遺跡探索での稼ぎ方~その3「白蛇」~
巫女様が言った。
「どうやって此処にお入りになったの?」
そう言えば、こちらの自己紹介がまだだった。
此処に至る経緯も含め、話をした。
・オレは冒険者であること(もちろんツケのことは黙っておいた)
・調査隊の依頼で遺跡に入ったこと。
・調査隊と逸れ、いきなり穴に落ちたこと。
・気がつくと巫女様がいて、この神殿にいたこと。
一通り説明すると、巫女様が疑問を投げかけてきた。
「冒険者、とは何ですの?」
「冒険者を見たことないのか?」
「ええ、初めてですわ」
やはり巫女様ともなると、世俗に疎いのだろうか。
世の中、知らないことがあっても無理はない。
巫女様と冒険者とでは住む世界が違う。
「困っている人を救うのが仕事だ」
「まぁ、それは素晴らしいことですわ!」
巫女様は尊敬の眼差しでオレを見ている。
間違ったことは言っていない・・・よな。
・ドブさらいの人手が足りなくて、困っている人。
・飼い猫が居なくなって、困っている人。
・遺跡の罠避けが欲しくて、困っている人。
困っている人は大勢いる。
巫女様が想像した困っている人と同じかは別として。
自己紹介も済んだところで、そろそろ神殿を探索しよう。
巫女様から聞いた白蛇が居るということ以外、何も情報がない。
まずは地の利を得ねば。巫女様に聞いてみよう。
「この神殿で知っていることを教えてくれないか」
「ええ、この神殿は・・・」
巫女様の話によると、やはりごく最近に建てられた森の神殿らしい。
目的は白蛇を祀ることで、奥の祭壇を安置した部屋にいるそうだ。
部屋はその部屋しかなく、通路は入り組んで作られている。
余計な者が奥の部屋へ辿り着けないようにするためのようだ。
当然、巫女様は地図を持っているので、迷う心配はない。
「なるほど。奥の部屋以外を調べよう」
巫女様の手を引いて、地図に沿って通路を確認する。
地図には反映されていないが、広い通路もあれば狭い通路もある。
いざとなれば逃げ回るのに使えそうだ。
それと気づいたことがある。
所々に空気穴だろうか、高い位置に穴が空いている。
オレが巫女様を支えても、届かない位置だ。
穴の大きさは・・・見える限りではオレは通れそうにない。
足場にできそうなものも落ちていないので、後回しにしよう。
ちなみに巫女様が入ってきた入り口は真っ先に調べた。
入り口は扉ではなく、岩がピッタリと嵌められている。
巫女様が入ったあとに、閉じられたそうだ。
そもそも入ることだけが前提の入り口なのだろう。
入ったが最後、二度と出られることはない。
誰が設計したのか知らないが、悪趣味にも程がある。
「私が自ら志願したことですわ。
そんなに怒った顔をしないでくださいまし」
怒りが顔に出ていたようだ。心配させてしまった。
ここは話題を変えて、前向きな話をしよう。
「巫女様には、何か夢はあるか?」
「夢・・・」
生きて出られることを考えていなかったのだろう。
すぐには思いつかないようだ。
暫く考え、巫女様の口から出た答えは。
「お嫁に行って、幸せな家庭を築きたいですわ」
オレは猛烈に感動して、心の中で涙を流した。
何という純朴で純粋な夢なのだろうか。
「きっと巫女様なら、いい相手が見つかる」
「・・・もう頼りになる殿方を見つけてますわ」
「それなら、ますます此処を出ないといけないな!」
やはり何としてでも、巫女様を救わなければ。
白蛇なんぞに、この夢を潰させはしない。
オレは何度目かの決意を固めた。
さて、調べられるところは調べた。
そろそろ白蛇様とご対面と行こうか。
「これを渡しておこう」
オレは娘さんに貰った水晶のお守りを渡した。
「ある人に貰ったお守りだ。
オレにはもうご利益があったから、巫女様にも」
「いけませんわ・・・。
冒険者さんがお持ちになっててくださいまし」
「オレの気持ちだと思って受け取って欲しい」
巫女様をきっと守る、その決意を伝えたかった。
巫女様は俯いて、答える。
「そんなこと仰っていただいたのは初めてですわ。
心から嬉しく思いますの・・・私、お受けしますわ」
お受けする・・・受け取るということで良いのだろうか。
オレは目を閉じた巫女様の首に首飾りを掛けた。
きっと巫女様にもご利益がある。
「生涯、肌身離しませんわ」
「そうしてもらえると、お守りも本望だろう」
オレたちは手を取り合って、奥の部屋へ向かった。
◇
「餌ガ来タカ...」
部屋に入ったところで、すぐに白蛇は見えた。
とぐろを巻いているが・・・それでもデカい!
この大きさなら、人間なんて丸飲みかもしれない。
退治なんて口走ったが、必死に止めた巫女様の気持ちも分かる。
だが、まだ希望はあった。
この白蛇は人語を解することができる。
蛇を説得なんて本気で思っていなかったが、
もしかすると交渉の余地があるかもしれない。
「頼みがある!オレたち2人を助けて欲しい!
その代わりに・・・」
「煩イゾ、人間...
主等ニ餌以外ノ道ハナイ...」
「!」
まるで相手にされていない!
何か手は、何か手はないのか!
「白蛇様!供物は私ですわ!
この方だけは助けてくださいまし!」
「やめるんだ、巫女様!」
「モウ良イ...
餌ガ来タカラ静カニ待ッテオッタノダ...
大人シク喰ワレロ...!!」
白蛇が襲いかかってくるのを見て、巫女様を通路へ押しのけた。
「冒険者さん!」
「そこで待っていろ!」
もう説得はできない。
巫女様には申し訳ないが、戦うしかない!
オレは剣を抜いて、部屋の入り口に立ち塞がった。
「オオオオッ...!!」
「はッ!」
襲いくる白蛇の鼻先を狙って、剣を振り降ろした!
「ぐふッ」
だが、剣は傷をつけることができなかった。
そのまま白蛇の体当たりで、部屋の右隅に吹き飛ばされてしまう。
鈍い痛みはあったが、まだ身体は動かせる。
オレは斬りつけは逃げ、斬りつけは逃げを繰り返す。
駄目だ、これでは単なる消耗戦だ!
しかも消耗しているのはオレだけだろう。
こうなったら・・・。
「逃げるが勝ち!」
オレは隙きを突いて、部屋の入口へ転がり込んだ。
そして巫女様の手を掴んで、通路を走り出す。
「どうなさいますの!?」
「とにかく通路を走るんだ!」
幸い白蛇の移動速度は、人間と同程度のようだ。
図体がデカいことが災いしているのかもしれない。
何にしても有り難いことだ!
オレは頭に叩き込んだ通路を、あちらこちら走った!
白蛇は同じ通路を、どんどん追いかけてくる。
「はぁ!はぁ!」
マズい、巫女様の走る速度が落ちてきている。
このままでは追いつかれてしまう。
「冒険者さん、私を置いて逃げてください!」
「諦めるな!
いい相手と幸せな家庭を築くのだろう!」
「・・・はい!」
気力で少し持ち直したが、時間の問題か・・・!
「オ遊ビハ此処マデダ...人間」
とうとう数歩後ろまで追いつかれた!
オレは何とか庇おうと、巫女様の身体を抱きしめる。
そのまま白蛇に背を向け、目を閉じた・・・。




