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幽霊ユウコはイイ女  作者: ボンチュー
二章 「ココロハ」
7/8

7.ウソツキ

ゆう子の存在を打ち明ける新。

受け入れられる人は限られていた。


1人タツヤとの接触を試みる。


歩夢は駆けつけるが、、




新登場人物


レン

ゆう子の地元の先輩。社交性の高いヤンキー


タツヤ

アスカの地元の先輩。筋金入りのヤンキーで

ゆう子の元カレ。









7月5日 18:00時 日曜日


昼から働いていた新は上がりの時間になった。


「お疲れ様でーすお先失礼しまーす。」


急いで着替えを済ませ自転車にまたがる。


急ぎの用事がある。とても重要だ。

約束の相手へメールを送る。


"今バイト終わりました。

19:00時前には公園着くと思います!"




















1週間前の、お通夜の日のことだ。

ゆう子に力強く話をしたあと

しばらく新はボーッとしていた。


遠くの方でバイクが2台

迷惑な音量で走ってきているのが見える。


バイクの音は徐々に大きくなる。

外門前の周回をグルリと周り式場の駐車場で停車した。


ヘルメットを脱ぐと眩しい金髪と

刈り上げられたイカツイ短髪が並んだ。


お?ゆう子の知り合いか??


正直ちょっとビビる。


2人は入り口付近の新を見つけ

わかりやすくガンをつける。


新はしっかり目を逸らした。













式場のドアが開き歩夢が顔を出す。


新の元に向かう前に素行の悪い2人組みに目が止まる。


新は心の中でマズイ!と思ったが


「…あれ?レンくん?レンくんじゃないすか!!」


歩夢がレンくんと名前を出すと

金髪の方がリアクションを見せる。

どうやら知り合いらしい。


レンくんとやらは

ゆう子の中学の先輩で年は1つ上だった。


レンくんを囲むように

アスカちゃん、歩夢、その他面々が

外に勢ぞろいした。


レンくんは見た目ほど嫌な奴ではなく

歩夢経由に紹介されたバンドメンバーとも

笑顔で自己紹介を終えた。


ゆう子との他愛もない思い出話に花が咲くと


アスカちゃんが唐突に切り出した。


「あれー?今日タッちゃんは来ないんですか?」


「あー…タツヤは、多分来ねーなぁ」


「仕事ですか?」


「いやぁ、、あいつ今連絡つく奴居ねーんだよ」


「え?!なんで!!」


「あ、いやー連絡は出来るんだけど返事は3日に一度くらいしかよこさねーし、ちょっと地元でもめてるらしくてねぇ…。」


「そっかぁ…。」


新はそのタツヤという男が気になって、勇気を出して問いかける。


「アスカちゃん、タッちゃんて人は誰?」


「ああ、えーっと、ゆう子の元カレ!」


「あら!そうなんだ。どれくらい付き合ってたの?」


「え?えーっと、中3から高1の夏くらいまでかなー、てか、なんで?(笑)」


「いや、特に意味はないけど(笑)会ったことある?」


「えーっとね、めっちゃ遊んでたよ!」


アスカちゃんが話してくれたのは

新の知らないゆう子の人間関係だった。







ゆう子は中学時代からレンくんと仲が良く

頻繁に遊んでいたらしい。(グループで)


レンくんが高校に進学し

仲良くなったのがゆう子の元カレ

通称タッちゃん(タツヤ)だ。


中3の夏にタッちゃんの地元の祭りに

レンくんがゆう子を誘ったのがキッカケで出会ったらしい。

タッちゃんの中学の後輩だったアスカとも

そこで知り合ったそうだ。


タッちゃんは地元でも他元でも有名なヤンキーで

とにかく手のつけられない問題児。

女の子で臆する事なく話しかけたのが

ゆう子だけだったらしい。












アスカはわかりやすく懐かしみながら言った


「ゆう子はねー、相当好きだったと思うなぁ。てか兄貴と妹みたいな?

気を使わない仲の良さだったんだよね〜」


「そうなんだ」


「あ、ゆう子が初めてを捧げたのも

タッちゃんが最初だよ♡」


「へぇー」


「あ、興味なさげー。でも別れちゃってさ。…そういえば文化祭の準備してた放課後、

教室でさ!ゆう子が別れて泣いてて、新くん慰めてたじゃん!」


「え!?ぜんっぜん覚えてない!(笑)」


「ええ!?嘘でしょ!それがゆう子と新くんのファーストコンタクト!ウチ結構関心したんだよ!その時ゆう子がね…」


「ああああぁぁっ!!!!」


突然後ろに現れたゆう子がアスカちゃんの言葉を遮るように叫んだ。(新にしか聞こえない)


新は不意打ちに跳びのき、アスカちゃんにどした??と心配されるほどだった。


「覚えてないことは聞かんでよし!ホラ、21時過ぎたよ!帰ろ!」


「中学生か!」


「良いから!!」



テキトーに挨拶を済ませ皆に別れを告げる。


新の背中を見送りながら

アスカは歩夢に呟いた。


「ゆう子はね〜…

新君のこと好きだったと思うんだー。」


「…え!?まじ!?」


「うん、多分ねー。お母さんにもさ良く新君のこと話してたって言うしさ」


「ゆう子ちゃんが新か。

…意外だわ。ダブルデート、したかったなー」


「え!?両思いだった!?」


「いや、知らねーけど(笑)両思いになれただろーなって」


アスカは大事に残していたデザートを食べ損ねた幼子の様な表情を浮かべる。


月が、今日も近い。

まだ蒸し暑さを感じない夜だった。



























ゆう子に急かされ

歩夢達に別れを告げ帰路につく。



人気の無い住宅街をトボトボ歩く。


どっちにしろ今日の収穫は大きく


次に新が取り掛かることは決まっていた。

その前にやらなければいけないことがある。



「あのさ」

新が話しかける


「なに?てか、今日は外でも結構お喋りだね。」


「おう。で、俺、お前のこと言おうと思う。」


「え!?誰に?!なんで!!無理!」


「無理ってなんやねん!(笑)

やっぱ俺1人じゃいつ成仏させてやれるかわかんねーし、さっきアスカちゃんから話聞いて、やっぱ人手が足りねーって思った!」


「どゆこと?…。」


「俺、お前の過去のこととか全然知らねーしさ。思い出とかそーゆーのにヒントがある気がすんだよね。」


「なるほど〜。で、誰に言うの?」


「歩夢と、アスカちゃん。」


「2人だけ?」


「うん。」


「うーん、わかったけどさぁ、、

信じてくれるかなぁ…?」


ゆう子は初めて学校に行くこどものような、

転校初日の転校生のような

不安な表情を新へ向ける。


「大丈夫。逆にあの2人以外は信じてくれないよ。上手くやっから」


「…信じるよぉ。」

そっと新の手を握る。

新はビクッと体が強張るが、さも慣れてるような涼しい表情を作り直した。


今日といい、こないだからスキンシップが増えたせいか、新はゆう子と話す時少し緊張していた。










「タツヤくん?にはどのくらい会ってねーの?」


「別れてからだから一年くらい?…え!?てかなんでタツヤのこと知ってんの!!」


「聞いたから」


「え!?なんで聞いたの!やだ!最悪!」


さっきまでのか弱い少女感が一切なくなり

突然スケバン的な空気に変わる。


「仲良かったんだろ?」


「最初だけだし!あんな奴どうでも良い!…まさか、、ウチ、未練とかないからね!!」


「どこが好きになったん?」


「なんで言わなきゃいけないの!」


「ふーん。じゃ本人に直接聞くよ」


「はぁ!?会ってくれる訳ないでしょ!

今日だって、来てくれてないし…。」


「どこが好きになったん?」


「言わなきゃダメなの?」


「いやダメってゆーか、

あらゆる事にヒントがあるんだよきっと」


「なにそれ。うーん。

まあ漢気はあったよね。バカだけど。」


「相当喧嘩屋だったんでしょ?」


「いや、ウチと居るときはあんまり。

ウチが嫌がったからね。

まあ知らないうちにしょっ中ケガしてたけど(笑)

基本オチャらけてたけど

まあ一緒にいた時はよく笑ってたかなー」


「1番の思い出わ?」


「やだ言いたくない」








その後はタツヤとの1年間を

イヤイヤ教えてくれた。


最初の半年は今思い出してもよく笑えてて

THE青春って感じの話だった。


新には縁のない世界だ。


ゆう子の表情が語り始めよりだいぶ柔らかくなったのを見てマイナスよりプラスの日々だったのだと確信が持てた。



「そういえば、別れて一ヶ月くらいたったときあいつからメールが来てね?

話があるって書いてあったんだけどウチは無いって返事して、アドレスも変えて着拒してさ!それっきりだったよ」


「へー。それ、より戻すとかそういう話だったかもよ?」


「うん、かもね。でも戻さなかっただろうなぁ。あいつ浮気してたっぽいしなぁ…。」


ちょっと切なげに空を見上げながらゆう子が言った。



「ま、とりあえずそこそこ未練あんだな!(笑)」


「は?ないって!」


「はいはい、おつかれ」


「もう!真面目に聞いてよー!」


最後の"ないって"というセリフに

新はなぜか救われた気がした。





















家に着いてからお焼香の匂いのついた制服を脱ぎシャワーを浴びベッドに潜る。

魔法にかけられたように新は眠りについた。


最近は横になれば眠るまでに時間はかからなかった。


























学校は期末テストが近づいてくると自習が増え

授業中は割と自由な時間が増えた。

新は歩夢に話があるから今日の午後空けてほしいと伝えた。


「別に良いけど、なんだよ改まって。」

怪訝そうな顔で問う。


「まあ、とっておきの秘密なんだよ。アスカちゃんも呼んでほしいんだよね。」


「アスカも?なんで?」


「理由は今は聞かないでよ。頼む。」


「気になるわ。早退しちゃう?」

イタズラっぽく首をかしげる。


「親いるわ(笑)」


「そりゃダメか(笑)」


学校が終わると新、歩夢、アスカちゃんの3人で新ん家へ向かった。
















「えへへー、

なんかドキドキしちゃうねー!!」


歩夢の服を引っ張ってベッタリ体をくっつけながら、キラキラした瞳で新を見つめる。


「いや、ほんと普通の部屋だしショボいマンションだから!期待しないで!」


「新の部屋には可愛いアイドルのポスターとかあるって学校でバラすなよ!

可哀想だから!(笑)」


「おい!それ、お前が勝手に貼ったやつだろ!」


「邪魔ならはがせよ。(笑)」


「いやだ!好きだ!」


「…潔がイイね。(笑)」


アスカちゃんはニヤニヤが止まらなかった。


家に着くと入口のエレベーターホールで

ゆう子が待っていた。見るからにドキドキしている。









「お邪魔しまーす」


「部屋で待ってて飲み物とってくる」


「気ぃ使うなよ」


アスカはアイドルのポスター見て言う


「あ、この子ちょっとゆう子に似てるよね!」


「…そうかぁ?」


リビングから危なげにお茶を3つ。

小さな机を挟んで歩夢、アスカ。

向かいに新が座り緊張したゆう子は

出窓に腰掛けている。


歩夢がお茶を一口飲むと早速切り出した。



「で、アラちゃん。話ってなによ」


「どしたの!恋愛相談でしょ!」

アスカちゃんもノリノリだ。


ニヤニヤの2人を見て

なぜかとても緊張する。







「うん。今日2人に相談したいのは、

残念ながら恋バナじゃない。」


「えー、なんだー。つまんないのー。」

アスカは頰を膨らましただっ子のような顔をする。


「その話が出来たらよかったなぁ。」

新は苦笑いで返す。


「早く!気になってっから!」

歩夢は机をバンバンと叩く。


「…わかった。じゃあ、単刀直入に言うとね、信じないと思うけどとりあえず、言うとね、」


心拍数を数えて自分のタイミングを計り意を決した。

ゆう子はなぜか両手で顔を抑えていた。





「俺、事故を見た翌日から、ゆう子ちゃんが見える。」


"一瞬の静寂が、永遠に感じられた"

見飽きた表現が型にはまる。

今、正にだな。新はそう思った。































2人の顔からはニヤニヤが瞬殺された。


歩夢はお前、なに言ってんの?と表情で訴えているしアスカちゃんに限っては完全に引いていた。畳み掛けるように新たが言う


「付け加えると、見えるとか以前に

むしろ今この部屋にいる」


ガシャん!

歩の膝が上がり机が揺れる。

アスカちゃんのお茶が溢れそうになった。


「お前、なに言ってんの?」


表情で伝わらなかった?と言わんばかりに

怒りを込めた声色で歩夢が問う。


アスカちゃんは黙ったままだ。


「歩夢、信じてほしい。俺がこんなこと、事実じゃなきゃ言わないって事、わかってくれると思ってる。」


「は?お前、なに言ってんの?は?」


「友達だから信じて!とかじゃないんだ!俺、本当ここ数日間ホントにどうしようか悩んでた!悩んでたんだよ!」


「いや、信じろって、無理あんだろ(笑)」


「なんでも答えられる。俺が知り得ない2人のこととか、今ゆう子は俺の後ろにいるから今聞いて答えられる!だから信じれるまで質問していいから!!」


「…バッカじゃないの!!!!!」


突然、聞いたこともない声色と音量でアスカちゃんが声を荒げた。


「ゆう子は、、ゆう子はね!死んだんだよ!!最低なドライバーの信号無視で!あんた達のライブを楽しみにして、差し入れ買いに行って、ゆう子はっ…!!」


途中で歩夢が肩を抱きよせてアスカちゃんは顔を埋めながら涙を流した。


新はここまでのリアクションを想像できなかった自分にガッカリしたと同時に

浅はかな選択だったかもしれないと後悔をし始めた。


「今日のトコは帰るわ。」


泣いてる彼女を抱き上げて

新へ軽蔑の眼差しを向けながら歩夢は立ち上がった。


「待って!もうちょっと話を…」


「おい」


歩夢は新の胸ぐらを掴み


「お通夜の時、なんも感じなかったか?皆、あの子の死を悲しんでる。少しずつ、少しずつ受け入れようとしてんだ。アスカだって。


今、掘り返して、また悲しみを思い出させてどうする?こんなことゆう子ちゃんが望むか?」


歩夢は乱暴に掴んだ手を解き

部屋を出ようとする。

新は反動で尻餅をつく。

ゆう子は珍しく、身動きが取れないみたいだった。


「…でも、ホントなんだって」


言いかけたその時歩夢の怒りは頂点に達した

ドアから新へ飛び乗り今にも殴ろうとする。

慌ててアスカちゃんが制止に入る。


新の上にマウントをとり

今にも手が出そうな歩夢だったが

グッと堪えていることがわかった。

新は損切りが得策と判断した。


「…変なこと言って悪かった。」


その言葉を聞いてなにも言わずに2人は出て行った。

























ゆう子は目をウルウルさせながら

ごめん ごめんと何度も口にしていた。

新は自然とゆう子の頭を撫でながら

しゃーない 気にすんなと返事をした。


それから学校ではアスカちゃんと歩夢は

しばらく口を聞いてくれなかったが

なんとかタツヤ君の連絡先をレン君経由で

アスカちゃんから聞き出してもらった。




「…あ、歩夢?」


「…。」

歩夢は頑なに新を見ようとはしない。


「…あのさ!おれ、曲作ってきたんだ!」

顔あげた歩夢の顔はヤンキーがヤンキーを睨みつけるソレの表情だった。


「悪りぃけど、あんまお前と話す気分じゃねーから話しかけんな」

そう言って教室から立ち去った。


歩夢の声はよく通る。

クラスのみんなが立ち尽くす新に視線を送っていた。

心なしか歩夢と話さなくなってから

新のつるんでる仲のいい五人組以外、

健太やその他同級生から

距離を置かれる様になっていた。


ロッシですら最近やたら優しかった。


その光景を教室の隅からゆう子は黙って眺めていた。













新は1人で成仏という謎の難題に取り組む気持ちを固めて

なんとか元カレとの接触を取り付けた。


歩夢達に理解してもらえず

ショックだった事も重なり

躍起になってる所も少しあった。


正直元カレと会えたところで

なにが変わるかはわからないが

何もしない事がゆう子の為になるとは思えなかったし

幽霊がこの世に残す未練ってやつは

新の中で2パターンで、1つは怨念だった。


元カレへの怨みがあるなら

晴らすべきと考えていた。


何度も何度も電話をかけ

やっと繋がったタツヤと少ない会話しかなかったが

"まともな奴じゃない"と把握するには十分だった。


そして、日曜日の夜を迎える。





























お通夜の帰り道。

ゆう子は新がタツヤと会うと話すと

えらく怒っていたので

今日のことは内緒にしていた。


約束の公園に着く。


時刻は19:00。

メールの通りの時間についた。

が案の定タツヤの姿はなかった。




しばらくして電話が鳴る。

タツヤ君かな!?と思ったが

携帯に表示されたのは歩夢の名前だった。


ゆう子の事を打ち明けて以来会話はもちろん連絡もとっていなかったので驚いたが

今は話す気分になれず、無視をした。


























「…クッソ!なんでアイツ電話出ねーんだよっ!」

歩夢は大きな舌打ちの後乱暴に電話を切り

家の駐車場で磨いてあった黒いビックスクーターに跨った。




「大体アスカ!おめぇなんで新に

タツヤくんの連絡先教えてんだよっ!

新がボコられたらどうすんだよ!

今タツヤくんは普通じゃねーんだぞ!」


あまりの迫力にアスカはビクッと強張る。


「…ごめんなさいっ!でも…なんか、

新くん凄い必死で、なんかほんと、

勢いが、なにかに取り憑かれ…」


「くだらねぇこと言ってんじゃねぇっ!!」


歩夢はビックスクーターのハンドルを

ぶっ壊す勢いで叩きつけた。


「ごめんなさいっ!…ごめんなさいっ!

でも、アスカ、聞いたよっ!ヒック、会いに行くのか?、って!、危ないよっ!って言ったんだよ…!グス、でも、でも、」


アスカは怯えて泣き始めていた。





「新君、タツヤくんは、怖い人って聞いてるから、気をつけるよ!、って、会うって言って聞かなかったから、せめて、せめて、明るい時間に、しなね!って、グス、アスカ言ったんだよ!そしたら、うん!、って言って、それで、」


「タツヤくんとどこで会うとか言ってたか?」



アスカは言葉に詰まりながらも歩夢の問いかけに早く答えようと必死だ。



「ウチの、近くの、小学校の、裏にある、公園!、歩夢ぅぅう〜、どうしようっ!新くん、喧嘩なっちゃったらぁ…っ!」


「児童公園か!りょーかい!今から行くぞ!」






歩夢はヒックヒック泣いているアスカの頭を

ポンポンと優しく撫で「ごめんキレすぎた」と耳打ちしすぐにエンジンをつけた。


アスカはホッとした表情を見せ

いつも以上に歩夢の背中にしっかりつかまった。


「イテテっ!アスカちょっと力強い!ちょい離れろ!」


「やだっ!」


歩夢の存在を確かめる様に強く抱きついた。


「苦しいっつの!(笑)」


アスカは喧嘩の後仲直りすると相当な甘えん坊になるクセがあった。


「あーもうっ!しゃーねーな!振り落とされんなよ!飛ばすからな!」


「うん!」






歩夢は嫌な予感がしていた。

新の言ってることは信じていない。

だが、歩夢達不良少年の間でも

タツヤはヤバいやつだと噂は絶えなかった。


元カノの話を今更掘り返してくる謎のもやし男なんてタツヤの良いサンドバッグにされてしまう。そうなる前に、間に合え!







バイクを飛ばして行く。







アスカは線描写に変わる左右の景色を

一ミリの隙間も作らずくっついている歩夢の背中越しに眺めている。


アスカ自身はタツヤがゆう子と別れて以来

一度もあっておらず噂話が届く連中とも

疎遠になっていたため最近の事情はほとんどわかっていなかった。





























「…うし、到着!新どこいんだ!」


歩夢はバイクから降りて辺りを見渡す。

アスカが不安そうに歩夢の腕を掴む。


時刻は19:50分。


新の姿を探すが見当たらない。

すると歩夢がバイクを止めた入り口とは反対側、

半ドーム型の遊具の奥に単車に跨る男の姿が見える。

ショートウルフヘアーに金髪

ピチピチのTシャツを着て肘あたりまで

刺青が入ってる色黒の男。


タツヤだ。


すかさず歩夢は叫ぶ。


「おい!」


が、バイクのエンジン音でかき消されてしまい声が届かない。


「おい!待てよ!」


アスカの腕を振り払い駆け出すが

バイクは発進してしまい見えなくなってしまった。






「ちっ、あれ絶対タツヤだろ!アスカ、俺ちょっとタツヤ追うからここで待っとけ!」


遠くなるバイクを睨みつけて、タツヤがどこに向かうか考えた。




「歩夢…っ!」



半ドーム型の遊具の陰から

アスカが震え声で歩夢を呼んだ。


「歩夢…っ!」


歩夢はアスカの声を無視してビックスクーターのエンジンをつけようとしていた。


「歩夢!…タツヤ君なんてどうでもいいからっ!早く、早くこっちにきてよおっ!!」


「あ?よくねーだろ。どしたよ……っ!」
















半ドーム型の遊具はランダムに穴が空いていてそこに潜って小さい子が遊べるようになっていた。



アスカの足元の穴から足が伸びていて

人が横たわっているのがわかった。




「…なんだよっ、、これ…っ」






白いコンバースのスニーカーは

血で濡れた後砂がついたのだろう真っ黒に汚れていた。


携帯のライトで穴を照らすと

見えたモノにアスカは悲鳴をあげた。

歩夢ですらよく知った顔だとわかるまでに

数秒必要だった。


鼻から下は真っ赤に染まり

血が固まり始めている。

唇が膨らんでいてぱっくり切れている。

両目が何倍にも腫れ上がっていて

見慣れた顔ではなくなっていた。


白と紺のボーダー柄ポロシャツは

3つのボタンが弾け飛んでいて

元々の2色に赤色が追加され3色になっていた



ボーダーのポロシャツに紺のアンクルパンツ

白いコンバースがお気に入り。間違いない。


新だ。




















「歩夢っ…あ、あ、新君っ、新君だよっ!」


アスカの涙の理由は恐らく恐怖だろう。


「ヤバイよおっ!血、血がいっぱぃ…息してる?生きてるよね?ねぇっ?ねえってば!」


アスカは完全にパニックになっていた。

比較的、喧嘩傷に慣れていた歩夢でさえ

こんなにボコボコにされた友達を間近で見るのは初めてだった。



「コンビニ行って水2リットルと冷えピタ買ってきて。…早くっ!」



歩夢に頼まれてアスカは駆け足でコンビニへ向かった。





1人になった歩夢は次に自らへの怒りを抑えるのに必死だった。


今すぐ駆け出して主犯をボコボコにしてやりたい。

ただ、今は目の前で倒れてる友人をどうにかしなきゃ。



「やり過ぎだろっ!…くっそ!」



新を遊具から抱えベンチへ運ぶまでに

歩夢の両腕は赤く染まった。


月明かりに照らされて全身が見えた。

仰向けに倒れていたせいだろう、

背中の方まで血がしみていた。

ヌルッとした感覚がある。

倒れてからそんなに時間が経っていないみたいだ。














アスカがコンビニから戻ってくる。


「ハァハァ、新くん、生きてる!?」


「大きい声出すな。大丈夫。生きてるよ」


アスカは両手を胸に当て、よかったぁと深く呟いた。


「あ!冷えピタとお水!それから、タオルと絆創膏!とティッシュ!あと消毒液も買ってきたよ!」


「サンキュ」




アスカから袋を受け取ると

歩夢の膝で寝ている新の体がはねた。


「っ!…ゲホッゲホ!うっ!…ゲホッ!」


発作的に新が目覚め血を吐き出した。

仰向けで倒れたせいで血が逆流し溜まったのだろう。


アスカは両手で顔を覆い見てられないという様子だ。

ベンチの下は軽い血だまりが出来ていた。


反動でベンチから落ちそうになる新を

歩夢はあわてて抱えた。


買ってきたティッシュで新の口元を拭う。



「……あ、歩夢…?」


気がついた新は弱り切ったしゃがれ声で

いつものダルがりで線の細い声は

消え去っていた。




「新くん!…新くん!私、アスカも、いるよっ!」



アスカは今度は安堵の涙を流しながら言った。



「ハァハァ、、アスカちゃん、、ごめん俺、嘘ついちった。」


「もういい、喋んな」


胸を苦しそうに上下させ、なんとか呼吸を整えて喋っている新を

歩夢は見てられなかった。

































トモダチと分け合う

オタガイの苦しみ

立場は違えどそこには同じ形の愛情がある。





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