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ない。

興味ない。

作者: 篠宮 楓

そんな日常の一コマ。みたいな、ほんの短いお話です。

箸休めにでもお召し上がりください^^


4月8日、人物紹介と幼馴染の高校時代の友人の話を加筆いたしました。

お読みいただければ幸いです^^

「なんかちがーう!」だったらごめんなさいですm--m


「なんなのこの子! 化粧っ気もない、髪もただの真っ直ぐ、服だって合ってないし! こういう子が好みなのね!」


……初対面でこれだけ言われりゃ、もう呆けるしかないだろう。


思わず、ぽかんと口を開ける。きっとそれも、目の前の女の人の癪に障るに違いない。それでもそれ以外の表情なんてできなかった。


「あぁ、久しぶり。可愛いでしょ?」


お前、自分の彼女がけなされてるのに返答はそれかい。


そんなことを、考えました。



私に向けられるムカツク言葉をすべてスルーするがごとくの、隣に立つ男。

半年以上前から付き合っている、私の彼氏。

今日は、初めて彼氏の家に遊びに来たわけなんだけど。

なんか見知らぬ女性に、玄関先で出迎えられた。


「可愛い? この子が? あんた目がおかしくなってんじゃないの? 恥ずかしくて一緒になんか歩けないわ!」



……あなたと一緒に歩く事なんて、あるんでしょうか。



彼氏は少し困ったように眉をへにゃりと下げると、呆然としている私の頭をそっと撫でた。

「ごめんね? 俺に彼女ができるといつもこれでさ。でもお前のこと嫌ってるわけじゃないんだ、ちょっと口が悪いだけで」

「なによ! 私が悪いっていうの? 正直そのままのことを言ってるだけじゃないっ」


はぁ、さようで。


ぷんっ、と可愛らしく口を尖らせてそっぽ向いたのは、彼氏の幼馴染の女性(と、その場で紹介を受けた)。五歳離れている彼女は、むかーしむかし彼氏のことが好きだったらしい(と、ご本人が当人目の前にして言っていた)。でもそれは家族的な意味での好きであって、恋愛感情じゃないってことにすぐ気が付いたと言っていたけれど。



――それにしても。


「あ、肉じゃが作っておいたわよ!」

ころりと私の存在を忘れたように彼氏の腕を引っ張る幼馴染の彼女は、本当に家族の好きなんでしょうかね。

五歳の差があっても、今は二十八歳と二十三歳。大人になってしまえば、普通にあり得る年齢差だ。

それでここまでべたべたしてて、家族の好きですぅ……なんて言われても私は信じられないんですけどね。


でも。


「ごめんなさいね、あの子のお姉さんみたいなものだから……。どうぞあがって?」

彼ママさんにそう言われて、一人ブチ切れて帰るわけにはとりあえずいかないよね大人だから私大人だから。



さっさと腕を引っ張って家へと入って行った二人のあとを、彼ママに促されて入る。ダイニングにはお昼時という事もあって、色々な料理が作ってあった。


「さぁ、どうぞ。ここに座って?」

「初めましてだね」

ダイニングセットには彼パパが座っていて、少し理性を取り戻す。彼氏の家に初めてきたわけだから、さすがに仏頂面ではいられない。

手に提げていたお土産を両手で持ち直して、彼パパへと差し出す。

「初めまして、私……」

「あらぁ、なぁに?」

私の自己紹介挨拶を遮るように、幼馴染の彼女が私の手からお土産を取り上げた。

そうして箱の後ろに書いてある原材料を読むと、ふんっ……と鼻で笑う。


「これだからねぇ。おじさん、持病で甘いの駄目なのよ。食べられるわけないじゃない」

初めてだからと奮発してちょっと有名なお店で買ってきたお菓子を、適当に後ろのカウンターに下げられた。

ちなみに彼パパ・ママは、どちらもお菓子を見るまでに至っていない。


……聞いてないし、しらねぇよ。


内心ぐつぐつと燃え滾る何かを、必死で押し殺す。

私は大人。私は大人。


「……そうですか、すみません。知らなかったとはいえ、気が利かず……」

「いや、気にしないでくれ」

「気にするべきよ。まったく……そう言う気遣いができないのって、ちょっとねぇ……」

彼パパの言葉の上から被さって言ってくる、あなたも気遣いが必要じゃないでしょうか。


「もう、やめてくれよ姉さん。そんなに苛めないでやって」


言葉は私を守ってくれているようだけど、なんだその口調。笑いながら困った様に言われても、相手にも私にも何にもひびかねぇよ。

なんか逆に優越感浸ってないか? そう聞こえるんだけど?


「もう……優しいんだから。ふんっ」

ちなみに最後の「ふんっ」は、私に向けてである。

「ごめんね? ホント悪気はないんだよ」


優しく背を押されて促されるように椅子に座ると、彼氏の言葉に無言で口端だけを上げた。

失礼かもしれないけど、今はこれしかできません。


けれど空気を読まない彼女は彼氏の隣、お誕生日席を陣取って私に対してのキバを納めない。


「いいわけないでしょ! ちゃんと身ぎれいにしなさいよ! ホント全部似合ってない!」

おう、全部に昇格した!


そんなにあってないかなぁ。

タイミングが中々なくて、生まれつきのそのまま真っ黒なストレート。服はワンピースにジャケット。春カラーのパンプス。

新社会人の私には、丁度身の丈があってると思いますけど。


「ワンピースならフォーマルっぽいとか言いたいんでしょうけど、どうせ楽だから選んだんでしょっ?」

……いや、前者に限ってはまったくもってその通りなんだけど、楽だから選んだわけではなくてですね……。

無表情になりかけた私の背を、彼氏が優しく撫でた。

「あー、まぁそうなの? 確かにワンピース多いかな。似合ってるけどね」


……ど・う・い・し・た……!!!


彼女よりも幼馴染の意見とったよ、お前の彼女誰だよなんかもうこえぇぇ!

おねーさん、お目目がまん丸くなっちゃうよ!


「はいっ、いっぱい食べてね! 久しぶりに会うから、おばさんと一緒にたくさん作っちゃった!」

「あはは、ありがと」


そうして、食事がスタートした。

私の感情を置き去りにして。




え、なんでここまで赤の他人が入り込んできてんの?

しかもなんでこれが普通ですー、みたいな雰囲気なの?

息子の彼女が来る日に、幼馴染の彼女とお母さんがご飯作って一緒に食べるって当たり前なのアリなの?




目を見開いたまま箸も手にしない私に、彼パパ・ママがにこやかな笑顔で「遠慮しないで食べて」と促してくれるけれど。

ここまで罵倒されて、その当人が作ったご飯を食えと……?


「ほら、姉さんが怖いから委縮しちゃったじゃないか」

そんな私の頭を優しく撫でる彼は少し険を含んだ声で、話し続けている彼女を止める。すると、口を尖らせた彼女が椅子に踏ん反り返りながら私を見た。


「何よ私が悪者? ……もう……分かったわよ、後でうちにいらっしゃい。少しは見れるようにしてあげるから!」

ぷんっ、という擬音(自前)つき。


「よかったね。姉さんはそういった仕事をしてるんだ。だから任せてみるといいと思うよ」

ニッコリと笑う彼氏と同じように頷くご両親に、私は満面の笑みを返した。




「今をもって、あなたとのお付き合いを解消して頂くので結構です。失礼いたします」




ガタッとことさら大きな音を立てて腰を上げると、ぽかんと口を開けたご両親と目があった。

あぁ、さっきの私みたいだね。

内心嘲笑いながら、床に置いておいたバッグを手に取る。

「ちょ、ちょっと待って! え、どういう事?」

慌てて立ち上がった彼氏に腕を掴まれるけれど、眉間に皺を寄せて見上げた。


「どういう事もこういう事も、そのまま。別れます。では」

驚くお前にびっくりだわ。あはははは←棒

「え、まって! 姉さんの事? 怒ったならごめん、でも本当に悪気はないんだ!」

「悪気がなければ何言ってもいいの?」

「何も君だけに言ってるんじゃないんだ。今までの彼女にもこんな感じで、でも後で仲良くなってたりしてさ。俺の事も彼女の事も色々考えてくれるからこそなんだけど、ほんのちょっと口が悪いだけで! 本当に悪気はないんだ!」


悪気悪気煩いな!


私は大げさに溜息をつく。


「それだけじゃない。息子の彼女である私がけなされてるのに、あなた含めご家族は誰もその人を諌めないのが物凄く不気味。今までの彼女にも同じ事されてるってことは、ご家族はこの状態を受け入れてきたってことですよね」


これだけけなされても自分の息子のことを好きでいてくれるって思うとか、どんだけ自惚れてんの。


「今までの彼女が何も言わなかったのは、きっと大人だったからですよ。ここにいる誰よりも。私は大人になりきれませんので、はっきり言います。冷めました。別れます。さようなら」


くるっと踵を返すと、まだ掴まれていた腕がくんっと引かれた。離せよ、オイ。

「どうせなら、その人と付き合えば? その方が周りに迷惑にならないよね」

ぐいっと力任せに手を振りほどいて、今度こそ、その場をあとにした。








彼氏の家を出てほんの数分、後ろから物凄い駆け足の音が聞こえてきた。

うん、避けたい。けれど無理だろう。

そう諦めたと同時に掴まれる肩。勢い良く引かれて、仕方なく足を止めた。

そこには、必死な形相の幼馴染な彼女の姿。私が冷めた視線で彼女を見ると、勢い込んでしゃべりだした。


「なんであそこで帰るわけ!? 普通、私に負けたくないって闘志を燃やすか、気に入られようと必死になるかの二択じゃないの!?」


……頭沸いてるなぁ……


私は小さく息を吐き出して、目を細めた。


「何言ってるんです。三択です。別れるっていう」

「やめてよ! それじゃ私タダの嫌な奴じゃないっ」

「いや、実際嫌な奴でしょ」

即答すれば、違う違うと頭を振った。

「私は、彼が幸せになる為のただの布石よっ。よくいるでしょ? 彼氏の幼馴染とか友人で口悪くて嫌な奴だけど、本当は二人の事ちゃんと考えてますみたいなキャラ! 私だって……っ」

すげぇ! マニアックなキャラポジ来た!

「うーわー、彼の事考えてって言うより、その立場に自分がなりたかったみたいなやつ?」


しかもそれを、今までリアルに実行してきたっていう事? こわー


彼女は図星を刺されたのか、真っ赤になりながらも頭を横に振って私の肩を握る手に力を込めた。


「今すぐ戻ってよ! 私の立場無いじゃないっ!」

「なんであんたの為に戻らなきゃいけないの。どうぞ四人でご飯でも食べてくださいな」

「やめて! あんたがいなきゃ、私の立場が……!」

立場立場と繰り返す彼女を、ことさら冷たい視線で射すくめた。



「知るか、そんな事」



まだわめいている彼女の手を振り落すと、今度こそ私はその場から立ち去った。







――その後の事は、私は知らない。(興味ない)










                     短編「興味ない。」ここまで

-------------------------------------------------------------------------

ここから下は、4月8日に加筆した部分になります。

人物紹介、今までとこれからのダイジェスト、そして幼馴染の高校時代の友人のお話を付け加えております。








--------「興味ない。」人物紹介&ダイジェスト今まで・これから


・彼女 二十三歳

彼氏と付き合い始めたのは、前年の十月頃。

「そのままの君が可愛い」「黒髪のストレート、とても似合ってる。ずっと触れていたい」等々、でろ甘な口説き文句に落ちた、思い返せばちょろインだったかもな主人公。

当人も実はずっと好きだったのだが、結構イケメンの部類に入るのにあまりにも女の影がないのが逆にちょっと気になりどうしようか迷いつつもOK。

クリスマスやらお正月やらの恋人イベントを幸せに過ごしてきて、最大の難関、彼宅訪問でまさかの阿呆劇場に遭遇。天国と地獄のギャグ舞台。

覚醒、のち、別れ。


そして。


その後、違う意味で覚醒した元彼に縋り付かれるも断り続けてきたが、職場が一緒の為に回避が困難。

何でそこまでこじれてるのか事情を知らない上司から注意されるが、逆にどれだけ彼女が好きかを力説。ぐうの音も出ない。

しかも当人は嫌だろうけどそこまで節度は越えていなかった為、中々注意以上の事が出来なかった。


懸命に断り振り切る彼女と縋る彼氏の姿は社内で公然の見世物になるも、それでも諦めない元彼が職場のエントランスで彼女を捕まえようと伸ばしてきた腕を、思わず真剣白刃取り。

以後、影のあだ名が武士になる。以上余談


その場を見ていた系列会社の役員が、状況を周囲に聞いてなぜか助け舟を出す。出向という形で異動してその先の職場の先輩と恋におち、すったもんだで3年後ゴールイン。


「前の彼とのトラウマが邪魔して、口説き落とすのにものすごく時間がかかりました」旦那談





・元彼 二十三歳

父親の仕事の関係で引っ越しの多い幼少期を過ごす。

今の家に越してきたのは小学校低学年頃。人見知りだった彼は友達が中々できず、孤立気味。

両親は共働きで、子供の変化に気が付かなかった。

唯一その状況に気が付いたのが、近所に住む5歳年上の女の子(以下、幼馴染)。

不登校気味にまで追い詰められていた彼を外に連れ出し、さり気に友人作りに協力してくれた。

故に、彼の中では家族よりも幼馴染の方が立場が上。


すっかり懐いた頃に幼馴染は小学校を卒業し、中学生になってしまった。

話す機会が減っていくにつれ、逆に依存心が強くなる。

恋愛感情よりも憧れや依存、絶対の信頼感の方が強い。


中学に上がった頃から告白の類が増え、オロオロ優柔不断しているところに女の争い勃発。

焦った彼は既に高校生だった幼馴染に助けを求め、治めてもらった事で余計依存心を拗らせた。


それからは彼女ができる度に幼馴染に合わせ、最初敵対するかの如くな二人が後に仲良くなる過程が当たり前の日常へと変化した。

実際は、歴代彼女が「幼馴染と仲良くすることが、彼と付き合う条件なのだろう」と解釈して、仲のいいふりをしていた。

それに全く気付かずに喜んでいた彼は、唯の阿呆の子。


そして。


今回、彼女に別れを切り出され、目からうろこ。

幼馴染への依存心が立ち消えるとともに、憧れと感情のベクトルがすっぱり元彼女に向いた。

彼は依存心を満たしてくれる人を、憧憬対象にし手に入れたいと渇望するらしい。

元サヤにおさまろうと怒涛の攻勢に出るが、悉く失敗。

影で元彼女が「武士」と言われているのに対して、こいつのあだ名は「敗残兵」以上余談。


元彼女が出向した後も足掻きもがいていたけれど、最終的に年上肉食系女子に狩られてゴールイン。

「まぁグダグダで頼りないけど、上手く転がしてあげれば可愛い夫よ?」夫人談




・幼馴染な彼女

一人っ子だった幼馴染は、両親が共働きで家にいる時間が少なかった為、ちょっと寂しい幼少期を過ごしていた。近所に子供は少なく学校で友達と遊んでも遅くまでいる事が出来ない為、両親の帰宅まで基本自宅で一人。

小学6年の頃、近所に彼が引っ越してくる。同じような家庭環境の上、彼が学校で一人になっているのを見つけた幼馴染は、お姉さんになって面倒を見てあげようと一発奮起。

引きこもりがちになっていた彼を外に出し、友達のツテや外面の良さを発揮して彼の友達作りに奔走し笑顔を取り戻す事に成功。

ここまではよかったが、憧れを隠すことなく懐いてくれる彼にだんだん自己顕示欲が強くなる。

無条件で慕ってくる彼が可愛くてかわいくて仕方がなく、彼にとっては両親よりも誰よりも近い存在だと自分の特別性を確信する。

要するに自己満足と自己陶酔。


その後、中学で彼が巻きこまれた恋愛関係のいざこざに顔を突っ込み口をだし、友人の助けも借りて、奇跡的に収拾をつけられたことに増長。

「彼を守れるのは私しかいない!」をモットーに掲げる。

彼の最初の彼女に会った際に試すつもりで口うるさく言ったら、ポジティブなその子は「いろいろ教えてください!」と、幼馴染に懇願してきた。

彼女的には年上だし小姑籠絡のつもりだったけど、幼馴染的には頼られていい気分。「私、凄いんじゃない? これが私の役目なのね」と色々拗らせた。


大人になって二次元的に、自分のような「実はのちに味方になるんだけど最初は主人公に当たりが強い、ヒーローの周辺にいる女性」みたいなキャラがいることに気が付いて、「まさしく私じゃない!」と、脳内妄想的にも二次元を拗らせ、行動がパワーアップ。自分がしていることは間違っていないと、変な確信を持ってしまったのが痛さの原因。


そして。


元彼女に客観的に見た自分を指摘され、一気に自信喪失。

彼も自分から離れていき、自己存在意義を揺るがされる事態に陥る。

けれど今までの自分が間違っていたことを全面的に受け入れてしまうと、立ち上がれないほどの罪悪感に襲われてしまうため、「彼の為にやったんだから」という免罪符にすがり「もう、私がいなくても大丈夫なのね」と自己完結し、実家を離れ一人暮らしを始めた。(叫んでたのが噂になって、居づらくなったというのも一因)

要するに、臭いものには蓋並みに黒歴史を封印して溝に投げ捨て、「若さゆえの暴走も、ちょっぴりあったかもね」と記憶をすり替えた。


数年後、いたって普通に暮らしていた幼馴染が高校の同窓会に出席した際に言われた「あんた、ホントあの子の事に関してはウザいくらい口出してたよね!」という言葉が黒歴史の封印を解き放ち、元彼女だけではなく皆そう思っていたんだという事実に、羞恥から二度と同窓会に出席することはなかった。


その後、年上上司と結婚。

「若い頃の話はしてくれないんですよね、なんか恥ずかしいらしくて。一体どんな青春送ってきたのか、自分の妻の事だし気になるんですけどねぇ(悪気なく純粋に)」旦那談




・彼の両親

一番の原因がここ。

父親の転勤が多かった為、母親は正社員として勤めていた会社を辞めて一緒について行った。

子供が小学校に入った時点で、自分の持っているスキルや経験を生かすべく契約社員として仕事を始める。

元々上昇志向が強かった為めきめきと力を付け、契約終了後正社員として採用される。

子供も小学生だし、もし父親が今後転勤すると言ってもついては行かないと宣言し、話し合いの結果一戸建てを購入。

やりがいが出たのか両親ともに仕事を頑張り、社会的地位を手に入れ金銭的に富裕層となる。


しかし「子供の為」を免罪符に仕事に力を入れた結果、当の子供の精神的疲弊におかしいなと思いつつも気付いてあげられなかった。

そして気が付いた時点で、既に不登校気味になっていた。

どうしていいのかわからぬままオロオロする自分達を差し置いて、頑張ってくれたのが幼馴染の女の子。

その結果、息子を救ってくれた(ひいては両親も救ってくれた)幼馴染に頭が上がらない。


「おじさんもおばさんも、仕事ばっかでこの子の事ちゃんと見てくれてないよね!」

当時小6だった幼馴染の純粋なその言葉と幼馴染にしがみついて離れない息子の姿に、両親の心は抉られた。


その後、どんどん幼馴染に傾倒していく息子の事が心配ではあったけれど、いたって楽しく学生生活を過ごしているのを見るとこれでよかったのかもと思い始め、高校に入る辺りには「もう自分で善悪の判断はつくでしょう」と、勝手に区切りをつけた。


息子にもすすめられて共働きを再開した両親は、時間があるとご飯を作りに来てくれる幼馴染の存在をありがたく思うだけで疎ましく思ったことはない。

息子の彼女が来ると小姑のように口うるさくなる幼馴染を最初は窘めていたが、「姉さんは俺の事を考えてくれてるんだ」とはっきりと断言した息子と、なぜかその後仲良くなる彼女と幼馴染の姿に「これでいいのかしら」と思いつつも年々受け入れていくようになった。


根底には、幼馴染に救ってもらった過去があり、自分達の出る幕はないと強く出られなかったのが本当。

そして楽をとったのも本音。


そして。


彼女に怒鳴られ不気味と言われ、ずっと隠していた違和感がぶわりと膨らんだ。

それでも最初はどう理解し納得していいのかわからず、精神的に右往左往するばかり。

幼い息子を救えなかったのに、今回も人に言われるまで何もできなかったではなくしなかった。

息子である彼が覚醒し幼馴染から離れた事と、幼馴染がよりつかなくなった事で、「やっぱり私達が止めなければいけなかった!」と、やっと現状を理解し羞恥心と罪悪感が沸いた。遅すぎる。


彼女には息子経由で謝りたいと申し出たが却下。それならと手紙をしたため渡してもらおうとしたが、突っ返された。

その際の伝言は「私はもう関係ありません。ですので謝罪も結構です」とのこと。

がっくり落ち込んだ。


元はといえば自分達の拙さから始まったと反省しているので、幼馴染家族への抗議はなし。というか、できないそこまで阿呆じゃない。むしろ全力でごめんなさい。


何とか立ち直るまでは、ツンドラ地帯のような家庭内雰囲気だったという。


「なんかね、あのお宅、電気ついてるのに静かなの。ご夫婦いるのに静かなの。何かあったのかしら……」ご近所のおばさま談










---------------幼馴染の高校時代の友人の話。





「……何を……してるんだ、あの子」

呆然とした私は、思わずそう零した。



流通業に就職してもう数年が経ち、後輩社員と先輩社員の板挟みになりそうなお年頃になってきた私は、久しぶりの日曜日の休みに心躍らせながら駅への道をのんびりと歩いていた。

本当なら朝から買い物に出かけるはずが、昨日の終業前に舞い込んできたトラブルの為に帰宅が遅くなり、必然的に布団にはいれたのは深夜をとうに廻った頃。

すっかり寝坊した私は諦めて昼まで惰眠をむさぼり、やっと外に出てきたわけなのだが。



「私の立場がないじゃない!」



……あそこで叫んでるのは、中学生の時のクラスメートのような気がする……








「はぁ? 幼馴染の中学生を助けたい? 高校生のあんたが? どーやって」

「どーやっても! だって頼ってきてくれたんだよ!? あの子を守るのは、私の役目みたいなものだから」

思わず呆れた口調で溜息をついた。

高校二年生のある日、中学から仲のいい友人が突飛な事を言い出した。

食堂でお昼ご飯を食べていた私は、あまりにも無理ゲーな話に開いた口がふさがらない。私の横で話を聞いたもう一人の友人は、我関せずとお弁当を食べている。


そんなアウェイな雰囲気をものともせず、友人は一気にまくしたてた。

「あの子優しすぎるの。だから強く断れないらしくて……、でもこのままじゃ駄目なことは分かってるから私に助けを求めてくれたんだと思うわ」


……いやいや、求めて「くれた」ってなんなのそれ。

ラーメンの麺を口にいれようとしていた私はとりあえずそれを丼の中に戻し、箸をおいた。


「あのね、あんたが何かしてあげたいってそう思う気持ちは分かる。でもさ、相手中一の男の子だよ?自分で対処しなきゃダメでしょ、それ」

そりゃ昨年までランドセルしょってた小学生だとはいえ、もう中学生で十三歳。告白断れなくて周囲が争い勃発とか意味わからん。

「まぁ周囲の女の子も随分と色恋に発達してるねぇとは思うけど、それでもあんたが口出す謂れはないよ。その子たちから見たら、赤の他人がでしゃばってくるなってだけの存在じゃん」

そんな情けない幼馴染の男の子の為に、自分の評判落すことないって。

そう諌めるように続ければ、ちょっとだけ口を噤んだけどやっぱりふるふると頭を横に振った。

「そうかもしれないけど、それでも可哀そうよ。寄ってたかって困らせるなんて」

「いやだからさ……」

「今回だけ助けてあげたい! 今回の事が治まれば、あの子もちゃんと対処できるようになると思うの。だから……」

両手を組んで私に懇願するようにじっと見つめてくる彼女をしばらく睨みつけていたけれど、意思の変わらないその態度に深く息を吐き出した。


「それであんた自身じゃなく、人に頼るっていうのもどうかと思うけどね」

「だって私、もう中学にツテないだもん。あれば自分で行ってるよ……だから……」

「もう分かったわよ、分かったからご飯食べさせて」

ちらりと腕時計を見れば、昼休憩の終わりまで既に十五分を切っている。パンや弁当ならまだしも、ラーメンは食べつくさねば。


「ありがとう! 本当にありがとうね、これであの子も助かる!」

今度何か奢るね! と、満面の笑みを浮かべて喜ぶ友人に私は再び息を吐き出した。




友人には、五歳年下の幼馴染の男の子がいる。

小学校は違うから実際その子に会ったことはないけれど、随分と可愛い顔をしているらしい。

とても友人に懐いていて、まるで母親か姉のように慕ってくれているらしい。

まぁ、全部友人からの情報だけど。

あまりにもその子のことを話すからてっきり好きなのかと思って聞いたけど、何の表情の変化もなく「違うよ」と言っていた。

本当に姉代わりだと自分でも感じているらしい。そしてそれが嬉しいようだ。


私に実害がなければどうでもいいけどね……と、ずっと話しを聞くに留めていた。

なんかあまりにも手を掛け過ぎて、ヘタレな男に育たなきゃいいけどね……とほんの小さな心配だけはしていたけれど。

それが今回は、お鉢が回ってきてしまった。



中学の頃、バスケ部の部長をしていた私の後輩が、まだ中学三年としてそこに在籍している。

仕方がなく何人かの子に頼んで、状況を把握した。

……うん、既にへたれだなオイ。

そんなのに力を貸すのもなんだかなぁと思ったけれど今回限りという約束をして後輩に手伝ってもらい、最後は友人が顔を出すことでとりあえず事なきを得た。

一応、とてもとても穏便に事は済ませたつもりだ。

受験前の後輩に、いらぬ面倒をかけてしまったわけだし。



これでもう大丈夫だろう、強く生きろよ中学生男子。と、内心エールを送っていた。



――が



「なんかね、あの子ったら彼女連れて来るらしいの! 私にも会って欲しいっていうんだけど、ドキドキしちゃうよね」

「いやだからなんで? あんたが会う意味あるのそれ!?」

思わず怒鳴り返してしまった私は悪くない。

きょとんと眼をぱちくりしていた友人は、ふわりと笑った。

「だって、変な子と付き合ってほしくないもの。それに頼まれたんだし、私から行くって言ったわけじゃないよ?」

「いや、断ろうよそこは。少し甘え過ぎその子」

「え、なんで?」

「なんでじゃないでしょ……、ホント会うのやめなよ?」


なんでおかしい事がわからないんだろう……、今まで貯めに貯めてきた積読ならぬ積怒がぶわりと頭をもたげた。


「もうこっちは高三、あっちは中二。少なくとも家族でもないのに干渉するのはおかしいって」

「だって、家族みたいなものだもの」


ぷちーん


堪忍袋の緒が切れたところか、木っ端みじんに爆発したわ!


「OKリョーカイ。あんたが会うっていうなら私は何も言わない。でも、もうその子の話は私にしないで」

「え……」

「分かった?」

「……うん」


きっと友人は、私がなんでそう言ったのかわからなかっただろう。

けれど友人は約束を守って、それ以降彼の事を口にすることはなくなった。

多分、二人の間の事をこれ以上文句言われたくなかったんだろう。



そのまま高校を卒業し、進路先が異なった私達は今まで会うことはなかった。

ふと、ちゃんと二人とも関係を変えられたのかなぁと思う事もあったけれど、幼馴染の男の子をたった一度中学の時に見ただけの私にとっては、はっきり言ってどうでもいい……まるで他人事だった。



だからまさか、まだおかしな関係が続いているとは思っていなかったわけだ。




「今すぐ戻ってよ! 私の立場無いじゃないっ!」




なんか、そうじゃないと思い込みたいけど……そうだね。友人だね。

なんか若い女性に縋り付くように引き止めながらわめいてるんだけど、周り見えてるかなー。私以外にも、何人かあなたたちの事みてる人いるよー。


見世物になってきているというのに、ヒートアップしているだろう友人は何も気づかない。

多分若い女性の方は気づいてると思う。それ以上に、迷惑そうに眉を顰めているけれど。

聞こえてくる内容から行くと、まだ友人は幼馴染の男の子に干渉しているらしい。


「やめて! あんたがいなきゃ、私の立場が……!」

うわ、まだ叫ぶか……。

知り合いとしては、面倒だけど止めに入った方がいいのかな……と近づこうとした時だった。



「知るか、そんな事」



若い女性の、ことさら冷たい声が響いた。

目を大きく見開いた友人を一瞥すると、縋っていた手を振い落し颯爽と歩き去っていく。

その後ろ姿に思わず惚れた……、じゃなくて。


「ちょっと! やめて、帰らないでよ!!」


友人の悲痛な声が、静かな休日の住宅街に響き渡る。

確かに友人の自宅近所とは言えないが、少し離れているだけの距離。

大丈夫か……?


と、思ったりもしたけれど。私も若い女性を見習って、その後を追う様に駅への道を歩き出した。

うん、その通りだなぁ。

私もそう言えばよかった、高校の時。



――知るか、そんな事







その後どうなったかは知らなかったけれど、同窓会に来た彼女に「あんた、ホントあの子の事に関してはウザいくらい口出してたよね!」と、悪意があるんだか純粋に過去の事としてなのか、あの日友人の話を聞き流して弁当を食べ続けていたもう一人の友人が笑って言った。


「……そ、そうかな?」



少し青ざめた友人は、無理やり笑顔を作りながらそのままフェイドアウト。その後の同窓会には、何度ハガキを出しても来ることはなかった。

「私、言い過ぎたかしらねー」

と、もう一人の友人はカラカラと笑っていたが、かなり確信犯だねあんた。

ちょっと苦笑を零しながらも、私は欠席に丸のついている同窓会の返信はがきに視線を落とした。


ふと数年前に見た、住宅街で怒鳴り散らしていた友人の姿が思い浮かぶ。


きっと、あれがきっかけ。

そして同窓会はトドメ、だろう。



「まぁ、いい薬になったんじゃない?」



やっと、おかしかったことに気付いたんでしょうからね。


もう会う事もないだろう友人に、今更ながら心の中で少しだけエールを送った。

ありがとうございました^^

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― 新着の感想 ―
[一言] 前半は良かったけど・・・後半は友人達がちょいと気持ち悪かったです。 当事者がやるからざまぁはすっきりするのであっていくら相談されて鬱陶しかったからといって同窓会にも出れないまでに追い詰める…
[一言] お話半分、設定集半分で、書き始めあらすじを読んだ気分です。
2016/08/15 13:05 退会済み
管理
[一言] 知らぬは当人たちのみで良かった・・・のか ナンダカンダで最終的に、皆いい方になったか(両親を除き) 幼馴染も厨二病発症し、それを黒歴史扱いに出来るまで成長したんだから、立派になったもんだw…
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