序奏
かつて、希望の鳥と呼ばれる英雄が居た。
音を操り、モンスターを扇動し、パーティを勝利へと導く“バード”と呼ばれる者たち――
その最高位クラスに属する英雄たちを、敬意あるいは畏怖を表して、そう呼んでいた時代があった。
それから数千年の時を経て、時代が変わり、バードという職種が忘れ去られたこの世界で
今、ひとりの青年がその門の扉を開こうとしていた。
痛い事が嫌だ。
辛い事が嫌だ。
剣を振り回すのは疲れる。
魔法を覚えるのは面倒だ。
死の危険にも晒されたくない。
かと言って鍛冶や裁縫をしたい訳でもない。
つまり、働きたくないのだ。
しかし、お金はそこそこ欲しいし、美味しい物は食べたいし、それなりに認められたいという願望はある。
こんな奴は、まずパーティには誘われない。
パーティというものは、知らない人間同士が集まる所から始まる。まず知らない人と話すのは緊張するからしたくないし、人が集まればそこには必ず諍いが起こり大変だし、パーティになったところで、誰もが死ぬ時は一人だ。
この時点で、パーティというものに参加したいとは思えない。そもそもパーティに参加するには積極性が求められる。志望動機、能力アピール、加入後の展望、そんな表向きのコミュニケーションにはうんざりする。
しかしながら、生きるためにはお金が要る。
物乞いをするという手も一瞬考えたが、いかんせんプライドだけは一人前に高く、物乞いという職業もまた、演技力と対人能力が問われるのだ。
どうすれば良いのか?
合理的に考える必要がある。
一番リスクが少なく、一番労力が少なく、一番稼げる方法を。