表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/53

遺跡探索での稼ぎ方~その1「昔話」~

オヤジが言った。


「昔話をしてやろう」


唐突に話を切り出してきた。

特に用もなく暇を持て余していたので、聞くことにした。


「まだ“冒険者”という職業がなかった頃の話だ。

 職業がなかったというより、職業の名前がない頃だな」


「“何でも屋”とでも呼ばれていたのか?」


「知らん。それぐらい昔の話ということだ」


身も蓋もないが、早く本筋に入ってもらいたい。

そう思って、先を促した。


「それで?」


「うむ。

 とある集落があってな、近くの森に大蛇が住み着いたそうだ」


「当然、その集落に害を為すわけか」


「そのとおり。

 困った集落の人々は森に神殿を建て、そこに大蛇を閉じ込めた」


「めでたしめでたし、だ」


大蛇が神殿に幽閉されて、集落は平和になりましたとさ。

やけに短いが、戒めのために作られた昔話なのだろうか。

「神殿に寄付しよう」といった意図なら、オレには縁がない。


「まだ終わりじゃない」


終わっていなかった。


「閉じ込めた大蛇は、それはそれは怒りに怒った。

 大蛇が神殿の中で大暴れすると、地震が起きた」


「しつこい大蛇だ」


全く逆恨みも甚だしい。

女性にモテないタイプだろう。

メスにフラれて、自暴自棄になっていたのではないか。


「そこで集落は、ある決定をした」


「別の土地へ引っ越したのか?」


「いや、生贄だ。若い女性を生贄に差し出した」


「今からオレが退治してくる」


若い女性の将来が奪われることを、みすみす見逃せない。

オレは義憤にかられて、立ち上がった。


「馬鹿もん。昔話と言っているだろう」


「それにしたって残酷な話ね」


娘さんが悲しそうな顔で合いの手を入れた。


「害を為すとは言え、昔は大蛇に畏敬の念があったのかもしれん。

 今であれば冒険者を雇って退治と言う話になるだろう」


「それで、その女性は?」


オレは若い女性の安否が気になって仕方がなかった。


「分からん。まぁ、おそらくは・・・。

 だが、その後はピタリと地震が収まり、平和が戻ったそうだ」


残念だ。残念としか言いようがない。

何なのだ、その突然現れては迷惑をかける時代錯誤な大蛇は。

いや、昔話だから時代錯誤なのは当たり前か。

それにしても若い女性が犠牲になるのは許せん。

今現在の話であれば、オレが助けにいくところだ。


「そして、ここからが本題だ」


いきなりオヤジが大真面目な顔になった。


「まだ話に続きがあるのか?」


もしかすると女性は助かったのかもしれない。

期待に胸を膨らませて、続きを待った。


「・・・ツケを払え」


どういう意味だ?

どういう話の展開で「ツケを払え」に繋がるのだろうか。

若い女性にはツケがあったのだろうか?


「何を惚けた顔をしてる。

 オマエのツケだよ、ツケ。ツケを払え」


「そういうことか。

 若い女性の命運にどうツケが絡むのか、考えてしまった」


「理解できたようで良かったな」


オヤジはニッコリと笑う。

オレのほうは引きつった笑顔で、オヤジに確認する。


「いつまで待てる?」


「そう来ると思って、依頼を用意しておいた」


「楽で実入りの良い依頼か?」


「オマエに選べる権利があると思うな」


ツケとは斯くも人の権利を奪うものなのであろうか。

世の無常を感じながら、依頼内容を聞いた。


「今話した昔話。何と無しに話したわけじゃない。

 その神殿と思われる遺跡が発見されたそうだ。

 そこの調査が今回の依頼だ」


「1人でか?」


「いや、依頼主は遺跡の調査隊だ。

 彼らの先頭に立って、罠などを調べるのが仕事だ」


初めて入る遺跡となると、それなりの準備が必要だ。

今すぐ出発という訳にはいかない。

オヤジも、それは分かっていると思うが。


「安心しろ、今日明日の話じゃない。

 準備は入念に行ってほしいとの要望だ。

 しかも調査に必要な道具一切の経費は調査隊持ちになる」


「そいつは有り難いな」


「それと依頼の達成条件だがな。

 危険と判断した場合は、すぐに引き返していいそうだ」


すぐに・・・と言うことは。


「入って数歩で危険があった場合も報酬は貰えるということか?」


「そのとおりだ」


やる気が出てきた。

上手く行けば、楽で実入りの良い依頼になるかもしれない。

オヤジもオレの性格が分かってきたじゃないか。

そうと決まれば、すぐに準備に取り掛かろう。


「街へ出掛けてくる」


「いってらっしゃい」

「しっかり準備してこい」


娘さんとオヤジの声に見送られて宿を出ようとした瞬間。

オレは確認すべきことがあることに気がついた。


「オヤジ、確認しておきたいのだが」


「何だ?」


オレの真剣な眼差しに、オヤジは怪訝そうな顔で聞き返してきた。

そこでオレは問う。


「酒代も経費に入れられるか?」


「馬鹿もん」


分かってはいたが、非常に残念な答えだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ