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私は飛んでいく。空を隔てる大きな雲、此方と彼方の境界の、向こう側へ。
空の国は、航空都市だ。
基部は浮遊する巨大な円盤。下面の構造物は外装が剥げて、ところどころで機械的な内部を露わにしている。
それは例えば、古城に蔦が這うように。この空と海風が吹くばかりの世界にも、時の流れがあることを示している。
叢雲をまとう、白亜の航空都市。その白はまるで、聖者の遺骸のようだった。どこか厳粛で、寂しいほどに静謐で、狂おしいほどに清らかな、漂白された美しさを湛えていた。
雲の冷たさは、風とはまた違う。ひたりと肌に降る微細な水。それは包み込むようであり、覆い隠すようでもある。爽やかに目覚めを促す風と対照的な、停滞と眠りを誘う冷気だ。
雲を貫き、その涼しさを感じながら、私はさらに飛んだ。
円盤の縁には、割れた卵殻のような外壁の残骸。かつては半球の風防だったのだろうけれど、まるで雛が孵ったあとのように、見る影もない。
それから見える範囲で一箇所、抉られたように大きく欠けた部分がある。というか、抉られたのだろう。そこから覗く複雑そうな内部構造は、けれども、奇妙なほどに整然としていて、まるで白骨化しているようでもあった。
この航空都市は亡びている。
だからこそ、私は探していた。
私はさながら、死者の国へ降りるような気持ちで、もう少し高度を上げていった。
そして私は降り立った。
仄白く汚れた、大きな道がまっすぐに伸びる。
陽光を浴びて白い街並み。屋根がなかったり、斜めに欠けていたり。砕かれて、崩れ落ちている。
そして、はるか先。白い雲に囲まれて、高い高い白亜の巨塔が、青い中天に向かい聳え立っている。
それらの全てが遠い記憶と重なって、私は思わず呟いた。
「ああ……ここだ」
私は翼を閉じた。手足の第六指を、腕と脚に添えるように立てる。後ろに傾いた重心を、地面に着けた尾で支える。
私はとうとうやって来た。今や誰もいない街。第六十八航行都市「にらいかない」。
そして、
「……私の故郷」
塔は、あるいは墓標のようにも見えた。