2話目(前編)
やはり生徒会室を訪れた人は相談をしに来た生徒であった。
小柄な容姿で、人形のように整った顔立ちの女生徒。
女生徒は僕と先輩と向かい合うようにソファに座る。
「……はじめまして。一年の桜川小春です」
「私は生徒会長の花園優花だよ。隣に座っているのが――」
「桜川さんと同じ一年の大野木楓です」
簡単な自己紹介を終え、僕はさっそく本題へ移る。
「さっそくだけど、桜川さんはここに相談の依頼をしに来たってことでいいよね?」
「……はい。それで大丈夫です」
「じゃあ依頼内容を聞いてもいいかな?」
コクリと頷き、桜川さんは初めての依頼内容について語り始める。
「今度、陸上の大会があることをご存じですか?」
「たしか、来週の金曜日にあるんだったよね」
「はい。私もその大会に出場するのですが、部活内での技術向上のコーチ兼マネージャーをやってほしいということで今回依頼をしに来ました」
依頼内容を伝え終わった桜川さんは僕たちに向け頭を下げる。
「どうしてもっ! この大会で結果を残さないといけないんですっ!」
彼女の願いを聞いてしまう前から僕らの答えは決まっている。
僕は先輩の方を見るが、先輩も同じ気持ちだった。
「桜川さん、この依頼は僕らが責任をもって受けさせていただきます」
こうして僕と先輩の初めての依頼が始まっていくのであった。
◇◇◇
次の日。
僕と先輩は放課後になったら、各々ジャージに着替えてグラウンドへと集合した。
少し時間が早かったのか、グラウンドにはまだ生徒が来ていない。
なのでこの空いた時間に先輩へと質問をしてみる。
「先輩って運動とかできるんですか?」
「大丈夫だよ! こう見えて小学校の頃、運動会のリレーのアンカーを任されたこともあるんだから」
「相当早いじゃないですか。でも僕たちはマネージャーだから、サポートするのがメインになりそうですよね。それでも先輩の走ってるところ見てみたかったです」
そうこうしているうちに陸上部の面々が揃ったが、部活に来た部員の数が4人しかいなかった。
4人で全員であったのか桜川さんが僕らについて紹介してくれた。
「このお二方は今日から短期でマネージャーとして活動してくれるようになりました」
「大野木です。よろしくお願いします」
僕が自己紹介を終えると、陸上部の部員たちは隣の花園先輩について盛り上がっていた。
「花園です。えっと、これからよろしくね」
みんなに生徒会長として人気のある花園先輩は、自分の自己紹介が若干やりづらかった。
大抵彼女に対して、誰も対等に見たりなどはしない。生徒会長だから、みんなに人気だから、アイドルみたいで可愛いから、とか必ずみんな心の中で自分が先輩に負けていると思ってしまっているからだ。
だから先輩はこれからも人に尊敬の眼差しを向けられていく。対等に接してくれる人なんてもうこの学校にはいないのではないだろうかと考えてしまう。
しかし、いまは桜川さんからの依頼が最優先である。
「僕と先輩は次の大会までの期間でマネージャーをやっていきますので、短い間ですけどよろしくお願いします」
そして陸上部の部員の紹介も簡単に終わり、いよいよ部活が始まっていくのであった。
僕は基本的に部員の記録測定やアシストなどを行っていた。
「久しぶりの部活は大変だな。それにしても――」
記録を測り終えて一息つく僕はちらっと先輩の方へと視線を向ける。
ちょうど部員の方々に教えているときだった。
「ここもうちょっと変えたほうがいいかもしれないね。こんな風に走ってみたらどうかな?」
一度、お手本ということで走って見せる先輩。僕は片手に持っていたストップウオッチで試しに測ってみる。
「えっ!?」
走り終えた先輩に対して表示された記録に僕は驚愕した。
大会などに出れば余裕で優勝を取れてしまうレベルのタイムであったからだ。
「次、走ってみよー!」
先輩は笑顔で、部員の人に手を振る。それを合図に部員たちは先程の先輩の走りを参考にしながら走り出す。
やはり先輩の教えが良いのか、みんなの記録が少しずつだが縮んできている。
「やっぱり花園さんはすごい人ですね。大野木さんたちに依頼して正解でした」
いつの間にか休憩をしに来た桜川さんが隣に来て座っていた。
「お疲れ。これ、どうぞ」
僕はさっき作っていたスポーツドリンクを渡す。
「ありがと」
桜川さんは一口飲み終えると、再び立ち上がる。
「私、もう一度頑張ってきますね! 大野木さんも頑張ってください!」
「ありがとう。桜川さんも頑張ってね」
僕は走っていく桜川さんを見送った。練習中に何度か彼女を見ていたが、この中で誰よりも頑張っている。
(だから、この依頼だけじゃなく大会で優勝させてあげたい!)
そして僕自身ももっとできることがあるはずだ。
部員たちに教えている先輩の姿を見てから自分の仕事へと移る。
(先輩、桜川さん、陸上部のみんなも頑張っているんだ!)
「僕ももっと頑張らないと!」。
大会までの練習期間は長いようでとても短かった。
毎日部活動に参加した僕らは大会に向けて出来る限りのことをした。
みんなの記録はとても良くなり、この調子でいけば大会で優勝を狙える範囲であった。
だから僕と先輩は桜川さんたちが全力で望めることを願うだけである。
◇◇◇
大会前日の部活の終了時刻まで迫っているときである。
花園優花は桜川に呼ばれて陸上部の部室へと来ていた。部室内はロッカーしか置いていなくスッキリとした空間であった。
そこにいまは花園と桜川の二人しかいない。
「桜川さん、どうしたの?」
呼ばれた理由を尋ねた花園。それに答えるように、桜川は彼女の両手を掴み真剣な眼差しで見つめて答える。
「はい! 花園さんにお願いしたいことがあります!」