表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/53

女妖魔からの依頼での稼ぎ方~その1「漠然」~

オヤジが言った。


「悩みがあるなら、相談に乗るぞ」


その言葉に、オレは即座に食いついた。

オレの悩みなんて、たった1つしかない。


「溜まったツ・・・」


「馬鹿もん」


無下にもなく却下された。

しかも全てを言い終える前に。


「・・・相談に乗るというのは?」


「金の話は別だ」


親子の間でも金の話は関係ないとは聞くが、世知辛い世の中だ。

とは言え、「ツケをチャラにする」なんて言われたら、

逆にオヤジのほうに悩み事があるのかと思ってしまう。

期待したのが、そもそもの間違いだったのだろう。

そうなると今のところ大した悩みは思いつかない。


「突然どうした?

 悩み事相談でも始めたのか?」


「そんなワケなかろう。

 オマエに客が来たから、呼びに来たんだ。

 何と言うか、見るからに怪しい感じでな」


「怪しい?」


見るからに怪しい・・・はて、心当たりがない。

依頼で懲らしめてやった奴等が仕返しに来たのか?

そうであれば、心当たりはごまんとある。


「何をしている?」


無言で窓の(ふち)に足を掛けたオレに、オヤジが訊いてきた。

あまりの心当たりの多さに、窓から逃げ出そうと思ったのだ。

その体勢のまま、振り返らずに答える。


「会わないほうが身のためかと思ってな」


「もし仕返しに見えたら、オマエを呼びには来ん」


それもそうだ。

さすが冒険者の宿の主。頼りになる。

そうなると、やはり怪しい輩には心当たりがない。


「降りてこい。

 ワシの部屋で待たせてある」


そう言われ、オレはオヤジの後ろを付いていこうとする。


「ところで、悩みがある思ったのは何故だ?」


「ソイツと変なことに手を出すのではと思ってな」


随分と信用のないことだ。


 ◇


オヤジと娘さんの部屋へやってきた。

そこに立っていたのは娘さんと・・・見るからに怪しいヤツだった。

頭の天辺から足の爪先まで届く、黒く大きな外套を纏っている。

しかも目以外は顔が全て覆われているので、表情を伺えない。

だが、その目はオレをじっと見つめていた。

オレが部屋に入ってから、ずっとだ。


「オレに用があるそうだが、一体何だ?」


見つめ合っていても、話は始まらない。

向こうから話そうとしないので、こちらから口火を切った。


「強き者」


強き者?どこかで聞いたような台詞だ。

思い出そうとしていると、怪しいヤツは外套を脱ぎ始めた。

徐々に顕になるその肌と姿形を見て、オレは戦慄した。


「オ、オマエ・・・あのときの・・・!」


頭に生えた角と赤褐色の肌、そして槍。

何より人型ではあるが、人ではない。

そう、コイツは妖魔の一団を偵察したときの女妖魔!


「強き者、会いたかった」


そう言うと、女妖魔はオレを押し倒す。

そして顔や喉元を舐めたり甘噛したりしてきた!

や、止めろ!(気持ちいいけど、ここでは)止めてくれ!


「随分と仲が良さそうだな。

 オマエ、命を狙われているんじゃなかったのか」


ああ、オヤジと娘さんの視線が痛い!

オヤジたちには、じゃれ合っているように見えているのか。


「ま、待ってくれ!これは違う!」


言い訳をさせて欲しい、そう言いたかった。

だが、娘さんはまるで汚いものを見るような目で言う。


「そういうことは自分の部屋でお願いね」


とてもドスの利いた、低く冷たい声だった。

オレの顔は女妖魔の唾液だけでなく、冷や汗でもびっしょりだ。


「頼む、信じてくれーーーー!」


オレが叫ぶ間も、女妖魔は決して止めなかった。


 ◇


「人の言葉を覚えたのか?」


「強き者にまた会うために学んだ」


オレの質問にコクリと頷き、女妖魔は答えた。


――あれから10分後。

ようやく女妖魔を引っ剥がすことに成功したオレは、

必死の思いでオヤジと(特に)娘さんに言い訳をした。

その甲斐あって、何とかこの場は収まった。

娘さんの視線がまだ痛いのが切ないが。


「それで何の用だ?

 オレに用があって来たのだろう?」


オレは憂鬱な気持ちで女妖魔に確認する。

娘さんの視線が背中に刺さるのを今だに感じていた。

早く話を終わらせて、娘さんの誤解を完全に解こう。


「うん、強き者に頼みたい」


そんなオレの気も知らず、女妖魔は普通に話を続ける。


「私の住む土地に洞穴がある。

 そこに敵が住み着いた。追い出したい」


妖魔の敵・・・想像もつかない。

それに、この女妖魔が助けを求めるぐらいだ。

かなり厄介な相手だと考えたほうが良い。

楽で実入りの良い依頼だとは言えないだろう。


とにかく詳細を聞かないと受けるかは決められない。

そう思って、オヤジのほうを見た。

頷くところを見ると、どうやら同意見のようだ。

オレは女妖魔に質問をしてみた。


「その敵の武器や特徴は?」


「強い」


・・・。


「その敵がいる洞穴の構造は分かるか?」


「深い」


・・・。


人の言葉を完全に学習できたわけでないと理解しよう。

何も情報を得られないことは分かった。

しかし、もう1つ・・・最も大事な質問が残っている。


「報酬は払えるか?」


これだけは確認しなければならない。

エルフに金銭が無かったのだ、妖魔も同じかもしれない。

オレを頼りにする女妖魔から報酬を取るのは気が引けるが、

こちらにも止ん事無き事情(ツケ)があるのだ、理解してもらおう。


「大丈夫。ちゃんと学習してきた。

 強き者は冒険者。守銭奴」


それ(守銭奴)は違う」


当たらずと雖も遠からずの気もするが、念のため否定しておいた。

人のことを学ぶのは感心するが、少しズレている気がする。

とりあえず冒険者は守銭奴でないことを説明しておいた。


「分かった。学習した。

 強き者が言う報酬、人の金銭はない。

 でも、洞穴の奥に光る石がある」


光る石、と言えば金剛石のことか!?

そんな高価なもの、ツケに喘ぐオレは見たことがない。

いや、待てよ? これはチャンスなのではないか?

娘さんへの贈り物にすれば、誤解もきっと・・・。


すぐに飛びつきたかったが、それでは品がない。

ここは大人の対応を見せようと、努めて冷静に言った。


「そ、それでは多すぎる。

 他には何か無いのか?」


「思いつかない。

 だから光る石で良ければ、それでいい。

 私には価値がない」


そういうことなら、こちらは大歓迎な報酬だ。

ツケも返せるし、一石二鳥になるかもしれない。

これで報酬の件は解決だが、やはり情報が漠然としている。

オレは女妖魔に本音を告げた。


「正直、今の情報だけでは依頼を果たせるか分からない。

 いざとなったら、オレたちの命を優先する。

 それでも良いのなら、この依頼を受けよう」


もちろん報酬は依頼を果たしたときに貰うつもりだ。

女妖魔が頷くのを見ると、オレは荷物袋を取りに部屋へ戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ