第一話「大空は絶叫と共に」
私は聖剣の化身アルディーネと申します。
長らくダンジョンに引きこもり戦いとは無縁の・・・まぁ寂しい生活を送って参りました。
しかしこの度、とある事情から300年続けていた引きこもり生活を終えて野外で活動することとなりました。
私を振るう資格をもった所有者が現れたのです。
とても基礎能力の高い方で少々野性的ですがなかなかの人格者です。
はじめはかなり不安で不満でしたがこの方となら何とかうまくやっていけそう。
そう思っていた時期が私にもありました。一時間ぐらい。
早朝、まだ日が上らないような時間から彼は動き出しました。
今日から約一ヶ月前、彼とその仲間たちが創造神様より神託を受けたのです。
今日、世界が滅ぶと。
おそらくそんな話をしても誰も信じないでしょうが私達は知っています。そんなことが起こり得るのだと。
世界を始まりから見てきましたから。
現在は境界山の山頂人族の領土がよく見えます。
ええ、すでに山頂です。ここまでの所要時間はなんと30分。
飛ぶような移動でした。
「さて、始めに転移魔法の類いはどうやら使えないようだ。」
≪やはり駄目ですか。≫
これはいよいよ世界改変の予兆が出始めているようです。世界が交わってしまうという奇怪の現象の都合で空間を歪める魔法や法則を書き換える魔法の発動が不安定になるという理論は昔からありました。
≪あの?ところで何をなさっているんですか?≫
彼は先ほどから私の柄や鞘に何やら術式のかかれた布のようなものを巻き付けています。
「時に聖剣様?聖力についてはお詳しいかと思いますがいかがでしょう?」
≪ええ、まあ、仮にも聖剣と呼ばれる物に宿っていますのでよく存じていますが。≫
何でしょうすごく嫌な予感がします。
「では聖力が世界の法則を正す働きを持っていることはご存じですよね?」
《ええ、まぁ。それが聖力の役割ですから。》
あの?何でしょうか?え?準備体操?
「自分はあまり転移の魔法が得意ではありません。ですので小道具を用意してあります。」
そう言うと彼はポケットにしまわれている試験管を確認した。全部で8本、コルクで栓がしてあり中には金属の光沢を放つ謎の物体が何層にも重なってつまっていた。
「使い捨ての転移補助触媒です。高いです。とてもとても。」
《あの?転移は使えないのですよね?》
「ええ、普通の方法では。」
あの?その構えは何でしょうか?て言うか私に聖力を注いでますね?何をなさるので?
「流石は聖剣様、聖力が増幅されてますね。いい感じです。では参りましょう。」
あ?ちょっと、え?嘘でしょ?気を練って身体を循環させた状態で?回転運動?ぐるぐる回って、うんすごい勢いです。ヤバイです。ちなみに私は彼に柄を握られて一緒にぐるぐる回っています。
何がしたいかはわかりました。ひどいと思います。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
《ギァァァァァァァァ!》
ブォン!という音と共に私はハンマー投げの要領でぶん投げられた。帝都があるであろう方向に向かって。
ああすごい早さです。空を飛ぶ所持者の背中や腰から見たことはありましたが単独飛行ははじめての経験です。怖いです。
ブォン!と虫の羽ばたきのような音がしてアーサーが私の目の前に転移してきます。
「よし!成功!やっぱり聖力で浄化してからなら転移が使えるぞ。」
《かなり距離を稼いだかと思いますがまだまだ遠いのでは?それに着地はどうするのですか!あなたは空を飛べないのでしょう?!》
かなりテンパっている。て言うか怖い。
この高さから落ちても大丈夫なんだろうか?
耐久性のテストなんてやったことない。
オリハルコンのこの身体は果たして耐えられるのだろうか?
「んじゃ二投目!《風よてを貸せ!》ウォォォ唸れ俺の大胸筋!」
≪ギァァァァァァァァ!≫
空中で風の魔法を使い姿勢制御をしながら再び投擲、しかも気で先ほどよりも肉体を強化してますね!
チクショォォォォォォォォ!