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ネクストワールド ~理想の世界と妄想の旅人~  作者: めんどくさがり
肆ノ章 ―絶滅理想・性魔計画―
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63話目 絶滅の理想・原罪

 強く焦がれたのは、絶滅の理想。

 如何なる障害もたちどころに絶ち、人間を滅ぼす理想。


 怖ろしき社会の中で、救われることを望んだ者たちとは対極に位置する。

 全てを滅ぼしたいという願い。


 決して叶わない、しかし諦められない願い。

 憎悪が、怨恨が、憤怒が、怒気が、抑えられずには居られない。

 ひたすらな絶望が、絶滅の理想を形する。


 そしてここに、新たな理想人が……

 怪物が現れる。





 結城と銀風は飛空艇に乗り込んでいた。

 ユートピア行きの船の上、二人は見た。


「これは、よくもここまで……」


 結城は笑っていた。

 その圧倒的な理想を前に、感心してしまっていた。


「どうして戦争中に現れなかったんだ。そうすればアルカディアが攻め込まれることも、モンスターが迫害されることも無かったろうに」


 余裕を見せる銀風だが、かといって眼前にある力を侮っているわけではなかった。

 その姿は、理想郷にはとても似つかわしくない禍々しさを発していた。


 それは空から垂れ下がる一人の人間だった。

 巨大な人間の顔は感情を見せず、まるで鉄仮面のように。

 だらりと下がる体が背の方へと反り、下界を見下ろす。


「全てを終わらせよう……お前たちの願いは私が背負う。私は滅ぼす者。私は頂に座する者。全ての人間を、罪を、業を絶やそう」



 それは唐突に訪れた<滅亡の日>

 アレを見た者は、その誰もが罪悪感を抱いた。

 己の罪を想起させるのだ。

 自らの都合の為に、生きるために、理想の為に、一体どれほどの数の犠牲を出したのか。

 自らの利益の為に、どれだけのモノを見過ごしたのか。

 同じ人間であるが故に、決して逃れられぬ、人間の罪。原罪を突きつけられる。


 まるで見えない亡者に足を掴まれたかのように、心が自責の念に追い詰められる。

 やがて、せめてもの償いをと、その手に握る理想を手放し、傍の刃物に手を伸ばさせるのだった。




「まったく、なんて理想だ」

「気持ちは、分からなくないんだが」


 二人の異なる感想。銀風は問う。


「お人好し故にか?」

「いや、本心だ。ただの同情じゃない。」


 灰色の巨人を、結城は哀れんでいた。


「お人好しだからかもしれない。それはきっと歪んだ正義感のようなもので」


 許せない。そう、許せないのだ。

 しかし、それはやはり人間であるから。


「絶対な善など無いから、自分も含めた全てが汚らわしく見えてしまうんだ。そうだろう、絶望の理想よ」


 巨人が結城に気付き、目を向けた。

 その無感情な瞳の奥に、結城ははっきりと見ていた。復讐の炎を。


「俺とアレの違いはたった一つ。彼が現実を直視し続け、俺は現実を捨て、妄想に恋焦がれた。たったそれだけの差でしかない」


 あの醜い現実を直視し続けたという意味では、あの化物は自分より強いのだろう。

 だが、脆く儚い妄想を、叶うはずもない途方の無い願いを信じ、貫き通した自分は、更にその上を行くと確信していた。

 ただ一つ。結城にも隠し抱いていたモノがあった。


「でもな、罪深い人間という種族、すべて滅んでしまえばいい……そう想っていたのは、俺も同じだ」


 結城は手を翳す。


「だから他人事ではいられない。放ってなんか置けないんだよな。困ったことに」


 結城の手に虹色の光を宿す無色透明の刃が顕現する。

 結城の最初にして最高の妄想傑作、クリスタルソード。


「いくぞ、絶望の主」




 絶望の主は断末魔にも似た叫びを上げる。

 ユートピアから出撃した無数の戦闘機が撃退に向かう。


「なんだこの気味の悪い化物は」

「さあ。さっさと粉微塵にして戻ろうぜ」


 ふと、黒い影が横切る。


「なんだ、いま、のは……」


 それは刺々しい鱗を纏った、巨大な黒竜であった。

 戦闘機は目標を吊られた巨人から黒竜に変更する。

 ミサイルが発射され、黒竜は集中砲火を浴びる。


「よし、次はあの……」


 突如、赤黒い闇の光線が多くの戦闘機を薙ぎ払う。

 その口から吐き出される光は、戦闘機の装甲など簡単に消失させる力を持っていた。

 暗雲より吊られた巨人。

 邪悪なる破壊の黒竜。

 そしてどこからとも無く現れる、怪鳥の類、竜の類が、蝙蝠の羽を持つ人間が空を埋め尽くすように飛び回る。

 その有様は、まさに終末がもたらされたかのようであった。




 情景は、絶滅を望む者たちを歓喜に奮わせた。

 そして彼らは最後の時を活き始める。

 誰に許しを請うこともない。絶滅の祭、絶望の宴。

 建物を壊し、人々を殺し、そしてやがて自らの命すらあの巨人に捧げるだろう。

 自らの罪悪すら、あの巨人が消し去ってくれる。

 そう、あの巨人は言わば、彼らにとっての神であった。

「ハッハッハッ! 殺せ殺せ!罪深い人間を殺せ!業深き人類を滅ぼせ!」


 悪鬼羅刹、遥かな理想郷は異形が横行跋扈する魔境へと変わる。


 アルカディアでは魔物たちが暴虐の限りを尽くしている。

 大通りの人通りが多い場所では、人間と友好的な魔物と敵が入り混じり、兵士たちは倒すべき対象が判別しきれずにいた。


「そこのリザードマン! アルカディアで人間や魔物が互いに危害を加えることは禁止されている!」

「お、おい!俺は何もして無いぞ!あっちの奴だ!」

「そ、そうか、すまない。おい、そこのお前……」


 兵士たちが人間と争うオーガへと向かう。

 その背を見るリザードマンは、隠し持っていた刀剣を引き抜いた。


「死を……全てのモノに死の鉄槌を」




「絶望の世界に、絶滅の終焉を」

「クッソ、好き勝手やりやがって!」


 宙吊りの巨人へと向かう二機の少女。

 ミリタリーガールズシリーズ、フェイとルージュ。


「随分硬そうな外装の竜だな。この兵装のテストにはもってこいってわけだ!」


 長大なガトリングを背部左翼に装備している。

 アヴェンジャーの改良型、リヴェンジャー。

 また右翼にはレールガン、密接火器アグニキャリバーが腰にある。


「黒い竜……ファンタジーみたい」


 ルージュはプロペラを変更し、超震動で物体を切断しやすくする。


 そしてアルティマティオス・ゾーイ。

 青い外装に、虚構で創り上げた双翼が蒼い火を吹き、空での超機動を可能とする。



「目標発見、接敵、交戦開始」




 上空の戦闘機が黒竜に焼き尽くされている頃、地上でも戦車部隊が進撃する。

 敵を見る鋭い眼光。茶色の前髪の隙間から覗き、その手にある主砲を構える。


「全部隊、こちらに向かってくる魔物は全て砲撃せよ」


 パティが率いる戦車隊の砲撃が、モンスターの進撃を食い止めていた。

 ゴブリンなどの小型のモンスター、巨人でさえたやすく銃弾や砲弾によって木っ端微塵に成り果てる。

 まさに圧倒していた。それは過去の繰り返しのように。

 過去と違うとすれば、彼らの瞳に宿る憎しみと、逃げ惑うことなくこちらに向かってくるところか。


「……なんだ、この揺れ」


 言葉が全て紡がれる前に、大きなゆれが戦車を襲った。

 照準が大きく揺さぶられるほどの揺れが続く、次の瞬間、地中から異形が這い出した。

 それは巨大な芋虫だった。


「な、なんだこいつらは!?」


 パティが驚く間に、四体の虫が戦車を食らい、あるいは薙ぎ払った。

 黄色い外皮に覆われ、無数の牙を持つ不気味な姿。その大きさは巨人さえ一飲みにしてしまいそうなほどであった。


「パトリオット隊長、後方が!」

「なんだ!?」


 パティが振り返る。

 先ほどの地震のせいか、ユートピアと部隊を分断するように、地割れが横切っていた。

 そしてそこから溢れ出る、煌々と輝く溶岩。

 大量の溶岩が自ら意思を持って蠢く。

 マグマスライム。草原の草を燃やし、地面を焼き、迫る。

 後方からマグマ、地下から虫、そして、前方の巨人はよく見れば、部位の欠損も見る見るうちに回復していた。


「ふざけろ……」


 パティは必要最小限の言葉しか発しない。

 そんな彼女が悪態をつくのはあまりに珍しかった。

 あまりの希少さに、フェイが通信で本気で心配してかかった。


「おいパティ、本気でやばいのか?」

「そっちはそっちの任務に集中していればいい」

「うるさいファッキンタンク! 支援も任務のうちだ! いいから素直に支援要請しろ!」

「……すまない、頼む」

「良しキタァ! 行くぜファッキンモンストゥルムども!」


 フェイは急降下を開始する。

 追おうとした黒竜との間にはルージュとゾーイが割って入った。


「ここから先は……」

「侵攻を阻止します」


 ルージュの震動プロペラカッターが射出され、黒竜の鱗に僅かな傷をつける。


「硬い……」

「安全装置解除、終末兵装・ラグナロックを使用します」


 仮想が生み出す一振りの剣。

 超高密度のエネルギーを供給圧縮し、刃に凝縮させる。

 刃には特殊な金属を使用し、エネルギーの供給によって切れ味が格段に向上する。

 そしてエネルギーの伝導率の高さにより、黒竜の鱗でさえ消失させる。

 切断し、同時に消失させる。現時点で最高の科学刀剣。


 黒竜は荒々しく、その尾で薙ぎ払おうとする。

 回避するルージュに対し、ゾーイは待ち構えた。

 そして一太刀。傷一つ負わせるのに手間取った鱗ごと、極大の尾は切断された。

 咆哮を上げる黒竜。切断された尾の断面から、赤黒い血液が垂れ流される。


「効果あり。攻撃を継続します」



 一方、フェイはリヴェンジャーで巨人を一掃していた。

 再生能力のある巨人、トロール。

 巨人の頑強な体さえものともせず、限界まで引き上げられた火力がバラバラに引き裂き、千切っていく。

 多少の欠損ならばまだしも、五体が散開し、一部が挽肉になってしまったのでは再生のしようが無い。


「助かった、フェイ。あとはこちらでなんとかする」

「オーライ。パティ、戦車らしく気張れ!」

「余計なお世話だ……感謝する」


 パティは手持ちのガンケースから一丁の銃砲を取り出す。


「仮想銃砲……その力、いかなるものか」


 すると唐突に通信回線が開かれる。

 そこから聞こえるのは、相変わらずタガの外れた声。


「仮想銃砲は君が欲する機能を持つ、君の求める外観の銃砲へと変化する。今、君の想い描く無双の銃砲を思い浮かべるといい」


「私の求める銃砲……」


 眼前に迫る灼熱の炎の化物。

 彼らの纏う高温すら消し炭に変えるような、圧倒的な火力……ではない。


「私が求めるのは冷凍銃砲」


 浮かび上がるホログラムは、銃の輪郭を現す。

 徐々にその存在を確立させ、物質を構築し、物体を構成する。

 出来上がった銃身は、冷気を感じさせる明るいパールブルー。

 弾丸は拡散と炸裂。全てを一瞬にして凍てつかせる吹雪のごとく……


「フリーズランチャー」


 最終的に一台の戦車に匹敵する大きさとなった銃砲。

 仮想が現実に顕現し、砲口は燃え盛る敵に向く。


「発射ッ!」


 発射音が鳴り響き、砲弾は空気を引き裂き、見事フレイムスライムに命中する。

 スライムの特性が、砲弾を飲み込み溶かそうとする。

 次の瞬間、スライムは一瞬にして岩になった。


 マグマであったスライムは、その熱を一瞬で奪われたのだ。


「特殊弾頭、過冷却弾」

「次弾装填、照準合わせ……ってぇ!」


 次の砲弾が灼熱のゴーレムを穿つ。

 燃え盛る炎は瞬時に鎮火し、崩れ落ちる。

 銃弾すら鋳溶かす熱気を貫く過冷却弾で、パティは次々と敵を撃ち抜いていった。




「随分と禍々しい理想だ」

「……そうだな」


 青空が暗雲に覆われた頃、それでも尚、際立つ黒点が二つあった。

 神魔を降す闇黒の徒。


「だが、私には否定しきれない」


 闇黒の乙女、シン・クロウデル・ダークロード。

 邪気眼を持つ彼女。彼女もまた、人間を憎む理由があった。


「私だって憎いわ。お遊びで邪気眼やってる奴らなんて死に絶えればいいと思ってる」

「黒羽……」

「分かってる。そんなの意味の無いことだって。ただの自己満足。でも、満足できないまま死ぬなんて、私は絶対に嫌。だってそうでしょ?」


 理想があるならば、自らが満足するまで走り続け、時に飛翔してみせるだろう。

 自分が満足するために、命と人生すら投げ打つ。それが理想人。


「だから、私はアレを倒す。アレが前世、どれほどの苦しみや悲しみを味わったとしても、私は私の理想の為に……貴方はどうなの、結城」


 クロウデルが見下ろすそこには、飛空艇から見上げる結城と銀風の姿があった。


「どうする、か」


 此処に来て、此処まで来て、結城は迷っていた。


「とりあえず、話してみないとなんとも」

「……本気で言ってるの、あなた。アレと話が出来ると本気で想ってるの?」

「会話はともかく、理想を見てみないことには。機械であるユートピアの理想だって知ることが出来た。今回も問題ないはずだ」

「そう。ならば見ているがいいわ。悠長なことを言っている間に、私たちが打倒して見せるわ。ケイオス」


 ケイオスは剣を横に振り払う動作で、闇の剣を顕現する。


「ククッ……当然だ。我が無限の闇は、人類への憎しみ如き容易く飲み込んでみせる」


 そして二人は宙吊りの巨人へと向かっていく。

 結城はそれを見送ることしか出来なかった。


「結城、私たちも行こう」

「ああ……いや、ごめん。ちょっと」


 妄想顕現・闇の使者。

 結城の眼前に、真黒の眼を持つ男が現れる。


「まだ迷っているようだな。結城」

「ダクスト、クリストはどうしたんだ?」

「奴も今回ばかりはこちらに任せてくれた。手間のかかる奴だ」

「それで……」


 何の用だ? と、偉そうなことは言えない。

 クリストとダクスト。彼らは常に自らの上を行く、自分の理想の姿の一つだ。


「それだ。それがいけないと言っているのだ。良い子ちゃんめが」

「っ!」

「自分の敷いた正義に縛られている。己の常識に囚われている」


 目指す理想、目指す善性、目指す正義、目指すバランス、目指す結末……


「せめて、遥か高みに上り詰めた理想を報わせてやりたい……なるほど、お優しいことだ」

「人類の滅亡、絶滅の理想……」


 それがどうしようもなく受け入れられないモノであることは分かっている。

 だが、諦めきれない。それをどうにかできないのかと。

 ただ斬って捨てるだけでは絶対にいけないのだと。


「フフッ……その足掻き、相変わらずだな」

「それが俺をここまで辿り着かせた」

「だろうな。ならば、お前の一寸先を少しばかり照らしてやろう」


 ダクストは宙吊りの巨人を見る。


「奴の理想は絶滅の理想。それを前にして、如何なる人間の生存を許さない」

「ああ、そうだな」

「全人類……その中に、お前が護りたいと思う人間は何人いる?」


 護りたい人間。結城はその言葉の意味を考える。


「人間を、護りたいだなんて」


 思ったことなど無い。

 自分にとって大切な仲間を守りたいと思ったことはあれど、人間全てを救おうなどと思ったことは無い。

 自分の妄想世界と仲間が居れば、他がどうなったところで自分には関係が無いのだ。

 ただ、あまりに強すぎる理想が、美しく、愛おしく感じてしまったから、安全無欠の理想も、闇黒の徒の理想も、ユートピアの理想も、そしてこの絶滅の理想さえも、報われて欲しいと思ったのだ。


「それがお前の答えだ」

「これが、俺の……」


 ダクスト。結城の心の最も深いところを知る存在は、邪悪な笑みを浮かべて続けた。


「お前はアホみたいな聖人君子ではない。まして、馬鹿げた世界平和を望むような出来た人間でもない。むしろ、人間なんぞ滅びて自業自得と思っているような、素晴らしい人間だ」


 闇黒の徒の二人と宙吊りの巨人が交戦を開始した。

 邪気眼の内包したエネルギーが解放され、光線となり巨人を穿つ。

 中二病の掌握した闇黒の剣が闇を纏い、大振りの黒刃となって巨人の腕を断つ。


「俺は……」

「善悪に囚われるな。価値観に縛られるな。良心に苛まれるな。それがたとえ誰かにとっての過ちだとしても、自分だけは肯定してみせろ。お前の全ては、お前だけのためにある」

「俺の全ては、俺だけのために……」


 抱く良心は、自らの想いを偽るためのものじゃない。

 誰かを幸せにするのではない。自分が幸せになるための、そのためだけに存在するというのなら。


「知ったことか、構うものか、他者のことなど煩わしい、違うかね?」

「……自分の中の悪性を翳す、か」


 それが厳密に悪なのかどうか、結城には判別が付かない。

 人間の絶滅を願うアレの願いさえ、悪だとは思えないから。

 しかし、それならば丁度よかった。


「理想を叶える力もある、肯定してくれる仲間も居る。成そうとする意志がある。ならば、その前に立ちはだかるものが善悪如何なるものだとしても……」

「俺の道は遮れない。全てを退ける」

「そうだ、そうだッ! そうだともッッ!!」


 結城の足元の影が蠢いていた。

 結城の七色の光に、一筋の闇が連なっていた。


「見せてみろ、お前の力を。お前のあるがままをッ!」


 ダクストの手に、闇黒の六角水晶が現れる。

 どこまでも深い闇は、何者にも束縛されぬ解放の魅力を有する。


「さあ結城、共に行こう。真なる闇黒を、深みを教えてやろう」


 結城は差し出された水晶を受け取る。

 瞬間、それは弾け、結城の全身に光となって纏われる。

 無色透明の刃に虹色を宿らせる剣は、黒水晶に変わりゆく。

 黒水晶モリオンの如く、闇黒水晶ダーククリスタルは一切の光を遮り飲み込み、輝く。


「クリスタルソード・ダーク」


 死神のような黒衣に身を包み、血眼のような紅瞳が見据える。


「良いツラになったな、結城よ」

「……銀風、悪いが」

「私はそも、人とぶつけ合うような理想は持ってない。思う存分暴れてくるといい。私はお前に心配をかけるほど弱くは無いぞ」

「ありがとう、行って来る」


 浮かべる微笑。銀風は唸る。


「その姿も中々悪くないな。色気がある」





「おぞましい姿も、ただの見掛け倒しか!」


 クロウデルが啖呵と共に、邪気眼から能力を発動させる。

 それは視界にある全てを切り取り、捻じ曲げ、圧縮して消失させるという兇悪極まりない能力。

 相手の理想が強ければ、能力を防がれることもあるが、そもそもの能力が強力なために、よほどの理想でなければ死ぬ。


「絶滅の理想。私にだって、それに近いものはあった。どの程度のものか理解しているつもりよ」


 巨人の体はすでに雑巾のように捩れきっていた。


「でもね、私の理想はやっぱり邪気眼。人間を滅ぼすだけじゃつまらないの。お遊びで邪気眼やってるわけじゃないのよ」


 これで終わり、そう思った頃合。

 突然に捩れが止まった。


「えっ、何が……痛ぅっ!」


 突如襲う目の激痛に、思わずクロウデルは顔を覆う。


「クロウデル、目を離せ!早く!」

「痛ぅああ……で、でもそれじゃ……」


 音を立てて、空間に亀裂が走った。

 何かがガラスを叩く音が、徐々に大きくなる。つれて亀裂も走り、クロウデルの目は弾けんばかりの痛みに襲われる。


「クソッ、クソッ、何が……あいつは一体、なんなのよ!」


 次の瞬間、上がる悲鳴と共に、空間は砕け散った。


 ぐちゃぐちゃになった巨人の体がそこにあった。

 だがその胸部が妙に膨らんでいる。

 そしてそれは鼓動のように、内側から何かが叩いているのだ。


「くっ、あっ……」

「クロウデル!」


 気絶したクロウデルをケイオスが抱きとめる。

 抱きかかえながらも巨人からは目を離せないで居た。


「何か、来るのか?」


 ふと鼓動が止む。

 と思った次の瞬間、何かが胸を突き破った。

 それは一本の腕だった。

 魔獣のように太く、長い爪を有した手腕。

 目を奪われていると、それは俊敏に引っ込み、巨人の膨らんだ胸部を穴だらけにする。

 そしてついに胸部を突き破り、その姿を現す。

 

 血に塗れた姿。悪魔的な屈強さの肉体と蝙蝠の翼。

 顔の中央にある一つ目と、その下に開いている大口から覗く獣の牙。

 炭のように黒い肌は、さながら焼死体のようで。

 単眼が不意にケイオスを睨んだ。


「くっ……」


 中二病を纏う余裕がなくなりかけるほど、驚異的な殺意を向けられる。

 しかしそれも一瞬。ケイオスはすぐにいつもの調子に戻る。


「フン、その程度の殺意でこの俺の闇黒に通用すると思って……」


 単眼の翼が二度羽ばたいた。

 空気の引き裂く音がしたかと思えば、その姿はすでに眼前にあった。


「っ!?」

「伏せろ!」


 ケイオスが咄嗟に伏せると、背後からの大量の銃弾が頭上を通過し、単眼の悪魔に降り注ぐ。

 だが即座に反応して直撃を免れ、距離を取る。

 振り返ると、そこには一機のヘリと、箒に乗った魔女と勇者。


「安全無欠……」

「ここは僕に任せて」


 ケイオスはクロウデルを見やり、無言でアルカディアへと飛んで行く。


「闇黒の力で空が飛べるんだ」

「そのために私がおりますわ、クロード」


 二人は巨人の胸を突き破った悪魔を見る。


「亡者よ、引きずり込め。神よ、押え給え。グラビティ!」


 悪魔の全身が強烈な重力に襲われ、亡者に引きずり込まれるが如く地面へと落下していく。


「ゆきます」

「ああ!」


 地面に激突し、土埃の上がる付近へと降り立つ。

 クロードが箒から飛び降りて剣を抜く。

 


「よし。魔耶、援護よろしく」


 聖剣光刃・ペルフェルクトを顕現するクロード。

 輝かしく眩い白刃を持って、絶滅の悪魔と対峙する。

 土埃の煙が、悪魔の翼の羽ばたきで一瞬にして散る。


「悪魔……なのか?」

「いえ、クロード。あれはどちらかといえば魔人に近いもの。天使のような正義も、悪魔のような欲望も無いもの」

「我は憎む者。我は滅ぼす者。人間よ、絶滅せよ」


 翼と腕を大きく広げ、咆哮を上げる悪魔。

 その気迫に押されながらも、ペルフェルクトを構えなおす。


「絶滅なんてさせない。人間は貴方が思うほど堕ちてはいない!」




 結城とダクストは下方で対峙するクロードと悪魔を見下ろしていた。


「良いのか結城。まがりなりにも友人だろう?」

「関係ない。どちらかに加担する気はない。むしろどちらかと言えばアレの理想のほうが共感できる」

「そうだ。義理や情に流されることは無い。様になってきたじゃないか」


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