幽霊退治での稼ぎ方~その1「物語」~
オヤジが言った。
「仕事をしろ」
娘さんと和やかに談笑をしている最中、オヤジが割り込んできた。
すぐにオレは切り返す。
「嫉妬は見苦しいぞ、オヤジ」
オレはオヤジの言葉の裏に隠された真意を悟っていた。
きっとオヤジはオレと娘さんの仲が羨ましいのだろう。
自分も輪に入りたいのなら、素直にそう言えばいい。
オレはそこまで心の狭い人間では・・・。
「訳の分からんことを言っとらんで、仕事をしろ。
全くグータラしおって」
言葉の意味どおりだったようだ。
「平和を謳歌していると言ってほしい。
世の中が平和だから、大した依頼もない」
「依頼ならあったろう!他のヤツらが受けていっただけだ!
オマエも少しは見習わんか!」
怒らせてしまった。
楽で実入りの良い依頼が無かったのだ。
そう反論しようかとも思ったが、火に油を注ぎそうだ。
仕方なく一縷の望みを抱いて、オレは依頼の掲示板を見遣る。
いつものドブさらいの張り紙と目が合ったが、そっと目をそらした・・・。
◇
「オヤジさん、酒をくれないか」
娘さんがオヤジを宥めていると、酒場に客が入ってきた。
まだ昼前というのに酒とは羨ましい。
「いらっしゃい。今日は随分と早いな」
オヤジも同じことを思ったのだろう。
客に酒を出しながら、そう言った。
「ほら、例のお姫様。今日は来ないそうだよ」
「え、そうなのですか?私も見に行こうと思ってたのに」
客の言葉に、娘さんが答える。
娘さんと談笑していたのは、ずばりそのお姫様のことだった。
一緒に行こうという話になっていたのに、何ということだ。
全くけしからん。直に文句を言ってやりたい。
そう――今日は隣国のお姫様がこの街を通る予定だった。
王都の王女様に会いに来るとか、そんな理由だ。
お姫様というぐらいなので、まだ年端もいかない子供らしい。
高貴な生まれともなると、子供の頃から大変だ。
その点は同情の余地があるな。
「ひと目見たくて、早くから通りに出てたっていうのに。
酒でも飲まないとやってられないよ」
「そいつは災難だったな」
さすがに客の愚痴にも手慣れたものだ。
娘さんと言えば、本当に残念そうな様子だ。
もちろんオレも(娘さんと出掛けられないから)残念だ。
「お姫様、何かあったのかしらね」
「さあねぇ。
昨日は隣の街に泊まってるって話は聞いたけど」
「明日はお通りになるのかしら・・・」
娘さんは気を揉んでいるようだ。
華やかなお姫様の御一行を見たいと思うのが、女性の心理だろう。
そんな娘さんを見て、オヤジが諭す。
「どのみち王都へは、この街を通らんといかん。
待っとれば、そのうち来るだろうよ」
そのうちでは困る。
娘さんの(オレと一緒に見に行くという)気が変わるかもしれない。
明日にでも来てほしいものだ。
「もしかすると窮屈な毎日に嫌気が差して、家出とか。
物語でよくある話じゃないか」
「ははは、それはお転婆なお姫様だな」
酒が入った客とオヤジの話が弾んでいる。
その話に娘さんまでもが加わる。
「家出した先で、きっと素敵な王子様と出会うのよ。
そして2人だけの国を求めて旅立つの。ロマンチックね」
旅立たれても困る。
王子様がお姫様を連れ去ったら、この街には来ないだろう。
そうなるとオレと娘さんのロマンチックはどうなる。
今度はオレが気を揉んでいると、さらに話が弾んでいる。
「いや、家出先で誘拐されてしまっているのかもしれないぞ。
これも物語でよくある話じゃないか」
「ははは、お姫様はピンチだな」
「王子様が誘拐犯を退治して、きっと助けてくれるわ。
そして2人だけの国を求めて旅立つの。ロマンチックね」
誘拐されても困る。
一体どこから現れるのだ、その都合の良すぎる王子様は。
オレなら王子様より誘拐犯のほうを応援したくなる。
そもそもお姫様が家出をするから、けしからんのだ。
と、話(とオレの不満)が盛り上がっていた。
そして暫くすると、ふとオヤジが呟いた。
「そう言えば、隣の街で思い出した。
あそこの冒険者の宿に届け物があったな」
オレは瞬時に危険を察知し、自分の部屋へ退散しようとした。