配慮した。住民と建造物はあらかた蒸発または破壊されるだろうが自然環境への影響は微々たるものだ」

……わたしが想像しているものよりも遥かに危険な代物なのは、コーイチローさんとプロフェッサーさんの会話からなんとなく分かりました。

「……いいから。オレが何とかするから。無茶だけはしないでくれ」

不思議そうなプロフェッサーさんにすごく疲れた顔で言うコーイチローさんがとても印象的でした。



そんなことを話しつつ、わたしたちはついに街にたどり着きました。

生まれ故郷ですら無いですが慣れ親しんで見慣れた街に戻ってこれたことに安堵します。

「……なんか、匂いがおかしいな」

立ち止まったコーイチローさんがぽつり、とそう言いました。

「見てくるから、二人はここで支援を頼む。それと、アリシアさん、ナイフを貸してもらえるか?」

「はい。持って行ってください……お気をつけて」

コーイチローさんに短剣を渡しつつ、街へと向かう背中に向けて言葉を掛けます。

「……ありがとう。行ってくる」

その言葉と共に、コーイチローさんが街へと一気に駆け出します。

街の人たちに見られても問題ないようにか人間の姿のままですが、それでも全力で走れば人間とは思えないほどの速さで走れるようで、

あっという間に見えなくなりました。

「……さて、本当に核が不要か。お手並み拝見だな」

それを見送ってすぐにプロフェッサーさんが光の板を取り出して、コーイチローさんの見ている風景を映し出します。

「これって……」

わたしもそれを覗き込んで、思わず息をのみました。

コーイチローさんの視界に映り込むのは、獄猟犬(ヘルハウンド)に率いられた魔犬(バーゲスト)の群れ相手に、冒険者さんたちが共に戦う様子でした。


魔法や矢が飛んでくるたびに吹き飛ばされて、それにまったく怯むことなく駆けていく無数の犬の群れを前衛の冒険者さんたちが必死に押しとどめています。

そして、その群れを率いる獄猟犬が既に何発も魔法や矢を受けているにも関わらず荒々しく吠え、爪や牙、炎の吐息でもって冒険者さんたちを翻弄しているのが見えます。

「くそったれめ! 次から次へと! きりがねえ!」

「近づけるな! 後衛! もっと魔法と矢をぶち込め!」

「無茶言わないで! 魔法はもう撃ち止めよ!?」

「矢も、もう残り少ない!」

「おい!これもう引くしかなくないか!? このままだとこいつらの餌だぞ俺ら!?」

「ならぬ! まだ住民の避難が終わっておらん! 引くのはそのあとぞ!」

戦いの旗色は冒険者さんたちが劣勢……既に倒れて、ぴくりとも動かない人すらも見えます。完全に街の危機です。

「……犬っころ! こっちだ!」

それを見て取ったコーイチローさんの動きが加速します。

手近にいた魔犬を一発で仕留め、その死体を獄猟犬に投げつけます。

突然ぶつけられた魔犬の死体と言う大きな隙が出来た瞬間、そのまま指をピンと伸ばした手で獄猟犬の目を貫いたのです!

「今だ! 一気に殺せ!」

獄猟犬が片目を潰されて怯んだ瞬間、ここぞとばかりに魔法と矢が殺到し、獄猟犬は倒れました。

まだ魔犬は多数残っていますが、見た感じではここにいるのはこの街のギルドを根城にしている冒険者さん方の中でも熟練者の方々ばかりです。

獄猟犬さえいなくなれば心配はいらないでしょう。



「コーイチロー! 生きてたのか!?」

「どこに行ってたんだてめえ!? このクソ忙しいときに!」

「ありがとうございます。助かりました」

「しゃおらあ! デカ犬さえいなくなればこっちのもんだ!」

「すぐに魔犬の掃討と傷の手当てを! 損傷が酷い人には《癒し(ヒール)》の祈祷を行います! 早くこちらへ!」

「魔力使い切った後衛は今のうちに下がれ! 次のが来るかもしれん!」

「警戒を切らすなよ! まだ終わったかなんてわからんからな!」


「……おい、新人たちはいないのか?」

その様子を見ていたコーイチローさんがポツリと尋ねました。

「ああ、ここにいるのは腕に覚えがある熟練者(ベテラン)だけだ。戦い方もろくに知らねえひよっこの面倒見てられる状況じゃねえからな!」

「若輩どもには、衛視と共に街に入り込んだ魔犬の撃破と、避難の護衛を任せておる!」

「ここが片付いたら、俺らも一旦引く! あの丘の上の青い屋根の屋敷だ! コーイチロー、お前もだ!」

コーイチローさんの問いかけに、冒険者の皆さんが一斉に話しかけて答えを返してきます。


「……あれ、一体誰の家なんだ?」

「ギルドの支部長の屋敷だ! ギルドの地下にあの屋敷の庭まで続く隠し通路があるらしい!」

そして、少しだけ苦しそうに尋ねたコーイチローさんの質問とその答えに、わたしは凍り付きました。

ギルドの支部長は……

「……おい、あの屋敷は本当に安全なのか?」

「そのはずだ! あそこには高い塀もあるし、丘の上だ! 王都から救援が来るまでなら持ちこたえられるさ!」

そう、普通に考えれば安全、なのです……ギルドの支部長に、今回の事件の元凶である狩人の魔人(レラジェ)が化けているのでなければ。

「……やべえな」

「あ、おい!? コーイチロー!?」

「わるい!ちょっと用事が出来た! ここは頼んだ!」

どうやらコーイチローさんも同じ意見らしいです。驚いている冒険者さんたちを置き去りに、一気に支部長の屋敷へ向け駆け出します。


コーイチローさんが大きく飛んで屋根の上に乗り、更に一気に走る速度が増します……コーイチローさんが、怪人の姿に戻ったのでしょう。


流れていく風景の隅に、魔犬……街中に発生した犬が変異したものと戦う冒険者さんたちや衛視さんたちがちらりと映ります。

他にも冒険者さんたちに守られて震える人や逃げ惑う人、必死になって魔犬にあらがう人に……既に死んでいる人の姿も見えました。

大惨事となっているそれらをすべて置き去りにして、コーイチローさんは走りぬき、小高い丘の上に立つ屋敷へとやってきました。


人間の身の丈を越えるほど大きな塀をコーイチローさんは一瞬で登り、その塀の上から、惨状を見つめました。


あちこちに転がっている死体と、なにかを貪る魔犬たちの群れ。

黒くなって転がる何かを踏みつけて悠然と辺りをあるく獄猟犬が全部で三頭。

「……これのどこが『安全な避難場所』だってんだ」

思わず、といった様子で呟いたコーイチローさんの気持ちは、わたしと同じでした。

分かってはいましたが……この屋敷はもう、狩場になっています。彼らは待っているのです。新しい、獲物が来るのを。

「こっちには結社もないってのに、こっちはこっちでやっぱりクソだな!」

その様子に悪態をつきながらコーイチローさんは地面に降り立って、周囲を確認します。

「……あれだな!」

屋敷の広い庭の片隅に、重そうな石の蓋で封じられた枯れ井戸があるのを確認し、コーイチローさんは犬の群れの中を一気に駆け抜けます!

その速さは、まさに風のように早く、進路上に居た魔犬はコーイチローさんの拳で殴り飛ばされて絶命します。

狩りの準備を万端に整えて待っていた群れは、突然襲ってきた襲撃者に対応しきれずに一瞬怯みました。

「よっこい……しょ!」

井戸の側にいた不幸な魔犬を殴り飛ばしたあと、コーイチローさんは石の蓋を持ち上げます。

そして井戸の中に入れる隙間に滑り込むと同時に、石の蓋が閉じて真っ暗になり……光の板が緑色に代わりました。

「……間に合ったか」

緑色の板の奥にランタンをつけた複数の人たちが見えました。

男と女が2人ずつ。それぞれが剣や鎧、杖で武装している恰好からすると恐らくはギルドの職員や町の住人をここまで護衛をしてきた冒険者さんたちです。

こちらを任されたということはあまり実績と経験が無い人たちで……あの狩場に行ったら全滅間違いなしの方々でしょう。

「……殺したら大事件だが、ちょっと怪我させるくらいなら本当にあったこわい話で済む……」

それを確認したコーイチローさんがポツリと呟きました。

「まさかこっちでも夜中に肝試しに来た奴ら追い払うだけのお仕事することになるとはな」

ため息と共に、コーイチローさんは滑るように静かに移動します。


「やっと抜けたな……防衛用の自動人形(オートマータ)が暴走して襲ってきたときは死ぬかと思った」

「ええ。合言葉もちゃんと言ったのに襲ってくるなんて思いませんでしたわ」

「古いものらしいですし、誤動作でしょうか……しかし防衛用の自動人形が合言葉を掛けたとたん襲ってくるなんて、学院でも聞いたことがない……」

「ちょっとアンタたち、静かに! 気を抜かないでよ! 安全なのを確認して、ギルドの人たち連れて、

 ギルドの支部長さんの屋敷の庭に行くまでが今回の依頼なんだから!」


暗い通路で、漆黒の毛皮を持つコーイチローさんが足音を殺して近づいているのです。気づかないのは無理もないでしょう。

彼らはコーイチローさんの接近に気づかずに話をしていました。

「……リーダー!? うしろ!?」

そして、この中で最も鋭い勘を持っているであろう斥候らしき少女がコーイチローさんに気づいたのは、

コーイチローさんが既に戦士の少年の背後に立った時でした。

「へ? ……ぎゃあああああ!?」

コーイチローさんはそのまま少年の右腕をつかみ……何か、枯れ木が折れるような音が辺りに響きました。

「な、なにごとで……ひぃ!?」

「……ウェ、人狼(ウェアウルフ)!? そんな馬鹿な!?」

コーイチローさんを見て恐怖に固まる女の子と、コーイチローさんを見て驚愕するローブを着た青年が見えます。


そのうちの女の子の方に、コーイチローさんが近づきました。板に、女の子が大きく映し出されます。

わたしと違い、まだ幼さすら感じさせる、若い女の子です。

邪魔にならないように二つにくくられた柔らかそうな髪の毛。

限界まで見開かれた瞳とふっくらした頬は、結構いいところの出のお嬢さんでもあることを伺わせます。

薄い鉄で出来た胸当てをつけた胸元に揺れているのが、正義の神の聖印と鉄で出来た認識票な辺り、そこそこ有望な僧侶でもあると思われます。

そんな彼女に対し。


「ヒャッハアああああ! しんっせんなあああ! にくだあああああああああああああ!」


コーイチローさんが、びっくりするほど大きな声で絶叫しました。

「ひぐっ」

……あ、気絶した。


真っ青な顔をして、色々なものを身体じゅうから零していた少女が白目を向き、口から泡をふくのを見て、わたしは彼女が気絶したのを確信しました。

考えてみれば、コーイチローさんの怪人としての姿を知らない人にとってみればリーダーを一撃で倒した人狼らしき怪物に物理的に食べられそうになってるわけです。

……これは確かに、気絶しないのはよっぽど肝が据わった人だけでしょう。わたしは多分、無理です。

「……おっと、あぶない」

いきなり力が抜けて、出来立ての水たまりの上に崩れおちそうになった女の子をとっさに支え、近くの乾いた地面の上に寝かしつけた直後のことでした。

「ああああああああああああああ! うわああああああああああああ!」

無我夢中で左手で剣を振り回す剣士の男の子の攻撃を、こともなげにコーイチローさんはかわします。

と言うより、当てるつもりがあるのか分からないくらい滅茶苦茶に振り回しているので、ちょっと距離を置くだけで当たらなくなるようです。

「リーダー! こっち、こっち!」

「早くしてください! 人狼なんて万全の状態でも勝ち目がありません! 殺されますよ!」

しかしどうやらそれは、彼らなりに考えた作戦だったようです。

いつの間にか気絶した僧侶の女の子を回収した盗賊らしき少女と、魔術師らしい青年が、奥にあった鉄の扉の奥で呼んでいるのが見えます。

「うわあああああ!」

それに反応するかのように、剣士の男の子が持っていた剣をコーイチローさんに投げつけ、一息に扉の奥に逃げていきました。

剣士の男の子が駆け込むと同時に鉄の扉が荒々しく閉じられ、鍵をかける音と共にドアの縁にかすかな明かり……多分《施錠(ロック)》の魔法が掛けられた光が見えました。

「……オラぁ!」

それを悠然と見届けたコーイチローさんが、思い切り拳をドアノブに振り下ろし、ドアノブを一発で破壊します。

……なるほど、これで外からあの扉を開けるのは扉ごと壊すしかありません。たとえ獄猟犬でも簡単には空けられないでしょう。

しばらくの間だけならば、時間稼ぎになるはずです。

「手がいてえ。とは言え、これで封鎖は完了だな」

コーイチローさんは、一仕事、やり遂げたという声で言いました。

「さて、最後の仕上げに、悪魔退治と行くか」

そう、それが終わらないと、この事件は解決しないのですから。

目的のためなら骨折とトラウマ負わすのは平気な男! 光一郎!

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