神獣の見立てでの稼ぎ方~その2「倉庫」~
リリィが言った。
「ここが私達の村です」
依頼を受け、オレとリリィは冒険者の宿を出発した。
いつものようにオヤジと娘さんに見送られながら。
その後、街のすぐ外の森に入ったかと思えば、もう村だ。
こんなに近くにエルフの村があるとは思いもしなかった。
考えてみれば、これもエルフの魔法なのかもしれない。
「どうぞ、こちらに。
まずは村長のところへ案内します」
リリィに従っていると、そこには不思議な光景が広がっていた。
エルフの住む家は、全て木の枝の上に建っている。
重さで折れたりしないのかと思うが、そういうものなのだろう。
それと・・・やけにエルフたちの視線を感じる。
人間が珍しいのかと考えていると、違和感に気づいた。
今まで視界に入ったエルフ、その全員が女性なのだ。
まさかと思ったが、この村には女性しかいないそうだ。
女性しかいない集落はエルフの中でも珍しいらしい。
この村独特の文化なのかもしれない。
そんなことを考えていると、大木の前でリリィが立ち止まる。
「ここが村長の家です」
見上げてみると、よく分からない装飾の施された家が見える。
他の家には装飾が見当たらないので、特別な家ということだろう。
リリィに促され中に入ってみると、女性のエルフが座っていた。
「よくいらっしゃいました、冒険者殿。
私がこの村の長をしております」
驚いた!
こう言っては何だが、村長というぐらいだ。
もっと老齢のエルフが待っているものだと思い込んでいた。
だが、村長と名乗るエルフはリリィと歳が変わらないように見える。
エルフは永遠に近い寿命と聞いていたが、本当かもしれない。
ちなみに、オレはリリィの年齢を聞いていない。
女性に年齢を聞くのは失礼に当たるというのもあるが、
オレの本能が「聞かないほうがいい」と告げていた。
世の中には知らないほうが良いこともあるのだ・・・。
「お願いしたいことは、リリィから聞いていると思います」
村長から依頼の話を切り出され、我に返った。
余計なことを考えず、話に集中しなければ。
「森の神獣の見立てと村荒らしの調査ですね」
素早く頭を切り替えると、村長に確認を取る。
「ええ、仰る通りです」
「何か原因に心当たりはありますか?」
オレからの質問に村長は首を振った。
「お恥ずかしいことですが、全く無いのです」
期待はしていなかったが、やはり何も分からないようだ。
そもそも分かっていれば、オレの出番は来なかったろう。
至極当然のことを考えていると、村長がポツリと呟く。
「水晶にも何も映らないのです」
「水晶に何も映らない?」
突然の話にオウム返しに聞き返した。
するとリリィが耳打ちしてくれる。
「村長には水晶に悪しきものを映す力があります。
そのことを仰っているのです」
なるほど、それは便利な力だ。
できれば、オレに対しては使ってほしくない。
「水晶に映らないとなると、もしや・・・」
「もしや、何です?」
村長に心当たりが浮かんだようで、オレはそれを確認する。
「憶測ですが、ダークエルフかもしれません」
ダークエルフ。
リリィたちエルフよりも、強い魔法が使えると聞いたことがある。
と言っても、エルフのこともあまり知らなかったのだ。
ここは正直に教えを請うのが賢明だろう。
「ダークエルフを疑う心当たりがありますか?」
「私達エルフとダークエルフには争いがありました。
そうは言っても、もう随分と昔のことです。
今は交流もあります・・・が、私達の寿命は長い。
その交流を快く思っていないダークエルフがいるかもしれません」
さらにリリィが話を続ける。
「ご存知かもしれませんが、ダークエルフは強い魔法を使えます。
その気になれば、私達の魔法を妨害することもできるでしょう」
つまりダークエルフの魔法の前では、リリィたちの魔法は無力。
いくら水晶に映す力があっても、妨害されては無意味ということか。
そう考えるならば、村長の憶測にも一定の信憑性がある。
だが、そうなるとオレは太刀打ちできるのか?
原因を突き止めたが最後、命を落とす可能性もある。
魔法相手に戦うなんてことは、できれば避けたい。
何と言っても、オレは命あっての物種が信条だ。
「分かりました。
まずは村を調査したいのですが、宜しいですか?」
とは言え、結局はこの答えに辿り着く。
依頼を引き受けた以上、依頼者のために最善を尽くす。
それが冒険者としてのオレの使命だ。
例え危険があろうとなかろうと、行動するしかない。
「もちろんです。是非お願いします」
そう言って、村長は頭を下げる。
この期待に応えるため、やれることをやろう。
◇
「村荒らしと言っていたが、具体的には?」
オレは村長の家を出ると、リリィに質問した。
「倉庫から食料が数日置きに減っています。
ただ被害は今のところ、そこまで大きくありません」
「その他は?」
「いえ、それ以外は今のところ・・・。
今、村の者は神獣様のために心を砕いているので、
詳しい調査も警守することもできていません」
リリィは考えているが、倉庫以外の被害は思いつかないようだ。
ダークエルフには食料を盗む理由があるのだろうか。
それとも別に犯人がいるのか?
案内してもらい、倉庫に入って中を調査する。
乱暴に荒らされているかと思ったが、そうでもなかった。
食べかすが落ちているぐらいで、荒らされた形跡はない。
ここで食料に少し手を付けてから、持ち去ったのかもしれない。
「食べられたり盗まれたりした食料は分かるか?」
「ええ、分かります。
干し肉などの保存食が主で、それと御神酒も」
「御神酒?」
「神事の際に使う御神酒ですね。
この村では神事で嗜む程度です」
そうすると、この村のエルフは二日酔いを知らないのか。
羨ましい気もするが、勿体ない気もする。
どちらが良いなんて、人それぞれが決めることだが。
どうでもいいことを考えながら、御神酒の瓶を開けてみる。
すると、芳しい匂いがオレの鼻をくすぐった。
瓶の中には御神酒が、なみなみと溜められていた。
盗まれたあとに、また誰かが足しておいたのだろう。
思わず飲みたくなるが、今は依頼中だ。我慢しよう。
「何か分かりますか?」
「すまない、まだ何も・・・。
とりあえず次は神獣のところに案内して欲しい」
御神酒に後ろ髪を引かれながら、倉庫を後にする。
あの匂い、きっと上等な酒に違いない・・・オレは確信していた。




