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2話 俺だよ、俺。

チャンチャラチャンチャラチャチャン〜♪



今度は僕の携帯が鳴った。画面を見ると全く見覚えのない番号からだ。しょうもない仕事の依頼か、またまた何か苦情の電話か、どちらにしろ大抵こういう時の電話はあまり良い話ではない。


「お電話ありがとうございます。ハムハムプロダクションの瀬尾です。」

「もしもし?俺だよ、俺。」


椅子の背もたれに完全に身を任せていた僕は、驚きのあまり飛び跳ねながら起き上がり、条件反射的に手に持っていた携帯を放ってしまった。オフィス内は僕一人だったこともあり、携帯から微かに漏れるの声だけが室内で響く。僕は息を殺し、たかが電話ごときに椅子の裏に身を潜めた。


何故だ?

何故彼から電話がかかってきた?

もう二年は連絡していないぞ。

いや、そもそも出来るはずがない。

気不味過ぎるって。

また電話が鳴り出す。

床に落ちている携帯に近づき、画面を見ると

やはり…また知らない番号だ。


出るか?出ないか?

そう自分に問うが、ややこしいのは彼の性格だ。この後も電話をかけ続けるに決まってる。最悪だ。仕事でも使ってる電話だぞ。電源を切るわけにはいかない。


「もしもし…」

「あぁ、そーた?」

「…はい。」

「なんか電波悪かったのかな?もの凄い音が聞こえた後、なんも聞こえなくなってさぁ。」

「…そうみたいですね。というか確認なんですけど、撤平…くんだよね…?」

「なんだよ「くん」って!よそよそしいな!久しぶりじゃん?まだあのクソプロダクションで働いてんの?」

「うん…そうだね。そういう事になるのかな?社名は変わったけどね。もう現場マネージャーでもないし。徹平…くんはどう?」

「ついこないだアメリカから帰国してきたところさ。アメリカだぜ?アメリカ。すっかりアメリカ色に染まっちまったよ。…まぁ、いいや。とりあえず今日時間ある?ちょっと何処かで会わねぇ?」


ハハハ、冗談じゃない。

ちなみになんだが、僕自身、決して彼のことを嫌っているわけではない。どちらかと言えば、まだ芸能界に居座っている僕の方が裏切り者で嫌われ者なのだ。

自分を恨んでいるとまでは思わないけど、どうせ良く思われていないだろう相手と会いたいと思う程僕は物好きではない。


だから

僕は…


「ごめん、今日も仕事なんだ。何時に帰れるかわからないや。」

多分、あと一時間もしないうちに帰れると思うが嘘をついた。


「マジかー。まぁ仕事じゃしょうがないわな。OK、そんじゃまた時間のある時にでも話しようぜ!」

「そうだね、時間さえ合えばいつでも。じゃあまた今度。」

「ハハ、時間なんて合わすもんじゃないぜ?やろうと思えば今すぐ出来るんだって。やろうとするかしなッ」


ツーッツーッツーッ



思わず切ってしまった。

彼の名前は美波徹平。

僕が現場マネージャーとして担当した最初で最期のアイドルグループ"イグレシア"のメンバーの一人。僕と同い年なので今年で23歳ということになる。

クールでポーカーフェイスで傍若無人。オフィスミナミの社長、美波華江の一人息子であったこともあり、幼い頃から音楽、ダンス、演技の英才教育を受けてきたエリートタレントの卵だった。アイドル活動に興味がなかった彼は、社長から半ば強引にイグレシアに参加させられた経緯があり、プロデューサーや社長に対しての反発は絶えず、問題ばかり。初めは歳下のメンバーからも怖がられ、中々グループに馴染む事ができずにいた。

しかし、徐々に溶け込んでいくと、クールで刺々しい印象は変わらないものの意外とイタズラ好きな一面が垣間見えてきた。というよりかは、多分コレが本性だったのだろう。とても器用で話が巧く、僕達の心理を利用し何度もメンバーを弄ったり、くだらないドッキリを仕掛けていた。


だからこれでいいんだ。

普通の会話と見せかけて上手く僕をミスリードし、数分後にはどこかのカフェで一緒にお茶をしているシチュエーションに誘導することも、彼ならいとも簡単に実現できてしまうに違いない。彼はそういう人間だ。



報告書を作成し、今日以降真っ白なはずのスケジュールの確認をした頃には既に午後6時を回っていた。

僕は帰り支度を済ませ、家路に着く。



運悪く急行に乗り遅れたにも関わらず、電車の中は相変わらず混み合っいた。しかし、車内は不気味なまでに静かで、その静寂さとこの暇で仕方ない時間がより一層、僕の頭の中を徹平で満たしていく。


せっかくくれた電話なのにな。

きっと謝るタイミングはあったはずだ。

謝るとまでいかなくても、徹平ともう少し話をしていれば、胸に引っかかっているものを少しでも取り除く事が出来たのかもしれない。結局、あいつもその事については触れなかったけど。それでも裏切り者である僕が切り出さなきゃいけなかったのかもしれない。



あの日もそうだ。



ただ目の前に突きつけられた現実は、誰も想像していなかったであろう無残な結末で

呆然と立ち尽くすだけのメンバーに僕は

マネージャーとして

イグレシアの仲間として

そして彼らの友人として

しっかりと話をするべきだった。

でも、その時僕は…

終わりの引き金を引いてしまった僕は…



それどころじゃなかった。



気づいてあげられなかった事。

助けてあげられなかった事。

様々な後悔と罪悪感が僕を蝕み、立ち尽くすどころか立つ事すら出来ないほどに憔悴しきっていた。

情けないまでに自分自身の事で精一杯だった。

客観的に見れば僕が悪くないことくらいはわかっている。現に責めるどころか、周囲の人は僕に

「仕方ないよ」

「それは防げないよ」

「君に責任はないよ」

と出来る限りの優しい言葉をかけてくれた。

でも、本音を言えばウンザリだった。



あれからもう2年以上の月日が経つ。

その間、僕は一秒たりとも彼らの事を忘れた事はない。防げなかった罪悪感…それに蟠りを残してしまったことへの後悔を加え、今でも毎日僕の心を締め付ける。

だからこそ大好きだった彼らに会うのが怖い。

悪循環から抜け出せない自分がとことん嫌になる。


数分毎に車内に雪崩れ込む人の波に押し流され、徐々に奥の方へと追いやられる。ふと窓に映った無表情な自分の姿から僕は目を逸らす。どうやら僕もいつの間にか東京色に染まっていたようだ。


次回予告

3話 見えてんだよ!!

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