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1話目(後編)

 僕の体調が限界を迎えたので保健室へと場所を移し、窓際のベッドに横になることにした。女生徒はベッドの横に椅子を持ってきてそこに座っている。

「え。えーと。用ってなんですか?」

「君の名前、大野木楓くんだよね? クラスの子に聞いてみたんだけどあってるかな?」

「あってますよ。僕は一年の大野木楓って言います」

 僕のことについてはだいぶ知らべて来たらしい。

 それにしても女生徒は童顔で、黒の長髪がとても似合っている。昨日見た綺麗さもそのままで、可愛らしさが学校では数倍可愛く見えてしまう。

「ひとつ、あなたの名前を聞いてもいいですか?」

 僕は布団で休みながら女生徒に質問をする

「私は花園優花、ちなみに三年生だよ。あと、自慢じゃないけどここの生徒会長です! これからよろしくね」

「生徒会長で、しかも先輩だったんですかっ!? えっ!?」

 驚いた。確かに可愛らしくも美しい感じの先輩は、同年代ではないとなんとなく予想はしていた。しかし、まさか二つも年上だったなんて。なおかつ生徒会長という学校の頂点に君臨している人であった。

 僕はなんて失礼なことをしてしまったんだろう。

 すぐさま頭を下げ、

「すみません。まさか先輩が生徒会長だったなんて知りませんでした」

「えー! これでも私壇上に上がったりしてたよ。もしかして……全校集会とかで寝てたの?」

「まさにその通りです。集会とかだとどうしても眠くなったりして……」

 先輩は一瞬だけ残念そうな顔をしたが、すぐになにか閃いたような表情になった。

 そして僕の左手を握ってきて

「そうだ! もしよかったら、私のお願いを聞いてもらってもいい?」

 キラキラとした期待した眼差しで僕を見てきて、こんなの断れるわけないじゃないか。

「いいですよ。先輩には申し訳ないと思っていますし、お願い聞きますよ」

「ありがとう! 楓くんにひとつこれからやってもらいたいことがあるの」

 先輩は僕の左手を握ったままブンブンと上下に大きく振る。

「やりたいことって?」


「楓くんには、この学校のお悩み相談の相談相手になってお悩みを解決してほしいの!」


 最後に付け足しで「もちろん私もお手伝いはするよ」と先輩は丁寧に付け足してくれた。

 だが一瞬で僕の思考が凍り付く。学校のお悩み相談の相手にこんな一般人で平凡な日常しか送ったことしかない僕ができるわけがない。絶対に無理だ。

「先輩、すみませんが僕にはできそうにないです。やるなら他の人望のある人に頼んだほうが吉ですよ」

 願いを聞くとか僕は言ったが、こればっかりは聞くことができない。

 しかし僕が無理だと話を言っても先輩は引こうとしない。

「大丈夫だよ。はじめては誰でも怖く恐ろしいものだよ。楓くんには才能があると思うし、私自身も一緒に相談に乗るからやってみよう!」

 先輩はジッと僕の目を見つめる。そこまで言うなら、一度だけならやってみてもいいかもしれない。

「わかりました。最初の一回だけなら僕、やりますよ。でも一回だけですからね」

「――ありがとー!」

 嬉しさのあまり先輩は僕に抱き付いてきた。まだ出会ってから数時間しかたっていないが、先輩は人に対して無防備すぎるような気がした。いまも出会って間もない僕に嬉しくて抱き付いて来たり、誰にでも平等に接してくれたりして、もし普通の男子生徒なら確実に先輩のことを好きになるに違いない。

 けど、僕はそういう恋愛感情に疎いせいか、抱き付いてきても惚れたりはしない。

「わかりましたから、ちょっと離れてくださいよ」

 僕は冷静に先輩の肩を押して、元の位置へと戻させる。

「この件だけど、三日後の放課後に生徒会室に来て。楓くんの風邪のこともあるし、あまり無理はしないように。オッケーかな?」

「オッケーです。風邪なんて今日休んでれば治りますし、心配しなくても大丈夫ですよ」

「じゃあ、私は授業に戻るけど、一人で寂しくない? それとも私が看病しよっか?」

「いいですよ。もう、眠くなってきたんで、これから寝てるので寂しくはないです」

 大きな欠伸をひとつして、先輩に向き直る。

 いつ見ても、先輩は綺麗な顔立ちをしている。生徒会長で選ばれているし、たぶんいろんな人たちに好かれているんだろうな。

 僕が先輩についていろいろと考えていると、

「早く風邪を治して、一緒に頑張ろうね。じゃあね、楓くん」

「先輩、授業頑張ってください」

 そして花園優花は保健室から去っていき、一人残った僕は欠伸をして眠りはじめた。


 ◇◇◇


 風邪はすっかり良くなり、気づけばもう三日後の放課後となっていた。

 そして場所は生徒会室前である。

「よし、行くか」

 緊張は少しだけしているが、普段通りにドアをコンコンッとノックをし入っていく。

「しつれいしまーす」

 若干控えめな声量で中に入っていくと、中には花園優花先輩が一人で家具の移動をしていた。先輩も入ってきた僕に気づいて、作業していた手を止め、笑顔でこちらに歩いてきてくれた。

「楓くん、待ってたよー。あとこれを運んだら相談室の完成だよ!」

「それ運ぶの僕も手伝いますよ」

 持っていた荷物をその場において、先輩の運んでいたものを運ぶ手伝いをする。

 運んでいたものを指定の位置に置くと、これから使うことになるであろう相談室が完成した。

 二人掛けのソファが二つ向かい合うようにあり、そのソファとの間には長方形で少し小さめのテーブルがひとつ置いてある形となった。

「これが楓くんの第二の我が家ともなる相談室だよ!」

「僕の家は開放感があって素敵ですね。――って嫌ですよ! ここが第二の我が家なんてっ!」

 つい先輩のペースにのってしまった。僕は咳払いをして、平静を装いながら先輩に尋ねた。

「ところで、相談にくる生徒なんて来るんですかね? ここの存在自体が周りに知られていなければ人も来ませんよ」

 生徒会長である先輩が決めたことであり、全校生徒が今日から始まる相談室のことを知る由もない。

 しかし僕の目の前にいる生徒会長は予想のはるか上をいっていた。

「大丈夫! 掲示板にも張り紙をしておいたし、生徒会で配布するプリントにも大きな記事として書いたから、みんなには伝わっているはずだよ」

「じゃあ、これから相談にくる生徒が来るかもしれないということですね」

 と、僕がそう言ったときにコンコンッと生徒会室のドアをノックする音が生徒会室内に響く。

「どうぞ、入ってきていいよ!」

 先輩は楽しそうに声を弾ませながら、生徒会室へと案内した。

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