第六話「戦う理由」
「着きましたね。」
「着いたな。」
アルディーネは呆れていた。現在地は山の麓。時刻は夕暮れ時だ。あの後メッチャ走った。
ちなみにこの山、というか山脈かな、こここそが森人族の国ゲシュテーバと人族の国モルゲンロートを二分する境界山と呼ばれている。巨大な山が一つはありその両側に小さい山が連なって人族と森人族の国を分けている。
「森人族の方は私が知っている知識と変わりませんがモルゲンロートという国ははじめて聞きました。」
「大陸中央部の平原にあった大小の人族の国がひとつにまとまって出来た大帝国だ。建国は確か二百年前位って話だったかな。」
「なるほど私が引きこもったあとに出来た国ですか。」
「ああ、ちなみに建国時のゴタゴタした時期に森人族に攻め込まれた過去があって両国は現在交流がない。」
「あなたは?人族ですよね?」
「まぁ俺みたいな根無し草も沢山いるよ。人族は海人族に次いで数が多いし活動出来る環境が多いからね。森人、海人、魔族に獣人。どの種族のテリトリーでも見かけるね。」
さてと、野宿の準備でも始めますか。
「今日はここで一晩野営だ。明日の朝は山に入る。あわよくばそのまま越えてモルゲンロート帝国にはいっちまおうと思ってる。」
「私の常識が間違ってなかったら凄まじい強行軍でさね?ゲシュテーバから人族の領域まで二日って・・・。」
「やればあんがい出来るもんさ。それに鳥の獣人はもっと早いやつがいるぜ?」
「私の常識と所々で差異を感じますね。300年前は人族ってもうちょっとおとなしかった気がします。」
「自分が外れている自覚はある。」
怪物みたいに扱われ続ければ嫌でも自覚させられるもんさ。
野営の準備は一人ぶんだが食事の準備は二人ぶんにしてみた。
「お味はどうよ?」
「すごく、美味しいです。」
ちょっと悔しそうなのがチャームポイントかな?
さてと
「短い間とはいえ一緒に行動することになるわけだが、なにか今のうちに聞いておきたいことはないか?」
「・・・こんな姿で言うのもなんですが私は剣です。契約は守っていただきますが、それ以外は道具として扱っていただいて結構です。」
「まぁそう言わずにさ。せっかく意志があるんだしもちろん契約はまもる。別に説得して戦闘で手を貸してもらおうとは考えてないよ。」
「・・・あなたは何者ですか?」
「しがない剣士っての本当さ。」
「それだけではありませんよね。あなたの戦闘能力ははっきり言って異常です。あれだけの数の刺客を一人も殺さずに迎撃しあなたは無傷、周囲に気を配る余裕すらある。」
「別にごまかす気はないよ。ちょっと突飛な話だけど明日世界が滅びるって言ったら君は信じるかい?」
「確かに突飛な話ですね。私の答えは返答しかねる、です。かつて私を所有していた勢力にはそんなことが出来ても不思議ではないやからがいました。」
「・・・うん、俺が思っている以上に世界ってやつは脆いみたいだ。」
「あなたは何をもって滅びという表現を使ったのですか?」
「ちょっと小難しい話なんだけが世界改変が起きる可能性を考えている。」
「世界改変?私が活動していた時期にも何度か耳にしたことがありますね。確か現在の世界線が他の世界線と衝突して起こる現象でしたか?」
「そうだ。そしてシフトショックから既存のほとんどの生物は異形化し文明は消失する。」
「確かに世界の終わりの一つでしょうね。それが起こると?流石に机上空論では?」
「そうは考えなかったやつらがいた。」
「あなた・・・ではないのですね?」
「しがない剣士には手に余るよ世界の終わりなんな。だが関わっちまった。俺は改変が起こった現場に出くわしちまった。」
「よく生き残りましたね。」
「そこは意外となんとかなった。だがもし世界規模でこれが起こったらと思うとね。だから仲間を集めた。冒険者も傭兵もやめた。騎士の位も返上した。」
「だから『しがない剣』士なのですね。」
そういうことだ。