幽霊退治での稼ぎ方~その4「退治」~
坊主が言った。
「待てと言われて待つバカが居るわけなかろう!」
全く以て、その通りだ。
オレは坊主を脇に抱えて走りながら、激しく同意した。
後ろからは誘拐犯たちが追いかけてきている真っ最中だ。
オレとしたことが、こんなことを見落とすとは。
――あのとき。
「「「あ・・・」」」
別荘の玄関を開けると、そこには男が3人立っていた。
オレと同様、3人も意表を突かれた表情をしている。
そして縛られた誘拐犯と坊主のほうに目線を向けると。
「テメェ!!」
オレたちを捕まえようと、躍りかかってきた。
3人が誘拐犯の仲間と分かり、瞬時に身体が動く。
縛っていた誘拐犯の背中を蹴り、3人にぶつける。
相手が怯んだ隙に坊主を抱えて、思いっきり走り出した。
「待ちやがれ!」
そして今に至る。
坊主が「待つバカは居ない」と啖呵を切ったところだ。
「ッ!」
矢が太ももの辺りを掠めた。
誘拐犯の中に弓矢使いが居たのか。
坊主に当たったら、身代金要求はどうするつもりだ。
いや、そんなことは最早どうでもいいのかもしれない。
オレたちを生かして帰しては面倒なことになる。
そう判断しても、おかしい話ではない。
とにかく坊主を脇に抱えたままではマズい。
坊主に矢が当たらないよう、胸に抱きしめた。
所謂抱っこの状態で走りづらいが、このまま全力疾走だ。
「苦しくないか?」
「・・・大丈夫です」
胸の中で息苦しくないことを確認し、さらに続ける。
「必ず家まで帰す。約束だ」
「はい・・・」
やはり不安なのだろう、しおらしい返事が返ってくる。
約束した以上、それを果たすのが冒険者だ。
アイツらを上手く捲くか倒すか、2つに1つ。
坊主のことを考えると、後者は難しいが・・・。
その間にも、矢は飛んでくる。
今のところ当たっていないが、いつまでも運頼みとはいかない。
いい手はないかと思案していると、白い別荘が見えてきた。
そうだ、ここなら!と、すぐに方向転換をした。
白い別荘の中に飛び込んで、2階へ駆け上がる。
「坊主、ちょっと靴を借りるぞ」
坊主の返事も聞かず靴を脱がせる。
そして片方を部屋の扉の外、もう片方を部屋の中央に置いた。
それからオレたちは奥の小部屋に隠れた。
耳を澄ますと、誘拐犯たちが1階を調べている声が聞こえる。
坊主を確認すると、顔が赤い。
オレに抱きついていたので、疲れたのかもしれない。
「平気か?」
心配して聞いてみると、坊主は俯いたままで話した。
「ごめんなさい、仲間のこと黙ってて。
最初から冒険者さんを信用していれば、こんなことには」
「気にしなくていい。
逆の立場だったら、オレも同じだったろう」
「本当にごめんなさい・・・。
それと助けに来てくれて、ありがとう」
そう言って、坊主がしがみついてくる。
オレは坊主を胸に抱きながら、答えた。
「感謝の言葉は家に帰ってからにしてくれ」
誘拐犯たちが2階へ上がってくる足音がする。
最悪の場合、オレがこの部屋から飛び出て戦闘だ。
3人相手なら何とか・・・なれ。
「おい!靴が落ちてるぞ!」
「子供の靴じゃねえか!」
「ガキはこの部屋か!」
靴を見つけた誘拐犯たちが、部屋に入ってきた。
「どこにいやがる!出てきやがれ!」
「あそこにも靴があるぞ!」
「この辺に居るのか!」
もう片方の靴も見つけて、辺りを探しているようだ。
3人集まって、じりじりと部屋の中を移動している。
それに合わせて、床が軋む音が聞こえる。
「奥に扉が見えるぞ」
「あの中か!」
「覚悟しやがれ!」
見つかったか!
オレは勢いよく扉から外に出て、吐き捨てるように言った。
「子供しか相手にできない雑魚が来たか。
オレは大人だから、もしや怖気づいてないか?」
「テメェ!」
「舐めやがって!」
「あの世に行きてえのか!」
「弱いやつほど、よく吠える。
しかも3人だ。見ているこっちが恥ずかしいぞ」
「「「生かしちゃおかねえ!」」」
オレの言葉に誘拐犯たちは激怒して、こちらに突進してくる。
このまま戦えばヤバい・・・!
心の中でそう思ったが、余裕の表情は崩さなかった。
そして誘拐犯たちが坊主の靴に辿り着いたとき。
「終わったな・・・」
オレは目を閉じて、ふぅっと溜め息をついた。
誘拐犯たちが悪事を働くのも、これで最後になればいい。
これからの光景が坊主の目に入らないことも願う。
――バキッ。
「「「え・・・?」」」
誘拐犯たちが乾いた音に素っ頓狂な声を上げる。
次の瞬間。
「「「うわあああああ!!!」」」
誘拐犯たちの足元は、音を立てて崩れ落ちた。
見事に床を踏み抜いたようだ。
やはり3人の重さには耐えられなかったか。
そう、ここは大広間。
調査中、中央付近で床を踏み抜いてしまった部屋だ。
ここに逃げ込んで、右奥の小部屋にオレたちは隠れた。
坊主の靴の片方は、大広間の扉の前に置く。
誘拐犯たちはその靴を見つけて、思惑通り大広間に入ってきた。
次に大広間中央あたりの置いた靴を見つけ、奥へと移動してくる。
じりじりとでは床への負荷が小さいので、部屋から出て誘拐犯を挑発。
誘拐犯は床がどうなるかも知らず、怒り心頭でドカドカと突進する。
そうするとオレ1人でも簡単に抜けた床は・・・という訳だ。
正直、上手く行って良かった。
背中には冷や汗が滝のように流れていた。




