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72話目 天魔

遅れて申し訳。そして今回より水曜更新となります

 人の理想を知るたびに、この心が躍っていることに気付いた。

 負けたくない、そう思った。

 あんなにも素晴らしい理想を有する彼に、しかしそれでも劣りたくないと、匹敵したいと思う自分が居た。

 やがては凌駕したいと、野心が微かに芽生えていた。

 しかし結城は、今は彼の理想を全力で綴る。

 最高の主人公、安全無欠の勇者・クロードの過程を。




 昼食を終えて、再びキーボードに手を置いた。


「さて、どこからだったか」

「僕たちが……正確には蓮華が天狗を撃退して、山に入っていくところからだよ」


 クロードは、まるで昨日のことのようにすらすらと語る。


「そして、僕が能力に目覚めるのはそろそろだよ」




 上っているうちに川を見つけ、水分補給をしてから川沿いに上流へと上っていく。

 クロードたちがエルフと友好を築いたことにより、森の妖精などの自然的な存在とも接触しやすくなったため、森では魔物や妖精の類がチラホラと見受けられていた。

 しかし、この辺りになるとほぼ見かけなくなった。それはここが天狗……否、言うなれば妖怪の住処であることの証明である。

 川沿いに歩いて行くと、大きな滝にぶつかった。

 水も清らかで、水面を激しく叩き飛沫を上げる滝は、微かに虹を映すほどに美しかった。


「大自然……綺麗だ」


 クロードが見惚れていた。すると唐突、ポニテのアマゾネスがクロードの手を引いた。


「えっ!?」

「こっちだ!」


 何かと思い、声を出す前に、向き合うクロードとポニテの眼前を何かが横切った。

 細い、まるで矢のような何か。

 飛んできた方向を見るが、そこにはなにも居ない。

 否、何かが水面に潜んでいるのがなんとか視認できた。

 するとポチャンと小さな水飛沫と音を立てて、それは見えなくなった。


「あれは一体……」


 しばらく周囲を警戒するが、何も襲ってこなかったので、クロードは一息吐いた。

 が、それをポニテが咎める。


「クロード、ここは敵地! 気を抜かない!」

「ご、ごめん。あまりにここが綺麗で……」


 改めて見回すと、本当に綺麗な自然だった。

 まったくもって人の手が付けられていない。

 アマゾネス、エルフですら小屋などコテージなどの建造物が存在していた。

 しかしここには、人工物というものが何一つとしてなかった。

 それがここに住む<妖怪>の特徴なのかもしれない。


「ごめん、気をつけるよ」

「分かればいい」

「でも、本当に綺麗じゃない?」


 言われてポニテも周囲を見回す。が、その表情は硬いままだ。


「そうね……でも私には不気味に思えてならない」

「不気味?」

「気付かないの?」

「あまり意地悪を言ってやるな。人間はアマゾネスほど感覚が鋭敏じゃない」

「それもそうか」


 クロードは困惑していた。同じく蓮華も困惑していた。


「不気味で、どういうこと?」

「私にも教えて欲しいぜ」


 ポニテは周囲を見、そして言う。


「ここ、動物が少なすぎる」





 滝を越えて、山を登っていく。

 確かに鳥はいた。

 犬というか、狼のようなものも居た。

 が、それ以外は何も居ない。

 鹿も、熊も、別の妖怪さえも見かけない。


「自然すぎて、不自然が過ぎるでしょ」


 不自然な出来事もまた自然の一部なら、もっと多様に富むはずなのだ。

 不条理のような蠢く蟲、理不尽のような巨躯の獣。

 あらゆる生き物がそれぞれの痕跡を残していく。

 だがこの山は、あまりに綺麗過ぎ、そして種類が鳥と犬狼けんろうの類しかいない。

 それについてローラもまた言及した。


「綺麗な自然しかない不自然を感じます。それも利己的な……」


 ふと、蓮華とローラが立ち止まり、クロードたちも習う。

 理由は一目瞭然だった。濃霧が辺りを包み始めたのだ。


「……なるほど、確かに<綺麗な自然>だけど、<不自然な自然>だね」


 納得したクロードは、新品の剣を引き抜く。


「アマゾネスのお二人はクロードさんから離れないように。単独行動は控えてくださいね」

「私は蓮華を守るぜ!」


 視界を封じられた一同、全方位を警戒する。

 そして間も無く、水弾が霧の奥から襲ってきた。


「くっ!」


 クロードはおぼつかない足取りで回避する。避けきれない水弾は革の盾で防ぐ。

 それでも対処しきれないものは、ポニテと眼鏡の二人が鉈やククリナイフで弾く。

 盾で受けるクロードの体は頻繁によろめく。


「威力が思ったより強い!」


 鉄製の重量のある盾であれば安定して防げたかもしれないが、それだと動きが鈍り回避が出来なくなるだろう。

 余裕を失ったクロードは、背後の存在に気付かなかった。


「後ろだクロード!」

「うっ、おおッ!!」


 眼鏡の声に、クロードは我武者羅に盾を振り回した。

 するとその表面に刃が突き刺さった。

 得物の持ち主とクロードの視線が交差する。


「き、君は……?」


 透き通る碧い瞳は、蒼天と木々の新緑、そして清んだ川を思わせ、木漏れ日のような光を宿していた。

 

「チッ」


 小さく舌打した少女は、すぐさま身を翻す。

 深く踏み込み、盾をすり抜け、小さな刃を喉元に突き立てる。


「させないぞ、ハゲ」


 小太刀を弾き飛ばすのは、ポニテのククリナイフ。追撃するは眼鏡の鉈。

 

「危ない!」


 クロードの声のすぐ後、少女を追う眼鏡に向けて、左右から水の弾丸が飛ぶ。

 すると眼鏡は一歩の跳躍で宙に浮く。

 猫のように身を捻りながら跳ぶ眼鏡は、左右の水弾をやり過ごす。

 しかし着地した瞬間、少女の背後からさらに水の弾丸が打ち出される。

 さすがの眼鏡もこれには一度足を止めざるを得ず、鉈で弾きながら後退する。


 そしてその背後に一つの足音。一際に濃い霧の中から、先ほどの少女が姿を現した。

 眼鏡が殺気を感じ取った頃には、すでに対処が間に合わない状況。


「下手を打ったか……」


 観念した眼鏡が、せめて相打ちをと鉈を大きく振る。

 が、その姿勢は何者かに押され崩された。


「なっ……」


 地面に投げ出されながら、眼鏡の目には一振りの剣を持つ青年の姿を捉えていた。


「クロ……つっ!」


 地面に転がりながらもすぐに立ち上がり戦闘態勢を崩さない。

 そしてクロードを見る。

 一振りの剣。発光しているように見紛うほどの美しい白刃は、先ほどまでクロードが手にしていたものではない。

 少女は突如眼前に現れた青年に驚いていた。

 それに構うことなくクロードは少女を小太刀ごと弾き飛ばした。


「僕の仲間には傷一つ付けさせない」


 白刃、その扱いは今までと比べ物にならないくらいに軽やかだった。


「っ、来るぞ、クロード!」


 眼鏡の声よりも早く、クロードは水の弾丸に反応して見せた。

 前後左右からくる水の弾丸をすり抜けるように回避し、また切り捨てていく。

 ふと、剣の向きを四分の一ほど回転させて握り、迫り来る水の弾丸に振り当てた。

 すると水の弾丸は弾かれ、飛んできた方向へと戻るように打ち返された。


「ぐえっ!」


 声が聞こえると同時に、攻撃がぱたりと止んだ。


「……?」


 不意を突くように水弾が射出された。弾道はクロードの後頭部へと。

 しかし、機敏な動きで振り返り、水弾は弾き返され、霧の中へと消えていく。

 再び霧の奥から声がする。

 そして訪れる静寂。


「…………」


 徐々に霧がやんでいく。

 どうやら退いたようで、クロードは緊張の糸が切れて尻餅をついた。


「ふ、ふぅ……」

「クロード、あなた……」


 クロードの活躍に驚くのはポニテ。


「まさか、それがあなたの力なの?」

「えっ、ああ、うん。たぶんね」

「リューテ様の一撃を防いだ時はまぐれだと思っていたのに」

「まぐれでリューテ様の斬撃を防げるはずがない。それなら得物の方が先に参ってる」


 と、当然のように言う眼鏡にポニテはむっとした表情を見せる。


「でもそれだと、能力を得たクロードはリューテに匹敵することになる。そしたら私たちより強いってことになるじゃない」

「だな」

「っ……」


 ポニテは心底不満という表情でクロードを見下ろした。

 そして、ふと気付く。


「クロード、剣は?」

「えっ、あれ?」


 クロードが両手を見るが、あの見事な白刃の剣は忽然と消えていた。

 周囲を見回しても剣は見当たらない。


「き、消えた?」

「条件で発動するタイプかしらね」


 能力というものを未だ理解し切れていないクロードは、あれやこれやと分からないことを考えている。

 だが蓮華がその思考を止めさせた。


「やったじゃないかクロード! 初白星だ!」

「白星?」


 蓮華のほうを見ると、その左手に気絶している少女が居た。

 清涼な川のように鮮やかな青髪を持つ少女。木の葉色の帽子を被っていた。

 衣服が破け、腹部が露出しているのを見るに、弾き返した水の弾丸がちょうどそこに命中したのだろう。


「彼女は何者なんだろう?」

「河童ですよ」


 河童。川にすむ妖怪であり、相撲が好きで、きゅうりが好きで、人間の肛門から尻子玉を抜く。水辺の妖怪である。

 川の底に異界へと通じる道を知り、河童独自の異世界や社会を持つという話もある。

 とにかく謎が多い存在である。


「きゅ~……」

「こいつから色々聞きだせるんじゃないか?」

「それがいいだろう。尋問なら私たちに任せるといい。アマゾネスの技術を見せよう」




 河童は目覚めると、あっさりと話をした。

 河童は川の水底に異世界への入り口を持っているらしい。

 エル・フォレスト・メイヴが夢の国を持っているのと同じように、河童もまた自分たちの世界を持っている。


 さて、河童は思いのほか人間に友好的だった。

 悪戯好きの妖精といったふうで、人間からしてみれば少々洒落にならないことが多いが、本人らにそこまでの敵意や害意は無い。

 とはいえ、今回は事情が違った。


「私たちは天狗には逆らえないから、本当ならこんなことをするつもりはなかったんだ。なんてったって遠方からはるばる人間が来るというのだから」

「信じがたいが……」


 ふと、河童はクロードを見る。


「私たちの川を綺麗だと言ってくれた。そんな人間を傷つけるのは、私たちの本意ではない」

「えっと……」

「申し遅れた。私たちは河童。よろしく」


 碧い瞳に偽りは無い。

 少なくともクロードはそう思えた。


「僕は、河童を信じるよ」

「ありがとう、人間」


 クロードに意見する者は居ない。

 蓮華とローラは目的が定まっているし、アマゾネスらもまたやるべきことをやるだけだからだ。


「それで、あの天狗のことを聞くんでしょ?」

「そうだった……河童さん、話を聞かせて欲しい。天狗の話を」


 そして河童は改めて話し始める。


「この山に住む妖怪には序列がある。簡単に言えば、天狗は上で、河童は下」


 天狗は基本的に自分たち以外の者をすべて見下している。

 ゆえに、アマゾネスはもちろん、エルフ、人間も例外なく見下している。

 だからこそ、天狗とは友好を築けないというのが、河童の見解であった。

 ただし一つだけ、友好を築く方法がある。


「上に立つこと」

「上に、立つ?」

「天狗は全てを見下している。が、自分たちよりも強い存在は見下せない。その鼻っ柱をへし折ることで、友好……とはいかないまでも、敵でなくすことは出来る」

「もうちょっと平和的に解決できないかな?」

「天狗たち自身らがすでに平和的でない。異なる者と意を交わすには、相手のルールに則る必要がある」


 クロードは蓮華とローラを見る。


「ん? 私は強い奴と戦えればなんでもいいさ」

「それが一番可能性が高いというのであれば、仕方ありません。でも、犠牲は出したくありません」


 次にポニテと眼鏡を見る。


「私のことなら構うな。元々酔狂でついて来ただけだ」

「そ、そうね……」


 途惑うポニテを見て、クロードは意を決して言い切った。


「大丈夫。誰も死なせない」

「く、クロード?」


 頬を染めるポニテ。クロードは、ただまっすぐな目をして言い放つ。


「僕が必ず護る」




 河童を川へ返し、一同は引き続き山を登る。

 その中で、クロードは自分の力について考えていた。


 きっと、僕の能力は仲間を護るための能力だ。

 仲間を助け、護るためにある能力で、仲間が危機に瀕した時に発動し、それを助けられるだけの力を発揮することが出来る。

 そのときに出現する白刃の剣は、恐らく自分と最も相性のよい武器なのだろう、と。


 そうなると、自身の身に危険が迫った時には発揮できず、不利になる。

 非常に使い勝手が悪く感じるが、こればかりは仕方ない。

 もしくは、まだ隠された力が眠っているのかもしれない。


 そこまで考えたところで、再び全員が立ち止まった。


「ついに辿り着いたぜ」


 丘から見える集落は、それが一つの大きな山へと続いていた。

 ここからは、天狗が有する本来の土地。

 となれば、天狗が待ち構えていることも容易に想像できた。

 そして想像通り、気付いたころには既に囲まれていた。


「へぇ、大所帯だな」


 空にぽつぽつと黒い点が浮かんでいるのが見える。まるで夜空に広がる星々のように、それらすべてが遠くから警戒する天狗であった。


「よし、じゃあ準備はいいか?」


 蓮華の言葉に、一同が頷く。

 クロードの手に白刃は現れない。この状況においてまだ仲間の危機ではないと、能力は見做しているようだ。

 蓮華とローラが居るからか。


「それじゃあ、行きます!」

「待たれよ」


 嵐のような突風が吹いた。

 気が付くと、眼前には中空に浮く三つの姿があった。

 まず何より目を引くのは、中央に居る巨躯。


「おっ?」

「おんしらは、なんぞや。なにゆえに我等が地に参った?」


 左右には最初に出会った天狗とは比べ物にならないほどの威圧感を放っている。

 言ってしまえば格の違いを思わせる。


「初めまして、私はローラ。魔女をしています。こちらは友人の蓮華、クロード、そしてアマゾネスの遣いの方々です」

「アマゾネス……我々の仲間を悪戯に葬った愚か者か」

「っ……」


 アマゾネスは喉が詰まった。

 感情で言い返してもいいが、せっかくの交渉の機会を逃してはならない。


「さて、私たちがここまで来たのには、天狗の皆さんにお願いしたいことがあってきました」

「……申してみよ」

「アマゾネスとの交戦を直ちに停止して欲しいのです。そして出来れば、アマゾネス、エルフ、そして人間と友好な関係を築いて欲しいのです」

「おんしらと友好……?」


 巨躯の天狗は訝しげな目で睨んだ。と思えば、俯き肩を震わせた。

 そして、山彦が聞こえるほどの哄笑を上げた。

 突然哄笑を中断し、小心者ならば直視しただけで鼓動を止めてしまいそうになるほどの眼光で睨まれる。


「ならば、示して見せぃ。おんしらに、我等と相対する力があるのかを」




「舞台は、整った!」


 蓮華が意気揚々と声を上げた。

 多くの衆人観衆の中……天狗が囲む丘、そこにはクロードらと、天狗の精鋭が相対している。


「申し送れた。我は天狗・摩天楼」


 二メートル以上はあるかという巨躯。しかし、それよりも更に遥かに大きく感じられるほどに、摩天楼が放つ気迫が凄まじい。


「それじゃあ覚悟はいいか?」


 それをものともしない蓮華が前に出る。

 人間にして、不遜で威風を放つその態度に、天狗たちは怒りよりも違和感を覚えていた。


 天狗が持つ人間の知識は、脆弱で、貧弱で、虚弱で病弱な存在でしかない。

 しかしこの蓮華という少女は、それらの印象をすべてかなぐり捨てるような、言わば危険な匂いを漂わせていた。


「それで、誰からだ?」


 誰からか。

 その思い上がりをへし折らんと、一人の……一羽の天狗が舞い降りた。


「おっ、お前はさっきの」

「あの時はよくも虚仮にしてくれたな……」


 丘に用意された土俵のようなフィールド。

 蓮華と相対しているのは、クロードらが最初に出会った、奇襲してきた天狗だった。


「今度は油断してやるものか」

「へぇ、楽しみだ。それじゃ始めよう!」


 蓮華はもはや衝動を抑え切れないといったふうにファイティングポーズを取る。


「死に急ぎやがって」


 天狗もまた刀を引き抜く。

 両者が戦闘態勢に入ったことを確認し、摩天楼が号令をかけた。


「では、両者構え……始めッ!!」


 次の瞬間、天狗の姿は消失した。

 耳に残るは破裂音と、空気を切る音。

 それを目に捉えることは、天狗ですら一部の者でしか叶わない。


 元々、彼は天狗の中でも指折りの速力を誇る存在であった。

 その速力があれば、山の端からでも敵勢を見つけてから迅速に仲間に知らせることが出来るからだ。

 それほどの速力を持つ彼が放った即座に仕留めるための出だしからの最高速度。

 開始直後の最大速力で蓮華に向かった。

 

 そして連続するように、打撃音が一つ響いた。

 否、打撃音というには、あまりに破壊的すぎる轟音だった。


「……」


 消えた天狗の次に見やるは蓮華の姿。

 しかし、彼女のほうを見れば、天狗も一緒に見つけることが出来た。

 蓮華の拳は地面を穿ち砕いていた。

 そしてよく見れば、拳と地面の間に天狗の頭部があった。

 体は逆様になり、頭部に釣られ、遅れながらもゆっくりと地面に落ちた。


「ふぅ……いい速度だったぜ」


 何が起こったのか、誰も理解できていなかった。

 呆然とする中で、ごく数名の天狗と、ローラ以外に、この有様を理解できているものは、皆無だった。


「さて、お次は?」

「参った」


 冷静な声で、摩天楼はそう告げた。

 すると蓮華は豆鉄砲を食らったような顔で問う。


「えっ、随分あっさりなんだな。天狗は仲間意識が強いんじゃなかったのか?」

「無論。故にだ。おんしの犠牲者を、これ以上出すわけにはいかん」


 相手はただの人間。そうタカを括った天狗らは、一羽の敗北によって全てを悟った。


「ほほう」

「相手がただの人間であれば、血気盛んな若者を送ることもしただろう。が、鬼神を相手取るなど誰が望むか」

「ハハッ! 褒めすぎだぜ。私は鬼でも神でもないぜ?」


 蓮華と摩天楼。圧倒的強者同士が笑みを交わし、交渉は上手くいきかけていた。


「なにを一人で勝手に決めている、摩天楼」


 それは、いつの間にか摩天楼の頭上に現れていた。


「天魔か」

「摩天楼、何時から一族の方針はお前の一存で決められるようになった?」

「戯けが……天魔・黒羽クロウよ。おんしと天狗はもはや関係がない。おんしは堕天狗の一人として君臨しているが良い」

「卑しい老害が。年老いて力が衰えたにもかかわらず、実力を凌ぐ俺に長の座を譲りたくないがために仲間を切り捨てるとは」

「なんとでも言えば良い。おんしのせいで、アマゾネスとも無益な戦いをせねばならなくなった。それで一体何人の仲間が狩られたことか」


 突如として現れた新たな存在、天魔・黒羽クロウ

 摩天楼と黒羽の会話には、聞き逃せない話がごろごろと存在していた。

 それに問うのは、クロード。


「待ってください。摩天楼さん」

「おんしは?」

「僕はクロードといいます。蓮華やローラのお供をしています。天狗とアマゾネスの対立の原因は、アマゾネスが鳥を乱獲したからでは……?」


 摩天楼はその凄みの効いた眼光でクロードを睨む。

 しかしクロードは一切臆した様子を見せない。

 それを見て、摩天楼は質問に答える。


「我々は天狗だが、鳥類すべての仲間ではない。そも、アマゾネスの縄張りに入り込んだ故に鳥が狩られたというならば、それも自然の摂理であろう」


 食べるものが居れば、食べられるものがいる。摩天楼はそういったことに理解があった。


「が、今回の諍いにおいては、黒羽がアマゾネスをおびき寄せたことがきっかけだった」


 つまり、黒羽は幻術を使い、アマゾネスを天狗の領地までおびき寄せていたのだ。

 おびき寄せられたその先で、別の天狗がアマゾネスの狩りを目撃した。

 縄張り意識の強い天狗という種族は、それを侵略行為と見做し、アマゾネスを敵対視するようになった。

 摩天楼ら天狗の上層部は争いを止めようとは思ったものの、アマゾネスが<なぜか>縄張りに足を踏み入れていたのは確かであるし、既に争いによって犠牲が数名出ていた。

 この状態で争いを止めるように言ったところで、仲間等が納得するはずがない。

 そのために、長い時間をかけて事の発端を調査していたのだった。


「すべてはおんしの仕組んだことだな、黒羽よ」


 黒羽は不敵な笑みを浮かべて言った。


「俺の計画は既に成功したに等しい。騒乱を起こし、天狗の……否、この森の頂点に立つ」


 そして、黒羽はある方向に目を向けた。

 西方と北方。その先にあるものは、アマゾネスとエルフの領地。


「来たぞ摩天楼。精々、足掻け」


 言い終えると、無尽の木の葉が強風に流されて黒羽を包み込み、爆発させた。

 舞い散る木の葉と黒い羽を残し、黒羽の姿は消失した。


「今のは、ちょっと見えなかったな」


 と、蓮華は嬉しそうな顔をした。

 対して、摩天楼は険しい表情を浮かべていた。唐突に怒号をかけた。


「皆の者ッ、敵を迎え撃てぃッッ!!!」


 山々に響き渡り、木霊する怒声。同時に、西方から雨の様な矢が襲った。

 北方からは、魔力を付与した光の尾を引く矢が天狗を追尾した。


 雨のような矢からは、逃れる隙間すらなく、咄嗟に風で仰ぐが、十分ではなかった。

 天狗たちは翼を傷つけられ、あるいは直撃を受けて墜落する。

 魔力を付与された矢は、逃げる天狗を自ら追尾し、命中するとともに対象を凍りつかせた。


「あの矢は、アマゾネスの……」

「この魔力は、エルフの……でも、いったいどうして?」


 困惑するポニテと眼鏡、そしてローラ。

 クロードたちは、嫌な予感を覚えざるを得なかった。


「まさか……」





 結城はディスプレイから目を離し、クロードを見た。


「つまり……どういうことだ?」


 指を止めた結城は、思わぬ急展開に困惑していた。

 きっとその場に居た彼らも同じ状況だったろう。


「始まってしまったんだよ。理想戦争よりも前に、森で大きな戦争が」

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