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幽霊ユウコはイイ女  作者: ボンチュー
一章 「ヨミカラ」
3/8

3.ヨミカラ

第3話 登場人物


白井(しらい) (あらた)


鏑木 ゆう(かぶらぎ ゆうこ)


高杉(たかすぎ) 歩夢(あゆむ)


前川(まえかわ) 健太(けんた)

新と歩夢のクラスメイト。お調子者。


ロッシ

新、歩夢と共にバンド活動をするドラマー。

毒舌系イケメンハーフ


由美ちゃん

新と歩夢の担任教師。

東北出身の熱血漢。


亀岡

体育教師の亀岡。

「3.ヨミカラ。」




家を出ると梅雨の合間をすり抜けた

初夏の日差しがまぶしかった。

新は自転車にまたがった。


時刻は10時半。

3限目の途中には着くだろう。

母には10時に出たと伝えた。





学校に着いたらまずバカ共と話したいな。




バカ共とは新が学校で仲の良いグループで

うち一人は同じバンドのドラム

あだ名は"ロッシ"だった。


(由来はロッシっぽい顔だから。と歩夢が名付けた。意味不明な理由だが本名を忘れられるくらいロッシで周知されていた。)






ロッシはイタリア人の父を持つハーフで

当然日本人離れした男前だった。

色白で彫りが深く鼻が高い。


世界史の授業で習った偉人の様な雰囲気を持つ完成された顔に背も170後半で尚且つ勉強が得意だった。


クラスでは控えめなキャラクターらしいが

気の知れたグループ内では際立つ個性を遺憾なく発揮していた。

美しい顔立ちとは裏腹に腹の中は真っ黒く

常に目立つ奴らの事を男女問わず批評し蔑んでいた。歩夢にはなぜか"さん"付けだった。


独特な毒を吐くロッシの話は

見た目となぜか合間って新のツボを押さえるので肯定はできないが面白かった。











学校の最寄駅に着く。

電車のドアが開く。

蒸し暑い空気が新を包んだ。










近づくにつれ少し動機が激しくなった。

みんなどんな顔をしてるのだろう。


泣いてる子は…もちろんいるよな。


テレビ局も来ているだろうか。


囲まれたらどうしようかな。


うわ、俺テレビ映っちゃう!?


いやいや、「知りません」て言おう。

毅然と偽善を貫こう。


先生方はなんて話したのだろう。

面倒な決まり事が増えてなきゃ良いけど。


あ、やべ弁当忘れた。

財布…700円しか入ってねーや…。


「あ、着いた…」


下らない思考は足を早めていた。











シャンとして学校に入ったが

校門にも昇降口にもテレビクルーは居なかった。

それ以前に授業中ということもあるからか

生徒も居なかった。


遠くで男子がはしゃぐ声はした。

きっと体育でサッカーをやってる奴らだろ。










なんとなく拍子抜けの新は

自分のクラス2-Cがある階へ向かった。



2学年は3階にあった。3年は2階。一年は4階だ。



来年に統合を控える叶高校は

新の代から圧倒的に受験者が減っていた。


2年は全部で100人の3クラスだったが

一年のうちに9人辞めていた。

今回の事故で10人。学年は90人となった。









遅刻した者はクラスに入る前に職員室により遅刻カードにチェックをつけなければならなかった。


ここでカードにサインを貰う度毎回、

先生から有難い言葉を頂戴しなきゃいけなくていつも億劫だった。




ガラガラガラ




「…おはようございまーす」





奥から気だるそうな声がして

ずんぐりむっくりした中年教師が顔を出した。

体育教師の亀岡だ。


昔は鍛えていたのであろう、ガタイが若い頃の筋トレ貯金のおかげで歳の割には良い方だが、お腹周りを中心にその筋肉貯金を使い始めている、短足小太りの体育教師だ。





亀「はいおはよう。…お、白井か。

遅刻なんて珍しいな。なにしてたんだ」


新「いや、寝坊しちゃって」


亀「しっかりしろよ。

社会に出たらな、勉強出来る出来ないはもちろんだが何よりも"挨拶が出来て時間を守れる"それが一番に大事なんだぞ」


新「はい、すみません」


遅刻カードにスタンプを押してもらい

なんの気ない返事をしてそそくさと出ようとした。


亀「あ、それから…」

亀岡はバツの悪のそうな顔をして


亀「…ニュース見たか?」


新「はい、見ました」


亀「そうか、それじゃあもうわかってるな

言われなくてもと思うだろうが

不謹慎な言動は慎むように」




亀岡は諭すように一言言うと早く授業に行けと新の背中を小突いた。






職員室を後にしクラスへ向かった。



教室の扉を開ける。

時間は科学の終盤だった。



クラス全員が新に気づく。



「おはようございます社長!!

待ってましたよ〜!」



真ん中辺りの席から元気な声がした。


クラスのお調子者、前川健太だった。


健太「新昨日事故現場いたんっしょ!」


クラス全員の視線が新から一斉に健太へ移った。


同時にヒソヒソと周りの生徒が喋り出す。


すかさず先生が釘をさす。


「前川うるさい。授業と関係ない。やめなさい」


「はーい」


先生に遅刻カードを渡し席へ急ぐ新へ健太は目配せし声は出さずに「あ と で」と口で形を作った。


なんだか面倒な事になった。

と新は思ったがまあ想定内だった。







窓際から一列内側後ろから二番目の席。

同じく後ろから二番目の一番窓側の列に

歩夢が座っていたが歩夢はめいいっぱい席を後ろに下げていたため横並びのはずが

新の左斜め後ろに常に席をとっていた。



「おはよう」新が声をかける。


「お疲れ」歩夢が返す。


わかりやすくいつもより不機嫌だった。


新「何時頃きた?」

歩夢「20分前くらい」





いつもより静かに感じる教室に目をやると

ふと一つの机に目が止まる。



いつもなら派手なデコレーションが施されたスクールバッグが常に卓上に置いてあってそこで堂々と携帯をいじっている、ギャル系な女の子がいるはず。



…ゆう子ちゃんの姿はない。



バッグの代わりに机には

小さな花束が置かれていた。






歩夢「昨日のこと、あんま言いふらすなよ」


新「わかってる」


歩夢「それと今日昼飯食お。話ある」


新「りょーかい」







歩夢は真面目な性格ではない。

素行も悪いし見た目はしっかりヤンキーだ。

だが、芯のある男で弱い者には手を上げない。


やんちゃと非常識の分別をわきまえている。


友達を大切にしていてバンドが生きがいだ。


そんな彼にとって彼女(アスカちゃん)の付き添いでもライブに足を運んでくれてたこと、彼女と仲良くしてくれたことなど関わる機会が多かったぶん、ゆう子ちゃんへの哀しみが尽きないのだろう。






それが他の奴はどうだ?

ニュースに高校のことが取り上げられたと騒ぎ

インタビューされたと頬を赤らめ

挙句事故現場にたまたま居た新にわちゃわちゃとたかる。



歩夢はそのことにわかりやすくイラついていた。



新は察した。

今日この男が側にいる限りバカな奴らにたかられて昨日見たことをウンザリするほど話す必要もないだろう。




よし、今日のテーマは「我関せず」だ。











3限目が終わり担任の由美ちゃん

に呼び出され、朝の集会の話をされた。

歩夢も一緒だった。

「テーマ 我関せず」が容易く一蹴された。







4限目は情報だった。

コンピューター室は同じ階の南棟にあるため移動が必要だった。


コンピューター室に向かう途中も

健太はいつ話を聞こうか必死に探っていて

新の周りをぴょこぴょこしていたが

歩夢が隣に張り付いてるのを見ていよいよ諦めた。









コンピューター室に着くなり

情報授業は向かい合うのが機械なので

幾分かホッとした。




授業はヌルッと始まって

しょーもないパワーポイントの作成に取り掛かった。


4月から取り組んでいる授業だが

新は比較的パソコンが得意だったため

もう終わってしまっていて

詰まってる生徒の手伝いをするポジションになっていたが、今日はそんな気分になれなかったのでトイレに行くと言って教室を出た。





コンピューター室のあるフロアは

コンピューター室の他に茶道部の部室しかないため、情報の授業がない限りトイレを使う生徒が少なく、静かでそこそこ綺麗だった。


学校には数少ない1人になれる空間で

新のお気に入りスポットの一つでもあった。











トイレに入るなり鏡を見て一息。



「ふぅ」

肩の力を抜いて小さい方の用をたしていると


ササァーー


窓の外を何かが横切った。

(換気のためトイレの窓は常に空いていた)


何だろうと思い小便器に向かったまま

顔だけ窓の方に向けた。


ササー


また何かが横切った。

次は大きさが読めた。

視力は特別良くないが、メガネが必要なほど悪くはない。


サー、


横切るスピードが落ちていた。

新には見えた。

ロングヘアーがなびいている。

冷や汗が吹き出た。


ついに俺は頭まで疲れてしまったらしい。



サァー…



それが停止した。

いや、まさかな。


幻覚を呼び起こす薬などやっていない。

ダメ、ゼッタイ!





オカルト話は好きだ。

それとこれとは話が別だ。




新 「…… え?」

思わず声にでた。




"それ"は窓の枠に手をかけて、

不自然にフワフワ小さく上下しながら

新に向かってニッコリ笑いかけた。















「…よっ!( ´ ▽ ` )」









ここは地上3階の男子トイレ

窓の外には女の子。

今や時の人「鏑木ゆう子」

待ってくれ事態が飲み込めない。

脳みその整理がついていない。


新はベルトも上げないまま尻餅をついた。



人は本当に驚いた時声も出せない。

これはどうやら本当らしい。


意識が遠のくのを感じた。




























「… ぃ …い …ぉい! た!

おい!…た おい!新!」



歩夢「おい!新!大丈夫か!どした!!

何があった!!」




気がつくと歩夢が新の体を抱えながら

必死に声をかけていた。

どうやら気絶していたらしい。




新「…悪りぃ。俺どんくらい寝てた?」


歩夢「寝てた?じゃねーよ!結構経ってもお前が教室に戻ってこねーから先生に見に行けって言われて…てお前、顔」


新「ん?」


歩夢「すげー青いけど…?」


新「マジ?」


歩夢「マジ」


新「ウケること言うと、今その窓の外にゆう子ちゃんが居た」


歩夢「お前それ、」


歩夢「全然笑えねーから笑」


新「だよね。でもマジだから。マジなんだって!泣」


トイレの外に先生が駆けつけていた。

顔が引きつっている。

歩夢がすぐに呼びに行ったらしい。

コレは明日も注目の的決定だ。


歩夢「保健室行っとけ。荷物持ってってやるから。お前もう帰っていいってさ」


新「マジか。笑」


歩夢「来た意味。笑」


新「それな」
















学校に来て1時間。倒れて早退。

母親には連絡の必要なしと先生に伝え、新は帰ることにした。



だが、早退でラッキー!と喜べるような心情ではない。


誰も信じてくれない。歩夢のリアクションがそれを物語っていたが新は確かに見えた物体の存在を把握していた。




オカルト現象が好きな新が推測するに

呪いの類なのだ。


事故現場に居た同級生。

しかも、自分たちのライブへ駆け付ける途中で事故にあったクラスメイト。

事態を重く受け止めていたボーカルに反して、

面白話にしようとしていた自分。


コレはまぎれもない自らへの罰だ。







そんな事を考えているといつの間にか家の近所の神社に来ていた。






なけなしの財布から500円を入れお祈りをする。頭の中で呼びかける。


新「さすがにビビるから」


新「神様、昨日はごめんなさい。

ゆう子さん、どうかお許しください

やすらかにお眠り下さい」


目を瞑ってしっかり祈った。


?「えー、どーしよっかなー」


新「まあまあ、そう言わずにそこをなんとか…」


新「俺、まさかクラスメイトが事故ったとは思ってなくて…だからなんだって話なんですが」


?「いや、マジで知り合いだったから悲しんでるんです的な?そーゆーのはマジない。」


新「そうですよね、その通りです。でも今は本当に……え?」


頭の中に自分以外の意識が入ってきたのか。

SF系アクション映画の改造された主人公か。

まるで鼻の穴にシミない液体を少量ずつ注入されてくような気持ちの悪さがあった。







顔を上げる。左右、上下を確認。

誰もいない。

なんだ、どした、なにがあった!!?!


ま、まさか…うしろ…?!


ホラー映画の主役ばりにゆっっくりと

振り向いたそこには、、、



?「いや、マジで、ビビり過ぎだから!!超ウケるwww」



ああ、やはり俺はもういよいよ頭が沸いてしまったのだ。説明のしようも理解の糸口も掴めない。


だって今目の前に、昨日短い生涯を閉じた

哀れな女子高生「鏑木ゆう子」がいるのだから。





新「……う、うわぁああぁぁぁっ!!!」



今度はしっかり教科書通りの叫び声が出た。恐らく最初で最後であろう声量で鹿児島は桜島の噴火音にも負けない音量だった。






鏑木ゆう子はリカちゃん人形のような付けまつげをフサフサつけて、カラーコンタクトとぱっちり二重が重なって、より迫力が増した瞳を真っ直ぐ新にむけていた。




ゆう子「(笑)まあビックリするよね。そりゃあ神頼みもしたくなるわ〜」


新「…。」


ゆう子「でも一つ言わせて?ウチもこの状況よくわかってないのと、許してってお願いしてたけど、もやしっ子に対して怒ったりしてないからね!笑」


新「…なんで」

超絶微振動、スーパービブラートをきかせて新は問う。


ゆう子「え?」


新「なんで…お願い…知ってる?」


ゆう子「なんでって(笑)さっきのお祈りガッツリ声に出てたからね(笑)」


新「いや…」


新「意味がわかんない。理解ができない」


頭を掻き毟る。ボリボリぐしゃぐしゃと。

新はもはや半泣き状態で震えはもちろん止まらない。


ゆう子「ウチもわかんないっつーの!(笑)」







まともに立てないくらい怯えている新だったが不幸中の幸いで今は平日の昼下がり。

この場所は人気のない神社で半べそかきながら腰を抜かしてる自分の姿が、人目につかないことにとても感謝した。


この手のラブコメ漫画を結構読んできたが

主人公の男の子達の受け入れ間口の広さと

適応能力の高さに新は今最上の敬意をはらっていた。


あんなに可愛い幽霊ならむしろ会いたいし。


とか思ってたけどこの現実はとてもじゃないが受け入れられなかった。







人気のない神社の更に奥の竹やぶに30分かけて移動し(通常3分くらいの距離)とりあえず、会話をしようと決意を固めた。


走って逃げ出したいところだったが

逃げ出したあと、夜中に部屋に出てこられたらたまったもんじゃないし、家族に危害を加えられても嫌だった。それ以前に腰が抜けてとてもじゃないが逃げ切れる自信はなかった。





ゆう子「もやしっ子、ど?落ち着いた?」


新「はぁ?」


ゆう子「大丈夫そーだね!(笑)」


新「いや大丈夫じゃねーし!」



もはや驚きと恐怖を通り越して

怒りに似た感情が湧き上がっていた。

というのも新の知ってる"幽霊"のイメージといえば血だらけでボロボロだったり

白装束に長い髪の女といったのが定番だった。


対してこの女はパンツを隠すためだけの申し訳程度な丈しかないショーパンに大きめのトップス、肩口が空いたオフショルダーでお化粧も濃いめ、ピアスをつけていて、幽霊的ファッションセンスは皆無だった。





新「で、なんでどーしたの」


ゆう子「ねー。」


新「聞きたいこと多すぎて整理するの時間かかる」


ゆう子「いや、ウチもなんだよねーとりま、そっちから聞いてよ!答えられるやつは答えるよ☆」


新「よ☆じゃねーよ、、。」


新「…じゃあとりあえず一つ目。なんで俺のとこに出た?」


ゆう子「ok、それがねーどうやらなんだけど」


ゆう子「今んとこ、新くんしかうちのこと見えてないっぽい」


新「え!?なんで!?」


ゆう子「なんでばっか(笑)んでね、うちの声が聞こえるのも新くんだけ!(笑)」


新「なんでぇえええー……」


ゆう子「…とゆーわけで頼みがあるの」



…どうゆう訳だ。



ゆう子「もやしっ子!成仏するまで君ん家でお世話になります!だから、よろしくね☆!」













新「いや、無理でしょ」


ゆう子「なんでよっ!(笑)」



そんなやり取りがしばらく続いたのだった。



ヨミカラの死人降り立つ。

ミズカラの陣地揺るがす。


問題が山積みだ。死のう。



17歳の梅雨、白井青年に訪れた不可思議な夏の始まり。




第1章 ヨミカラ 終


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