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海賊退治での稼ぎ方~その3「詫び」~

 海賊どもは叫んだ。


「侵入者が逃げたぞ!」


 オレはある一室に身を隠している。つまり、その侵入者とはオレのことではない。一体何が起こったのかと聞き耳を立てた。


「どっちに行った?」

「倉庫のほうらしい!」

「合言葉を“(かしら)は悪い女”とか言ってたそうだ」


 ・・・すまない、人のいい海賊よ。何とか逃げ切ってくれ。人のいい海賊はいきなり裏切り者扱いされ、訳も分からず逃げ回っているはずだ。そんな人のいい海賊の無事をオレは願った。ともかく、これは絶好の機会だ。この騒ぎのうちに首領の部屋を探し出そう。


 オレは部屋から出ると、次々に部屋を調べた。すると他の部屋よりも広めの部屋に辿り着く。奥には上等な机が置いてあり、他の部屋とは雰囲気が違う。どうやらこの部屋が当たりのようだ。部屋に入ると扉を閉め、その側で息を殺した。そのまま待っていると、近づいてくる足音が聞こえてくる。足音は1人分だ、コイツが首領だろう。


 ――ガチャ。


 開いた扉の影にオレの姿は隠される。首領(?)は部屋に入ると後ろ手に扉を閉めた。オレには気づいていない。そんな無防備な背中が目に入った瞬間、音を立てずに一気に羽交い締めにした。そして口を押さえ、床に押し倒す。


「大人しくしてもらおう」


「・・・!」


「オマエがこの海賊の首領か?」


 オレの質問に相手はゆっくりと頷いた。やはりコイツが首領で間違いないようだ。計画通り押さえることができた。そのまま首領が武器を持っていないか、体を調べる。足、長靴の中、腰と下半身から順番に確認する。そして上半身をむにゅ。


「・・・むにゅ?」


 柔らかい感触に違和感を覚え、つい口に出してしまった。何だ、この感触は? 武器ではなさそうだが、念のため取り出しておいたほうが良さそうだ。オレは慎重に首領の首元から服の中へ手を入れようとした。


「き・・・」


 すると首領が変な声を出す。「き」? 「き」とは何のことだ? 何かの暗号かと首領に問いただそうとした刹那。


「きゃあああああああ!!!」


「うわ!」


 首領は大声で叫ぶと思いっきり立ち上がる。思わぬ力だったので抑え込むことができなかった。このままではマズい、オレも直ぐに立ち上がる。


 ――!?


 首領を睨むと、首領もまたオレを睨んでいた。首領は胸元を庇いながら、少し涙目になっている。それもそのはず、目の前の首領は。


「・・・女海賊だったのか」


「この変態野郎!!」


 女海賊の怒りの鉄拳がオレの顔面を見事に捉えた。


 ◇


 女海賊は仲間を呼び、オレは縛り上げられていた。だが、今は女海賊の部屋で2人きりだ。何とか挑発して、2人で話ができるように誘導したのだ。


「で、話って何だい?」


 余裕そうな態度は見せているが、こちらを警戒しているようだ。顔が赤いところを見ると何に警戒しているか分かる。最初から女海賊と分かっていれば対応も違ったのだが、今更そんなことを言っても仕方がない。まずは謝っておこう。知らぬこととは言え女性の胸を掴んでしまい、あまつさえ服の中に手を入れようとしたのだ。許されるものではないかもしれないが謝罪は必要だろう。


「素晴らしい胸を掴んで悪かった」 


「ふ、ふざけてんのかい!」


 女海賊は舶刀を抜くとオレの首元に当てる。相手を褒めた上で謝意を示したつもりだったが、残念なことに逆効果だったようだ。もっと褒めるほうに重点を置くべきだったか。とにかく胸の話を続けるのは避けたほうが良さそうだ。こうなってしまった以上、依頼を果たすには説得しかない。何としても3日以内に依頼を果たし2倍の報酬を手に入れる。そのためには上手く海賊行為を止めさせなければ。


「何故、海賊をやっている? 襲われた船の貿易商が困っているぞ」


「ふん! こっちは世のためにやってるんだ! あくどい貿易商が困るのは愉快で仕方がないね!」


 あくどい貿易商? 依頼者はそんなふうに見えなかったが。それに王家の品を扱っているぐらいだ。品行方正でないはずがない。


「何を勘違いしている? 確か2つの貿易商の船を襲っていたな。少なくとも片方の貿易商は王国の信用がある。何せ王家の品を扱っているぐらいだ。世のためというのは違うのではないか?」


「ああ、あの貿易商か。確かにあの貿易商からは物資を頂戴している。ちょっと下品な感じが嫌だけどね」


 下品? どう考えても依頼者は下品ではない。むしろ気品を感じるぐらいだった。どうも話が食い違っている気がしてきた。


「オマエの知っている貿易商は誰だ? どんな容姿をしている?」


「何でそんなことを聞くんだい。まあ良いか。脂ぎって太った貿易商だよ」


 なるほど、そういうことか。話は読めた。


「どうやら騙されているようだぞ。オマエの言う貿易商、とんだ食わせ者だな。オレは別の貿易商からの依頼でここまで来た。その貿易商こそが王家の品を扱っているほうだ」


「口から出まかせ言ってんじゃないよ! 私たちが襲っている船は王家の品を密輸している悪徳貿易商の船だ! 助かりたくて法螺吹いてんだろ!」


「嘘じゃない。その証拠にオレは証文を持っている。オマエはその貿易商から証文を預かっているか?」


「証文!?」


「そうだ。それに本当にあくどい貿易商なら王国が動くだろう。わざわざ海賊に襲わせる理由なんてあると思うか? 王国の品位を下げるだけだ」


「そ、それは・・・」


 合言葉の海賊と言い、この女海賊と言い。ここには人のいい海賊しかいないのだろうか。女海賊のこの打ちひしがれた顔は「本当に世のために海賊をやってきた」という顔だ。少し可哀想になってきた。人がいいことは悪いことではない。悪いのはその人の良さを利用する悪党だ。


「理解できたようだな。だが、まだ落胆するのは早い。この拘束を解いてくれたら、名誉挽回の手助けをしよう」


「ど・・・どうやって?」


「その貿易商と会うことはできるか?」


「それなら王家の品を渡すときに・・・」


 王家の品はその貿易商に流れているのか! だが仮にも王家の品、商品としては目立ちすぎる。売るにしても、かなりの危険を伴うはずだ。まさか路地裏で売り捌いているなんてことはあるまい。何か特別な販売手段でも持っているのか?


 思案を巡らせていると、女海賊がこちらを見ていた。何か言いたげな顔をしている。


「どうした?」


「なんで手を貸してくれる? 得することなんて1つもないだろう?」


「そうだな、言うとおりだ。オレに得することなんて1つもない。だが敢えて言うなら、1つだけ理由がある」


 そう、1つだけ理由がある。この女海賊を手助けする理由。オレは真剣な眼差しで女海賊を見つめた。暫く見つめていると女海賊は頬を朱く染め、オレの言葉を待っているような視線を返してくる。そこでオレは言った。


「柔らかくて形の良い胸を掴んだ詫びだ」


「この変態野郎!!」


 オレの言葉から一瞬の間もなく、女海賊の怒りの鉄拳がオレの顔面を見事に捉えた。今度は褒め言葉を増やしたはずなのに何故・・だ・・・。

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