スリの押送での稼ぎ方~その4「希望」~
少女が叫んだ。
「皆の者、突入じゃ!」
その声を発端に扉という扉、窓という窓から兵士が乱入してくる。
「「え?」」
突然の出来事に、オレと幹部は同時に声を上げた。
オレは驚きから、幹部は恐怖から出た声だった。
そこへ、さらに少女の号令が下る。
「ネズミ1匹たりとも逃がすでないぞ!」
あれよあれよと幹部と手下どもが拘束されていく。
兵士たちを見て観念したのか、大人しいものだった。
何にしても助かった・・・。
「冒険者さん!」
安堵から呆けているオレに声を掛ける少女。
聞き覚えのある声の持ち主は。
「・・・お姫様」
そう、この隣国のお姫様だった。
目が合うと、微笑みながらオレの側へと歩み寄ってくる。
ここが隣国の王都内とは言え、何故ここに?
「この御方の拘束を解くのじゃ!」
お姫様が命令すると、兵士たちが縄を解いてくれた。
オレは手足が自由になると、すぐにデイジーの縄も解く。
助けられた礼もあって、2人でお姫様の前で片膝をついた。
そして、ここにいる理由を聞いた。
「お姫様、どうしてここに?」
「冒険者さん、パレードを見てらしたでしょう?
それを馬車の中から見つけたのです」
「あの群衆の中からオレを?」
「私、冒険者さんでしたら、どんな状況でも見つけ出せますから」
うっとりした目でオレを見つめながら、そう言った。
いかん!また恋する乙女の目になっている!
大人のオレに純粋な少女の眼差しは正直、重い。
とは言え、お姫様のお陰で今回は助かったのだ。
目を逸らしてしまうのは、何となく気が引ける。
「アンタ、お姫様の部下だったのかい?」
オレとお姫様の会話を聞いたデイジーが恐る恐る訊ねる。
素晴らしいタイミングでの質問に、オレは喜んで答えた。
「違う、オレは冒険者だ」
「でも、さっきは王直属の隠密だって・・・」
「あれは嘘だ」
オレはきっぱりと答えた。
すると暫くして、デイジーはわなわなと体を震わせ始めた。
「根城の場所を探る任務ってのも?」
「嘘だ」
「根城の場所を仲間に伝えたってのも?」
「嘘だ」
「ここに仲間が突入するってのも?」
「嘘だ。
だが、それは本当になって良かったと思っている」
ブチッ!
何かが切れる音がした。
「アンタ~~~~~~!!」
デイジーの後ろに怒りの炎が見えるような気がした。
「デイジー、待ってくれ。もしや怒っているのか?」
ブチッ!
また何かが切れる音がした。
「デイジー、待つんだ。落ち着け。
敵を欺くにはまず味方から、というだr」
「ふざけんな~~~!!」
オレは言い終える前に、デイジーのパンチを食らってしまった。
良いところに入ったようで、オレは意識を失いそうになる。
「冒険者さん!?」
お姫様の心配する声が、その時の記憶の最後となった。
デイジー、いいパンチ持ってるな・・・。
◇
気がつくと豪華な部屋、王城のお姫様の部屋だった。
2人に殴られた傷も手当してもらったので助かる。
そして今はデイジーとともに、お姫様の話を聞いているところだ。
「この度は裏組織の壊滅にご協力頂き、有難う御座いました」
お姫様はそう言って、深々と頭を下げる。
何もしていないので、お礼を言われるのはこそばゆい。
「あの組織は孤児を集めていました。
冒険者さんのご活躍で、助けることができたのです」
その言葉を聞いて、デイジーが唇を噛む。
「孤児を金儲けに使おうなんて、最低だよ」
苦々しく話すデイジーを見て、ある可能性が脳裏を掠めた。
「もしや・・・」
「ああ、アタイも孤児だったよ。
寒くて作物もロクに育たない村でね。
そうなると虐げられるのは親のいない子供さ」
それでスリを始めたのか。
いや、汚い輩が教え込んだのかもしれない。
何も知らない子供を利用するクズは後を絶たない。
「ところで、お主。
聞くと、盗みを働いたそうじゃな。
それでこの王都に連れてこられたのじゃろ?」
お姫様がデイジーを見て、話しかける。
そう、本来の目的はデイジーの押送だったのだ。
これで依頼を果たしたことになるが、心は晴れない。
そもそも裏組織を壊滅に追い込めたのは、
デイジーが符牒をスッたことに起因する。
そこを考慮すれば、情状酌量の余地はないだろうか。
「お姫様、そのことな・・・」
「冒険者さん」
オレは減刑を嘆願しようとしたが、言葉を遮られた。
「この者は罪人として、この王国に連れてこられました。
分かっていただけますね」
少女とは言え、さすが一国のお姫様。
一介の冒険者が口を挟むべきではないと言っている。
だが、オレは食い下がった。
「白馬の王子様がお姫様に頼んでも?」
「・・・。
・・・。
・・・はっ。
た、例え冒険者さんの頼みでも成りません!」
卑怯なやり方とは思ったが、恋する乙女に訴えても通らないようだ。
やはり、さすが一国のお姫様だった。
少し心が揺れた素振りは、可愛らしかったが。
「そ、そういう訳じゃ。
お主に刑を申し渡す」
再びデイジーに向き直り、お姫様は沙汰を告げる。
「お主は終身刑じゃ」
終身刑!
スリで終身刑は重すぎやしないだろうか!?
裏組織の幹部ならまだしも、デイジーが終身刑とは!
「ま、待って欲し・・・」
「冒険者さん」
オレは慌てて口を出してしまうが、また遮られてしまった。
「先ほどの話の続きなのですが。
また裏組織に狙われる孤児が出ないとも限りません。
そこで我が王国は、孤児院を充実させようと考えています」
「は・・・?
あ、いや、それは良いことだと思います」
突然の話題転換に戸惑ったが、お姫様の話に賛同した。
孤児院を設立することは良いことだ。
だが、その話をオレにする理由が分からない。
「ですが、問題がありまして。
孤児院で子どもたちの世話をする者が足りません」
「まぁ、そうかもしれません」
ますます話の先が見えない。
冒険者を斡旋しろとでも言いたいのだろうか。
「ですので、たった今、刑を作りました。
孤児院で一生涯、子どもたちの世話をする刑をです」
「・・・!」
「幸いなことに、被害届も出ていませんし。
と言っても、悪党が被害届を出すとは思えませんが」
依頼を果たしたときに生まれる思い。
その思いが心に湧き出るのを、オレは確かに感じたのだった。
◇
数カ月後。
「デイジー、元気にやっているか?」
オレは隣国の王都、その孤児院の1つに来ていた。
そこで子どもたちに囲まれているデイジーに声を掛けた。
「アンタ、来てくれたんだ」
オレの姿を見て、デイジーが駆け寄ってくる。
すっかり子どもたちの世話が板についた感じだ。
肝っ玉母さんとでも言おうか。
「あのときは本当にありがとう。
それにお金まで寄付してくれるなんて」
「気にすることなはない」
実は裏組織の情報に結構な懸賞金が懸かっていた。
それをお姫様から頂いたのだが、そのまま寄付した。
オレの依頼はデイジーの押送、それ以外は受けていない。
むしろデイジーのお手柄だ。貰うべきはデイジーだろう。
「それで隣国まで来るなんて、どうしたんだい?」
「また依頼だ。
貧乏暇なしというやつだな」
「そう、長居はできないようだね・・・」
デイジーは残念そうな顔をするが、すぐに笑顔に戻った。
「また来てくれるかい?」
「ああ、もちろんだ」
「今度は嘘じゃないだろうね?
また騙されるのはご免だよ!」
根城でのことを、まだ根に持っているようだ。
「思い出したら、何かむかっ腹が立ってきたよ。
アンタ、もう一発殴られな!」
しかも物騒なことを言い始めた。
だが、許してもらうためには仕方がない。
「一発だな?」
「女に二言はないよ」
「分かった」
そう言って、目を閉じる。
デイジーの拳は強烈だ。また意識を失うかもしれない。
ゆっくりと近づいてくる気配を感じ、オレは覚悟を決めた。
――!
・・・。
・・。
・。
「この一発で許したげる」
そう言って、デイジーは子どもたちのところへ駆けていった。
子どもたちと一緒に大きく手を振るデイジー。
その姿を見て、オレは思った。
デイジーには今まで辛いことがあった。
だが、これからの人生はきっと良いことがあるだろう。
そう、デイジーの花言葉は「希望」なのだから――。
~次の依頼へ続く~
ところでお姫様の口調がオレにだけ違うのは何故だ? by 冒険者




