妖魔の一団偵察での稼ぎ方~その2「内密」~
オヤジが言った。
「きちんと罪を償ってこいよ」
その言葉に娘さんがクスクスと笑う。
まだ、そのネタを引っ張っているのか。
人を犯罪者呼ばわりするのは、いい加減に止めてほしい。
先ほどは騎士様に強引に連れて行かれそうになったが、
さすがに準備が必要だと伝えて、何とか事なきを得た。
事なきを得た、と言っても王都には行くのだが。
そして依頼の内容は、王女様から話があるらしい。
「ここでは話せない」ということなのだろうか。
正直、面倒事の匂いがするので聞きたくない。
「危険だと判断したら、この話は断れ」
オヤジはオレの考えが分かったのかもしれない。
今回の依頼、オヤジは仲介人として入ることができない。
依頼の危険度を推し量れないことに不安があるのだろう。
「その点は安心してくれ。
こちとら命あっての物種が信条だ」
なので、オレは努めて軽く答えた。
「貴君、そろそろ出立しよう」
騎士様が急かしてきた。
それを聞いて、オレは荷物袋を肩に掛ける。
そして、オヤジはいつもの冒険者を送り出す眼差しで言う。
「オマエのことだ、大丈夫とは思うが。
絶対に無理だけはするなよ」
「分かった」
「いざとなったら、逃げ出してもいい。
きっと帰ってこい」
「分かった」
やはり不安なのだろうか、念を押してくる。
感化されたのか、娘さんも心配そうな目で手を握ってくる。
「どうかご無事で」
娘さんの言葉に笑顔で答え、オレは歩き出した。
◇
時が過ぎること1日、オレは王城の一室に居た。
早馬で駆けて王都に着き、休む間もなく王城に入った。
旅の垢ぐらい落とさせてもらいたいものだ。
他にも飯は出ないのか、新米は元気かなどと考えていると。
「貴君、王女様のお成りだ」
騎士様と王女様が部屋に入ってきた。
毎度ながら礼儀作法が分からないので、とりあえず立ち上がる。
王女様を見てみると、新米と瓜二つなので驚いた。
影武者だから当たり前なのだろうが、ここまでとは。
「よくぞ、いらしてくださいました。
お掛けになってください」
王女様に促されて、再び腰を下ろす。
王女様も向かいのソファに座り、騎士様はその後ろに立つ。
さすがに緊張するな。余計なことを言わないようにせねば。
もしかすると顔が強張っているのかもしれない。
「ふふっ、いつもの調子でいいですよ――師匠」
「師匠? と言うことは・・・」
道理で瓜二つなはずだ。
「ええ、その節は大変お世話になりました。
ですから、気を楽にしてください。
私のことも“新米”とお呼びになって結構ですよ」
それを聞いて安心した。
オレは切り替えが早いほうだ。
「そうか、それは助かるな。
あれから元気にしていたか?」
「ええ、とっても!」
オレたちの会話を聞いて、騎士様がやれやれといった顔をする。
影武者とは言え、仮にも王城内部の人間。
馴れ馴れしいとは思ったが、当の本人の許可があるのだ。
そこまで気を遣うこともないだろう。
「ところで依頼と聞いてきたのだが」
「そうですね。
少し言い辛いことなのですが・・・」
「気にするな、単刀直入に頼む」
「そう言ってもらえると助かります。
実は妖魔の一団が、我が王国に接近しつつあります。
師匠には、その偵察をお願いしたいと考えています」
妖魔の一団?
まるで兵隊の集まりのような表現だ。
ただの妖魔の群れなら話は分かる。
「貴君、私が説明しよう」
騎士様がオレと新米の間に入ってくる。
「貴君も妖魔のことは知っていると思う。
冒険者に妖魔退治の依頼が出ることもあるだろう。
それなりの数であっても、騎士が赴けば蹴散らせる。
我々が知っている妖魔とは、その程度のものだった」
「・・・だった?」
騎士様の過去形の言い方が気になって、つい口に出た。
「そうだ、今回は今までとは違う。
身長3メートルぐらいの妖魔が数百体、隊列を組んでいる。
もしかすると一団の指揮を執る首領がいるのかもしれない」
「一団の指揮を執る妖魔の首領・・・」
そんな話、聞いたことがない。
妖魔に組織的な概念は無いはずだ。
せいぜい親子関係か強者と弱者の関係ぐらいだろう。
「仮に首領がいたとしても、我々騎士は負けはしない。
但し、相手がこの一団のみと仮定した場合の話だ。
妖魔は後から後から湧いてくる」
騎士様が苦虫を噛み潰したような顔をする。
それを見て、王女様が続ける。
「なにぶん初めての事例です。
王を含め、王城の上層部は対応を決めかねています。
武力で追い返すべきか、下手に刺激しないでおくべきか」
「それで、まずは情報集めに偵察か。
対応を決定できない以上、騎士様には命令できない。
そこで冒険者の出番というわけだ」
「師匠の仰るとおりです。
残念ながら王国としての決定がありません。
言い難いのですが、この依頼は内密のお願いになります」
つまり何があっても、王国は関知しないということか。
こちとら命あっての物種が信条の冒険者だ。
正直、断りたいのが本音なのだが。
「この依頼、受けよう」
「本当か、貴君!」
予想外の返事だったのだろう、驚いた顔で騎士様が反応する。
「本当だ。
本物の王女様からの依頼なら断ったろう。
だが、新米とは約束がある」
「師匠・・・」
「もちろんタダというわけにはいかないが」
オレは冒険者にとって大事なことを、しっかりと2人に主張した。




