女妖魔からの依頼での稼ぎ方~幕間「王都への報告」~
新米は言った。
「妖魔の中に変化が起きている・・・」
オレの話を聞いて、そう呟いた。
オレは王城の一室で新米と会っている。
先日のカカラとの出来事を伝えておくべきだと思ったのだ。
強大な妖魔が現れた可能性も含め、全て話しておいた。
「正直、全くの憶測だ。
当の女妖魔も事態を把握できていない」
「いえ、それでも助かります。
また妖魔絡みで何か起きたとき、判断材料になりますから」
「少しでも新米の役に立つのなら幸いだ」
何事もなければいいが。
オレだけでなく、おそらく新米も考えていることだろう。
世の中平和が一番だ、それに越したことはない。
「ところで、その女妖魔ですか。
今も父親の看病を?」
「そのはずだ。
別れ際に付いてくると言って聞かなくてな。
父親が治ったら、いつでも会いに来いと言って宥めた」
とは言え、妖魔には妖魔の生活がある。
そうそう会えないかもしれない。
そう考えると、少し寂しい気もする。
「いつでも?会いに?」
いきなり低い声が聞こえたと思ったら、新米は震えていた。
しかも黒いオーラのようなものが背後に見える気もする。
「ど、どうした?
何かおかしなことを言ってしまったか?」
「いえ、何でもありません」
微笑んではいるが、どこか威圧感を感じる。
だが本人が言うのだから、何もないのだろう。
コホンと咳払いをして、話を続ける。
「ま、まぁ、悪い気はしない。
懐かれると、可愛らしく感じるものだ」
「懐かれる?可愛らしく?」
何故か黒いオーラが激しくなっている気がする。
そろそろ退散したほうが良さそうだ。
触らぬ神に祟りなし!
「と、とにかく伝えたいことは伝えた。
オレは冒険者の宿に帰るとしよう」
そう言って席を立とうとしたが、それは叶わなかった。
「師匠・・・逃しませんよ・・・」
「な、何だ?まだ何かあるのか?」
制止されてしまったので、何事かと恐る恐る聞いてみる。
すると新米は無言で立ち上がり、オレの隣に座った。
あまりの威圧感に、その姿を横目で見ることもできない。
数分間、そのままの体勢だったが。
「えい!」
新米は可愛らしい声を上げると、オレの膝に頭を預けてきた。
膝枕・・・だが、この状況をどう捉えれば良いのだろう?
ふと蜘蛛の巣にかかった蝶の姿が脳裏を過ぎる。
いや、そんなはずはない。きっと気のせいだ。
「そろそろお暇したいのだが・・・」
「ダメです」
オレの要望は拗ねたような声で却下されてしまった。
押し退けるわけにも行かず、仕方なくそのまま時が過ぎる。
・・・。
・・・。
・・・。
窓から差し込む陽の光は茜色に変わっていた。
急がないと王都の門が閉じられてしまう。
「そろそろ帰らないと夜になるのだが」
「ダメです」
またしても許可が降りないが、少し機嫌が良くなった気はする。
もうすぐ解放されるかも知れない。期待を胸に時を待つ。
・・・。
・・・。
・・・。
既に太陽と交代した月が空に顔を出していた。
この時間では王都から出ることはできない。
「そろそろ今夜の宿を探したいのだが」
「ダメです」
新米の声は完全に弾んでいた。
この状況を楽しんでいるようにしか見えない。
今夜は逃れることはできない、そう確信したのだった。
こうして王城の夜は更けていく。
こんな夜もオレのような冒険者には大事な報酬・・・なのだろうか?
~次の苦難へ続く(かもしれない)~




