遺跡探索での稼ぎ方~その1「昔話」~
オヤジが言った。
「昔話をしてやろう」
唐突に話を切り出してきた。
特に用もなく暇を持て余していたので、聞くことにした。
「まだ“冒険者”という職業がなかった頃の話だ。
職業がなかったというより、職業の名前がない頃だな」
「“何でも屋”とでも呼ばれていたのか?」
「知らん。それぐらい昔の話ということだ」
身も蓋もないが、早く本筋に入ってもらいたい。
そう思って、先を促した。
「それで?」
「うむ。
とある集落があってな、近くの森に大蛇が住み着いたそうだ」
「当然、その集落に害を為すわけか」
「そのとおり。
困った集落の人々は森に神殿を建て、そこに大蛇を閉じ込めた」
「めでたしめでたし、だ」
大蛇が神殿に幽閉されて、集落は平和になりましたとさ。
やけに短いが、戒めのために作られた昔話なのだろうか。
「神殿に寄付しよう」といった意図なら、オレには縁がない。
「まだ終わりじゃない」
終わっていなかった。
「閉じ込めた大蛇は、それはそれは怒りに怒った。
大蛇が神殿の中で大暴れすると、地震が起きた」
「しつこい大蛇だ」
全く逆恨みも甚だしい。
女性にモテないタイプだろう。
メスにフラれて、自暴自棄になっていたのではないか。
「そこで集落は、ある決定をした」
「別の土地へ引っ越したのか?」
「いや、生贄だ。若い女性を生贄に差し出した」
「今からオレが退治してくる」
若い女性の将来が奪われることを、みすみす見逃せない。
オレは義憤にかられて、立ち上がった。
「馬鹿もん。昔話と言っているだろう」
「それにしたって残酷な話ね」
娘さんが悲しそうな顔で合いの手を入れた。
「害を為すとは言え、昔は大蛇に畏敬の念があったのかもしれん。
今であれば冒険者を雇って退治と言う話になるだろう」
「それで、その女性は?」
オレは若い女性の安否が気になって仕方がなかった。
「分からん。まぁ、おそらくは・・・。
だが、その後はピタリと地震が収まり、平和が戻ったそうだ」
残念だ。残念としか言いようがない。
何なのだ、その突然現れては迷惑をかける時代錯誤な大蛇は。
いや、昔話だから時代錯誤なのは当たり前か。
それにしても若い女性が犠牲になるのは許せん。
今現在の話であれば、オレが助けにいくところだ。
「そして、ここからが本題だ」
いきなりオヤジが大真面目な顔になった。
「まだ話に続きがあるのか?」
もしかすると女性は助かったのかもしれない。
期待に胸を膨らませて、続きを待った。
「・・・ツケを払え」
どういう意味だ?
どういう話の展開で「ツケを払え」に繋がるのだろうか。
若い女性にはツケがあったのだろうか?
「何を惚けた顔をしてる。
オマエのツケだよ、ツケ。ツケを払え」
「そういうことか。
若い女性の命運にどうツケが絡むのか、考えてしまった」
「理解できたようで良かったな」
オヤジはニッコリと笑う。
オレのほうは引きつった笑顔で、オヤジに確認する。
「いつまで待てる?」
「そう来ると思って、依頼を用意しておいた」
「楽で実入りの良い依頼か?」
「オマエに選べる権利があると思うな」
ツケとは斯くも人の権利を奪うものなのであろうか。
世の無常を感じながら、依頼内容を聞いた。
「今話した昔話。何と無しに話したわけじゃない。
その神殿と思われる遺跡が発見されたそうだ。
そこの調査が今回の依頼だ」
「1人でか?」
「いや、依頼主は遺跡の調査隊だ。
彼らの先頭に立って、罠などを調べるのが仕事だ」
初めて入る遺跡となると、それなりの準備が必要だ。
今すぐ出発という訳にはいかない。
オヤジも、それは分かっていると思うが。
「安心しろ、今日明日の話じゃない。
準備は入念に行ってほしいとの要望だ。
しかも調査に必要な道具一切の経費は調査隊持ちになる」
「そいつは有り難いな」
「それと依頼の達成条件だがな。
危険と判断した場合は、すぐに引き返していいそうだ」
すぐに・・・と言うことは。
「入って数歩で危険があった場合も報酬は貰えるということか?」
「そのとおりだ」
やる気が出てきた。
上手く行けば、楽で実入りの良い依頼になるかもしれない。
オヤジもオレの性格が分かってきたじゃないか。
そうと決まれば、すぐに準備に取り掛かろう。
「街へ出掛けてくる」
「いってらっしゃい」
「しっかり準備してこい」
娘さんとオヤジの声に見送られて宿を出ようとした瞬間。
オレは確認すべきことがあることに気がついた。
「オヤジ、確認しておきたいのだが」
「何だ?」
オレの真剣な眼差しに、オヤジは怪訝そうな顔で聞き返してきた。
そこでオレは問う。
「酒代も経費に入れられるか?」
「馬鹿もん」
分かってはいたが、非常に残念な答えだった。




