消えた本捜索での稼ぎ方~その4「恋人」~
オレは言った。
「餅は餅屋、か」
本の情報を求めるなら本屋に行くべきだと思いついた。
本屋は何軒かあるが、どこが良いだろうか。
こういうことなら、やはり司書さんが詳しいかもしれない。
「本屋ですか?
知り合いが店長の本屋があるので、そこが良いと思います。
明日は休みなので、行くなら今日のうちですね。
置いてある本も豊富ですよ」
“類は友を呼ぶ”を体現している司書さんだった。
本の数が多いのならちょうどいい、その本屋へ案内してもらった。
「いらっしゃいませ・・・あ!」
本屋に入ると店の人が司書さんを見て顔をほころばせる。
この人が司書さんの言う、ここの店長さんのようだ。
線は細いが人当たりの良さそうな好青年だった。
司書さんのあとに続いて、オレも店に入る。
すると笑顔だった店長さんの顔色が変わる。
オレが司書さんの連れだと分かり、困惑しているらしい。
本屋に来る冒険者が珍しいのだろうか?
「あ、こちら冒険者さん。
この前話した本のこと、探してもらっているの」
司書さんの紹介に、オレは軽く頭を下げる。
それで店長さんの顔は一瞬明るくなったが、また沈んでしまった。
もしかすると具合でも悪いのだろうか。
見た感じ、体の不調というわけではなさそうだが。
手短に話を済ませたほうが良さそうだ。
「初めまして。
司書さんの依頼を受けて、本を探しています。
消えた本のことは司書さんから?」
自警団に話せないことを、この店長さんは知っている。
図書館と何か関係があるのだろうかと、2人を見た。
すると司書さんが頬を朱くして口を開く。
「この人は・・・その・・・恋人なのです。
それにこの本屋は図書館に本を入れてまして。
館長とも仲が良いのですよ」
なるほど、そういうことか。
店長さんは恋人と見知らぬ男が一緒で怪しんだわけだ。
それなら司書さんの恋人宣言で誤解は解けただろう。
これで話がしやすくなると嬉しいが。
「本に携わる者同士でお似合いの2人だ。
宜しくお願いします、店長さん」
2人の仲を褒めながら、握手を求めて手を差し出す。
まだ店長さんの表情は固かったが、握手をしてくれた。
今はこれで良いだろう。
「それで聞きたいのは消えた本のことなのです。
この本はこちらにありますか?」
店長に消えた本が書かれた司書さんの紙を渡す。
消えた本がどんな本なのか見ておきたい。
そこに何か手がかりがあることを期待したのだ。
「えっと、全てありますね。
少しお待ち下さい」
店長さんは紙を見ながら、店の中を歩き始めた。
さすがに本屋の店長、その歩みに迷いがなかった。
5分もせず、6冊を片手に戻ってきてくれた。
「こちらになります。どうぞ」
「有難う御座います」
オレはお礼を言って本を受け取ろうとしたが、そのまま固まった。
「どうかしましたか?」
「・・・何故だ?」
「はい?何か問題でも?」
店長さんは動かないオレを見て不思議そうな顔をしている。
それは司書さんも同じようで戸惑いの表情を見せていた。
オレは本を受け取ると司書さんを見る。
「確認したい。
本は6日に分けて1冊ずつ消えたのか?」
「ええ、そうです。それが何か・・・?」
「おかしいと思わないか?
何故1冊ずつ盗む必要がある?
失礼だが、線の細い店長さんでも片手で持てる量だ」
「あ・・・!」
そうなのだ。
児童書は子供が楽に持てるように薄く軽く作られている。
それをわざわざ6回に分けて盗む必要があるだろうか。
買い物袋1つあれば6冊なんて余裕で持ち運べる。
ちなみに“今年の婚礼衣装100選!”は薄い雑誌だった。
はっきり言って児童書よりも軽い。
「そう言われてみると、そうですね。
1回で6冊を持っていけない理由があったのでしょうか」
「まだ分からない。
子供なら1冊ずつ本棚から持ち出・・・」
「そ、そんなことはないでしょう!」
――!?
司書さんとオレの会話を聞き、店長さんが大きな声を出す。
その声の大きさに、2人で店長さんを見た。
当の店長さんは“しまった”という顔をしている。
「“そんなことはない”とは?
何か根拠でもあるのでしょうか?」
店長さんに当然の質問をした。
すると店長さんはしどろもどろになって答える。
「い、いえ。
この街の子供たちは本を・・・ぬ、盗んだりしません。
それに図書館からなんて・・・」
別に本気で子供が犯人だと疑ったわけではない。
可能性の話をしただけで、大声を出すものだろうか。
それとも何かを知っている・・・?
とは言え「知ってることを話せ」とは言えない。
それに店長さんは司書さんの恋人だ。
恋人が困っているのを見過ごしたりはしないはず。
知っていることがあれば自分から話すだろう。
今の状況ではそう信じるしかない。
「そうですね、申し訳ない。
子供たちはそんなことはしないでしょう」
オレは店長さんに謝罪した。
とにかく少し前進した気がする。
6冊を6回に分けた理由、そこに何かある気がした。
◇
「あ、そう言えば。
本を売るって話、1人だけ話を聞きに来たよ」
本を見せてくれたお礼を言い本屋を出ようとすると、
店長さんが思い出したように司書さんに声を掛けた。
「あら、そうなの?
買ってくれるって?」
「いや、話を聞かれただけだった。
実物を見たいと言われたのだけどね。
持ち主は図書館の人とだけ言っておいたよ」
「そう・・・。
また見たいってお願いされたら持ってくるわ。
休みの日だけだけど」
「また来たら、そう伝えておくよ」
2人の話が終わると、オレと司書さんは本屋を出た。
西のほうを見ると、もう日が沈み始めている。
なので今日の調査は終えることにした。
「先ほど聞こえてしまったのだが。
手持ちの本を売りに出しているのか?」
司書さんを家まで送る途中、気になったので聞いてみた。
「ええ、1冊だけですけどね。
ちょっとお金が必要なので・・・」
必要なお金とは、まさか依頼の報酬のことか?
少し焦ったが、よく考えたら本人の前では言わないか。
何か別のことで必要なのだろう。
「どんな本だ?」
「もう何十年も前の本ですね。
最近、少し有名になったみたいで。
祖父が購入したものなので愛着があるのですが」
「そうか。高く売れることを願っている」
「有難う御座います」
そんな話をしていると、司書さんの家に着いた。
家の前で別れを告げ、オレは冒険者の宿への道を歩く。
帰宅途中、今日の出来事を思い返していた。
・消えた本は6冊
・本の名前は消えた順に
“私のお母さん”
“ふと思い出す昔話”
“紐を結んで遊びましょう”
“今年の婚礼衣装100選!”
“昆虫を探してみよう”
“両手を振って”
・10日間で1~2日置きに1冊ずつ消えた
・本が消えるのは司書さんが当番のときだけ
・司書さんは頼まれて整理の当番を交代していた
・館長は子供好き
・しかし館長は本のことを自警団に相談したくない
・司書さんは図書館の人から疑わている?
・店長さんは司書さんの恋人で館長とも仲が良い
・店長さんはオレに良い印象を持っていない?
ここまでの情報で本が消えた謎を解けるだろうか。
そう言えば、公園で怪しい視線を感じた。
結局、あれは気のせいだったのだろうか。
あとは質屋の爺さんの骨董品の盗人の話。
司書さんが本を売ろうとしていることも聞いた。
――!
明日の図書館は整理のため臨時休館だ。
そうなると一日中、司書さんは図書館に篭もるのだろう。
「戻るか」
明日のことを相談するため、オレは踵を返した。




