女妖魔からの依頼での稼ぎ方~その5「報酬」~
オヤジが言った。
「戻ったか!」
妖魔の地からまた扉を通って、冒険者の宿に戻ってきた。
扉が繋がっていたのは酒場で、そこにオヤジが居たのだ。
幸いにも他の冒険者や客はおらず、騒ぎにならずに済んだ。
カカラは妖魔の大地に置いてきた。
一緒に付いていくと、駄々をこねられて困ったが。
父親の治療のためだと言うと、渋々納得してくれた。
とは言え、カカラには“扉”がある。
本当に会いたければ、いつでも会いに来るだろう。
ちなみに扉を通ったが、帰りは何も起こらなかった。
カカラが言うには、一度でも通過した者には手出ししないそうだ。
他にも決まり事があることを聞いたが、必要な時に思い出そう。
「それで、どうだった?」
「依頼は果たした」
オヤジの質問に、オレは簡潔に答えた。
だが「聞きたいことはそうじゃない」と言いたげだった。
分かっている。だから、また簡潔に付け加えた。
「まだ冒険は終わらないようだ」
この答えでオヤジは理解してくれたようだ。
良かったと言うべきか、残念だったと言うべきか。
何とも言えない複雑な表情をオレに見せた。
そして棚から酒瓶とグラスを取り、カウンターに置く。
「一杯やれ」
そう言って、グラスに酒を注いでくれた。
頂きたいのは山々だが、今回はタダ働きだ。
これを飲むと、ツケが増えてしまう。
「あー、オヤジ。
言いにくいことなのだが・・・」
金剛石を持って帰ることができなかった。
そのことを伝えようとしたのだが。
「気にするな。
オマエが戻ってきたのなら、それで良い」
オヤジの言葉が心に沁みた。
ならば有り難く頂戴するとしようか。
オレは荷物袋を脇に置いて、カウンターに座った。
「それでは頂くとする」
そう言って、グラスの酒を煽った。
アルコールが疲れた体に染み渡る。
やはり依頼を果たしたあとの酒は格別だ。
冒険者にとって、これ以上の至福はないだろう。
「あ、戻ってたのね」
酒を飲んでいると、娘さんが奥の部屋から顔を出した。
報酬の金剛石さえあれば、娘さんのご機嫌も取れたろうに。
そう思いながら、返事の代わりに曖昧な笑顔を返した。
すると娘さんがオレの荷物袋を見つめているのに気づく。
「それ・・・もしかして金剛石?」
金剛石!?
オレは慌てて荷物袋を見ると、小さな石が光っている。
洞穴から逃げ出すとき、落ちてきた欠片が引っ掛かったのか!
「オヤジ、これでツケを払えるか?」
荷物袋に付いた金剛石をオヤジに渡した。
そしてマジマジと見つめると、ゆっくりと頷く。
「小さいが確かに金剛石だ。
それなりの額になるだろう」
「きゃー!本物なのね!
お父さん、見せて!私にも見せて!」
オヤジの鑑定結果に娘さんのほうが大喜びしている。
当初の目的は果たせたのだ、これで良いのだろう。
そうしてグラスに残った酒を飲み干す。
「オヤジ、酒を頼む」
「ああ、儂も付き合おう」
冒険者の宿の夜は更けていく。
こんな夜もオレのような冒険者には大事な報酬だ。
そう、オレは冒険者。
妖魔の地に何が起きているのか未だ知らない。
今はただ目の前の酒を楽しむ――大した悩みもない冒険者さ。
~次の依頼へ続く~




