プロローグ2
魔物の唸り声のようなものが聞こえて、目が覚めた。
目の前に広がるのは無数の木々。
そのほかは暗くて何も見えない。
(なぜ、私はこんなところで寝ているのだろう……。)
起き上がろうとした時、身体中に激痛が走る。
「──ッ!」
状況が飲み込めない……。
なぜ、こんな場所に?
なぜ、こんなに傷が?
何故……。
何故……。
何故……。
「私は、一体……誰なの?」
何も、思い出せない。
──ザッ……ザッ……。
(何か聞こえる。)
──ザッ……ザッ……。
謎の音がどんどん近づいてくる。
(もしかして、足音?)
こんな夜に、しかも灯りもなく、何が出るかもわからない森を、一人で歩いているだなんて、絶対に常人ではない。
(逃げなきゃ……。)
必死に体を動かそうとするも、痛みを伴うだけで、全く動かない。
──ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……。
足音がすぐそこまで来ている。
(動け!動け!逃げないと……殺される。)
鼓動が速まる。
──ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……。
暗闇の中でも、はっきり見えるほど足音の主が近づいて来ていた。
──若い、女の人だ。
(殺される……。)
「居た、居た。」
女の人が言う。
「殺さないで……。」
消え入りそうな声で、そう言った。
「殺さないよ!この辺りに人が倒れているって、風に教えてもらったんだ!」
「風……?」
「そうそう。私は『風の声』が聞こえるんだ!なんたって、『風使い』だからね!」
女の人は、笑いながら言う。
「怪我してるんでしょ?安全なところまで運んで行くよ!」
「え……?」
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ!自分で言うのもなんだけど、悪い奴じゃないから!」
確かに、悪い人ではなさそうだ。
「あ、ありがとうございます。」
「お礼なんていいって!困ったときはお互い様だから!」
女の人がそう言うと同時に
──フワッ。
身体が浮き上がる。
「ちょ、ちょっと!」
「慌てなくても大丈夫!私の手をギュっと握ってて!」
──突然の空の旅が始まった。