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84.5話 バベル

 結城と新月のデート兼ゾーイの生命教育が行われている一方で、闇黒ノ徒はMGの三人に連れられ、工廠を案内されていた。


「ここで私たちが造られたんだ」


 多くの作業員が様々な部品を造っている。

 鼓膜を打ち付ける鉄工の音、鼻腔を炙る油の匂い、瞳孔に刺し込む溶接の光。

 現在造られている巨大な機械は、人型のもので、アンリミテッドを巨大化させたような代物。


「まーた小型化に失敗してんなぁ」

「あれは、俺たちが戦ったアンリミテッドに似てるな」

「まあな。あの博士の創作物を参考にして、研究と開発を繰り返してるんだってさ」


 ケイオスとフェイが先頭。その後ろにクロウデル、その両脇にパティとルージュが並ぶ。


「MGはあなた達三人だけなの?」

「今はな、もうすぐ二人完成するはずだ。対神対策で」

「仲良くできると、いいけど、ね」


 工廠を歩いていると、多くの作業員がフェイたちに手を振っている。


「よぉう! 元気かガキ共ぉ!」

「おぉう! おっさん仕事しろー!」


 彼女等も元気よく、あるいは正しく、あるいは気だるげに返す。


「随分と仲がいいんだな」

「このバベルにはたくさんの開発部門があるって話はしたよな? そのどれもがドクを越えることを目指してて、競い合ってんだよ」

「ほう」

「で、私たちはおっちゃんらにとっては技術の集大成、愛しい自慢の娘ってわけさ」

「自分で言うのか」

「へへっ」


 歩いて行くと、工廠を抜け、広いグラウンドに出た。

 兵器の動作や実戦テストを行う場所である。


「そうだケイオス、あの時以来だし、久々に戦ってみないか?」

「この俺の闇黒と……?」


 急にケイオスの様子がおかしくなる。どこが芝居じみた仕草と語り口で、薄ら寒い微笑を浮かべながら。


「この究極の混沌であるケイオスに、挑む、と?」

「お、おう?」

「それは是非、私からもお願いしたい」


 ふと一同が振り返る。

 そこにはドクのものとは違う、清潔でまっさらな白衣を着ている、慎重高めの白髪女性がいた。


「初めまして、私は彼女等の開発者の一人だ。君たちが件の来訪者だね」

「開発者の一人? 複数居るのか」

「いやいや、ドクのような化物クラスを基準とされても困る。本来は1部門に優秀な科学者や開発者が集まって、やっと一機開発できるんだ」

「博士、新作の二人はどうなんだ?」

「ああ、順調だよ。今回は両極端に、長距離火力を限界まで強化させたアンジェラ。反応速度と運動性能に全振りしたファルコン」

「……私、お役ご免?」


 トーンの落ちた声で問うルージュ。

 しかし博士は軽く笑う。


「そんなわけないだろう。後々要らなくなるような兵器を私たちが造る筈が無い。ルージュ、お前のプロペラが不要になることはない」

「うん、分かった」


 朗らかに笑むルージュに頷いた博士は、ケイオスに向き直る。


「どうだろうケイオス君。理想戦争のときは君に勝てなかった三機だが、あれからも強化や改造を施している。もしかしたら君を倒せるかもしれないぞ?」

「く、クク……くっはっは! 良かろう。このケイオス・エル・ハザード・アブソルートにもう一度挑もうというその気概、高く評価しよう。だが一つだけ条件がある」

「条件?」

「中二病を広める手伝いをしてほしい」




 中二病の二名がMGに案内されている間、安全無欠たちもまた異能者を紹介されていた。

 バベルの中階層、異能力開発部。

 その一室にて、顔見知りと出会う。


「……あら、あなた達は。そういえば今日だったわね。アルカディアから来るって」


 癖っ毛の長い茶髪。上着を羽織るように適当に着こなし、詰めたスカートから黒のハイソックスと茶色のブーツ。


「お久しぶり、覚えてる?」

「もちろん、ガイアモンド」

「ふふ、アルカディアの英雄に覚えてもらえるなんて光栄ね。メイヴは来てないの?」

「エルフは空気の悪いところは苦手なんだ」

「あら、そうなの。空気清浄機付いてるのに……あ、能力テストしてるんだけど、見ていったら?」


 隣の部屋はガラス張りになっており、テストが観察できるようになっている。

 中には水色髪。ふとすると少女のように見える青年が水を操っている。

 小さな水の弾丸を複数周囲に浮遊、出現した的を即座に破壊する。

 水の異能者、アクアマリン。


「そこまで」

「まだ秘められし力の発現には至りませんね……」


 ぽつりと呟くアクアマリン。

 クロードはガイアモンドを見る。


「アルカディアでへんなものに影響されたみたいなのよね」


 やがてテストが終わり、アクアマリンがクロードたちの居る部屋へと移る。


「あっ、安全無欠の皆さん、ようこそ」

「久しぶりアクアマリン。その、さっきの独り言は?」

「ああ、アルカディアで非常に興味深いジャンルを見つけましてね。確か中二病とかいう。それにハマってしまったんですよ」

「そ、そっか……」


 背後、魔耶が物騒な独り言を呟いているのを、クロードは必死に聞き流す。


「アクアマリン、オーバーヒートが見当たらないんだが知らないか」


 新たに入室したのはエアとマクスウェル。オーバーヒートを探し回っていたが、まったく見当たらない。


「ああ、彼なら新しく建設されたトレーニングルームでしょう。最近は異能と理想の両方を扱っているから、身体作りも再開したと聞きましたが」

「妙なこともあるものだな。理想の力が復活するなんて」

「妙?」


 クロードが問うと、エアは気付いて語る。


「基本的に、異能者の異能というのは、理想の力を材料に科学で増強させたものを言う。ドクの研究で増強された俺とマクスウェルは理想の力を損なわずに済んだが、大抵は理想の権能は失われている場合がほとんどだ。あと一人、サイコキネシスの能力を付与された女性が、理想とは別の力を代償にしたらしいが、詳しいことは分からない」


 そしてオーバーヒート。ドクではなく、純粋な異能力開発部門で発現した例外イレギュラー


「久々だ、せっかくだからまた戦ってみるか。互いの成長確認の意味で」

「あ、いいですね。じゃあ私はオーバーヒートを呼んできましょう」

「待ち合わせは野外実験場だ」

「いいんですか? あそこは基本的に兵器開発部門の場所でしょう」

「引き篭もりの根暗野郎といつまでも蔑まれているのも癪だからな。ドクに限らず、バベルの研究者はとにかくデータを欲しがるし、許可も後で下りるだろう」

「分かりました。では広場で」


 クロードは勝手に進む話に介入できずに居た。


「ああ、すまない。どうだクロード。お前も実戦テストしてみないか。互いの理想の確認も兼ねて」

「あ、ああ……ところで、電脳部門? とバイオ部門? はどこにあるの?」

「バイオ部門は地下だ。電脳部門は、そういえばあの戦争を機に凍結したんだ」

「凍結?」

「まあちょっとしたこちら側のいざこざだ。アルカディアのお前が気にすることじゃない。とにかく、広場は下だ。エレベーターで降りよう」


 クロードたち、エアたちは共にエレベーターに乗り込み、下へと移動する。百階を軽々と越える建造物のエレベーターはとにかく速く、自然落下しているような錯覚に陥る。

 それでも地上に降りるまでにはある程度の時間を要し、硝子張りは外の景色を眺めて暇を潰すのに丁度よい。


「……厄介なことになった」

「えっ?」


 と、エアの呟きに、クロードが反応する?


「何かあった?」

「下を見ろ。あれが広場だ」


 エアの指差す方向には、二人の黒い人影、二人の白い人影と、加えて三人の乙女と、対峙する巨大な異形の姿があった。

 気付いたガイアモンドが苦笑する。


「あーあ、またやってるのね」

「バイオ部門は下手に接触すると感染して取り返しのつかないことになる奴が多い。あまり関わらない方がいいんだが……あいつら三人は機械だから平気だろうが、あの黒いほう二人は不味い」


 よく見てみれば、それはケイオスとクロウデルだった。となると化物の周囲を飛行して砲撃を加えているのはMGの三人か。


「すまないクロード、急いだ方が良さそうだ」





 巨大で醜い異形を相手に三人の乙女は奮戦していた。


「ファック! 撃っても撃っても倒れねえ! なんだこいつ!」

「化物め……弱点がどこかにあるはずだ」

「斬っても怯まない。痛覚が無いの?」

「GURULOOOOOOO!!!」


 肉の塊に、無造作に手足を生やし、あとは無数の触手が蠢いている存在。

 その傍らに、血みどろに汚れた白衣の男が立っている。


「アビスウィルスの試作、中々に良い。痛覚を遮断することで生物の限界を越え、環境や外敵に対して無限に適応し、進化を促す……また我々は神の領域に一歩近づいてしまったようだ」


 ドクに似た狂気の光を瞳に宿す男は、ただ戦闘を観察し、ノートパソコンにデータを打ち込んでいた。

 流れ弾などまったく気にしていないようだった。


「俺たちも参戦したほうが良いのでは?」


 提案するケイオスに、MGの博士は首を横に振る。


「申し訳ないけれど、これはバベル内での競争だ。客人への言い方ではないが、部外者はどうか手を出さないで頂きたい」


 ああいうタイプは混沌や闇黒で食い尽くしてしまえば即座に片付いてしまうだろうが、やはり各々の意地を尊重すべきと、ケイオスはクロウデルと共に退く。


「ケイオス、見物させてもらおうじゃない。ユートピアの風景を」


 観察している博士は、バイオだけではな。MGシリーズもまた隅々まで観察していた。


「実弾系では効果が薄いのか……フェイ、一度戻ってナパーム弾を装備。パティはサブウェポン火炎放射器を使用し、ロケットランチャーを主軸に集中砲火。ルージュは余裕をもって触手を切断しろ」

「「「了解!」」」


 性格の様々なMGの三人だが、戦闘となると見事に連携する。

 機敏に動く触手を、ふわふわと飛行するルージュが切断し、その援護のおかげでパティは攻撃を加えられることなく停止して精密射撃が出来る。

 集中砲火によってパティに気を取られているところに、フェイのナパームが上空から投下され、異形の身体を焼き尽くす。

 爆発四散する肉と切断される触手、肉片を焦がすナパーム。

 やがて、肉塊は炭の山となった。


「今回も私の勝ちの様だな、バイオ研究部?」

「ふむ……やっぱり、怪物モンスターでは駄目かな。化物フリークスでなければ」


 ぶつぶつと呟きながら、博士はどこかへと去っていく。


「まったく、挨拶どころか嫌味の一つもないのか。研究熱心なことだ」

「なんだ、勝ったのか」


 背後から声をかけられ、博士が振り返るとそこには異能者の面々。


「MGシリーズも捨てたものではないのか」

「言ってくれるねイレギュラー。ハントされたいのかい?」

「いや、ここを使わせてほしかったんだが、先をこされたようだな」


 闇黒の徒とMGを見て、エアはふと思いつく。


「じゃあチーム戦だ」

「うん?」

異能者イレギュラー&安全無欠チームVS闇黒ノ徒&MGチーム。勝った方がグラウンドの使用権を得る。どうだ?」

「なるほど、血気盛んな若者らしい発想だ。いいだろう。フェイ、いける?」

「私たちはまだまだ大丈夫だ!」


 MGは改造人間であるため、燃料補給とパーツ交換さえすれば疲労など無いに等しい。

 博士は満足げに頷く。


「ということなんだが、お二人とも、問題ないかね?」

「まさかこんなところで安全無欠と決着をつける機会があるとは……良いだろう。このケイオス・エル・ハザード・アブソルートの力、見せてやろうッ!」

「シン・クロウデル・ダークロード、闇黒をもって力を魅せよう」





 広大なグラウンドに、闇黒の徒の二人とMG三人、安全無欠のうち三人とクロードと異能者二人。

 異能者二人は、エアとマクスウェルではなく、アクアマリンとガイアモンドだった。


「私たちでいいんですか?」

「俺たちは正確にはドクの作品であり、異能力開発部門の人間ではないからな」

「がんばって……」


 エアの背後からひょっこりと顔を出すマクスウェル。

 その姿に異能者たちは和んだ。

 マクスウェルの頭を撫でながら、エアは言う。


「ということで、同じ異能者として応援させてもらう」

「光栄ですね、異能のトップに応援されるとは」

「なんでもいいから早くやりましょうよ」


 異能者たちは既に戦闘態勢が整っていた。

 では安全無欠はというと。


「クロード、ここは絶対に勝たないといけない正念場。腕試しとは言っているものの、向こうも手を抜くことは無いでしょう」

「うん、魔耶。それにエアたちに恰好悪いところは見せられないからね」

「初めての共同戦線、頑張らせて頂きます」


 常に滞空している雅。どうにも警戒心が解けないようだった

 苦笑するクロードに対し、魔耶はむしろ好意的だ。


「それくらいが丁度いいのです。雅、彼らを打倒すべき敵として、全力で臨みなさい」

「承知した」

「あはは……」


 ケイオスたちなら、なんとか凌いでくれるだろう。クロードはそう祈ることにした。


 対してケイオスたちの方はというと。


「共同戦線かぁ。燃えるな!」


 フェイが盛っていた。しかし真面目なパティがそれを咎める。


「フェイ、これは異能者とこちらの順位をひっくり返すまたとない機会だ。あまり軽々しく考えるな」

「イヤ別に軽くなんて考えては居ないけど」

「それに、これは神の軍勢に対してアルカディアと共同戦線。その予行演習でもある。そうだな博士?」


 その通りだ、と博士は頷く。


「とはいえ、お前たちは兵器。人の命を容易く刈り取ることが出来る力を持っている。くれぐれも加減は弁えること。いいな」

「「「了解」」」

「ケイオスも、一緒に頑張、ろう……ぜ?」


 その異様な雰囲気に、能天気なフェイも伸ばす手が止まった。


「安全無欠か。その力が我が混沌にどこまで及んでくれるか、楽しみだ」

「あの少年は……」


 クロウデルの視線の先、そこにはアクアマリンがいる。


「どうしたクロウデル」

「あの少年、アルカディアで開いた集会で見かけた。やけに風変わりな恰好だったから覚えている」


 クロウデルの眼が疼く。


「中二病、邪気眼……ケイオス、私たちは本当に、これでいいのだろうか」

「クロウデル?」

「闇雲に中二病を布教してはいるが、ここでもどうせ……」

「それなら捨て置けば良い」

「えっ?」

「理解できない人間に、無理に理解しろとは言わない。それは布教ではなく洗脳だ」


 クロウデルは、確かに、と納得する。


「俺たちは、俺たちのような選ばれし中二病を束ねれば良い。どれだけ仲間を失っても、俺たちのような永遠不滅を誓う中二病も居るのだと示せれば、それこそが……」

「闇黒の徒、ですよね」


 ふと見れば、すぐそこにアクアマリンが居た。


「前の集会に居たな」

「はい、あの……」


 その仕草は見た目も相まって恥らう乙女のようであったが、男である。


「あ、握手してもらっても……」

「構わない」


 すっ、とケイオスは手を差し出す。


「あ、ありがとうございます!」


 恐る恐る、緊張に震えながらも、アクアマリンはなんとか手を握る。


「まるでヒーローだな」

「…………」

「どうした、クロウデル」


 問うが、クロウデルは答えない。


「あ、あの、クロウデルさんとも握手を……」


 次の瞬間、向けられたアクアマリンの手を、クロウデルは冷たく弾いた。


「えっ……」

「中二病は馴れ合いじゃない」


 刺々しい言い方に、たじろぐアクアマリン。


「気に入らんな。お前のような半端ものは」

「よせ、クロウデル」

「アクアマリン。お前は中二病か?」

「えっ、それは……私なんかまだまだ中二病を名乗るほどでは」


 するとクロウデルは舌打ちを一つ。背を向ける。


「自分の中二病もろくに構築できない半端ものと交わす手など持ち得ない。出直して来い」

「す、すみません……」

「クロウデル、口が過ぎるぞ」


 ケイオスが咎めるが、クロウデルはお構いなく続ける。


「お前のような、中二病を酔狂な娯楽と考えている奴が、私は一番嫌いなんだ」

「そんな、そんなことは思っていません!」

「どうだかな。どうせ異能を持ちながら中二病にも心を動かされてしまう奴だ。理想の程度も知れるというもの」

「すまないアクアマリン、どうやらクロウデルは体調がすぐれないようだ。女性は体調が表に出やすい」

「さっさと終わらせるとするか」


 クロウデルは敵側と距離を取り、向き直る。

 それを見たケイオスはぼやいた。


「はぁ……まったく」



 互いのチームが距離を取り、勝負の時が来る。

 合図は博士の掛け声。


「では両者、用意……始めっ!」

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