81話目 理想を越えて
妄想によって召喚された四人……正確に言うと五人がアルカの玉座の間で結城の帰還待っていた。
ふとクロードが呟く。
「結城、大丈夫かな」
「マスターならば必ず勝利します」
「当然だ。私の相棒はこの程度でくたばるような奴ではない」
この場に居る、この世界に居る誰よりも結城を信頼している二人。
互いに横目で様子を伺いあっていた。
「にしても、このケイオスを召喚獣扱いとは」
「でもそのおかげで一矢報いた。彼には礼を言わないとね」
ケイオスとクロウデル、二人も夕輝に襲撃を受けた二人である。
今回ばかりは遠くから高みの見物、というわけにもいかなかった。
「来ました」
「来たな」
ほぼ同時。ほんの僅かにレイランのほうが早かったか、銀風は苦い顔をし、レイランはほっこりとした表情を浮かべる。が、親しくない人間はその変化に気づくことは無い。
ズンッ、と揺れた。
見れば、何も無い空間から彩光宿す刃が突き出ていた。
「おかえりなさいませ」
それは一気に下へと振り下ろされ、空間に裂け目を作る。
切り開かれた隙間から、姿を現したのは紛れもない。
「マスター」
「ただいま、レイラン」
結城。理想を越え、妄想の夢を抱き、今やそれしか眼中にない男。
「どうやら、理想の自分を越えたようだな」
結城が隙間から出ると、それは自然に消えていった。
結城はアルカのほうを見る。
「アルカ、俺はこの世界を出る」
「……ほう。理想の自分に触発されたか」
「違う。元から俺が目指していたのはあの場所だ。此処じゃない」
向き直り、結城は宣言する。
「神だろうがなんだろうが、俺の妄想を阻む者はなんであろうと容赦しない。それだけが俺とアイツの共通点だ」
「それがお前の妄想を壊されるようなことになろうとも、か?」
「この世界に居ても結局は戦うことになるんだ。なら自分のフィールドのほうがやりやすい。それに、俺の妄想は神の法理に簡単に従うほど素直じゃない」
絶対的な自信、ではない。
ただそうしたいという意欲、そうしないではおけないという衝動。
膨らむ夢と湧く妄想。理想に匹敵する純粋さ。
アルカは頷いた。
「なるほど分かった。別に私にはお前をどうこうする権限も、力もない。好きにすれば良い。が、出来ればあの男にも話しておいてくれ」
アルカの言うあの男。結城は考えるまでも無く、それが誰のことかを理解した。
「ああ。俺が此処までこれたのもアイツのおかげだ。別れの挨拶くらいするのが道理だな。ってことでレイラン、もう一回行ってくる」
「はい、お気をつけて」
「じゃあ私たちはお前の祝勝会の準備でもするか。安全無欠、闇黒の二人も来い」
「えっ、いいの?」
「我ら闇黒ノ徒は馴れ合うつもりは……」
銀風は両扉を開け放ち、そして振り返った。
「誰がお前たちのリベンジマッチを実現させてやったんだ? さっさと手伝いに来い」
「これで三度目……いや、四度目か」
「私の空間に過去一度たりとも四度踏み入れた者はいないよ。どうやら、勝てたようだね」
「ああ。……急な話だが、俺はこの世界を出ることにする。俺は俺の妄想を遂げる」
何かしら反対されるかと思いきや、男は落ち着いた様子で俯いた。
「そうか……残念だ」
「あんたには感謝してる。この世界があったから俺は、自分の妄想に指をかけられた。この手が届いた」
「あともう少し早ければ、それもすぐに叶っただろう」
噛み合わない言葉、結城は男の言葉に声を詰まらせた。
「もう遅い。もう奴らはすぐそこにまで来てしまった」
「なんだ、どういうことだ?」
「話したとおり、神そのものは私が相手する。君たちは使途を排除してくれ」
「おい!」
「何を途惑うことがある? すべては二度目に会ったときに話したはずだが?」
結城は悟った。
後一歩、自分は遅かったのだと。
この男が敵と認識する存在。それはこの世界の敵となる存在。つまり、結城の妄想を阻もうとする存在が、ついにここまで辿り着いてしまった。
「気付いてくれたようだね。君はどうかこのことを世界の皆に伝えて欲しい。これは理想を抱くすべて者もに関わることなんだ」
「……分かった。あんたにはこの理想の恩義がある。今ここで返そう」
「ありがとう。優しい君ならそう言ってくれると思っていたよ」
「だが、神を殺すなんて、あんたに出来るのか?」
結城の疑問は無理も無い。
理想の世界で、様々な理想と力を見てきた。
安全無欠の勇者、<主人公補正>
神魔ヲ降ス闇黒ノ徒、<究極めし中二病>
万能の王アルカ、<絶対無敵、完全無欠>
仮想の生命ゾーイ、<仮想現実>
理想の仮想ユートピア、<仮想理想>
絶滅の理想、<絶滅殺戮>
ドク、<狂想創造>
数多ある理想と力。しかし、この男の理想は神を殺すことらしいが、力を見たことはない。
戦ったことも無いので、戦闘能力がどれほどかも分からない。
未知数と言う意味では驚異だが、果たして神に対抗しうるのか。
「この世界は神から逃れ、抗うために創った。君たちは自分の理想を信じていればいいよ」
世界一つ創るような力を持つならば、神にも匹敵しうるだろう。
結城はそう納得することにした。
「それで、俺たちが戦うべき相手っていうのは、どういう奴らなんだ?」
「神の使い、いわゆる使徒。彼らは信奉する神のために戦うだろう。そして神が治める千年王国を、エルサレムを夢に見る。私たちは異端者として排除対象となる」
空を覆う天使の群れが、神の威光を注ぐ。
地に参列する聖人が、信徒と共に足音を響かせる。
世は使徒に覆われ、神を迎え入れる準備をする。
異端者は尽く、その赤で穢れた大地を染める。
聖人は血を清め、淀む大地に恵みをもたらし、天使は翼で凝った空気を砕く。
理想叶いし使途らは、神を迎え、千年王国はここに完成する。
「これはただの一例に過ぎない。神はそれだけじゃないからね」
「天使はなんとなく想像がつく。聖人とは?」
「神より奇跡を授かった者たち。いわゆる能力者。君たちのようなものさ。源が違うというだけで」
「なるほど、大体分かった」
結城は頷き、右手に虹色の剣を顕現した。
「それを伝えればいいんだな」
「アルカとドク、その他には私から伝えておく。君は君の仲間に一足先に伝え、準備を始めるといい」
結城は横目で答え、背を向けて空間に切れ目を入れようとする。
「頼むからここだけはその移動方法を控えてくれると助かる」
結城は例の空間からアルカの玉座の間に戻され、そこから歩いて新月の邸宅へと戻ってきた。
アルカディアの北部は富裕層の住宅地。坂が多く、高い場所にある家ほど位の高い貴族である傾向がある。
なので、新月の邸宅への道のりは上り坂が多く、疲れる。
理想の自分との戦闘での疲れが、ここで一気に来たらしい。
結城の足取りはあまりに重かった。
「おかえりなさいませ、結城」
幼いながらも上品な、しっとりとした優しい声が坂の上から聞こえた。
見ると、そこには金髪流麗な絶世の美少女がいた。
「そう、それはあの結城も憧れた最高のパーヴァート……」
「なに好き勝手なことを言ってるんだ新月」
「事実を言ったまでですわ。あなたの祝勝会をすると銀風が勝手に一室を不法占拠した上に喧しいことこの上ないので、私が直々に貴方を迎えに来て差し上げたのですわ」
「ああ、それはありがたい……」
疲労の限界か、結城の体がふらついた。
それを小柄な身体がしっかりと支えた。
「まったく……レディに寄りかかるだなんて、情け無いですわね、結城?」
「面目ない」
「ええ、本当に……本当に良かった。貴方が無事に帰ってきてくれて」
「ああ……あっ、これなんかやばい」
「?」
「今更怖くなってきた。膝が笑ってる」
ずっと憧れていた妄想へと手を伸ばす。そのことに必死で、見えていなかったのだ。
その戦いに敗北するかもしれなかったということを。敗北が意味するところを。
今更ながら、自分がこうして帰ってこれないかもしれなかったということを、思い知ったのだ。
終いには膝を着き、新月の方が頭の位置が高くなる。
そんな彼を、新月は情け無いと一蹴する。などということはなく、結城の頭を細い腕で抱き、少々柔らかさに欠けるも暖かい胸で受け止めた。
「大丈夫、大丈夫ですわ結城。もう大丈夫……」
何度も、何度も繰り返す。
「大丈夫……懐かしいですわね。あなたが現実で足掻いていた時も、妄想でこうして励ましていましたわ。あれも中々至福の瞬間でしたもの」
「良い趣味だな」
「それが私だけの特権だったらもっと良かったのですけれどね」
「それは……ごめん」
「ふふっ、そこで謝らせてしまう私も、まだまだというところですわ」
そう言って、新月は結城の体から離れる。
「さあ、そろそろ行きましょう? 健気な貴方を、幸せの絶頂で報わせることが、私たちの使命ですもの」
「ありがとう、新月……」
だが、まだこれで終わりではない。理想の自分を倒したその次は、神の使いとの戦いが待っている。
そしてそれを彼らに伝えなければならない。せっかく自分の勝利を祝ってくれようとしている彼らに、こんな暗いことを話さなければならないと考えただけで、結城の気分は地に堕ちる。
「何を今更。今更過ぎますわ」
と、新月が不意に語りかけた。結城の思考を干渉力で読み取ったのだ。
「気を使うことだけが優しさではありませんわよ? もっと気を許しなさい。もっと私たちを信頼なさいな。何のために私たちが貴方に並ぼうとしたか、これでは分かりませんわ」
「新月……」
「いい加減にしないと、今度から貴方のことを<据え膳食わないヘタレED優男>と呼びます」
「長い」
「ええ、本当に。長くて呼ぶのも一苦労なのだから、そうならないように善処して欲しいものですわね」
新月の不器用な茶目っ気のおかげか、結城の体は既に異常から脱していた。
両足でしっかりと立ち、離れた新月に歩み寄る。
「あー、まあ、なんというか……行くか」
「ええ。これだけ長い時間いちゃついていれば、そろそろ準備も終わった頃でしょう」
新月の予想通り、むしろそれ以上に銀風たちは待ちくたびれていた。
その分を埋め尽くすように、祝勝会は盛り上がった。
そして、そろそろお開きかというところ。
「結城、そろそろ」
「あ、ああ……」
「大丈夫ですわよ。もっと気を許しなさいな?」
「新月!抜け駆けは許さな……」
「皆に伝えないといけないことがある」
その言葉は思いのほかパーティルームに響き渡り、しんと静まり返った。
「ま、まさか結城……」
「その、実は……」
「まさか新月と一夜を共にしたというのか!?」
「違います。話を聞いてください」
「き、聞きたくない! 認めないぞ、認めない! 私は絶対に認めないからなぁ!!」
「違うと言っているでしょう」
新月も結城も呆れるところだが、銀風は尚も聞く耳を持たない。
が、クロードたちは結城の話に興味を持っていた。
「それで、話って?」
「実は……」
この世界が神の脅威にさらされること。
神の使い、使徒と戦わなければならないこと。
敗北すればこの世界は彼らの者になり、自分たちは異端者として根絶させられること。
一通り話を聞いて、クロードは考える。
「神の使いと戦う。どれくらいの強さなんだろう」
「分からないけど、俺たち理想人と同じようなものと言ってたから、大した違いは無いはず」
「神の使いか……」
「何を案ずる」
と、クロードの傍らにいるアマゾネス、リューテは不敵に笑む。
「なんのことはあるまい。儂らは理想を追求し続けてきた。やることは変わらん。それとも、理想の為に命を投げ打つ覚悟など無かったか」
「リューテ……でも君たちに何かあったら」
すると今度はリューテと対になるよう位置するエルフ・メイヴが言う。
「どうせ戦わなかったら、否応も無く理想を殺されるんだ。腹を括ろう」
「うーん……それでも、やっぱり相手の力が未知数なのは不安だ」
と言うと、今度は背後にいる魔耶が抱きつき、柔らかな肉を押し付けながら甘い声で耳元に囁く。
「神を恐れるなら、対となる魔によって対抗すればよいのです。そうは思いません?」
「ま、魔耶!」
と、いちゃいちゃ合戦が始まりかけるころ、闇黒の徒は二人ともが不敵な笑みを浮かべていた。
「ついに神魔を降す我等が出番というわけか……」
「ククク、私たち闇黒の徒ならば、神の使いなど造作も無く薙ぎ払える。容赦は要らないな」
と、神魔を降すという名を現実のものとする良い機会と見ているようだ。
そして、そういった強敵を相手に一番興奮するに違いない格闘乙女が一人。
「神の使い……くぅーっ! 今から楽しみで仕方ないぜ!」
相変わらず、蓮華はよく食べ、よく飲み、よく戦う乙女であった。
どうしてか、クロードは蓮華のほうを何度か横目で見ていたり、意識しているようだった。
普段なら誰もが呆れるほどの戦闘馬鹿だと苦笑するところである。
「使徒もいいけど、神とも直接闘ってみたいな!」
「確かに」
が、最近になって結城はその思考を理解できるようになってきていた。
自分の妄想と相手の理想。どちらがより強く、深く、高いものか。その比較べあい。
その興奮の熱は、確かに病みつきになるほどだった。
クロードの想い描いた理想との戦い、ユートピアでの仮想との戦い。
そして今日乗り越えた、理想の自分との妄想比較。
互いの最も深いところにある物をぶつけ合い、貫き通そうとするあの楽しみ。
「おっ、結城も大分話が分かるようになってきたか?」
「自分の磨き上げた部分を武器に相手と対峙するのは、中々楽しいかもしれない」
「そう! それなんだよ結城。いやぁ、分かるねぇ。よし、それじゃあまた今度、私と戦ってみようぜ!」
「マスター、それはどうかお控えください」
と、レイランが忠言する。レイランは武陵桃源で一度、蓮華と交戦経験がある。
「ですが……マスターの前に立ち塞がる者は、神であろうと斬り伏せます」
「私たちはパーヴァートだし、神も何も関係ないな」
「ええ、パーヴァートは神をも凌駕するのが基本ですもの。エロスやアフロディテが怖くて性愛語れませんわよ」
銀風と新月、まさに神をも恐れぬ物言いであった。
それに同調するのは銀風の部下となった黒の淫夢。
「そうですよ! 銀風ならフレイヤだって一発です!」
二股のツインポニテが興奮にぶんぶんと揺れる。銀風はくすりと笑う。
「ああ、そうだな。そしてならば、結城はゼウスも羨むハーレムの主というわけだな」
「……」
「うん? どうした」
「いいや、ちょっと改めて思い直しただけだ」
「何をだ? この銀風の華麗な振りに惚れ直したか?」
「いんや、例え神様相手でも、銀風たちは渡せないなぁって」
思わぬ結城の攻めな言葉に、銀風は柄にも無く頬を赤らめた。
「め、珍しいな。お前がそういうことを言うのは」
「ちょっと臭すぎたか?」
「い、いや、良いと思うぞ。たまにはそういうのも……」
「うわ……これはレアですわね。そして柄にも無くきもいですわ」
「ほう、結城の攻めは気に食わないと」
「いえ、あなたのその柄にも無い恥じらいがきもいのですわ」
「よし、ちょっと表出ろ」
「望むところですわ」
銀風と新月がドンパチを始めそうになるのを淫夢が必死に宥める。
「ぎ、銀風、そんなに熱くならないで! ほら新月さんも言いすぎです!」
「うるさいですわ、銀風の舎弟のくせに」
「舎弟ってそんな……結城さぁーん!」
助けを請う淫夢から目を逸らすと、レイランと目が合った。
「レイラン……」
「マスター、ありがとうございます」
と、急にレイランは深々と礼をし、感謝の言葉を口にした。
その振る舞い一つとっても、優雅で可憐だった。
「今のあなたの御姿こそ、私が貴方に見出した光です」
「……と、仰いますと?」
「絶滅の理想すら切り捨てない優しさと、理想の自分にも打ち克つ強さ。私が仕えたいと想った最高の……」
結城は否が応にも、辛気臭い空気を感じ取った。
レイランは、どうやらとんでもない勘違いをしているらしかった。
「マスターにお仕えすることが出来て、私は本当に幸せでした。名残惜しいですが、マスターご自身の世界でも、どうか健やかであらせられますよう願っております」
「えっ、レイラン一緒に来てくれないの?」
反射的に、結城は問うてしまった。
少しの間だけ互いが硬直し、レイランはゆっくりと礼から起き、小首を傾げた。
「あれ? 前に言わなかったっけ俺。あれ?」
「……?」
さてどうしたものか。どうやってズレた認識を共有させようかと結城が思案していると、今度はレイランが問う。
「マスターは、私を連れて行ってくださるのですか?」
「えっ、そりゃあ、今までお世話になったし、凄く慕ってくれるし……逆にこっちがびっくりした。遠まわしに拒否されたのかと」
「私がマスターのご意志に背くなど……そう、でしたか。私もマスターとご一緒させていただけるのですか……申し訳ありません、少々お暇を……」
レイランは足早にパーティルームを後にした。
「これはとりあえず放っておいた方がいいパターンですわよ結城。彼女も貴方に痴態を見られたくは無いでしょう」
「痴態って……」
「いや、ここは追うべきじゃないか? 今までの憂いが晴れた安堵を、想い人の胸の中で吐き出せるのが一番の幸福ではないのか」
「それもいいと想うけど、レイランさんの場合はそういうのじゃないかも。常に結城さんの望むままの姿でありたいみたいだし」
パーヴァート三人が勝手に論じ始める。
ので、結城はとりあえず、今日のところはお開きということにした。
「それじゃあ、そういうことで。正確に何時くるのかはわからないから、気をつけたほうがいい」
「話してくれてありがとう、結城。これであの時の恩を返せる」
「恩?」
「君が海戦で僕に力を貸してくれたときと、君が蓮華をガンダーラに向かわせてくれたときだよ」
「いや、だってあの時はもう終わってたんだろう?」
蓮華がクロードたちと合流した時には、すでに戦いは終わっており、ユートピアの精鋭とよろしくやっていたと結城は聞いていた。
「それは確かに。でも彼らと一緒に蓮華と戦ったことで、僕たちは友好を深めることが出来た」
そんなことも恩の一つに数えるなんて、随分と律儀な。
結城は苦笑するほか無い。
「そうだ、今度エアを紹介するよ。彼は……」
無間の風。クロードと互角以上の力を持つらしい異能者。
ラプラスの魔人だとかとも呼ばれ、風を操るだけでなく焦点を絞ることで特定の未来予知まで可能らしい。
マクスウェルの魔女という万象を引き起こす少女を護るために強さを追い求めた。
クロード曰く、僕が認めざるを得ない主人公、であるらしい。
それほどまでの力を持ちながらクロードは敗北しなかった事実と、クロードのお墨付き。
どちらにせよ、双方とんでもないことは確かだった。
とはいえ、それならそれで対抗意識が湧いてしまうのが妄想重んじる者の性である。
「じゃあ俺もユートピアの友人を紹介するか」
心の奥底。妄想であるが、妄想であるが故に独立する。闇の使者が闇黒の中で呟く。
「そろそろだな」
ダクスト。結城の中にある闇を司る者。
「……などという役柄も、もう必要ないだろう。さあ結城、これからが面白くなるところだぞ?」
クスクスと、含み笑うダクスト。
「お前を我が者とする日、楽しみで仕方が無い。我が力とお前の力で、神など尽く滅ぼして見せよう?」