85話目 両雄激突
「よっしゃ行くぜー!」
好戦的なフェイが一気に離陸。続いてルージュも離陸し、パティも緩やかに全身を開始する。
「さて、ではこちらも行きましょうか」
「そうね。さっさと終わらせてショッピングにでも行きたいわ」
アクアマリンとガイアモンドが前に出る。
「あっ、二人とも!」
「ご心配なく。身内の相手なら私たちだけで十分。安全無欠はあの黒いほうを見張ってて」
魔耶はガイアモンドを見て苦笑する。
「自信家ねぇ。クロード、ひとまずは彼らのやりたようにやらせてあげましょう。向こうの二人はまだ動きそうにありませんから」
「むぅ……そうだね。でも危険だと思ったらすぐにこっちでフォローするよ」
「お好きなように。邪魔だけはしないでよ?」
ガイアモンドは地面に対して掌を向ける。
「見せてあげるわ。進化したガイアモンドをね」
アスファルトが砕け、ガイアモンドの周囲に破片が浮遊する。
不敵な笑みでMGの三機を見据える。
またアクアマリンも500mlペットボトルを両手に、飲み口から水の刃を走らせる。
「闇黒の徒のお二方に、無様なところは見せられませんからね」
まず最初に攻撃を仕掛けたのはフェイ。
その両腕にガトリングを備えている。
「初っ端から飛ばしていくぞ! アヴェンジャー、リヴェンジャー!」
両腕のガトリングを躊躇無く向けて砲撃を開始する。
「ふふ……」
無数の弾丸がガイアモンドとアクアマリンに降り注ぐも、ガイアモンドは笑みを絶やさない。
瞬間、突如現れた白銀色の壁が弾丸を弾いた。
「なっ……アヴェンジャーはともかく、リヴェンジャーが弾かれた!?」
「異能、第四段階。<無現金物>。この金属は、あなたの弾丸では決して穿てないわ。なぜならこれは、貴方達の扱う物質とは一線を画する金属なのだから」
余裕の笑みを浮かべるガイアモンド。
フェイはガイアの言葉を聞き流し、ただその態度にのみムカついていた。
「こんの……」
「じゃあ、斬撃は?」
フェイを追い越すルージュが斬撃を見舞う。
だが謎の金属には僅かな傷も付いていない。
「ふふ、その程度?」
「ルージュ!」
「分かった」
フェイとルージュは同時に左右に展開する。
「オラオラオラァ!」
「ふっ、はっ!」
フェイのガトリング2丁とミサイル。ルージュの斬撃が加えられながら、銀色の板も移動する。
「ちょ、ちょっと!」
ガイアモンドがきょろきょろと左右を見る。
「視界の中に捉えていないと駄目なのか……狙い良し、発射!」
パティが砲弾を撃ち出す。
高速で迫る砲弾は、注意をそらされたガイアモンドが対応する暇など無かった。
「はぁっ!」
咄嗟にクロードがガイアモンドの前に出た。
その左腕に備えた白銀のシールドを斜めに構える。
重い音が響き、砲弾は空へと弾かれた。
「な、生身の人間が砲弾を……」
ガイアモンドの驚きも無理は無い。
MGシリーズは人間サイズとはいえ、装備している武装は兵器そのもの。到底、人間の肉体で耐久できる威力ではない、はずだ。
「これが理想の力だよ」
理想を異能と引き換えにした者と、理想を手放さなかった者。
相反する両者が、同じ戦場に立った。
その様子を見ていたケイオスは、おもむろに手を横に突き出す。
「生身で砲弾を弾くのが理想の力とは……なるほど、安全無欠とやらは思いのほかにやるようだ。だが……」
手の方向に、混沌の球体が出現する。それは見る見るうちに増大し、先ほどの異形と同程度のサイズとなる。
そして、長い首、刺々しい手腕、大木のような足に、大河のような尾。
黒の外皮、朱の眼。黒水晶の牙と爪。
「闇黒創造、混沌の閃闇黒竜」
黒の竜が、咆哮の代わりにとその口腔に闇を溜め込む。
「放て」
ケイオスの一言で、黒炎の火球が放たれる。
無造作に放たれた火球の軌道はクロードに直撃する。
「今度は私の出番ですね」
「あっ、アクアマリン! それは……」
アクアマリンがクロードの前に出る。
「ウォーターウォール! 液体窒素!」
異能によって生成された液体窒素の滝がアクアマリンの前に展開される。
「この程度の火、容易く消し去って……」
瞬間、液体窒素の滝は霧がごとく散った。
「な、なぜ!?」
小さな悲鳴を上げながら、両腕をかざす。
幾層もの水の壁が出来るが、それも全てが弾け、蒸発し、散っていく。
黒い炎は衰えを知らず、突き進んでいく。
「これは、一体……」
「何をしている!」
雅が上空からアクアマリンを攫った。
「さっさと回避するなりしないか、この愚か者め」
「あ、ああ。ありがとうございます……」
突き進む炎。白銀の一閃が両断すると、それは一瞬で消えた。
「これが、理想と異能の、差……」
アクアマリンは、天狗に吊るされたままに、力の差を思い知らされた。
絶望に打ちひしがれたアクアマリンを地面において、雅は再び羽ばたき、クロードの元へと向かった。
「クロード、彼は戦意を喪失したようです」
「そっか……怪我がなくて良かった」
しかし、アクアマリンのおかげで分かったこともあった。
強い理想の力に対して、異能はその効果を発揮できない。
「ガイアモンドとMGたちが拮抗しているのは、理想が伴っていないから?」
純粋な理想の力に対抗できるのは、純粋な理想の力だけなのか……
だが、クロードは一人呟いた。
「いや、そうとは限らない」
クロードは知っている。異能を理想と引き換えに授かった異能で、自分を圧倒した異能者を。
アクアマリンもきっと……
「雅、君はガイアモンドの援護を。僕と魔耶は闇の彼らと戦う」
「承知」
大きく羽ばたくと勢いよく飛翔する。雅は空飛ぶフェイへと向かう。
「くっそ、この壁ほんと硬いな!」
「避けろフェイ!」
「なん……」
パティの声に反応するも、雅の速度はそれを上回った。
振り向くと同時、すれ違いざまに雅の一太刀が脇腹に命中する。
「ぐあぁっ……なんてな!」
「こいつっ……」
雅の手に硬い感触が残る。
フェイの肉体は、見た目に反してあまりに硬質だった。
「私たちはサイボーグだぜ? そう簡単に傷付かないぜ!」
「お前が人造人間なら、こっちは天狗だ」
フェイから放たれるガトリングの弾丸を、隼のごとく俊敏な動きで、鴉のように翻弄する。
「誇り高き妖怪、烏丸 雅」
名乗り、剣を振り上げる。
急上昇からの急降下。フェイの頭上を完全に捉えた。
しかし、そこにふらりと影が割って入った。
「……ヌァッ!?」
「させない。私の友達、傷つけちゃ駄目」
「私の太刀を受け止め……」
「避けなさいカラス!」
声の後に、砲撃の音。雅は身を翻し、空を舞う。
数発の砲弾を回避し、バルカンの弾幕を刀で弾く。
「カラス! こっちに逃げなさい!」
「先ほどから失礼だな!?」
言いながら、雅はガイアモンドのほうに、特殊な金属の壁に身を隠す。
「ふう……金髪よ、私には雅と言う名がある」
「なら、もうちょっと優雅に敵を倒してほしいものね」
「お前が言うか、防戦一方のくせに。これでもエルフやアマゾネスを圧倒する鴉天狗の一柱ぞ」
「エルフ……」
ガイアモンドの脳裏にメイヴの姿が過ぎる。
膨大な砂の手でさえ、エルフの風を捕らえることは出来なかった。
そして教えられた。自分自身が抱くべき本当の理想がなんなのかを。
「なら、大したことないわ」
「なに?」
「あの時は負けたけど、今ならエルフにだって負けないもの。私の理想は……」
大きく振り上げた腕。そこに新たな、、透明な結晶が出来る。
「綺麗な理想郷を創る。こんなコンクリだらけじゃない。もっと澄んだ、美しい理想郷をね」
不敵な笑みを浮かべ、ここには居ないメイヴに言う。
「私はもう腐らないから」
木造の執務室。机までもが木製の、懐かしい執務室。
へくち、と可愛らしいくしゃみをする。
クロードの居ない間はこちらの仕事をしようと思っていたが、早くも体調不良だろうか。
「風邪ですか、メイヴ?」
隣で心配そうな表情で顔色を伺うのは、このアールヴァニアの女王、平和ボケというよりは、平和バカのティターナ。
「いや、大丈夫だ。きっと誰かが噂してるんだろう。クロードとか」
「メイヴは本当にクロードのことが好きなんですね」
「も、もちろんだ……ユートピア、か。行けば良かったかな」
呟くと、ティターナは驚く。
「えっ? なぜですか?」
「ガンダーラで、知人が出来たんだ。ユートピアの。クロードのが感染ったかな。敵と仲良くするなんてバカみたいなことだが」
「ぜ、全然そんなことないです!」
そういえばティターナは敵対する天狗やらアマゾネスやらダークエルフとさえ仲良くなろうとしているんだったな。
久々のことなので抜けてることも多いようだ。自覚できて良かった。
「それにしても珍しいですね。どういう人なんですか?」
「ああ、私たちエルフよりも綺麗好きな潔癖で、私たちの住みやすそうな理想郷を想い描いている奴だった。人間にしては珍しかったな」
「そうなんですか……それじゃあ、今度こちらに招待しませんか?」
「来るかな。理想はそうだが、ユートピア在住の都会っ子が、そう簡単にこんな森の奥深くにまで来るか」
「きっと来ますよ。きっと」
確信をもって言うティターナ。呆れて少し笑ってしまう。
「そうだな。機会があればな」
「おらぁー!」
「えーっ!?」
ガイアモンドはとんでもない攻撃法でMGシリーズを圧倒していた。
リベンジャーでも穿てない特殊金属の板を、自分を軸にひたすら円運動させる。
また、金属を用いた刀剣を生成し、雅に使わせる。
凄まじい切れ味を誇る刀、迂闊に太刀を浴びれなくなったフェイは逃げながらも反撃するが、雅の速度にまるでついていけない。
ルージュも斬撃を見舞うが、逆に自分のブレードが切断されてしまう。
一方、アクアマリンは意気消沈。未だ戦闘に復帰できずにいた。
「私の理想、私の……」
自分の理想がなんだったのか、もう一度探りなおす。
アクアマリンの理想。それはこの世から不遇を取り除くということ。
不遇、つまりはこの世の不条理である。
この世の不条理を取り除き、公平にして公正な世界を築くこと。
正しき希望には栄光を、悪しき野望には天誅を。完全なる因果応報を。
それがアクアマリンの理想。理想郷・ブルーマリン。
「でも、私より綺麗な理想を持つ者もたくさんいる。きっと誰かが、自分よりも素晴らしい理想で不遇を取り除いてくれるなら、それでいいや、って。でも……」
アクアマリンの理想は、確かに素晴らしいものであったが、誰もが持ちうるものであった。
クロードの能力は必然的にその結果を引き起こす。アクアマリンの知らないユートピアもそれに類する。
アクアマリンが他力本願になってしまうのも当然のことだった。誰もが自らと同じ理想を抱き、自分より優れている存在も少なからず居るのだから。
ましてや、理想の力を目の当たりにした今、異能が仮初の力であると証明されてしまった今、アクアマリンの中に残った物は諦観だけだった。
一度理想を捨てた自分では、もう決して叶えることは出来ないだろうという諦観。
「……あっ」
見れば、自分の手が透過し始めていることに気付く。
ここは理想の世界。理想を叶える世界。
理想を失った者の居場所は、ここにはないのだ。
「私は……もう……」
ふと、クロウデルから言われたことを思い出す。
「気に入らんな。お前のような半端者は」
「中二病を酔狂な娯楽と考えている奴が、私は一番嫌いなんだ」
「酔狂……娯楽……」
アクアマリンは気付いた。クロウデルの言っていたことの意味を。
きっと、このことだったのだ。自分の中二病に、芯が通っていないことを看破されていたのだ。
異能者としても不良品、中二病としても半端者。
こんな自分に一体なにができるものかと。理想を遂げられるものかと。
そう思えば合点がいく。自分は恐らく戦力にもなるまい。
うずくまるアクアマリンを幾度となく横目に見るケイオス。しかし、クロードの斬撃がそれを許さない。
ケイオスが操る紫色の気、混沌物質を纏い、腕から伸びる刃で白銀の剣を受ける。
ペルフェルクトの力。あらゆる現象を解く能力は、ケイオスの混沌さえも徐々に消失させようとしていた。
「随分と目に優しくなくなったな。眩しすぎる」
「僕は安全無欠の勇者。皆を護り、心に希望の光を差しこませるための光だよ」
ケイオスが回転し、ペルフェルクトの刃を流す。
同時に混沌の触手を伸ばしてクロードを貫こうとするが、それさえも白銀の鎧が混沌を朽ちさせる。
「それがお前の完全武装というわけか」
「君の全力も僕に見せてくれると嬉しいんだけど」
「あいにく、神魔以外に全力は出せないことになってる。そういう設定だからな」
「自分から言っていくのか……」
ケイオスは再び大きく跳び退る。
防戦一方。ケイオスは追い詰められているというのに、しかしアクアマリンのことをチラリと気にしている。
が、クロードは動きを止めない。
「彼の事が気になる?」
「ふん」
左手に纏う気を螺旋に回転させ、一気に踏み込みペルフェルクトと衝突させる。
「っ!?」
大きく弾かれるクロードの剣。
流れるような動作で、混沌を纏う右の拳でクロードの腹部に打ち込む。
大きく吹っ飛ぶクロード。しかし、空中で身体を回転させ、難なく着地する。
一度の跳躍、コンクリートの地面を砕き、一瞬にしてケイオスを追い越す。
着地し、振り向き様の斬撃。しかしケイオスは回避しながら観察する。
「ダメージ無効化か。本当に都合のいい」
「それはお互い様だよ。というか、さっき彼に何か言ったの?」
「俺は何も言ってない」
そして今度はクロウデルの方を見る。
横薙ぎ、袈裟懸け、切り上げ、縦一閃、横一文字。
ケイオスは間合いを見切り、一歩一歩下がり、跳び越えて回避する。
「俺が直接関わってもいいのだが、ここの管理者もよほどの理想を抱いているらしいからな」
「ケイオス、ちょっと意味が」
「お前は仲間のことだけを気にしていろ。なんにせよ、こちら側は俺たちの世界だ」
混沌が一つの形を成し、それをケイオスが掴む。
それは一本の刀剣だった。
「混沌深剣・紫煙の殺戮者」
蠱惑的な色合いの、深い紫色の剣身だった。
箒から見下ろす表情から、笑みが失われた魔耶。対して不敵な笑みで見上げるクロウデル。
魔耶の得意な幻覚魔術は、すべてクロウデルの魔眼によって看破され、手も足も出ない状況だった。
「愛しの勇者様が気になるか?」
「貴女こそ、相方を放っておいて大丈夫?」
「生憎と、貴様と違って信頼しているからな」
「人の信頼なんて、酷く一方的なものよ」
幻術から呪術に切り替え、クロウデルの眼を呪的封印するのを試みる。
「眼鏡・反射瞳」
「っ!」
魔耶は咄嗟に懐から藁人形を取り出し、放り投げる。
呪いを急襲する特殊な魔道具であり、魔眼に跳ね返された呪いを藁人形が吸収した。
「ふぅ、まったく。あなたの目はびっくり箱ね。パンドラボックス?」
「ブラックボックスと言ってくれ。だがいいネーミングセンスだな。魔女から中二病に転向したらどうだ?」
「遠慮するわ……仕方ないわね。あなたに教えてあげるわ。本当の魔女っていうのをね」
そして魔耶は胸元から何かを取り出すは、アメジストのペンダント。
魔耶はそれにくちづけし、首にかける。
「着飾ったところで……なに?」
魔耶が目を疑った。しかし魔眼が見間違えることなどない。
クロウデルから笑みが消えた。
「魔性の女、どこにそんな魔力を隠し持っていた」
「私は魔力が出にくい体質なのよ。だから自分から湧き出す微量な魔力を使って空気中の魔力に干渉して魔術を用いていたの。これは私の内包する魔力を強引に引き出してくれる魔結晶」
膨れ上がる魔力。空間が歪み、限られた魔眼でしか魔耶の姿を視認できなくなる。
「魔眼、魔眼と言うけれど、それは私の本業よ。何せ魔女ですもの。魔力とは条理を歪ませるもの。言ってしまえば不条理の正当化。私の不条理はきついわよ?」
ローラの、魔は法理を捻じ曲げる力。とも共通する価値観だった。
ふと気付けば、アクアマリンは何も無い白い空間に居た。
そして目の前に居るのは、鼻先まで伸ばした茶色の髪、中肉中背の青年だった。
「あ、あなたは……?」
「貴方は、理想を失いかけているのですか?」
「え、ああ……いえ、私は」
「貴方の理想は、なんですか?」
「私の、理想……世界から不遇を取り除くこと。不遇のない世界を実現させること」
すると、茶髪の青年は少し俯いて、もう一度問う。
「質問を変えましょう。貴方は、なりたい自分を持っていますか?」
「なりたい、自分?」
「憧れたもの、惹かれたもの。大きくなったら、ああなりたい。そう思うものがありましたか? 最近でもいいです」
「それは……」
思い返すのは、アルカディアでのこと。
中二病という存在を知った時のこと。
聞いたときは、なんと馬鹿馬鹿しいと思っていた。
といっても、異能もそういう妄想の応用なので、あまり馬鹿にするべきではないのだが。
しかし自分には関係のないこと。そもそも、中二病というのはユートピアでも存在していた。
思春期の子供が稀にかかる妄想病で、2、3年で卒業するものだと聞いていた。
そして、本物の中二病を目の当たりにした。
それはあまりに威風堂々としていた。計り知れない恥知らずだった。
いや、むしろそれを誇りにしている姿が、いっそ清清しい。
二人の黒い影を、アクアマリンは追いかけた。
気付けば、自分と同じく中二病の影を追いかける者たちがいた。
それこそ多種多様。まるでこの理想の世界と同じ。
彼らも各々の中二病を持ち、それを輝かせんと懸命にこだわりぬいていた。
「あれに、私は憧れた」
「なら、それを目指せばいいのでは?」
「……いえ、私なんぞが」
「あなた如き、とはなんですか?」
「はい?」
「貴方は、貴方自身の何を知っているのですか?」
自分自身の、何を?
「貴方は何を根拠に、自らの抱く中二病が実現し得ないと判断したのですか?」
言っている意味は、理解できた。
しかし、すると自分は、自分自身を理解していないことに気付いた。
どうして自分には無理なのか、何をもってそう判断したのか、まるで分からないのだ。
「もしそれが判明しないのであれば、それはきっとあなたの思い込みでしょう」
「思い込み、ですか」
「そう。中二病は、みな自分が<そうである>と思い込むことで発病しているようです。あなたが中二病になるためには、否定的な思い込みを排除しなければなりません」
否定的な思い込みの排除。
根拠のない否定を、根拠のない肯定に変える。ただそれだけのこと。
「そうか、そうすればよかったのか……」
やり方さえ分かってしまえば、アクアマリンの脳内には、理想を成し遂げる理想の自分を想い描くことなど容易だった。
水を操る自分が、あらゆる不遇を取り除き、幻想の世界を舞う姿など……
「これが理想の自分だというならば……この名を改めねばなりませんね」
「どうやらなんとかなりそうですね」
「ええ、ありがとうございます。ですが、あなたは……?」
「私は……貴方がたと同じ、ただの理想を追い求めるものです。さあ、貴方が為すべき理想を為してください。その、新たな名を持って……」
「来たか……」
ケイオスはチラリと目をやった。クロードも異変に気付いて、アクアマリンを見る。
「どうだクロウデル。捨てたものじゃないだろう?」
「……そうだな」
クロウデルは跪く魔耶に背を向ける。もはや魔耶は息も絶え絶えといったところ。
クロードの能力が発動してしまわないよう、時間稼ぎをしていた。
が、そこにイレギュラーが起こる。
もはや戦闘不能と思われていたアクアマリンが、再起動した。
「私の、名は」
立ち上がったアクアマリンの瞳には、強い意思が宿っていた。
より強い理想を持つ者特有の眼光。澄ました顔で、彼は名乗る。新たな名を。
「私は不遇を取り除き、不遇なき世界を築く者。変幻自在の藍玉」




