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5話目 東部住宅街100番地1号棟の住民

「私は椿と言います。山城やましろ 椿つばき。どうぞよろしく」


 アパートの数は、多すぎていちいち名前をつけることは無い。ここは東部の100番地、1号棟である。


「いやぁ!今日も疲れたなぁ!」

「ふふっ。お疲れ様、蓮華ちゃん」


 結城と椿が階段を上がろうとしたところに、ちょうど良く帰宅者が二人。その二人も見覚えがあった。


「お帰りなさい蓮華、アンジュ」

「おっ、ただいまー管理人!今日でこの国の武人は全員制覇したぜ!」


 緑の髪をざっくり切った快活な少女は蓮華。切り傷や打撲が体中にある。右腕は骨折したらしく包帯で巻かれていた。あのオーガを倒した乙女に、あの後何が起こったのだろう。


「おっ? そこの人は大通りで見たな」

「ゆ、結城です。ここの203号室に住むことになりました」

「おおそうかぁ! 私は蓮華れんげだ。ここの一階の左側、102号室に住んでるぜ! よろしくっ!」


 結城は階段を降り、蓮華は近づいて握手を交わす。中々フレンドリー。人間関係が苦手な自分でも大丈夫そうだ。


「またお会いしましたね」


 蓮華の隣まで来る長い茶色の髪の少女は、たしか西部のほうで会った魔女・ローレライ・アンジュだ。


「あの時はありがとうございました。改めまして、私は103号室のローレライ・アンジュです」

「おっ、ローラも知り合いなのか?」

「うん、不良に絡まれてるところを助けてもらったの」

「そうなのか? ローラに優しいなら私たちは親友だな!」


 なんだかよく分からないが、蓮華はローレライをローラという愛称で呼ぶようだ。そして親友らしく、その親友に親切をした自分もまた親友ということらしい。


「今から結城さんへの歓迎会を行いますが、どうです?」

「おっ、いいねぇ! 行くぜ、ローラも一緒だ」

「は、はい! ぜひ行かせてください!」

「では私の部屋で待っていてください。くれぐれも部屋をいじくらないように」

「了解! じゃあローラ、行こうぜ!」

「うん、蓮華ちゃん」


 二人が部屋に向かい、結城と椿は再び階段を登り始める。


「驚きました。すでにあの二人と面識があったとは」

「今日はこの国の観光をしてたんで」

「ああ、なるほど。あの二人は中々個性的ですよ。あなたと同じで」


 それは褒めているのだろうか、それとも貶しているのか。


「蓮華。彼女は地上最強の人間になるという理想を掲げて、あらゆる武人に弟子入りし、短期間で師匠を完封して免許皆伝、と言うのを繰り返しています。彼女が戦列に加われば、領土のほとんどを取り返せると言われています。本人は戦争に参加する気は無いようですけど」

「なるほど、それでオーガを一撃で」

「……また問題を起こしたのですか、彼女は」


 椿は眉間に皺を寄せて頭を抱えた。


「ああ、また始末書だ……」


 彼女が常に鉄仮面のような表情である理由が分かった気がした。


「ローレライ。彼女は王国直属の通訳者です」

「通訳者?」

「ええ。主に人間とその他の種族、言語の違う者同士を、魔力を通じて意思疎通を行う翻訳を務めています。この国があらゆるモンスターを受け入れ、なお大きいいざこざが起こらないのは彼女のおかげと言っていいでしょう。収入も私より多いです。魔道具で言語翻訳ツールを作ったりなど発明もしていますし」


 どうやら高所得者のようだ。うらやましい限りである。


「彼女も戦列に参加してもらえると、戦局はこちらが有利になるのですが、彼女の理想がなにせ世界平和、皆が仲良く過ごせるように、と争いごととは真逆なので」


 無理やり戦わせることがない分、この国はかなり良心的だ。よく落とされないな。


「次に二階の住民ですが、201号室は私の妹です。変なことはしないように」

「それって喫茶店で働いてる人?」

「あなた、まさかもう……」

「それは大丈夫よ。結城はヘタレだから自分から女性に手を出すような度胸はないわ」

「なるほど安心しました。これからもずっとその無害さで居てください」


 とても複雑な心境である。泣きそう。と思ってる間に201号室の扉の前に立っていた。階段上がって右側の壁にある扉だ。


よもぎ、新しい住人の歓迎会をするけれど、あなたもどう?」

「はーい、ちょっと待ってー」


 扉の奥から声が聞こえた。間違いなく喫茶店の彼女だろう。


「あ、ちょっと蓬まってストップです!」

「お待たせー」


 あの鉄仮面の椿が焦っているなんてレアな気がする。知り合って間もないけど。彼女の声は無視され、扉はよもぎが開け放った。


「歓迎会? どこでやるのー?」

「「っ!?」」


 結城も、そしてチェリーも硬直した。彼女は喫茶店で出会ったときのポニテではなく、解けたセミロングの髪から水を滴らせていた。おっとりとした表情に反して、ピンク色のバスタオルに包まれた体はそこそこ成熟した乙女のもので、体の凹凸はチェリーである結城を十分刺激するものだった。髪から伝う水滴が首筋を渡り、肉の峡谷へと流れていく。


「蓬! ちょ、なにやってるの!」

「えー、お姉ちゃんが来たから急いで出たんだけどー」


 結城のことは特に気にしてないようで、穏やかな笑みで姉と話している。


「いいから早く服を着なさい! って、あなたも見ないでください!」

「えっ、あっ、ああ! す、すいません! ごめんなさい!」


 こういう流れだと必ず平手か何か飛んでくると思っていたのだが、どうやら姉は妹に服を着せるのを最優先したらしい。


「ちょっとそこで待っててください!」


 バタン! と勢いよく扉を閉めてしまった。しかし眼福である。


「そういえば結城は前世で彼女とかいたの?」


 肩に座るチェリーが問う。


「そりゃ勿論いないよ。そんな暇も金も余裕もなかった。全部二次元に費やしてたよ」


 この世界は結城にとっては二次元のように見えるので、これを機会に彼女の一人くらい作ってもいいかもしれない


「ふーん、そう」


 なんだかそっけない感じに言われた気がするが、気のせいということに。とか考えてると、急に声をかけられた。


「そこのあんた」


 振り返ると、そこには一人の男性が居た。ピッチリした緑のシャツは、その男の屈強な肉体をこれでもかと主張している。決して太くはないが、引き締まったというよりは、凝縮されたという表現がしっくりくるその筋肉は、昼間に見たオーガとも互角に渡り合えそうな気すらした。赤みがかった茶色の髪は、ざっくりと散髪されて芝生のように茂った感じになっている。結城と一緒でファッションに拘りはないようだ。ただ腰に提げた拳銃や左腕にある大きなナイフという恐ろしい武装をしているのが気になる。


「もしかして、新しくここに住む人か?」

「あ、はい。結城です。あなたもここの人ですか」

「ああ、そうさ! 俺の名はグレイ。ここの202号室に住んでる傭兵さ」

「傭兵ですか。なるほどそれでそんな武装を」

「おうよ! 傭兵は俺の天職だ。そうだ、お前、俺の相棒にならないか?」

「いや、生憎と戦闘能力は皆無なんで……」

「なぁに! 俺が基礎から叩き込んでやるって! それと堅苦しい喋り方しなくたっていいぜ? 俺たちは同じ屋根の下で暮らす仲間なんだからさ!」


 仲間か。そういえば前世ではそう呼べる相手が居た記憶もない。上辺だけで付き合う友人くらいは居ただろうか。もしかしたら、彼らもこっちに来るかもしれないのか。


「体術なら蓮華、魔法・魔術ならローレライに聞くといい。あいつらは教えたがりの世話焼きだからな。かく言う俺もお節介野郎だ。武器の扱いや戦い方は俺に任せときな」


 なんと頼もしい男だろう。頼もしい上に明るく社交的で友好的。傭兵といえば人殺しはするのだろうが、そこはそういう職業なので仕方ない。人には向き不向き、得手不得手があるものだ。それがどういう方向性であれ、否定したくはない。


「まあ立ち話もなんだし……って、お前はここでなにやってたんだ?」

「椿さんが歓迎会を開いてくれるそうなので皆を呼びに周ってたんです。それと一緒に俺も挨拶使用と思って」

「へぇ、感心だなぁ。ところで結城」

「なんでしょう」

「いや、だから敬語はいいって。俺はそんな大層な人間でもない」

「それじゃあ、グレイ。これからよろしく」

「おう! でさぁ、その後ろに隠れてる妖精さんは人見知りなのか?」


 見ると、肩に座っていたチェリーが居ない。


「別に人見知りってわけじゃないわ。あなたみたいな汗臭いのは苦手なのよ」


 肩の後ろからひょっこり顔を出して覗く。


「私はチェリー。ピクシーのチェリーよ」

「あっちゃ、仕事帰りだったからな。俺はシャワー浴びて出直してくるよ。椿ちゃんに伝えといてくれ」

「ああ、分かったよ。それじゃ」

 右手をひらひらと振って自室に戻っていくグレイ。快活でいい人だった。今のところこの世界で自分の苦手な部類の人間は居ない。

 蓬の部屋の扉が開いた。


「お待たせー」

「ごめんなさいね。妹は少しボーっとしてるところがあって」

「いや、大丈夫です。さっきグレイさんが来て、歓迎会に参加するって」

「あー、あの人帰ってきたのね。分かりました。それじゃあ下に行きましょうか」

「あれ、204号室は?」

「空室です。新しい人が来たらまたやりましょう」



 歓迎会ではすき焼きが振舞われた。椿の料理はかなりの腕前で、たしかに結婚に必要な条件はみたしている。ただその堅く刺々しい感じが、どうしても男女総じて寄せ付けないのだろう。

 ちなみに蓮華の怪我はローレライが魔法で治して、傷一つ残ってなかった。


「それじゃあ飯も食い終わったところで、理想を晒しあいますか!」


 どうやらこの世界では気を許したときには自分の抱く理想を明かすのが定番らしい。チェリーに理想を問われて答えるのを渋った時に不機嫌になられたのは、まだ自分に気を許してもらえてないと感じたからなのだった。


「じゃあまずは俺からな。俺の理想は伝説の傭兵として名を上げることだ」

 

 グレイはナイフを抜いて高々と掲げて宣言した。そういえば、と蓮華が問う。


「なんで傭兵なんだ?」

「自由だからさ。傭兵は金で雇われるが、その国の兵士になるってことは自由を制限されるってことだよ。馬鹿みたいな上官を持った日には、次の日には亡骸になってるかも知れねぇ」


 なるほど、人の下につきたくないという気持ちはよく分かる。俺も傭兵になろうかな。


「結城も傭兵に向いてると思うんだけどなぁ?」


 チラリとこちらに目線をやるグレイ。ちょっと釣られそうになる。


「やめときなさいよ結城。あなたみたいなヘタレに人殺しなんて出来ないわ」


 それを言われると反論できない。たしかに人を殺すことは、自分には出来ないかもしれない。


「別に無理に殺す必要なんてないぞ? 捕虜として回収したら、モンスター用の食糧として売ればいいし、金になる」

「そういうことじゃないわよ。結城はね、優しすぎるの。人それぞれの生き方を尊重しすぎなのよ。他人を押し退ける我侭さに抵抗があるみたい」

「そっかぁ、気難しいなぁ」

「じゃあ私と一緒に最強を目指さないか?」


 今度は蓮華が勧誘してきた。


「私の理想は地上最強になることだけどさ、もう一つあるんだよ。強い奴と楽しく戦い続けたいっていう理想が」

「それと人殺し云々とどういう関係があるんだよ?」

「殺しちゃったら戦う相手が減っちゃうぜ? 敗北をバネに、もっと強くなって欲しいんだよ。いわゆるライバルって奴さ」

「あの、あっ、争いごとが嫌なら私と一緒に皆仲良しな世界平和を目指してみませんか?」


 おずおずとローレライが会話に混じる。


「そういえば、人間を食糧として認める案を出したのもローラだよな!」

「う、うん。魔物が人間を襲うのは、人間を食べたいから。なら、純粋に食用の人間を養殖すればいいんじゃないかな、って思ったの」


 なるほど、たしかにそうだ。が、自分の種族を食糧として差し出すなんてそれはそれでどうなのか。


「た、確かに、そこに歪さを感じる人も居る……でも、に、人間は昔から神様への生贄として人間を捧げてたこともあったし、そういうのもありなんじゃないかなって、うぅ……」

「私は難しいことはよく分からないけど、ローラのおかげでこの国はいろんなモンスターと分かり合えたんだ。ローラは間違ってなんかないぜ!」


 ちょっと雰囲気が暗くなる。それを無視してよもぎが理想を語りだした。


「私は自分の喫茶店を持って、たくさんの人を幸せにしてあげたいなー」


 平和な理想が出てきた。小難しいことなんて何も無い。いっそ清々しいほどの。


「あと出来れば猫が欲しいなー」

「桜は本当にいい子ね」

「お姉ちゃんは早く結婚できるといいねー」

「…………」

「それじゃあ、次は結城の番だぜ!」

「結城、あなたの理想を笑う人間はここには居ないけど。無理に話せとも言わないと思うわ」

「ありがとうチェリー。大丈夫……」


 結城は深呼吸する。そして、前世の記憶を思い返すように、己の人生を振り返るように。


「俺の理想は、この世ならざる者たちに出会うこと。現実を越えた空想に出会い、幻想に触れること」



 短く言うなら、こうだった。結城として、これ以上の表現はない。


「詳しく、聞いてもいいですか?」


 椿が問うと、結城は頷く。


「俺の前世は、ただそれを求める人生だった。画面の中の正義に憧れて、画面の先の悪党に痺れて、画面の奥の美少女に恋して、画面に映る世界に焦がれた。現実の中にそれを求めていた。求め続けた人生だった」


 かつての道程を順に辿れば、やはり儚さがこみ上げた。


「いつからか、そんなことは無理だと悟ってはいた。でも、諦められなかった。いや、諦めたら、もうそれは俺じゃない。俺が俺である為に、それを捨てることは出来なかった」


 待っていれば、信じて待ち続けていれば、いつかきっとその時が来ると思っていた。ある日、待ちきれずに飛び出した。そのために貯金もして、道具もそろえた。出会うために旅立った。


「そして行き倒れた。友人と離れ、恋人も作らず、定職には就かず、ただ、空想と幻想を夢想しながら、妄想して理想を掲げただけの、そんな人生だった。そして今も」


 自嘲気味に、されど誇らしげに、結城の顔は儚げながら、晴れやかだった。


「そして俺はここに辿り付いた。最初に出会ったチェリーは、俺が初めて出会った本物の神秘だ。希望の光だよ」

「な、なによ急に!」


 頬を赤らめ、桃色の髪をいじりだすチェリー。そんな愛らしい姿につい微笑みがこぼれて、続けた。


「そういうわけで、俺の理想っていうのはこういうものだ。途方も無いただの独りよがりと思われるかもしれないけど」


 皆、言葉を失っていた。彼の理想に対する姿勢が、あまりにも真摯だったから。

 ここに居る者たちは、諦めたけれど、諦め切れなかった。最後の最後まで捨て切れなかったものが叶う場所で、叶える場所だ。だが彼は違う。誰よりも強く望み、誰よりも理想に向き合っていた。そのために、現実を全て犠牲にしてまで。


 ここでは理想の内容は関係ない。ただその意思の強さだけが重要なのだ。今のところ、特に取り柄のなさそうに見える彼は、何かとてつもない可能性を秘めている。この場の誰もがそう思った。だから恐ろしく、頼もしく、そして興味が湧いた。


「全然、良い理想じゃないか!」

「うん、すごいです。私も頑張らないと」

「いやぁ、敵わないなぁ。あ、いや違う、叶う叶う!」

「そう、ね。私も弱音ばかり吐いてはいられません」

「なんか眠くなってきちゃったー」


 結局のところ、ここは誰にも理解されなかった者たちがほとんどを占めている。その中でも誰よりも真摯に向き合った彼を、全員が尊敬するべきだと感じたのだ。そして、力になりたいと思った。

 彼の理想が叶うのかは分からない。だが、だからこそ自分の出来ること、してあげられることを最大限やろうと思うのだ。

 目の前に居る彼がそうしたように。

 


 結城はグレイに誘われて彼の自室に来ていた。いわゆる男同士のトークと言う奴だ。チェリーには先に戻ってもらっている。


「で、どうなんだ?」

「どうって、傭兵の話?」

「いや、そこはお前の気が向いたら俺に声をかけてくれればいいさ。いつ戦場に行けって命令が来るか分からないから何時でもって訳にはいかないが。それはともかく、お前はあの中で好みの女性はいるのかって話だよ!」


 好みの女性。要するに、結婚したいとか、一緒に寝たいとかそういうことだ。


「まずはグレイのほうから聞かせてくれよ」

「お、俺か? 俺はだな、桜ちゃんかな」

「ほう」

「いつか傭兵として伝説を打ち立てたら、桜ちゃんと結婚して幸せな家庭を築く……これも理想だな」


 ちょっと彼の行く末が心配になった。戦場ではいい奴ほど先に死ぬって言うし。


「で、肝心のお前のほうはどうなんだ?」

「俺か。俺は、そうだな」


 桜の体は中々魅力的だった。あの凹凸だけでご飯何杯いけるだろうか。しかし特別好きというわけでもない。蓮華? ローレライ? 椿?


「そもそもまだ知り合って間もないからなんともなぁ。強いて言うなら……」


 ふと、あの剣士の姿が脳裏によぎった。


「いや、あれは男だしなぁ」

「えっ、お前そっちなのか?」

「いや、そういうわけではないんだけど……いや、本当だから」


 割と本気で引いたような表情をするグレイに、結城は苦笑する。

 

「俺はもっとこう、惹かれるものが無いと」

「なんだよその曖昧な感じは。胸が大きいとか、幼女とかじゃ駄目なのかよ?」

「それはまあ、性欲の対象にはなるだろうけど」


 やはり、何かが違うのだ。性欲だけでは人生は乗り切れないし、かと言って魅力がなければ生活はつまらない。


「やっぱお前は変わり者だな」

「褒め言葉として受け取っておくよ」






「なるほどね」


 チェリーはローレライの部屋を訪れていた。一階の部屋は庭もついているし、広い。


「魔女と言うだけのことはあるわね」

「えへへ」


 部屋の中央にある大釜は、口から紫色の光を放って天井を照らしている。

 そこかしこに存在する水晶や色とりどりの宝石。ブレスレットやイヤリング、アクセサリーに見える物は全て何かしらの魔法が付与されたものだろう。


「あれだけの怪我が物の数分で治すなんてどれほどの魔女かと思ったけれど……」


 想像以上だ。ここまで筋金入りとは。


「あなた何者なの?」

「……私は、皆が仲良くなれる、平和な世界を理想ゆめ見ている、ただの魔女です」

「ただの魔女、ね」


 ローレライ・アンジュ。

 その数々の功績と未だに増え続ける業績、その計り知れぬ技量と力。

 たった一人で、戦争を意のままに終わらせることが出来るという彼女。

 

 そんな彼女に、チェリーは嫌な予感を抱いていた。

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