馬車の護衛での稼ぎ方~起承転【結】~
オヤジが言った。
「死ぬなよ。ツケを払うまでは」
覚悟を決めたはずなのに、オヤジの言葉が脳裏に浮かんだ。
“ヤバい状況で言われても困る台詞”の勝ち抜きで、上位に入りそうだな。
今のオレにできることと言えば・・・。
「頼みがあるのだが」
オレは剣を抜いた野盗に話しかけた。
「なんだぁ?助けてくださいってのは聞けないぜぇ?」
「ひと思いにやってくれないか」
野盗は少し意外だったのか、考える様子を見せて答えた。
「へっへっへっ、どうしようかねぇ」
「最期ぐらい慈悲をかけてくれてもいいだろう?
頼む、このとおりだ」
「しょーがねぇなぁ。泣いて感謝しろよ」
その言葉に残りの野盗2人が大声で笑うが、すぐに静かになる。
オレはそれを見て、ゆっくりと話を続けた。
「そいつは有り難い。代わりに良い情報を教えるよ」
「あぁん?良い情報だぁ?」
野盗が胡散臭そうに聞き返してきた。
「ああ、とても良い情報だ」
「言ってみろよぉ」
「お前たち、街の自警団から懸賞金が懸けられているぞ」
オレは野盗にとって不利益な情報をバラした。
「ちっ、ここでのお仕事も長くはできねぇか。
それだと良い情報じゃねぇ、悪い話だろうがよぉ」
「いや、良い情報だ」
「どこがだぁ?」
訳が分からないという表情の野盗に、はっきりとオレは答えた。
「良い情報だ・・・オレにとってのな!」
「こちとら素人じゃねぇんだ!誰にも捕まりゃしねぇ!
テメェはあの世からでも見物してろ!」
怒り狂った野盗がオレを殺そうと剣を振りかざす。
ここまでか。よくやったよな。上等だ。
そう思いながら、目の前の野盗を見て笑みを浮かべた。
そして――人の倒れる音がした。
「あ・・・あ・・・」
「う・ぐ・・・」
「え?」
剣を振りかざしたまま、野盗は狼狽えていた。
自分以外の2人が倒れ込んで、さらには苦しんでいる。
いきなりの展開に、頭が追いついていないようだ。
「どうした?オレはまだ生きているぞ?」
「なな、何をしやがっ・・たぁ・・・」
とうとう残った野盗も苦しみだし、剣を落として倒れ込む。
オレは立ち上がり、落ちた剣で後ろ手の縄を斬った。
やはり自由は良い。最高だ。
「オレか?オレは何もしてないぜ?」
最高にいい笑顔で、オレは野盗に答えてやった。
◇
西の村――。
「あーはっはっは、いい格好だね~」
村人たちが、檻に入れられた野盗共を笑う。
野盗共は縄で縛られ、素っ裸も同然の格好をしている。
村医者には診せたが、まだ体の痺れは治っていないようだ。
そう。コイツらが食べたきのこの鍋。
あれはオヤジが話していた略奪品、つまり薬の材料だったのだ。
殴り飛ばされて壊した樽から見覚えのある草も出てきて、ピンと来た。
薬の材料は適切に調合して、初めて薬の効果を発揮する。
そのまま食べようものなら人体に害を与えかねない。
ましてや、きのこなら尚更だ。
野盗3人のうち、先に2人だけ静かになったのには焦ったがな。
きのこを食べた量が違ったのか、原因はさておき。
気付かれないよう、残った1人と話を持たせるのに苦労した。
「教えてやったとおり、良い情報だっただろう?
・・・オレにとってのな」
そう独り言を言うと、村長がやってきた。
「こちらが野盗捕縛の証明書ですじゃ。街の自警団にお見せくだされ。
それで懸賞金が支払われますですじゃ」
あの状態の野盗を、さらに街まで連れて行くのは無理がある。
西の村で預かってもらい、村長に証明書を書いてもらうことにした。
あとは街で懸賞金を貰うだけだ。
◇
オレは依頼者の馬車の上で、寝転がって空を見ていた。
西の村から街へ戻る途中だ。
あの雲、オヤジと娘さんに似ているな、なんて考えていると。
「ありがとう、君のおかげで西の村に着けたよ」
依頼者に感謝されてしまった。
「いえ、お礼なんて。それが冒険者の仕事ですから」
オレは、そう答える。
言葉通り、頼まれた依頼を完遂しただけだからだ。
今回の依頼・・・ピンチもあったが、臨時収入も大きい。
オヤジのツケは依頼の報酬で完済、晴れて真人間の仲間入りだ。
それに当分は酒代にも困ることはない。
これだから冒険者稼業は止められないのだ。
そう、オレは冒険者。
すっ転びはしたが、タダでは起きない。
命あっての物種が信条の――ツイてる冒険者さ。
~次の依頼へ続く~