87話目 到達者VS異能者
お待たせいたしました。
これからはいつものペースに戻れると思われます
すっかり夜遅く、しかし街から灯が消えることはない。
広い街道に並ぶビルは、未だに営みの光を輝かせている。
「ああ、こんな世界でも社畜が蔓延っているのか。理想とは……」
「結城、社畜とはどういう意味でしょうか」
ゾーイの問いに、結城は首を横に振る。
「なんでもない。気にしないでくれ」
「それと、ドクから帰還要請がでています」
「そうか、なら帰ろう。どっかでタクシーでも……」
するとゾーイは通信機能を使って、タクシー会社に電話し始めた。
「では呼び出します。しばらくお待ちください」
「いやぁ、いい街だったな」
結城はこの前世の摩天楼に似た場所で十分に満喫することが出来た。
自宅にあるパソコンを買い換えるもよし、この世界で流行しているアニメのグッズも買った。
アニメチックな世界でアニメを見る。なんと贅沢なことか、と結城は一人感慨に浸る。
前世もはるか遠く、よくもこんなところまで来てしまったものだと。
「マスター、ご満足いただけましたか?」
レイランに問われ、結城は頷く。
「ああ、存分に堪能した。でもレイランは……」
「いえ、私はマスターと共にあれるだけで幸福ですから。それよりも」
レイランの視線は俺から隣の新月に移る。
「疲れましたわ……都会は広すぎですわよ」
無理もない。結城の気を引くために、その気使いは出来る男のそれだ。
良さげな店が無いか常に目を光らせ、またアピールする。
新月のファッションショーが始まった時には、それはそれは意気込みを感じさせたものだ。
「レイランも何か買えばよかったのに。その青い服も良いけど、たまにはオシャレしてみてもいいんじゃないか?」
「私には、こういうのはよく分かりませんので」
「まあ、俺もファッションはよく分からない」
結城もやはり選ぶのは手軽なシャツとジーンズくらいで、オシャレの欠片もなかった。
最終的には新月にチョイスしてもらったものを買ったが。
また、ゾーイはシールに興味を示した。
だから現在、ゾーイの武装にはエンブレムのような鷲のシールやら鰐のシールやらがところどころに装飾されている。
「さて、息抜きの時間も終わりか。また皆で来れるといいな」
「はい、結城。私もそう思います」
「次はもうちょっと結城にエスコートしてほしいものですわね」
タクシーが到着し、荷物をトランクに積めて乗り込む。レイランが前に、後部座席では結城を中央に、新月とゾーイが両端に座る。
乗り込んでから間も無く、新月は眠りに落ち、結城の肩に寄りかかっている。
「結城」
「どうしたゾーイ」
「結局、私には生命がよく分かりませんでした。生きるということはなんなのか、自分とはいったいなんであるのか……私は答えを見つけられるでしょうか」
そう問われ、結城は少し黙考する。
「それは恐らく、賢さこじらせた人間は誰でもやってる自然なことだ。俺も含めて」
生きるとは何か、生命の定義とは何か、自分とは何者か。人はどこから来て、どこへ行くのか。
命とは、魂とは?
「生命が生命を考える。こんなことをするのは人間くらいだ。逆に野生を生きるモンスターや動物は、そんなこと考えもしないだろう。知らんけど」
ならば、生命がなんであるのか、という問いに考えるゾーイは?
「生命が何かは俺も分からない。喜怒哀楽だって電気信号だっていうし。ただ、俺から見てゾーイは十分に生命だと思うよ」
「なるほど……」
とはいえ、人間ですらそんなことを考える奴は稀だろうけど、と結城は付け足した。
「最後のテストをしたいんだよ」
到着した結城たちは、ドクによって広場に集められた。
凄まじい光の量でライトアップされた広場はまるで昼間のようだった。
激しい戦いを繰り広げたクロードやMGシリーズも復活している。
「テストって、昼間にやったろ」
「ああ、ゾーイのモニタリングを見たんだね。そう。でもまだテストをしてないメンバーがいるじゃないか」
テストをしていないメンバー。となると、対象は俺とゾーイ、そして……異能者の二人。
「というわけで結城、ゾーイ、君たちは<無間の風>と<マクスウェルの魔女>の二人と戦ってもらうよ」
「よろしくお願いする」
ドクの背後、青髪の青年と、金髪の少女が並び立つ。
「クロードと互角に渡り合ったというあの……」
「ユートピアを陥落させたその実力、見せてもらおう」
その上から目線が気に障ったか、結城は悪そうな笑みを湛えて見下すように言った。
「随分と偉そうだな三番手。さて……ルールは?」
「うーんそうだね。状況を想定しようか。ゾーイはアルティマティオスの身体能力を全開。しかし仮想システムは使用不可。これでどこまでやれるかを見たい。あとは結城は既存の妄想技術は全て通用しなくなった、というシチュエーションで」
「既存の妄想技術?」
「ほら、君の心の中で飼ってる光と闇とか、虹色の剣とか」
「全部即興で、その場の妄想でなんとかしろってことか!?」
「まあそういうことだね。さすがに難しいかな?」
煽られているように感じる結城だが、ここは落ち着いて冷静に考える。
さすがに即興妄想でユートピアの猛者と戦うのは不安だった。
「いいんじゃないか? 受けても」
心の中、そう言うのはクリストだった。
「さすがに不利すぎるだろ」
「身体能力的な増強は大丈夫だろうし、ゾーイもいる」
「でもゾーイだって仮想システム使えないって」
「そこはお前が即興の妄想で補ってやればいい。なんとかなるさ」
しかし、結城はいまだに躊躇する。ふとクリストが言う。
「結城、お前は優しい男で、自分の妄想をよく愛している。その思いはきっと妄想存在も嬉しかろう。ただな……それで満足したら、そこで止まるぞ?」
結城の心の中であるから、指摘そのものは間違っていなかった。しかし、その言葉は結城にあることを気付かせる。
「お前が望む永遠の妄想。しかし、究めることを怠ればやはり曇る。長久の輝きを望むなら、止まってはならない」
永遠を望むがゆえに、避けては通れぬ持続。維持しなければならない、技巧の練磨。
既存の妄想には思い入れがある。しかしそればかりを溺愛しているだけでは、新たに作り出す<妄想>は曇り、腐る。
思い入れが新たなるモノに凌駕される。それを恐れていてはならない。克服しなければならない宿命。
「分かった。その条件を飲む」
「よし、その勇気こそお前の証だ。誇れ」
心の中で、クリストが称える中、それじゃあ早速とドクが下がる。
「はい、始め」
あまりに呆気なく始まった瞬間、結城はその一瞬を捉え損ねた。
極限までに圧縮された空気の球。それは結城の目の前で、容赦なく爆発した。
妄想も自由が利かず、しかも不意打ち、殺傷には十分の威力。
「……よく堪えた、レイラン」
「畏れながらマスター、今回ばかりはもう少し余分に褒めていただけませんか」
若干怒り気味のレイランから目を逸らしつつ、結城は眼前を見る。
「ありがとう、ゾーイ」
「問題ありません。自己修復範囲内です」
超絶の機体、アルティマティオス。損傷は軽微。外装が震え、計器の再チェックが必要な程度。
「しかし油断だったな」
これではいけない。せっかくのこの境地、即死で全てパーというにはあまりにも勿体無い。
結城はふと片手に手帳とペンを用意し、書き記す。
思わぬ行動に、今度はエアが呆気に取られた。
「なにを、している」
「うん? ああ、妄想のネタというか、題材? を書いてる。即死技に対抗する妄想をね。さて……じゃあ始めるか、異能者」
妄想は自由であるからこそ。即興とはいえ、結城には造作もない。
「即興妄想! クリスタルソ……ブレード!」
出現したのは虹色の剣、ではなく、青水晶でカラーリングを合わせた二本の刀。そして、それはゾーイの手にあった。
「ゾーイ、俺がお前の仮想になる。好きに動け」
妄想でゾーイと思考を同調させ、即座に妄想を反映できるようにする。
「……任務了解。行動を開始します」
同調させた思考は、結城の思考をゾーイに伝えることも出来る。
全てを理解したゾーイは人間ではなしえない瞬発力でエアとマクスウェルに急速接近する。
「ッ!」
だがエアはそれを予知していたかのように、流れる動作で大気の刃を作り出し、受け止める。
ゾーイは内蔵された計測器で、それを瞬時に観察、解析する。
「分析……異能によって風に指向性を持たせ、擬似的に剣の形に固定している」
「マクスウェル、能力調整は終わったんだな?」
「うん。上限内なら、大丈夫」
「よし、ならやっていい」
エアの言葉を聞き、マクスウェルの魔女は強く頷いた。
「私、がんばる」
マクスウェルの周囲の大気が揺らめき、突然に発火する。地面はのたうち、空気中の水分が集まり水滴が浮遊する。
宙にて踊る烈火の蛇。どこまでも続く水滴の群れ。自ら砕け蠢く地面。自然のありとあらゆるものを、物理法則に抗い意のままに操る。
その姿こそ魔性、その所業こそ異能。
「やっと、エアと戦える」
魔女の瞳に宿る強い意思。まさに理想を遂げんとする立派な理想者の目だった。
相対する二組を、傍から見物するクロードらはというと。
「結局、決着はつかなかったんだよ」
クロードは真剣な表情で彼らを見つめている。
「力を使い果たして、両者行動不能により引き分け。でも、今の彼らは……」
「それでもマスターは勝利します。必ずです」
レイランの確信に満ちた声。
「そして私はあの方にお褒め頂くのです」
「確かに、レイランがあそこで出るのを堪えるなんて、思いませんでしたわ」
新月が悪戯っぽく笑う。
「とはいえ、相手はユートピアのトップクラス。油断は出来ませんわ」
「そういえば、君たちはユートピアに来たことがあるんだよね。あのゾーイっていうのは?」
「私はよく分かりませんけど、まあいわゆるロボットですわ。命を持った」
「ロボットが命を?」
クロードの問いに新月が適当に解説している。
一方、同じ兵器であるMGの三人は、性能差に愕然としていた。
「なんだあの速度!」
「砲弾と速度がほとんど同じだ……」
「あれは斬れない」
開発者である博士も、ドクの傑作を前にしては唸るしかない。
「人造兵器じゃ限界なのか……いや、しかし」
迫る烈火の蛇を高速で回り込み、刀で切り捨てる。
妄想によって出来た刀だからか、異能に対しても斬撃が効果を発揮している。
さらに降り注ぐ小さな水球の弾丸を機敏に動いて回避する。
軽快な動きがエアを翻弄し、ウェルも動きを見極めきれずに援護が出来ない。
「うーん、アルティマティオスの身体機能をちょっと強化しすぎたかな。まあでも彼らならなんとかできるさきっと」
一人楽観するドクに、隣にいる朱が口を挟む。
「お前は本当に、科学者とは思えない杜撰さだな」
「分かってないなぁ。こういうのは適当な方が意外な発見ができるものなんだよ。なんでもかんでもマニュアル通りじゃ従来どおりの結果しか出てこない」
水の弾丸の雨を前後左右に回避し、稀に二本の剣で弾き飛ばす。烈火の蛇も身を捻って回り込み首を切り落とす。
地面から穿つ棘は、上昇して範囲外に逃れる。
「飛ぶか!」
「結城、お願いします」
「分かってる」
結城が次なる妄想を顕現する。黒をベースに、青い光の十字ラインが走る銃身。
横に傾けて、照準を合わせる。
「即興妄想、黒金・青十字だ」
引き金が引かれるとともに、銃口から虹色の閃光が吹くと同時、エアは風を操り銃弾を逸らそうとする。
「っ!?」
弾丸は辛うじて、エアの頬を掠める程度にまで逸れた。
「即興とて、俺の妄想は筋金入りさ」
「……なるほど。手加減の必要はないな」
立ち尽くし妄想する結城、空中から見下ろすゾーイ。
二つを見やり、そしてエアは目を閉じた。
「異能拘束、任意解除。コード:ラプラスの天魔」
エアはそう呟いて、再び目を開いた。
「なるほど。こうすれば倒せるのか」
ゾーイが躊躇いなくエアに襲い掛かる。
だが、エアはさして動じることもなく手を向けた。
ゾーイの刃がエアの眼前に迫った瞬間、破裂音と共にエアの姿が消失した。
「ターゲット、右方」
アルティマティオスのセンサーは高機能。視覚だけに頼らない知覚システムは、エアが空気の爆発によって加速したことを感知していた。
そしてどこに移動したのかも。ゾーイは即座に振り返ると同時に横に切り払う。
エアはそれを見越していたように身を伏せて回避し、そっとアルティマティオスの胸に手を置いた。
「エア・ストライク」
耳を劈く破裂音と共に、アルティマティオスは勢いよく吹き飛ばされる。
しかし、何事もなかったように身を翻して勢いを殺し、空中に停滞する。
「損傷、軽微」
「頑丈だな」
エアは左右の手を大きく開き、自身の左右に風を集める。
右の風は草木を発火させるほどの熱風。左の風は地面を瞬時に凍土へと帰る冷風。左右の手を振るうと、風はエアの手足の如く、自在に操られ、ゾーイを襲う。
のだが、その程度の環境はゾーイに対してなんら効果を発揮しなかった。
「そりゃ当然さ。ゾーイはあらゆる環境に対応できるように作られたんだからね。全極地適応型万能可変超機動多機能戦闘機の名は伊達じゃない」
しかし、それでもウェルの異能を回避したのは、それが魔力を持ったものだからだ。
いかに頑強な機体といえど、魔力はそういった条理さえ覆す未知数の存在。容易に受けるわけにはいかない。
「結城」
「承知」
即座に顕現させるは、二本の長い銃身。
「名づけて、破壊天使の双翼。しかもチャージ済み」
「完璧です」
銃口はそれぞれに向けられ、極大の光の奔流が襲う。
ここまでか。と誰もが思うであろうこの状況、容赦なく光は二人を焼き尽くす……。
「……うん? ちょっとやりすぎた?」
「気にするな。まだ終わってはいない」
その声は上空から聞こえた。
ゾーイも気付けば上を見上げている。ゾーイの視線を追うと、そこには二人の姿があった。
「と、飛んでる」
エアは飛んでいた。生身のままで、なんの機械も、生き物も使わずに。
また、傍らには光の翼を背に生やしたウェル。
ウェルはともかくとして、エアがどうやって飛んでいるのかが見定められない。
「いや、この音は……そうか。足か」
エアの方から聞こえるジェット噴射の音。
「……そういえば、あんたらの理想、聞いてなかったな」
「俺の理想はこいつを、守り抜くことだ」
「私は、彼を護る」
相思相愛。彼らの間に一寸の隙もない。美しいほどに愛し合っていた。
「いい理想だな。俺の理想は、妄想の世界を創ること」
「その理想で、このユートピアを落としたのか」
今回はただのテスト。全力で向かうようなことはしない。ただ、敬意は表したかった。
「ゾーイ、これで決めよう」
「了解」
「試される側から試す側になるなんて、思いもしなかったな」
結城はありったけの妄想をゾーイに持たせる。
水晶の刀は腰の左右に、双翼の銃砲は両肩に、エネルギーシールドは背部に、各種サブウェポンは妄想を同調させ、ゾーイが望むと同時に取り出せるようになった。
「じゃあ私も……」
ウェルの瞳が、ふと夕焼けの橙から鮮血の紅色へと変わる。
「私の魔法、見せてあげる」
異能の少女は、新月にも劣らぬ美しい金髪をかきあげた。
「重力魔法・グラビティ」
飛び上がろうとしたゾーイは、重力によって押しつぶされる。
だが、ゾーイは重力の範囲から一瞬にして姿を消した。
「っ!?」
「後ろだウェル!」
ウェルが振り返ると、そこには刀を振り上げるゾーイの姿。
咄嗟にエアが間に入り、ゾーイの斬撃を風の刃で受け止める。
「ぐっ……下がれウェル!」
クロードの聖剣、ペルフェルクトに匹敵する風の刃。だが、水晶の刀は徐々に風の刃に切り込みを入れ始める。
「どうした。たった一人の少女も護れないのか。それでクロードと互角に渡り合うとはな」
「言ってろ」
エアの空いた左手、そこに風が集うのを見た。
「回避だ! ゾーイ!」
結城の叫びは、それより先に思考が伝わっていた。
咄嗟の回避とほぼ同時、エアが突き出した左手から、極光が放たれる。
アルティマティオスの装甲さえも脅かす、あの光。結城は想像を口にする。
「嵐、か?」
「よく分かったな。これは嵐の凝縮。風によって引き起こされる暴風暴雨の嵐、砂嵐、そして磁気嵐まで含め、雷へと変換圧縮した破滅の光だ」
空気を操ることそのものが、すでに自然における全ての事象を掌握できるとするならば、それはもはや神と呼んで相違ない。
結城は、エアという存在の認識を改めていた。ただし違う意味で。
「こいつは、下手したら一番ヤバイタイプだ」
理想において、もっとも力を発揮するのは執着だ。結城自身、それを原動力にしてきた。
クロードは仲間を大切にしたいという純粋な思いではあるが、そこに命すらかける偏執がある。それと対峙したケイオスやアクアマリンは、異常な拘りを持ち、その妄執を譲ることが無い。
二人は強大な理想人であり、それこそいよいよもって理想を遂げるであろうと思えるほどに。
だが、あれはそういうものとはまた違ったものだ。
強いて言えば「愛執」。これは主にレイランや銀風などが抱いているものだ。
そして結城が妄想世界に対して抱いているものでもある。愛して止まないモノのためならば、賭した命すら譲らないのだ。愛する者を悲しませないために。
だから結城は知っている。こういう奴は、しぶとすぎる。
「クソッ、思いのほかやるじゃないか」
「あなたの相手は私」
ウェルの声が背後から聞こえた。結城は咄嗟に跳んだ。
しかし時すでに遅く、烈火の蛇が足首に巻きついているため、距離を取れない。
「私の相手は、あなた?」
「……俺が言うべきことじゃないが、こんなのを二人同時に相手するのか」
自分に似た愛執の徒を相手に、結城は苦笑した。
さて、どれほどの力があれば、この少女を倒せるだろうか
「エアには……風間には絶対近づけさせない」
「風間、それが奴の名か」
ウェルは細かい水弾の雨をこちらに降らせる。
「フィールド展開!」
もはや一々名前を考えている暇もない。
ならばと結城は異能を妄想する。
「あっ、そうか。異能ってのはこういうことか。なら、こうか?」
結城はやや恰好付けるように手をかざと、その手にバチバチと電光を走らせる。光と音は次第に増して、やがてそれは一振りの雷と化した。
「名づけて、サンダーソード」
「あなたも、異能を……なら」
ウェルは両手を組み、まるで神に祈りを捧げるかのように瞳を閉じる。
「光……破壊の光を……」
徐々に光が集合し、輝きを始めるその光。そして、熱。
「え、ちょ、待って。それって、その光って洒落にならない奴だろ?」
「絶対に、風間を護る。風間を護るためなら、全員を……」
結城は戦慄した。その方法はあまりに愚直で、しかし効果的だった。
ウェルが行っているのは祈り。
愛着から来る祈りは一種の覚醒状態。それが意味するところは、邪念を一切取り払った純度100%の妄想を創り出すだろう。
そして魔法は想像力がものをいうジャンルだ。
「俺と妄想で張り合おうっていうのかッ……面白いッ!」
結城はその手に持つ雷光の剣に、さらに妄想を込める。網膜を焼き尽くさんとするほど激しい光。
しかし、直感が結城に告げるのは、自分が不利であるという警告だ。
「どこまで膨らむんだあの光……」
その光の正体は察しが付いていた。破壊と消滅の権化。人から忌避されし災厄の光に違いない。
噂に寄れば、その威力はどこまででも引き上げられるという。
対し、こちらはただの雷モドキ。限界値の差は歴然だ。
できることなら虹色の剣を持ち出したい。
葛藤する結城に、一つの閃きが訪れた。
「待てよ?」
方法は二つ。このサンダーソードで早々に少女を討つ。
或いは、このサンダーソードを光へと変換しとあるもう一つの形にする。
わざわざ相手の土俵に立って妄想する必要はなく、やはり自分に必要なのは神秘を信じ、奇跡を起こす妄想だ。
「どうせだし、そっちでやるか」
結城はその雷光を変換し始める。そこには、彩色のカーテンが生み出されつつあった。




