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私は始め、それを空耳か何かだと思った。
「……ん?」
首だけで振り向く。それは反射的な行動に過ぎず、何かの予期があったわけではない。
けれども私は見て、聞いた。
こちらへ向かってすいすいと飛ぶ白い鳥と、近づいてくる羽ばたきの音を。
折り返したスロープを上って、一段と高い視界は歩道橋の上から。
崩れた建物もまた軒並み眼下にあって、風が白い街を撫でていく。一回り広い空の下、私たちは向き合った。
「……こんにちは」
かー。
「きみはここに住んでるの?」
ばさばさ。
「ほかに誰かいる?」
くわっ。
「……きみは」
彼は。あるいは、彼女は。
白い羽毛と、赤い瞳。白い爪に白い嘴。
白いカラス。歩道橋の上、私と同じ高さに止まった一羽の鳥は、けれども私を歯牙にもかけず、身を揺すらせて空に鳴いた。
かー。
「こんなところで、どうやって生きてるの?」
「こんな場所あったんだ」
端の錆びた鉄骨に腰掛けて、私は足をぶらつかせていた。第六指もだらりとして、大きな翼は風に吹かれるままだ。
その風は、都市の中でも一際強く吹き抜けている。私が座っているのは、大きな鉄橋の上なのだ。
はるか下にはコンクリートの枯れた川底。河川敷も土手もあれど、全てが舗装されたここは、どちらかと言えば水路や運河の類だろう。
かー。隣に留まったカラスが鳴く。私はその声を肯定の相槌のように聞いて、会話をするように記憶を思い出していく。
「そうだね……お魚みたいな人も、いた気がする。そうだったよ」
かー。
午後に傾いた陽光と、川幅ぶんだけ開けた空に、古い記憶を思い描く。
手と足と背中に鰭を持つ、人魚のような人。平たい尾と水掻きを持つ、みずみずしい美肌の人。そういう人のために、水場や水路が整備されていたのだろう。
「いろんな人がいた。でも……」
あの人たちは。最後に見たこの街は、燃えていた。焼けて滅びゆく故郷の、最後の来訪者は異質だった。
きっと彼らが、何の目的でかは分からないけれど、この都市を襲ったのだろう。翼も鰭も角もなく、何より。
「水着、着てなかった」
遠く都市の外から、運河へと吹き込む風。波立つ水面も今や枯れ果て、白い砂塵を撫でるばかりの風は、けれども、私の記憶と感情をざわざわと揺さぶるようだった。




