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奴隷を夢見たぽんこつウサギ2

 三人のおじさんとそのまま森を抜けて海に出た。


 海にまで来たのは久しぶり。

 波の音を聞くと落ち着くから好き。

 でも、足の裏がざりざりする。


 これから泳ぐのかあ。

 海の向こうも海が続いてるのに。

 あっ、そうだ。

 ちゃんと言っておかなくちゃ。


「ラビあんまり上手に泳げないよ?」


「ふひぇひぇ? まさか泳いだりしません。船を使って海を越えるんですよ」


「ふね?」


 この木でできた箱の事?

 上には布で出来たおうちもある。

 船って言うんだ。

 ぷかぷか水に浮いてる。


「チッ。早くのれ。出発出来ねえだろう」


「どうやって乗るの?」


「俺が乗せてやんよ。ぺっ」


 舌打ちおじさんはせっかちだ。

 ツバ吐きおじさんが見かねてラビを担いで船の上に乗せてくれた。

 船の上はゆらゆらして変な感じがする。


「ふひぇひぇ。ワタクシものるので踏み台を用意してもらえますかね」


「へいへい」


 あれ?

 ラビもその台があれば一人でも乗れたのに。

 でも何だかミチミチいってる。


 ゴシャア!


「粉々になった!」


「ふひぇひぇ。古くなっていたんですかね」


「チッ。そいつぁ、新品ですよ。ぺっ」


「冗談は腹だけにしてくだせえよ」


 ふええええ。

 あのお腹冗談なんだ。

 そっか、ふつうは波打たないよね。


「ふひぇひぇ。これは困りしたね。どちらか踏み台になってください」


「体だけが自慢なんだからおめえがやれよ。ぺっ」


「チッ。いやおまえがやれよ」


 何だかなかなか決まらない。

 ここはラビが何とかしないといけない気がする。


「らびが踏み台になる!」


「「いや無理だから! そんな覚悟を決めた顔しても無理だから」」


「全く情けないですね。ワタクシなら一人で自分を支えられますよ」


 そうかなあ。背中もたゆんたゆんだから沈みそう。


「あっ、良いこと考えた! 二人で踏み台になれば良い!」


「おう。このガキ天才じゃねえか」


「二人なら重さは半分になるな!」


 誉められた。

 ラビは特別だからかしこい。

 さっそく、おじさんたちは四つんばいになった。


「ふひぇひぇ。半分になるわけないんですけどね。よっと」


「ギャアアアア」

「ギョエエエエ」


 二人のおじさんたちの体かミチミチいってる。

 それに、砂にからだが沈んでく。


「半分でもやべえ」


「ああやべえな」


 何とかみんな船に乗れた。


「でも進まないよ?」


「ふひぇひぇ。あの木の棒で二人が船を進めてきくれますよ」


「人使い荒すぎだろ」


「奴隷じゃねーんだからよ」


 奴隷がどうしたんだろう?


「ねえ、いま奴隷って言った?」


「あー? 言ったわ。こんなの奴「ちょーっとお二人ともお話があるんですけどね!」」


 何だろう。

 いま何を良いかけたんだろう。

 あっ、ないしょ話してる。

 でもラビは耳が良いから聞こえる。


(せっかく良い感じに奴隷に対する印象を上げて魅力的な奴隷に育てているのですから邪魔しないで下さいよ)


(あ。そんな事してたんすか?)


(でも、何のためにそんな事を?)


 聞こえるけど、ちょっと難しい。

 ラビが魅力的な奴隷になるための話し合いかな?


(奴隷に対するマイナスな印象を植え付けて暗い奴隷にするより、明るい奴隷の方が価値が上がるんですよ)


(はあ。そんなんでかわるもんなんすかね)


(あ、あのガキ耳を立ててきいてやがるぞ!)


 バレた。

 でも、聞いても問題なかったと思う。


「なんで、ラビを魅力的な奴隷にするのにラビを仲間はずれにするのです?」


「ふひぇひぇ。聞こえてしまいましたか。サプライズですよサプライズ。三人でこっそり話し合って驚かせようと思ったんです」


「なるほど! じゃあ聞かない方が楽しめた」


 こう言うのは知らない方が楽しい。

 失敗した。


(チョロいな)


(おいバカ。聞こえんだろ!)


「二人ともとっとと船を出してください」


 たゆんたゆんのおじさんの言葉で二人のおじさんが木の棒で海をかき混ぜ始めた。


 あんな事をして何になるんだろう……。

 あれ?

 船が動いて──。


「あっ、本当だ! 進んでる!」


 これは凄い。

 こんなので進むなんて不思議だ。

 海を泳ぐ自信が無かったから助かった。


「ふひぇひぇ。船が大陸に着くまでお勉強をしましょうか。奴隷には教養が大事ですからね」


「おべんきょう?」


「そうです。お勉強です。言葉遣いから始めましょうか」


 言葉遣い?

 ラビの話し方はどこかおかしいのかな?


「何をすればいいの?」


「ふひぇひぇ。時間がないので、ですますで言い切ってしまいましょう」


「言い切る? こんな感じな、の、です?」


「ふひぇひぇ。ちょっと違う気がしますがこれはこれで良いでしょう。そのまま続けて下さい」


「分かった! あっ、違う。分かったのです!」


 ちゃんと気を付けないと直ぐに忘れちゃいそうだ。


「笑顔の練習もしておきましょうか。鏡をお貸ししましょう」


「ラビが映ってるのです!」


「そうですそうです。これで自分の顔を確認しながら笑顔を作るんです」


 これは凄い。

 こんな便利なモノがあるんだ。

 歯に食べ物が詰まった時にきっと役に立つ。


「にこぉ、にやぁ、にまぁ、にひひ……」


「ふひぇひぇ。口に出さなくて良いですよ。変に見えてしまいます」


「確かに。でもおじさんの笑い方も変なのです」


「何ですと!? ワタクシ笑っていましたか?」


「えっ、あ、はい」


 気が付いて無かったのかな。

 たゆんたゆんのおじさんも練習し始めた。

 なかなか難しい。


「いひ。いひひひ」


「ふひぇひぇ。顔が痙攣して不気味になってきましたね。もう今日は止めておきましょうか」


「いひひひ。終わりなのです」



「もう疲れましたわー。回復魔法貰っていいっすか?」


「何それ?」


 そらから海を渡るまで言葉遣いと笑顔の練習だった。

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