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二次元になって出直してこい!

作者: 梅津 咲火

 どうも、ごきげんよう。梅津です!

 この作品は第二回創造小説に参加している作品なのですが、締め切り時間が10時でした。

 また、また遅刻を……!


 ごめんなさい!

 内容はラブコメです。第二回創作小説の指定が、『三人以上の恋愛要素』を入れることが規定になっていました。なっているはずです。……たぶん、ええ、おそらくきっと。

 ではどうぞ!

 転生というものを知っているだろうか。

 べつに宗教とかの勧誘じゃない。単に、現状を説明するには切っても切り離せない単語だから。それだけ。


 ネット小説では、転生とか成り変わりとかして『俺(私)Tueeeee!!!』っていうジャンルが流行っていた。オタクの私は、そういうのを読んで喜んでいた口だ。

 ちなみに発酵してはない。『早すぎたんだ』的な腐った状態にはなっていないので、あしからず。偏見とかはないけど、興味もない。

 あ、それとお気づきになっただろうか。私が過去形で話していることに。


 察しの良い人は気づいたとは思う。

 私には、『私であって私でない』もう一つの記憶がある。……ちなみに中二病ではない。

 その記憶のみ存在している彼女は、普通にオタクとして生きて交通事故で死んだ。テンプレ乙。死去した年はさんじゅ……んん、ゴホン。年齢は、おいておく。


 まぁ、ともかく。私は、前世の記憶と共存して生きてきた。

 それは、それ。これはこれ、だ。

 私は私でしかなくて。あくまでも、「渡部わたべ達水たつみ」という一個人なのだ。


 そのせいか、周りの子達とは違ってかなり幼い頃からオタクとして開花したけれど、べつに支障はない。オタク人生に悔いはなし。


 ともかく、私は私として生きようとしていた。





*** 




「ふぁわぁ~……」


 あーねむ。

 しっかり口を閉じても、次から次にあくびが出るなぁ。


 私は、ひっきりなしに出てくるあくびを噛み殺しながら歩いてた。眠気の原因は、今日の明け方までオンラインでFPSにはまっていたせいだ。

 やっぱり平日にやるのはダメだね。このままだと、学業に悪い影響が出て、親から奪われてしまう。私の親はあまりにひどくなると、さすがにストップをかける人だ。


 あともう一戦、もう一戦、と思ってやってると、止まらなくなるんだよね。あのスナック菓子の売り文句みたく、「やめられない、止まらない」だ。


 ゲームなら何でも好きだ。そもそも前世の死んだ理由も、このゲーム好きに起因する。ゲーム攻略本を買って早く読みたくて家路を急いでいて、周りを見れなかったせいで突っ込んできた車に気づかなかったからとか、笑えない。どんだけだよ、私。


 ともかく。私のゲームオタクっぷりは前世からの筋金入りで、ジャンルは問わない。RPG、育成、パズル、シューティング、格闘、恋愛、なんでもござれだ。

 前世と今世はゲームの製品ラインナップが違うので、飽きはこない。転生して一番嬉しかったのは、それかもしれない。


 へ? 転生したら勉強秀才チート?


 ないない。そんなものない。


 だからって『今世で学び直して頂点狙ったる』的な体育会系なノリとかも超無理。私には向いてない。

 そんな疲れることは、他のどこぞの主人公チートとか、悪役令嬢転生者とかがやってるって。

 私はきっとお呼びでないよ。


 平凡一番。凡才万歳。没個性ウェルカム。


 とは言っても、自分のゲームとかマンガとかアニメとか見たりやったりはしたい。だから、せいぜい資金調達できる程度の甲斐性は身につけておくつもりだけど。

 それぐらいがちょうどいい。高望みはしない。


 私の転生人生なんて、そんなもんだ。

 何事も変わらないし、変えるつもりもない。


「っと」


 なんか嫌な予感がして、立ち止まった。その根拠はなにかって?

 うーん、あえて言うなら、女のカンだよ。わかったかね、ワトソン君(迷推理)。


「ッブ!」

「ええ~……」


 目の前をすごい勢いでよぎった少年が、アスファルトの壁に激突したよ。バイクとかイノシシじゃないんだから、止まるくらいすればいいのに。

 カエルみたいにへばりついてた彼が、壁からペラリとシールみたいにはがれた。


「……」


 なwんwでwパンw? こいつ、パンくわえてるよ。

 おまけに顔面衝突してたせいか、真っ赤になってる。あと、鼻の下に走ってる線はもしや鼻血っすか?


 うわ~、残念。そしてダサい。顔だけはアイドルにいそうな可愛い系なだけに、余計ありえない。


 ないわー、と思いつつ、恐る恐る話しかけた。いや、このまま見て見ぬふりは、さすがに気まずいでしょ。


「だ、大丈夫、デスカ……」


 声を震わせただけの私偉い! よくぞ噴き出さなかった!

 そして俯きがちになって顔をあまり見せないようにしているのは勘弁してほしい。だってそうしないと、爆笑こえてる頬が丸わかりになっちゃうからね。


「大丈夫じゃないに決まってるだろ!?」


 デスヨネー。滅茶苦茶良い音してましたから。

 ならなんで聞いたのかって? 様式美だから。いわゆる、お約束です。

 噛みつくような返答になんて言えばいいのか困って、ヘラッと笑ってみせた。小市民な私は事なかれ主義なんです。


 って、なんで少年ってば固まった? ぎこちない笑顔かもしれないけど、そんなに変だったか。


「あの~」

「っ! な、ななななななんでもないし! こっちみんな!!」

「はぁ……」


 うわ、面倒な人だなー。ない、ないわー。

 とりあえずもう、去ってもいいかな? 通行人の義務は果たしたよね? そうだよね? よしそうしよう。


「元気そうでよかったですね~。では、急ぐのでさようなら~」


 にこやかに笑って、手を振った。急ぐのは本当だったから、すぐに彼に背を向けて歩く。


「え。ま、ちょ……っ!?」


 あ~あ~。なにも聞こえなーい(耳をふさぎながら)。




「あー!! さっきの女!!」

「……(無視)」


 クラスの教室で転校生として現れた彼と再会しました。テンプレテンプレ。




***




 転校生、もとい変人にどうやら私は目をつけられてしまったみたいで、なーんか授業中ずっと睨まれてた。

 しかも隣の席だったから、ビシバシ視線が飛んでくる。いらないわー。私でなく、むしろ羨ましそうに見てるあのお嬢さんにその熱視線をあげなさい。


 休み時間のたびに絡んでこようとしたから、滅茶苦茶疲れた。ちゃんとほかの人がすかさず転校生に話しかけてたから逃げれたけど、いつまで持つかなー。


「あーうざい」


 イケメンは二次元に限るって。や、確かにアイドルとかはいいよ? けどさ、身近にイケメンが現れると災害しか振りまかないって。

 可憐な女の子が猛獣に変わるし、もしその獲物と会話をしようもんなら、針のむしろ。剣山か針山になる勢いだ。


 女の子は可愛いに限る。もちろん、美しいのでもオッケーだけど。


「さて……どうしよっかな?」


 現在は、昼休み。無事に転校生から逃げれたけど、どこで昼食を食べたもんか。

 ちゃんとお弁当を持って出たから、食べるものには困らないんだけど。

学食なんて便利なものはこの高校にはないし……。


「とりあえず屋上?」


 安全上はどうかと思うんだけど、昼休みは解放されてて自由に使うことができる。これが生徒達にはいたって好評だ。

 なら、そこが異常にたまり場になりそうだけど、そうでもない。他にも中庭、屋内の休憩場、温室とかがそろってるからだ。

『そんなに金あるなら学食も作れよ!』と思ったのは私だけではあるまい。無駄なところに力を入れる学校だ。


 だから屋上はどっちかというと人が少ない。それに屋上って言っても、建物が複数の棟に分かれているから、一か所にいる人は一人いるかどうかだ。


 私としては誰もいないことを望む。一人でゆっくり食べたい。


 友人? いません。転校生に構われそうになるたびに助けずに羨んでくるだけの裏切り者はいますけど。

 世知辛い世の中だ。


 恐る恐る屋上の扉を開けると、人がいた。


「ひっく……うぇ」

「……」


 すっごく泣いてる人がいるぅ。うーわー気ぃまずぅーい。

今日は厄日かなにかなのかな? 開けた瞬間、大後悔だ。


 しかも、男の人だし。顔立ちと身長から、年上っぽい。


 男が一人で泣いてるんだから、ばれない内に退散するのが吉だろうね。


 お邪魔しましたーっと。

 静かに扉を閉めようとしたのに。


「……っぃく。……?」

「……」


 あ~あ……。目が合っちゃった。

 このままさよならしてはダメですか。ダメですね。はい。


 ここで去ったらひどい人だってことぐらい、わかる。


「あ~はは、は……は……。ど~も~……」


 とりあえず笑顔で取り繕うとしたけど、いかんせん表情筋が仕事しなかった。唇がひくついて仕方ない。


 しかもなんだ、この売れない芸人の入り方みたいなあいさつ。ないわー。完全に失敗した。


 自分の不器用さ加減にガッカリしつつ、相手さんの動向を探る。

 あれ? この人さっきはとっさで気づかなかったけど、すっごく美人だ。はかなげで、吹けば紙みたいに飛んでっちゃいそうな感じ。


 髪とか女の私よりサラサラでキューティクル満載じゃないですかー。やだー。女子力の差を見せつけないでくださーい。というか男子で女子力高いってどんだけー?


 一人でしょうもないことを考えてると、美人な兄ちゃんが苦く微笑んだ。


「あはは……恥ずかしい」


 涙がキラリしてますけど、大丈夫っすか。かといって深く聞くわけにはいけないしね。

 ま、確かに大の男が泣いてるのはどうかと思うけども、いいんじゃない。私に害がなければ。


 あんまり会話続けたくないから、もう退出していいかな。いいよね。

 と、いうわけでサクッといってみよう。


「邪魔しました。じゃ、お構いなく」

「……あ。あ、あの……!」


 なに用? 私はさっさと消えますので。むしろ早くご飯食べたいんですか。腹の虫が大合唱してるんだよ。


「もう少しここにいてほしいんだけど……ダメ?」


 な   ぜ   に


 やめろ。マジでやめろ。

 厄介事の臭いしかしないのですが。それって私に1ミリも利益ないよね?


 そもそもなんで通りがかりの私に声かけたよ。こんな美人さんなら他により取り見取り、選び放題だろうに。


 あいまいな笑顔を浮かべて、私は堂々と言ってやった。


「無理です。用事があります」

「……そう……」

「すみません。じゃ、元気になってくださいね」


 残念そうな顔をした美人を放置して帰った。

 すみませんね、兄ちゃん。私みたいなゲーオタでなく、お似合いな女の人を捕まえて慰めてもらってください。


 私には昼食を食うという重大な使命があるので。




***





 屋上が無理となると、今度はどこに行こうかな。他の棟の屋上に行くのは面倒だから、いっそのこと温室にでも向かってみよう。

 空いてるといいなー。今度はさっきみたいに、気まずくなるような先客がいないことを望む。

 それにしても、今日はやたら顔が整った面子に囲まれる日だ。ついているんだかいないんだか。なんだか複雑だ。

 廊下を歩いてると、後ろから声をかけられた。


「おい、そこのお前」


 気のせいだった。


 無視して歩いていると、「お、おいっ」と焦った様子で男が声をかけてきた。


「そこのお前だ! おかっぱ髪の女」


 これはボブショート!

 しっかしなんだ、この人。人の髪型いきなり侮辱するとか、マジで失礼なんですけど。

 あとなに? お前呼びとか。ありえないんですけど。社会常識身につけなよ。前世喪女(あ、言ってしまった!)の私ですらわかってるのに。

 こんな調子じゃ、身の回りに敵しかできないんじゃない?


「……なにか」


 このまま黙って過ぎるのも面倒なことが増える気がしたから、対応をすることにした。渋々ながら返事をした私に、奴は鼻白んだみたいだった。

 けど、そんなことは知らん。さっさと用件を言え、少年。私は先を急いでいるんだ。


「そうだ、お前だお前。暇そうだから、俺の手伝いを命じる」

「はぁ?」


 なに言ってんだこいつ。頭イっちゃってるんじゃないの?

 フンッと腕組みをして私を見下ろしてくる双眼を、胡乱うろんげに見返した。


 こいつもこいつでド迫力な美形だなー。金髪とその俺様な口調に、本当の王子みたいだ。

 とはいっても、私にとってはふざけたことを抜かす通りすがりの傍若無人でしかないから、バカにしか思えない。いっそのこと、心の中ではバカ王子と呼ぼうか。


 目の前のバカ王子は、私に対してニヒルな笑みを向けた。

 う~わ~。うざ~い。


「断る、なんてことはしないだろうな」

「……」


 どっから湧くんだ、その自信。

 この人の人生はきっと幸せなんだろうなー。きっと何にも考えずに生きてこられたに違いない。もしくは、周囲の人たちに恵まれたのか。



「いえ、もちろん断りますがなにか」

「な!?」



ひざまずけ、平民! お、俺を誰だと思っているんだ!」

「誰って……誰ですか」


 本当に誰だよ。むしろこいつ、誰でも自分のこと知ってるとでも思ってるの?

 だとしたら痛い。痛いわー。


 内心呆れて首を左右に振った。見た目ワイルドイケメンなのに、中身これとか、ないわー。


 早く解放してくれないかな。私はご飯食べたいんだけど。

 ぼんやりした私に反して、目の前のバカ王子はフッと息をついた。


「ッは。面白い」


 え、どこに笑う要素はありました? ないでしょ。ないよね。

 当たり前の受け答えしかしてないのに、何が楽しいの。


 ポカーンと口を開いてしまったら、私の硬化を加速するようなことが起きた。


「お、お前がどうしても、というのなら、げ、下僕にしてもいいが?」


 チラチラと横目でこっち見てくんな。あと頬も染めんな。

ウザいしキモイんですけど。不安と期待とか顔に出しても、私の答えは一択だから。


「え? もちろん嫌だけど?」


 撃沈して廊下にうずくまった男を置いて、私は時計を確認した。


「っげ」


 もう時間がない。……仕方ない、教室に戻るしかないか。

 背後の人物同様にうなだれたまま私はトボトボと歩いて行った。




***




「はぁ……」


 やっと、5時間目が終わった。すっごく長く感じたよ。


 本当に災難。ついてない日にもほどがある。

 教室に戻ってからお昼弁当を急いで口にかきこんだから、食べた気もしない。そのせいで授業中気持ち悪くなるし。

 そもそも今日は寝不足だから、体調だって悪くなりやすいんだよ。それなのに……。


 思い出すと、急に眠気が襲ってきた。自覚しちゃうと、こういうのって一気にドッとその分くるんだよね。


 あくびを大きく一つ出した。乙女としてはしたないが、許してほしい。口を覆うくらいはしているから。


 休み時間中だし、寝てしまおうか。いやでもそうしたら最後、6時間目が始まっても目がさめない気がする。


「たつぴょん、眠そうだね! おはようのちゅーしてあげようか?」

「ウザい。ないわー。おやすみー」

「ひどいよ! 幼なじみにそのセリフ!?」

「ん~……zzz」

「寝ないでってば!」


 なんだ、私は貴重な惰眠をむさぼるのに忙しいんだけど。

 眠り眼をこすると、長年見慣れた男の姿が見えた。私と目が合うと、彼は明るい笑顔をみせた。


 寝起きにその顔はつらいんだけど。顔取り換えてくれないかな。ほら、あのパン屋さんのヒーローみたいな。そうしたら、顔が食料にもなるし便利だと思うんだよね。


 そんなくだらないことを考えつつ、私はもう一度あくびをもらした。


「なに?」


 幼なじみの裕翔ゆうとの顔を見返した。同い年なのに年下の女の子にしか見えないベビーフェイス。

 普段から見慣れてるからイラッとしないけど、全くの知らない相手なら話しかけるのも嫌だな。


 今だって、こいつ自身が私のことを幼なじみとして認定してるから周りにやっかまれてないけど、そうじゃなかったら絶対にイジメられてた。


 あ、実際に中学のときにイジメられたっけ。そん時はクラスの女子だったなー。まさか生で、「生意気なのよ、あんた!」を体験するとは。

 幼なじみかつ友達でしかないのに、ひがむ要素なんて皆無だと思うんだけどねー。


 そういえば、そのイジメっていつの間にかなくなったんだけど、一体どうしてだったか? してきた女の子たちの姿が急に見えなくなったんだよね。転校でもしたのかな。


 私の聞き返しに、裕翔は唇をとがらせた。

 ウザい! キモくなくて可愛いところが余計にな!


「なにって……それはこっちのセリフでしょー?」

「だから、なにがよ。ただ眠いだけなんだけど」


 あ~ねむ。

 またひとつ大あくびした私に、裕翔は眉をひそめた。


「また、ゲーム?」

「ん、そう。あと、たぶん精神的な疲れ?」

「……なにかあったの?」


 朝からの美形三つを思い出して、私は頬がひきつった。


「よかったら話して? 話すだけでも、楽になるよ?」

「裕翔」


 笑顔を浮かべる幼なじみの背中に後光が見える。

 お言葉に甘えて話してみようかな。幼なじみの特権ってことで。


 朝に転校生に出会ったこと、昼休みに出会った美人な兄ちゃん、廊下で呼び止められたバカ王子のことを話している間、静かに裕翔は聞き役に徹してくれた。変に相槌を打たれなかったのもよかったのかもしれない。


「……って、ことがあって。ね、ありえないよね~」

「……」

「……? 裕翔? どした?」


 お~い。黙ってどうしたのさ。寡黙キャラじゃなくって、明るいにぎやかなお調子者キャラでしょ。

 それとも、そんなに聞き入ってるのか?


 うつむいて見えない幼なじみの顔を、そっと下からのぞき込んだ。

 って、アレ? なんかボソボソ言ってる?


「たつぴょんは俺のなのに、なんでなんでなんでなんで……」


 え、ちょっと。目から光がなくなってるんだけど。

 怖い。マジで怖い。なんだ、どうした?


 目の前で手を振ってみる。見えてますか~?


「も、もしもーし……」

「たつぴょんの目に映るのは俺だけでいいのに。なんで他の奴なんか見るんだよ。……ああそうか、目を取っちゃえばいいんだ。でもたつぴょんが痛いのは嫌だなぁ。でも、たつぴょんの目もほしいな。やっぱり……」


 ……。

 …………ひ、ひぃぃぃぃぃいいいいいいい!!


 怖ぇええええええええ!!

 なんだ、どうした!? 私の知ってる幼なじみじゃないんだけど!


 背筋に伝う汗が冷たくって仕方ないわっ! もうすぐ夏なのに寒いし!


 肩を震わせてガタガタ奥歯を鳴らしていると、私の呼びかけに遅くなりながら気づいた彼が、にっこりと甘く笑った。


「あ、ごめ~んたつぴょん! よく聞こえなかったんだけど、なにか言ったぁ? もう一回教えて?」

「……な、ナンデモナイデス」


 なんでいつもと同じ笑顔で笑ってるんだよぉおおおおお!?

 恐怖しかないわ! 私の日常がジェノサイドに侵略されようとしてる!?


 どこに行ったよ! 私の平凡な日常は!




***



 一日の授業が終わった。

 終礼後すぐにサイコな幼なじみから走り去って逃げ帰ったけど、心臓がいまだにバクバクしてる。思わず後ろを何度も振り返ったよ。


 チラ。……よし、いない。


 一日でトラウマができてしまった。奴は奴で手におえない魔物に変化しやがったし。

 癒しがほしい。癒しが。


 学校が魔窟になってしまうなんて。


「明日から不登校は……」


 無理ですよねー。あの父親が許すわけがないし。

 そもそもそんなことしようものなら、今日の件を知らない父が裕翔に目覚まし役を頼んでしまいそうだ。

 それだけは避けないと! 地雷が毎日やってくるとか……悪夢だわ。


 むしろ、そのまま目玉ほじくり取られるとか……あ、しまった。自分で今フラグたてた気がする。


 一軒家の自宅にたどり着くと、なんか一台の車が停まってた。


「トラック……」


 ヤバい。嫌な予感しかしない。

 頭の中で鳴る危険を告げるアラームがうるさい。


 この展開って、いや、まさか。


 呆然と立ち尽くす私をよそに、玄関の扉が開いた。


「あ」


 目が合うと、何故か(、、、)私の家から現れたイケメンのお兄さんが笑いかけた。20代前半くらいの大人らしい精悍せいかんな顔を、無防備にゆるめている。

 って、なんだこの色っぽい兄さん! 白の薄手セーターからのぞく鎖骨がセクシーですね、その色気をわけろこんちくしょう!


 戸惑う私をよそに、彼はほほ笑んだ。目の横の泣きホクロが魅力的ですねこの野郎。


「おかえり~」

「は……た、ただい、ま?」

「うん」


 ちょっと待て私。なんで普通に返事しちゃってるのさ。いくらなんでも流されすぎでしょ。


「あの――」

「お、帰ったか」


 誰だよあんた。そう言いかけた私の言葉をさえぎって、家の中から覚えのある声がした。


「父さん」

「どうだ、美人だろ!」


 や、なんであんたがそんな得意げな顔してんだよ。しかも、どうして肩組んでるのさ。

 そしてお兄さん、苦笑だけじゃなくって振り払っていいっすよ。そこの中年調子のってウザいでしょう。


「義父さん……達水さんが困ってます」

「お? 悪い悪い!」


 ガハハと下品に笑いながら、彼の肩をバシバシと叩く父。おばさん臭いぞ、クソ親父よ。そしていい加減彼を解放してやれ、セクハラだ。


「達哉さん? 達水ちゃんが帰ったのかしら?」

「おお、ちょうどいい。央美さんもあいさつしてくれ」


 後ろから顔を出した女性を見て、父の顔が崩壊した。夏場のアイスみたいにデロデロだ。

 確かに綺麗な奥様風の女性だけど、もうちょい取り繕いなよ。ひどいことになってるから。



 ……って、アレ。なんか、なんだかさぁ。

 この後の展開が、予想つくんだけど。



 ――『これから我々は家族だ!』


 

 クソ親父の意気揚々といった声が聞こえた気がする。


 目の前の父を見ると、女の人の腰に手を回してた。

 ちょっと、なにしてんのさ。なに娘の前でセクハラしてんの。


「よく聞け。父さんはこの央美さんと再婚した!」

「……は?」


 え、ちょ、マジで? 正気かこの中年。

 冗談かと思って奥さんの顔を見れば、恥ずかしそうに頬を染めつつもにっこりはにかんでるし。か~わ~え~え~!!

 大人の女の人が照れてる姿って可愛いしいいよね! グッとくる!


 って、ちょい待った。この反応って、さ。


 もう一度父の顔を見れば、親指を立ててドヤ顔をさらしてた。

 マジで!? ありえないでしょ! とりあえず事前に言えよとか色々文句はあるけど、よくやったバカ親父!


「これから我々は家族だ!」

「お、おおう……」


 目を輝かせてる中年に拍手を送ってると、隣にそっと寄り添った女の人……いや、お義母さんがほほ笑んでる。その様子を、ほのぼのと眺めるお兄さん。


 ――いや、ちょ~っと待った。


「聞いてもいいかな、父よ」

「なんだい娘よ」

「あのさ、あの人は誰?」


 自然と場に交じってたお兄さんを指すと、父は笑った。


「お前の兄だ」

「は!?」

「そしてこれから皆で暮らすぞ!」

「はぁ!?」


 ありえないでしょ!? なに言ってんだ、この中年!

 こういうのが許されるのは二次元だけだって!


 ってあれ、この展開、どっかであったわー。

 どこだっけ? すっごく昔に似たような状況を見た気がする。

 えーっと……? 


 記憶の中を隅なく探してると、どこかでカチッと音がした。


「あ」


 一気に記憶が蘇った。



 *



『ど、どこ見てんのよ変態! スケベ! こっち見ないでよ!』

 パンツが見えてたスカートを押さえて、可愛い子犬みたいな女の子が顔を真っ赤にして叫んだ。

『あー!! さっきの男!!』

 転校してきた彼女との再会。



 *



『あはは……恥ずかしい』

 頬を伝ってた涙を、恥ずかしそうに拭う清楚系の彼女。

『もう少しここにいてほしいんだけど……ダメ?』

 照れながら、上目づかいにお願いをしてくる目と合う。



 *



ひざまずきなさい、平民! 私を誰だと思っているの?』

 偉そうに高笑いをしながら、見下ろしてくる金髪のお嬢様。

『あ、あなたがどうしても、というのなら、げ、下僕にしてあげてもよろしくってよ?』

 チラチラと横目でうかがう少女の横顔は、不安と期待とが混じった表情で。



 *



『たつぴょん、眠そうだね! おはようのちゅーしてあげようか?』

 ニコと明るく笑って、元気に冗談を言う幼馴染み。

『たつぴょんは私のなのに、なんでなんでなんでなんで……』

 普段の様子とは異なって、目から生気をなくしブツブツと呟く。



 *



「え”」


 ……マジで?


「嘘……え……」


 ない、ないわ。ありえない。

 そうは思っているものの、どう考えても、この結論しか出そうにない。




 ゲームなら何でも好きだった私は、前世に恋愛ゲームにも手を出してた。

 そして、乙女ゲームよりもギャルゲー派。


 あ、乙女ゲーは女子が周囲の男子に次々好かれていくゲームね。ギャルゲーは逆に、男が周囲の女子を攻略していく。


 女の私がギャルゲー派だったのはいたって単純。そのほうがゲームの好みだから。誤解されてたら困るから補足しとくと、性癖はノーマルだからね。


 だって、ヒロインたち可愛いし。むさい男を攻略するより、生産的じゃない?


 その中でも、特に好きだったのが、『ラブメイト!』っていうダッサイネームのゲーム。コテコテな展開ではあったんだけど、そこが癖になって、何回もやり直したもんだ。


 そして気づいてしまったけど、今日出会った、もしくは聞いた内容は、その中のキャラのセリフにそっくりだった。


 というより、そのもの。



 私の前世で死んだときは攻略本を買った帰りだ。そう……この『ラブメイト!』の攻略本を買った後に、交通事故にあった。

 どうやら、死に方がテンプレだったせいか、これまた、転生後もありがちな展開になったみたいだ。


 今日気づいたけど、私はゲームの中に転生したようで。



 ――それも、ギャルゲーの主人公に!!



 ない! ありえないわ! 私の嫁達返せ!

 なんでTSして劣化してんの!? 三次元のイケメンはいらないって!


 女子のほうが友達になれて、キャッキャうふふで楽しいのに!


 なにか? 私が女だから、合わせたのか? いらないわそんな気遣い!


 乙女ゲーに転生はテンプレだけど、ギャルゲー(TS)の世界に転生って誰得?  少なくとも、私は得しない。むしろ損してるわ。マジで返せ、私の嫁達。



 思わず心の中で頭を抱えた私に、現実の彼が艶っぽく微笑みかける。

 ウザい。まぶしい。エロい。


「よろしくね、妹ちゃん♪」


 したくない!! だれが、よろしくなんてするもんか!

 第一あんただって、ゲーム上はエロ可愛い色気たっぷりのお姉様だったのに! どうして色気ムンムンの兄貴になってるの!?


 いらん、こんな歩く猥褻わいせつ物!

 第一、ゲームでは夜這いイベントとかあったよね!? それが男性バージョンとか犯罪臭しかしない。

 「おまわりさん、こっちです」ネタを使う機会なんて、永遠に欲しくなかった。


 叫んでやりたいけれど、ニコニコの義母と父の顔がそれをはばかった。


「……はぁ」


 ……本当にどうして、こうなった。




 ――マジで全員、二次元になって出直してこい。






 ※補足:TSとは「性転換」という意味です。♂→♀になったり、♀→♂になったりした人を指します。


 いかがだったでしょうか。

 主人公はこれから非常に大変な日常を送ることになるでしょう。自宅に一人注意人物と幼なじみにヤンデレがいますしね!

 頑張れ、たつぴょん!


 読んでくださったあなたに、最大限の感謝を。

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