幽霊退治での稼ぎ方~その2「頼み」~
オヤジが言った。
「逃げられるとでも思ったか」
一足遅かった。
オヤジの手がオレの肩を掴んでいた。
そして笑顔で言う。
「暇な冒険者に依頼をくれてやろう」
依頼の内容は言わずもがな。
体よく断ろうと、オレは答えた。
「楽で実入りの良い依頼以外はお断りだ」
「安心しろ、楽で実入りの良い依頼だぞ」
予想していたのか、すぐに返された。
使いっ走りが楽なのは分かるが、実入りが良いとは。
「報酬は?」
「次にツケても、すぐには追い出さん」
「喜んで引き受させていただくよ」
くすくす、と娘さんが笑う。
娘さんとのお出かけは一歩遠のいたかもしれない。
支度のために部屋へ戻り、オレは溜め息をつく。
「お姫様さえ来ていれば、こんなことには・・・」
逆恨みも甚だしかった。
◇
宿の前でオヤジから数枚の紙を受け取る。
「広域の依頼書だ。向こうの冒険者の宿まで頼む」
「分かった」
受け取った紙を荷物袋に入れながら答えた。
そして日の高さを確認して、オヤジに言った。
「今からなら夕方前には着くだろう。
念のため、向こうに泊まる。戻りは明日だ」
「ツケを溜めないよう、仕事でもしてこい」
「楽で実入りの良い依頼があったら、そうしよう」
オヤジの言葉に苦笑していると、娘さんがやってきた。
「時間があったら、お姫様の話を聞いてきてください。
この街にいつ来るか知りたいの」
「もちろん」
こちらも娘さんとのお出かけが懸かっている。
お姫様の動向を詳細に確認せねばなるまい。
オレは娘さんの手作り弁当を受け取り、決意を胸に出発した。
◇
夕刻前、予定通り隣の街に到着した。
目当ての冒険者の宿を探しているが、やけに物々しさを感じる。
先程から騎士様が右へ左へ走り回っているのだ。
お姫様が居るからだろうが、明日には帰るオレには関係ないか。
「ここか」
暫くして目的地を探し当て、中に入る。
この冒険者の宿も1階が酒場、2階が泊まり部屋のようだ。
「いらっしゃい」
この宿の主人と思しき女性が声を掛けてきた。
オレはオヤジに頼まれてきたことを説明する。
「そいつはご苦労さんだったね!」
主人は依頼書を受け取りながら、オレを労った。
早速、依頼書を掲示板に貼っている。
「大物妖魔退治の義勇兵募集。
各地を転々とする誘拐団逮捕。
それに・・・遺跡の調査護衛の募集っと」
いつもの癖なのか、依頼の内容を口に出していた。
どの依頼も面倒そうな話だ。
それはさておき、今夜の寝床を確保せねば。
「今夜、部屋空いてるか?」
「ああ、空いてるよ。泊まるかい?」
「頼む」
すぐに部屋に案内され、オレは荷物を置いた。
そのまま酒場に降りて、椅子に腰掛ける。
夜の仕込みをしている主人に、娘さんに頼まれた件を聞いてみた。
「お姫様、まだ出発してないようだが。
何かあったのか?」
「いや、こっちも分からないんだよねぇ。
朝には出るって話だったんだけど」
「それっきりか」
「それっきり。
騎士様も慌ただしいし、こっちも心配だよ」
困った。
これでは娘さんに良い話を持って帰れそうにない。
この街を出る日時でも分かれば、到着する時間を予測できる。
そうすれば娘さんに喜んでもらえると思ったのだが。
こうなったら騎士様に直に聞いてみるか?
オレは娘さんの好印象を得る方法を必死で考えていた。
すると主人が仕込みの手を止めて話しかけてきた。
「ところで・・・来たばかりでなんだけど。
ちょいと頼みを聞いちゃくれないかい?」
「頼み?依頼か?」
「いや、依頼というと大げさなんだけどね。
街外れに今は使われてない別荘地があるんだよ。
そこをちょっと見てきてほしいのよ」
「何かあるのか?」
「子どもたちが言うには、あるみたいなんだけど。
幽霊が出るって言うんだよね」
幽霊・・・ゴーストの類いか?
危険が伴うのなら、それなりに準備も必要になる。
それに見合う報酬も必要だ。
「ああ、大丈夫。
子供の遊び場になってるぐらいだから、危険はないよ。
ただ安心が欲しいだけさ。見回りと思ってくれれば」
「オレへの見返りは?」
「晩飯と酒瓶1本でどうだい?」
「喜んで引き受させていただくよ」
報酬が出るとなると、頼み事も立派な依頼だ。
別荘地へ向かうため、オレは立ち上がった。




