妖魔の一団偵察での稼ぎ方~その1「呼出」~
「影武者の護衛での稼ぎ方」を先にご覧になると、登場人物の理解が早まります。
オヤジが言った。
「一体、何をやらかした?」
麗らかな午後、オヤジの疑惑の目が向けられていた。
オレは品行方正、清廉潔白を自負している・・・ツケ以外は。
人様にご迷惑をかけるような真似はしない・・・ツケ以外は。
「部屋に来るなり、何のことだ」
思い浮かぶことは1つしかなかったが、念のため聞き返した。
「自首すれば、罪が軽くなるぞ」
「そうですよ、まだ間に合います」
話が物騒になってきた。
オヤジの隣りにいる娘さんも心配そうな目をしている。
これはツケを自己申告しろということなのだろうか。
そんなに、とんでもない額をツケてしまったのか?
いや、待て。
もしや法外な利息を取ろうとしているのではないか。
小さなツケを膨らませようという腹なのでは。
いや、待て待て。
まさかツケのせいで、この宿が危ういのではないか。
オレのツケが膨らみすぎて夜逃げ寸前なのでは。
どうして今まで気づけなかったのだろう。
オヤジはともかく、娘さんに苦労を掛けることはできない。
「娘さん、すまない」
オレは謝罪の言葉を口にした。
「良いんですよ、誰にでも間違いはあります」
「そうだ、真人間になれよ」
娘さんとオヤジの優しい言葉が身に沁みる。
ドブさらいでも何でもやって、ツケを返さねば。
仕方なく、楽で実入りの良い依頼以外もやる覚悟をした。
「降りてこい」
何か依頼を用意しているのだろうか。
贅沢は言わないが、楽で実入りの良い依頼だと有り難い。
そう思いながら、オヤジの後ろについていこうとすると。
「騎士様がお待ちだぞ」
「・・・は?」
騎士様?騎士様と言ったのか?
なぜ、ここで騎士様が出てくるのだろう?
「騎士様がお待ちになってるのですよ」
娘さんも同じことを言う。
ツケと騎士様が、どう結びつくのだろう?
少し考えたオレは、ある可能性が頭に浮かんだ。
「もしかして、ツケの話ではないのか?」
「・・・は?」
「・・・え?」
話が噛み合っていないことが判明した。
◇
「貴君が、王家の依頼を受けた冒険者殿か」
酒場で待っていたのは女性騎士だった。
騎士様の言う「王家の依頼」とは影武者護衛のことだろう。
彼女は今も元気でやっているだろうか。
「早く罪を告白しろ」
オヤジと娘さんは騎士様がオレを捕まえに来たと思っているそうだ。
何度も説明したが、全く身に覚えがない・・・ツケ以外は。
それに街の自警団が来るならまだしも、なぜ王都の騎士様が?
そんな大それたこととなると、ますます覚えがない。
何のためにここに来たのか、騎士様に確認する必要がある。
「そのとおりですが、ご用件は何でしょう?
騎士様のお手を煩わせるようなことはしていないと思いますが」
「不躾で申し訳ないが、貴君には王都まで出向いてもらいたい」
「やっぱりか!」
「連行されるのね・・・」
オヤジと娘さんを気に留めない様子で、騎士様は続ける。
「これは王女様直々のご命令なのだ」
「王女様直々!」
「何をしたというの・・・」
「正直、かなり厳しいことになるだろう」
「何ということだ!」
「もう会えないんだわ・・・」
オヤジと娘さんは何としてもオレを犯罪者に仕立て上げたいらしい。
恨みを買うことはしていないと思うが・・・ツケ以外は。
とにかく話が先に進まないので、騎士様に切り出した。
「それで依頼の内容は?」
「「依頼?」」
オレの質問に、騎士様でなくオヤジと娘さんが声を出した。
「オレを連行するなら、問答無用だろう」
「それもそうだな」
「信じていたわ・・・」
オヤジと娘さんがオレをどう見ているかが垣間見れた。
そんなオレたちを見て、騎士様が聞いてくる。
「貴君らは先ほどから何の話をしているのだ?」
「こちらの話です、お気になさらず」
これで、ようやく話が始められそうだ。
さて、王女様直々のご指名の依頼とは一体。
「では貴君、今すぐ王都へ向かおうか」
まずは依頼の話をするのではないのか?
予想外の話の流れに戸惑うオレの首根っこを騎士様が掴む。
「え、ちょ、待っ・・・」
そのままオレは宿の外へ引きずられていく。
そんなオレと騎士様を見て、オヤジがポツリと呟いた。
「やっぱり連行されてるじゃないか」
図らずもオヤジと娘さんの予想通りになってしまったのだった。




