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45話目 アルカディアVSユートピア

「マダ…ダ、ゼ」


 その声に、レイランは即座に振り返り、剣を構えた。

 再び挑んでくるならば、何度でも切り伏せよう。そう思いながら。


「……ッ!?」


 だが、それまでの余裕は、蓮華の姿を見て一瞬にして吹き飛ぶ。


「もっと、モット……足リナイ、痛ミ、チカラ、まダ足りナイ」


 その瞳は青天の彩りを失い、鮮血の一色であった。

 だらりと下がる右腕は何の変哲も無く、しかし悪魔の爪よりも凶悪に見え、触れるだけで命を刈り取られそうな気さえした。

 そして強大な気……否、気でありながら気でない。殺意にも似て、しかしどこか違う。

 言うなれば、それは闘気とうき

 蓮華の持つ尋常ならざる闘志が膨大な闘気を発現させ、溢れていた。


「マスター、お下がりください。これは……」

「いや、レイラン。下がるのはお前のほうだ」


 結城はレイランの横を通り過ぎ、前へ出る。


「マスター、いけません。あれは……」

「連戦で疲れが溜まっているはずだ。とは言わない。ただレイランが俺に力を示してくれたように、俺もレイランに力を示したい。レイランの想いに答えたい」


 手を翳すと、七色の光が宿る水晶が顕現する。


「レイランのおかげで気付けた。俺はもう遠慮はしない。この世界を存分に楽しんでやる」


 仙境に辿り着いて、レイランと分かれる間際、かけてくれたあの言葉で、結城はそれに気付いた。

 ここは前の世界とは違う。

 そして、自分もあの時の自分とは違う。

 力があり、それを行使する舞台がある。

 ならばそう。今まで想ってきた分を、現実で出来なかったことを思う存分に実現させる。


「妄想顕現ッ!」

「イマはオまエじゃないゼ」


 風が吹き、ふわりと頬を撫でた。声は、背後からしていた。

 振り返る結城。そこにレイランと蓮華の姿を捉えた瞬間、左肩に激痛が走った。


「ぐっ、うぁああ!!」

「っ!」


 気がつけば、眼前に蓮華がいた。

 マスター、とかける声すら後回しにしなければならないほど、レイランは焦った。

 その瞬間移動ともとれる速さに、レイランは即座に抜刀する。

 しかし、剣は抜けなかった。


「ハハッ!」


 剣の柄頭を蓮華の拳が抑えていた。


「ココの技術じゃオマエのほウが強イみたいダ」


 蓮華の姿勢は、もはや八極拳や形意拳のものではなかった。その構えは、空手の突きに似ていた。


「私は、ソレだけじゃナイぜ」


 至近距離から放たれた正拳突きがレイランの顔面を打ち抜く。


「させない」


 レイランの姿が忽然と消え、蓮華の拳は空を打っていた。

 ふと横を見ると、結城がレイランを抱き寄せていた。


「今の俺は前とは違う。そう簡単にやられはしないさ」

「へぇ。結城、ヤルようニなっタな? それじゃア……」

「そこまでだよ、蓮華ちゃん」


 蓮華の体を、ふわりと柔らかい感触が包み込む。


「ウ、アッ?」


 懐かしい匂いが蓮華の鼻腔をくすぐる。昂ぶる心が解け、魂が蕩けだすような心地よさに体を無意識に預け始めていた。


「少しだけ休もう? 少しだけ……」

「すこ、し……」


 背後から抱きしめるのはローラ。蓮華はそのままカクンと意識を失った。


「おやすみ、蓮華ちゃん」


 そのままローラは地面に座り、膝の上に蓮華の頭を置いて優しく撫で続けた。


「いったい、なにがどうなってるんだ?」


 唖然とする結城。レイランもまた、困惑した表情を浮かべる。


「すみません。蓮華ちゃんはスイッチが入っちゃうと見境がなくなっちゃうんです」


 突如として現れ、唐突に終わった蓮華の異変。

 その得体の知れなさ、そして脅威があまりにも不気味だった。


「マスター、助けていただいてありがとうございます……これではジエン師に合わせる顔がありません」

「まさかスルーされるとは思ってなかった。しかし、レイランでも見切れない攻撃とは……」

「あの一撃は、今までのどの攻撃よりも速いものでした。あれを受けていれば、おそらく私が負けていました」


 俯くレイランの頭を、結城が撫でる。


「そう気をつかうなレイラン。俺の助けが無くったって、あれは凌げたんだろ?」

「……敵が攻撃する際の気配はありました。ですが、その豹変ぶりに驚き、身動きが取れなかったことは事実です。私もまだまだ未熟の身です」

「フフッ……そういうことにしておく。さてと」


 結城はローラに抱きかかえられて眠る蓮華を見る。


「これからどうするかな」

「ひとまずはここを出て、皆さんと合流するのが良いかと。外の様子も気になります」


 少しして蓮華も起き上がり、結城たちは武陵桃源を後にする。




「いやぁ、負けた!完敗だ!」


 桃源街を歩く結城たち。蓮華は大きく両腕を上げて伸びをする。


「レイランがあんなに強いなんてなぁ。負けたのなんて何時ぶりだか」

「ローラに抑えられただけでしょう。あのまま続けていたらどうなっていたか……というより、あなたの本気はどこにあるのですか」

「へへっ、私はどこまでも強くなるのさ。なにせ世界最強を目指しているからな!」


 世界最強。それこそまるで夢のような話だが、そんな理想を本気で、諦めることなく掲げてきた蓮華の想い、その執念は強力なものだろう。

 レイランが倒しきれないのは意外だが、蓮華の力はまだまだ底が見えてこない。


「フフ……」


 だが、今となってはそれを前にしても、自分の理想こそが最強だと思える。

 前世から恋焦がれ、追い求めていた妄想の最奥、夢想の最深、幻想の最果て、理想の最高点……


「結城、なんか雰囲気変わったな。前より活き活きしてるぜ?」

「ああ、自分が何を望んでいるのか、やっと思い出せたからな」

「結城!」


 声がすると思えば、人ごみの中で手を振るグレイの姿があった。

 人の波を掻き分け、なんとか合流を果たした。


「もう体はいいのか?」

「ああ。この通り」


 左手の親指を立てると、グレイは笑う。


「そりゃ良かった。いい加減ここにも飽きた。早く戦場に出たい」

「あとは銀風と新月と淫夢だけだが……」

「私ならここにいるぞ」


 結城の背後から突如、謎の腕が伸び、がっしりと捕まえられる。


「うおっ!?」

「うーん……会いたかったぞ、結城。ところで私が誰か分かるか?」

「銀風、そろそろ行くぞ。さすがに五日もサボってたら何を言われるか」

「ふふん。結城は誰かの下につくようなタマじゃないだろうに」

「お久しぶりですわね、結城」


 銀風たち四人と合流し、これで全員が揃う。そして結城らは仙境を後にする。


「四人?」


 ふと気付き、結城は人数を数える。


 レイラン、蓮華、ローラ、グレイ、銀風、新月、淫夢……そしてもう一人。


「は、初めまして、美鈴めいりんと申します。銀風にパーヴァートとして招かれました。以後よろしくお願いいたします」

「……銀風、またいたいけな少女を引っ掛けてきたのか?」

「人聞きの悪いことを、私は結城一筋だと何度も言っているだろう。彼女は性の悩みを持っていたがために、私が導いた。それだけのこと」


 なんにせよ、やりたい放題に変わりはない。

 その自由さに、結城は少し羨望と尊敬を抱いた。

 自分ももっとこうなりたいという憧れ。そしてその憧れこそが、妄想の原動力となり、力となる。


「それじゃあ、乗り込むか。ユートピアに」





 外に出て、ローラと蓮華はすぐに察知した。


「あっ、これ完全に出遅れたやつだ」

「ああ……本当ですね。アルカディアの方がすごいことになってますよ」


 言ってしまえば大遅刻であった。結城は頭を抱える。


「あちゃー……」

「申し訳ありません。私が力不足なばかりに時間を……」

「別にレイランのせいじゃない。それにあの光をどうにか出来ない限り、ユートピアには辿り着くことすら出来ないんだから」

「お気遣い、痛み入ります」


 レイランは深々と頭を下げる。


「まぁ、アルカ王も居るし、安全無欠だって動いてるだろう。闇黒の二人も居るからそこまで気にする必要はないと思うけど……」


 結城が見るのはグレイだった。

 案の定、グレイは汗をだらだら流していた。


「よ、よもぎは、よもぎは大丈夫なのか……」

「……グレイは帰還組に決定。後はどうするか」

「結城、私も戻る。いきなり敵地に美鈴を連れて行くわけにもいかないからな」

「私は結城と同行しますわ! 安心なさいな銀風。あなたの分までしっかり結城を満足させてみせますわ」

「結城、信じているからな」


 真剣な眼差しを向けてくる銀風に、結城は苦笑する。


「私はマスターと共に」

「私は戻るぜ! お祭り騒ぎでなんだか楽しそうだ。強い奴もいるかもしれない!」

「敵の本拠地の方が強い奴がいそうだが」

「そしたら両方楽しみたいからアルカディアの方からやるぜ」

「あ、あの、私も……」


 蓮華とローラは二人で一組。切り離せる仲ではない。


「じゃあそんな感じで。俺とレイランと新月がユートピアへ。それ以外がアルカディアへの援軍に」

「人員バランスおかしいんじゃありませんの? 敵の本陣を攻めるとは思えない少数精鋭ですわね」

「……俺も一度くらいやっておきたいんだよ。アレを」

「アレとは?」

「主人公が一人で敵を無双するやつ」


 ということで、結城たちは二手に分かれることになった。結城、レイラン、新月はユートピアへ。

 蓮華とローラ。そして銀風、淫夢、美鈴、グレイがアルカディアへと戻る。





 時は五日前に遡る。

 アルカが国民に避難を促し、半日が経過。

 救国の英雄のこともあってか、国民の避難は進んでおらず、気の抜けた雰囲気が漂っていた。

 しかしアルカは焦ることなく、ユートピアの軍勢を迎え撃つ用意を進めていた。

 アルカにとって、国民そのものが自らの不注意で死んだところで興味はない。

 自分が死に、この国が潰えさえしなければ、また新たなに再建できる。

 今もっとも必要なのは、迫り来る脅威に対して最大限の対応をすることだ


「さて、そろそろ私も行くとするか」


 アルカは玉座に立てかけてある金色の剣を手に取る。窓から身を乗りだすと、空へと歩を進める。

 その身体は落ちることなく、アルカは空を歩いた。


「私も一応は理想家、夢追い人だ。若手に遅れを取るほど腕が鈍っていなければ良いが……」


 金色の剣が眩い光を発する。まるで夜明け太陽のように強く、夕暮れの陽光のように濃い。

 

「まあ、私の出番など回らないほどに、若手が強ければそれが最良だがな」




 いつもの通り、黒い人影が二つ、国を囲う壁の上に立っていた。

 西から迫る敵勢の一部が既に見えていた。

 空を飛ぶ戦闘機。それは今までのものとはまた違い、そして数も多い。


「クク……来たか、有象無象の烏合の衆よ」

「私たち、神魔ヲ降ス闇黒ノ徒を前に、どれほど健闘できるか……西の理想郷が力、とくと見せてもらうとしよう」


 二人はあいも変わらず、圧倒的な自信に満ちていた。

 ケイオスの封印されし右手に闇が纏い、クロウデルの瞳に紫色の光が宿る。





 安全無欠の勇者たちはアルカディアの動きを観察していた。

 一度動きがあれば、アトランティスの砲撃によって敵の戦力を可能な限り削る。

 そのまま安全無欠の勇者とその他部隊がユートピア軍を横から叩く。


「とにかく、山脈で進行が遅くなったところで砲撃する」

「了解! いやぁ、ついにこの時が来たかぁ!」


 タガの外れた声が、アトランティス中に響いている。

 アトランティスの事実上の支配者であるアイス・バイエルンが朱と共にユートピアへ侵入した後、アトランティスはフリーの状態になっていた。

 そのまま誰が支配者となることもなく、アルカディアの南方の海域まで戻ってきていた。


 街の巨大モニターに映る大軍勢は、なんど見ても心が折れ兼ねない。

 しかし、このアトランティスが相手の時でさえ、安全無欠の勇者と共に戦えば、誰一人死ぬことは無かった。

 今は安全無欠の力と、自分の理想を信じるしかない。

 アルカディアから、数隻の飛空挺とワイバーン部隊が出撃したのが映し出された。

 傭兵は銃器を握り、兵士たちは剣、槍、弓矢、杖を握る。




 クロードたちは船の上で、いつか開戦前に仲間へ言葉を贈ったときと同じように。 


「僕の力が及ばなかったばかりに……」

「あなたらしくありませんわ。安全無欠の勇者様」


 ふわりと箒に腰かけながら浮遊する魔耶が、クロードの傍に寄る。


「あなたは安全無欠。誰一人として欠けることはない。誰も不安になど思っていません」

「そうだぜ勇者様!」

「俺たちは勝てる!それ以外ない!」

「及ばずながら、私たちも力になります!」


 船員らの沸き立つ様に驚く。たくさんの声が前身を打つ。


「見ての通りだクロード。今となっては、傭兵たちですら私たちの仲間だ」

「うむ。私らならば心配いらん。お前はいつもどおりにしておればよい!」

「みんな……ありがとう」




 兵士が、魔法使いが、エルフが、アマゾネスが、傭兵が頷く。

 強大な敵を前にして、決死の戦いを前にして、彼らは今一つとなった。


 勇者は奮い立ち、英雄は待ち構え、王者は西を見据える。

 科学が織り成す百鬼夜行、魑魅魍魎が迫り来る。




 山脈を最初に越えたのは、数多くの鉄の鳥、戦闘機だった。

 他にも人型の機械が空を飛ぶ土台に乗り、山を越えるという姿もあった。


「敵ヲ発見。攻撃ヲ開始スル」

「一番乗りだな」

「当然だ。電子化サブリメーションされた我々やAIならば、生身の人間では耐えられない加速度も問題ではない」


 音速で飛行する戦闘機は、標的となる国をすぐに見つけた。


「初撃を与える。全員、発射用……」


 次の瞬間、5機の戦闘機が次々と爆発した。

 後続の戦闘機が急旋回する。

 その軌道はまるでUFOさながらだが、突如起こった襲撃に混乱し、センサーにも反応は無い。


「いや、アレだ。あそこに何かいるぞ」



 青い空に、一点の黒球がポツンと浮かんでいた。

 それが徐々に左右に開く。

 それは、影のような翼だった。そして翼を生やすは、一人の人間。

 救国の英雄、神魔を降す闇黒の徒が片割れ・ケイオス。


「シャドウ・ザ・ブラックロウ……」


 ケイオスが戦闘機に狙いを定め右手の五指を動かす。

 戦闘機の影が蠢いたかと思うと、黒い影が鉄を引き裂き、戦闘機を細切れにしてみせた。


「フフン、この程度か……おっと」


 上からの機銃の弾丸、左右からのビームライフルの射撃、前方からの砲撃を、影の翼を羽ばたかせ、ひらりと回避し、弾丸やビームの一部は翼で吸収し、或いは弾く。


「雑魚をいちいち相手するのも手間だ……ヤツの技を借りるとしよう」


 ケイオスは右手を翳す。その掌の中央に、闇黒が集う。


「心象顕現……召喚、閃闇龍ダークネスドラゴン


 闇黒の輝きは一つの結晶クリスタルとなって形作られる。

 より眩い光……否、闇がその凶悪な姿を形成する。


 百の獣を引き裂く爪と、千のからくりを薙ぐ尾、万の魔を貫く牙。

 魔力の通った紫の眼。影のように虚ろながら、しかし膨大な力が溢れ出る巨体。

 

「滅ぼせ、我が忠実なる闇黒点よ」


 ドラゴンの開く口に、一粒の黒点が見えた。

 瞬間、幾条もの闇が迸り、正面の編隊を残らず殲滅した。

 そのまま左右に振るい。急速な回避運動をしてからがら逃れた少数以外は、ほとんどが爆散し、山脈に落ちた。


蜥蜴とかげ風情が……消えうせろ」


 一機の戦闘機、紅色の前身翼を持つ機体が、その先端に光を集中させる。

 対し応じて、ドラゴンも口を大きく開け、より濃密な闇黒を凝縮させる。


「放て…ダークネス・ストリーム」


 ドラゴンの口腔から膨大な闇黒が放たれる。

 同時に、戦闘機の先端からも青白い閃光が放たれる。


 光と闇は紙一重で交差し、光がドラゴンの胸を貫く。

 しかし回避が間に合わず、戦闘機もまたドラゴンの放つ闇に飲まれた。

 回避運動で光も動き、ドラゴンの胸から右翼にかけてを抉り取った。

 戦闘機は完全に消滅したが、ドラゴンも形状を維持できなくなり、ただの闇となって日の光に散った。


「フフ、なるほど。これは存外に難しい芸当だ。ヤツの妄想顕現の顕現レベル……やはり只者ではない。見込んだとおりの男だ」


 ドラゴンの失せる姿を見届け、再び前を見る。

 一掃出来たかに見えたが、未だに次々と、蟲のように戦闘機は湧く。


「雑魚がいくら出てきたところで、この俺に敵うと思って……!」


 上空から降り注ぐ弾丸の雨に、咄嗟に闇の障壁を発生させて防ぐ。


「チッ、やっぱり当たらないか」

「お前は……」


 日の光を背にするそのシルエットは、人と戦闘機が重なったようなシルエットだった。


「ケイオス!下から来るぞ!」


 頭に響く相棒の声に、ケイオスは咄嗟に空気を蹴り交代すると、下方からの砲弾が眼前を通過した。

 見ると、そこには茶色の髪の少女が戦車の砲塔のような装備を腕に備えて、こちらに向けている姿があった。


「アレを避けるとは、さすがね」


 ふと背後から聞こえた異音と声。

 ケイオスは身を翻し、纏う闇黒から黒の剣を抜き出して振り向きざまに斬撃を見舞う。

 刃と刃がぶつかる。そこには、回転するプロペラを背負った緑の髪の少女。

 刃同士が火花を散らす。敵の華奢な腕からは想像もつかないほどの力が、ケイオスの力と拮抗していた。


闇黒人形ダークマタッ!」


 ケイオスの体から、人型の闇が分裂し飛び出す。その手にある刃がプロペラ少女に向けて刃を振るう。

 寸前でプロペラ少女は後退する。

 と思えば、下方からの砲撃に人形が打ち抜かれ、爆死する。

 そしてケイオスにまで迫る砲弾。

 ケイオス自身は造作も無く回避しながら、ついでに一刀両断する。


「これは……」


 前世にて、そういうジャンルがあることは知っていた。

 ケイオスの目に映る三人の姿。


 一人は金髪の少女。勝気な青瞳せいがんに黄金の髪。戦闘機の翼を背負い、その手には大型の機関砲。腰の両側にはミサイルがあった。

 しかし白布で巻かれたその胸の膨らみと柔肌が、彼女が少女であることを主張していた。


 一人は茶髪の少女。キャタピラのある靴、片腕の砲塔と機銃。そして背負う巨大砲。脚部などを覆う装甲はまさしく戦車。今も尚、その腕の砲口をこちらに向けている。

 小柄ながら、迷いのないその瞳は、少女が戦場を往く者であることを示していた。


 一人は緑髪の少女。ヘリコプターのプロペラのついたモーターを背負っている。先ほどの斬撃は、回っているプロペラに酷似した剣。腰の左右に予備の羽根らしいものがある。

 やる気のなさそうに、だらんとした姿勢で飛んではいるが、先ほどの斬撃はその見た目に反して強力なものだった。


「貴様ら、何者だ?」

「これから死ぬのに、私たちのことが知りたいの……?」

「私たちはMGシリーズ!そして私は記念すべき1号機、フェイだ!」


 すると突如、下方からの機銃によってフェイと名乗る戦闘機少女が狙撃を受ける。


「いたたっ!なにすんだ!?」

「情報漏洩は銃殺刑だ馬鹿者」

「ほんっとお前は固いやつだな、パティ」


 また機銃を撃つが、今度は余裕の動きでひょいひょい回避する。


「じゃあついでに私も。ルージュです。どうぞよろしく……」


 華奢な女性が鬼を圧倒することもあるこの世界。何があっても不思議じゃない。


「MGシリーズ……?」

「ミリタリーガール。難しいことは分からないけど、私たちのことさ」


 機関砲がケイオスを捉え、火を吹く。

 しかし弾丸はケイオスには届かず、薄暗い闇の障壁によって弾かれる。


「!?」

「ククク……最強の称号をほしいままにする我が闇黒を見せてやろう。名乗られたからには名乗り返す」


 黒い闇の翼を羽ばたかせ、飛翔する。三機を見下ろし、謳う。


「我は総ての闇を統べる究極なる黒点、最強の闇黒、絶対の混沌……我が名はケイオス・エル・ハザード・アブソルート!」


 闇の中へと手を入れ、抜き出すは巨大なくろがねの銃。

 黒翼が空気を打ち、ケイオスは空を切り裂くように動く。


「来たれり、黒銃・ブラックファング」

「オーライッ! カモン、ファッキンガイ!」


 フェイが高速で飛ぶケイオスをロックオンし、ミサイルを撃ち込む。

 正確に追尾し超高速で迫るミサイルを、ケイオスは巨大な拳銃を片手一つで駆り、弾丸で迎え撃つ。

 幾度もの爆発が空を少しずつ埋めながら、互いに円を描くように飛びながら打ち合う。


「生身で空戦するなんて……アルカディアほんと化物……」


 フェイの射撃から逃れるその先に、プロペラブレードで待ち構えるルーシー。

 ケイオスはその斬撃を、闇から抜き出す黒の剣によって迎え撃つ。


「闇黒剣・ダークエンド」


 その斬撃が、プロペラブレードを切断する。ルージュはそのおっとりした目を僅かに見開く。


「うわっ……なんてね」


 瞬きのような速度で回転し、次なるブレードを引き抜いてケイオスを打つ。

 辛うじて身を退いて回避するが、背後からのミサイルに気付き、銃弾で撃ち落していく。


「二人相手によくやる。いや、よくやった」


 地面からパティがケイオスを捉える。その巨大な砲口を静かに向け、空気を打つ衝撃と共に砲弾が発射される。

 それは確実にケイオスへ命中する軌道。


「ぬぅ、らぁ!!」


 ケイオスはなんと黒い翼で砲弾を払った。片翼は衝撃によって大きく抉られるが、砲弾の軌道はケイオスから逸れる。

 片翼を失ったケイオスの体は重力に抗えず落下を始めた。


「あれを避けるのかよ!」


 驚きながらも、フェイは次なる攻撃へと移った。落下するケイオスをミサイルと機関砲で追撃する。

 もう片翼で機関砲の弾丸を防ぎつつミサイルを銃弾で撃ち落していくが、下方からも機銃と砲撃によって攻め立てられる。

 そして弾丸の合間を縫い、ルージュが同じ速度で下降しながら横から迫る。


「さようなら。面白い人……」


 三対一。圧倒的不利な状況に流され、決着するかと思われた。


「最強の闇黒を舐めるな」


 ケイオスは片翼を取り外し、フェイの攻撃への囮に、障害物とした。

 そしてダークエンドでルージュの斬撃に対応する。

 同時に翼を再び生やし、パティからの砲撃を羽ばたいて回避する。


「……おい、お前なんか手加減してねぇか?」


 攻撃を止め、フェイが問いかける。


「戦闘機はバカスカ落としてたろ。なんか変な感じだ」

「……」


 ケイオスは沈黙する。戦場らしからぬ、照れくさいという仕草で。


「お、女が相手だと色々やりにくい」

「おんっ……お前、頭大丈夫か? あ、いや、そういう効果もあるって聞いた気がするな」

「兵器に欲情……変態?」

「それならそれで好都合だ。さっさと墜として先に進むぞ。他のやつに先んじられる」


 冷徹に言い放つパティに対し、フェイは楽しげに笑う。


「ははは! まあ、なんだ。いい奴なんだな、お前は」

「て、敵が強大でなければ、闇の力は呼応しない。それだけだ!」

「空も飛べる、私たちと対等に戦える。その上いい奴……仲間だったら良かった……」

「だよなぁ。オマケにこの反応は童貞だぞゼッタイ」

「いいから早く攻撃を再開しろ」

「下のヤツの言う通りだ……クククッ、我が闇黒の力はまだその本領の一割も発揮していない」


 ふと、頭上が瞬く。

 アルカディアの飛空挺とユートピアの飛行船が交戦していた。

 では、と一同、それぞれの得物を再び構える。


「ククッ! ユートピアのMGシリーズとやらの力、存分に楽しませてもらおうか」

「オーライ! カモン、キュートボーイッ!」

「チェリーボーイ……」

「お前ら真面目にやれ」




 飛空挺の船頭に立つ、漆黒の姿の乙女が一人。


「敵が多いとはいえ、二手に分かれて良かったのか……いや、今は目の前の敵を倒すことだけを考えるべきだな」


 癖である独り言で、心を落ち着かせる。

 空を埋め尽くすような向こうの軍勢、飛行船の数は凄まじい。


「救国の英雄の一人、ですね」


 背後から声をかけられ、振り返る。そこには眼鏡をかけた女性が一人。

 キッチリした制服に、細めの眼鏡。キツめの性格に見えるが、大人びた女性の色気があった。

 胸もそこそこあり、完全敗北が心の中で決定した。


「私は山城 椿つばき、この部隊の一時的な指揮官となります。よろしくお願いします」

「あっ、私……我が名は神魔を降す闇黒の徒が一人、クロウデル・シン・ダークロード」

「ガンダーラで結城と、ガンダーラの英雄とお会いしたようで」

「ああ、あの青年か……」


 安全無欠を越えた英雄として、その名はアルカディアでも浸透しつつあった。


「一応は一時的なものながら私の部下です。何か失礼なことなどしていませんか」

「いや、そういったことは……彼の理想、叶うことを願っている」


 共に、架空への強い憧れ、妄想によって何かを彩ろうとした者だ。

 クロウデルも僅かながら心の通うものを感じていた。


「光栄です。こちらこそ、救国の英雄の理想が叶いますよう願っております。では後ほど……伏せてっ!」


 見ると、敵の飛行船から無数のミサイルが放たれていた。


「案ずるな、椿とやら」


 クロウデルは瞼を閉じる。片手で顔を隠し、そして指の隙間より瞼を開けて覗く。

 その瞳は、魔力に満ちた紫色に染まっていた。


「魔眼バースト」


 膨大な量の魔力を内包する魔眼を一気に解放する。

 薄く広く展開し、敵艦隊とこちらの艦隊を隔絶するように伸ばし広げる。

 ミサイルは透き通った薄紫の壁にぶつかり、その全てが爆発した。


「我が視界に入ったが最後。この視界から、二度と生きては逃れられぬ……」


 目を凝らすクロウデル。敵の船の一つを凝視する。

 船体が軋み、やがて捩れ、圧縮され、やがて鋼鉄の絶叫と共に鉄屑と化した。


「これが、魔眼の力……」

「椿さん、すぐに指揮を取ってください」

「わ、分かりました。魔法使いに砲撃の用意をさせます。それまで持ちこたえてください」


 椿が駆けて船の内部へと戻っていくのを見届け、クロウデルは再び敵を視る。


「さて、我が力、存分に味わってもらうとしよう……うん?」


 察知眼。視界にレーダーの機能を持たせる魔眼。

 船から多数の戦闘機、あるいは人型の戦闘機兵が飛び出してくるのが視得た。

 ならばと再び瞳を閉じる。


「我が視線は百鬼を穿ち、唯一神をも射抜く、冥府の底の兇悪にし兇暴なる狂気の視線……」


 カッ! と見開く。そしてクロウデルの頭上に現れし、巨大な眼。


魔眼光まがんこう!」


 破壊の魔力の奔流が敵船をなぎ払い、無数の矢の如き閃光が誘導ミサイルのように敵機を的確に貫いていく。


「フフッ、他愛ない……ん?」


 一機だけ、魔眼から逃れた機体があった。

 青を基調としたカラーリングで、鋭角の多い戦闘機。しかし、他の戦闘機より二倍近く大きい。

 次の瞬間、青の機体から放たれた青いレーザーが一隻の船をいた。

 木造の船体を貫通し、引き裂かれた。徐々に降下を始める。


 一隻、また一隻と落としていく青の機体。


「魔眼光!」


 それに目掛けて、自分の頭上にある眼で一斉射撃を行う。

 するとすぐさま青の機体はくるりと翻り、鮮やかな軌道を描いて破壊の光を避けていく。


「あれは只者じゃない……っ!」


 突如、青の機体はこちらに目掛け飛来する。そのまま青いレーザーを放つ。


「魔眼バースト!」


 今度は船一隻分を覆う障壁シールドを展開する。

 しかし敵の出力が存外に大きく、障壁が破られ、船体を僅かに焼かれた。


「くっ、やってくれたなッ!」


 青の機体が船よりも上に来ると、形が見る見るうちに変わった。

 そう、変形したのだ。

 戦闘機は変形し、人型の機械となってこちらを見下ろしている。

 その手にはライフル銃と、もう片方に盾を備えていた。


「なるほど……それがそちら側のエースというわけか」


 構えながら呟く。

 青の機体とにらみ合っていると、その更に上空から5機の戦闘機が追い越した。


「しまったッ! 奴ら、国を直接攻撃する気か!」

「心配は不要です。間に合いました」


 ついさっき聞いた声が魔力を通して頭の中に響く。

 ほぼ同時に、閃光が頭上の戦闘機を三機ほど撃ち落した。




「海だろうが空だろうが、船なら何も問題はない」


 舵を取る操縦士の傍らに、鮫の牙のような目つきをした男が一人。

 海原海斗みはらかいと。安全無欠と共に戦った船隊指揮官。


「中将、報告いたします。敵のミサイル攻撃は全て回避済み。レーザー攻撃で二隻落とされましたが、死傷者は0です」

海月みづき、魔砲の発射準備は」

「既に整っております」

「よし、この船の攻撃を合図とし、総攻撃を開始せよと伝えろ」

「はっ!……海斗」


 海斗は振り返る。海月の表情は軍人の凛々しさを保っている。

 だが、僅かな不安を海斗は察した。


「私たちは、アレに勝てるだろうか」

「らしくないなブラックシー。それが海魔を統べる魚人の台詞か?」

「魚人なんて言われたのは久しぶりだな。人魚と呼べ人魚と」


 苦笑する海月。海斗は自分より背の高い、不安げな彼女の頭を撫でる。


「迷うな、疑うな。勝てるものも勝てなくなる。いつものことを、いつもどおりにやれば良い。全身全霊をかけてな」

「ああ、そうだったな……」


 目を閉じて、撫でられる感触を堪能する。

 少し痛く、ゆえに力強い愛撫だ。


「お前がいつもどおりだと助かる。その鋼の精神を私も見習いたい」

「これくらいで動揺してたら、船隊指揮官なんて役割は務まらん。何人の命を背負っていると思ってる」


 海斗は再び前を見る。

 前方には青い空に浮かぶ敵艦の群れ。


「さあ行け。命をかけた戦いは、ひとまずはこれで最後にする」

「ああ……了解です。中将殿」


 長らく続いた戦争に、決戦の時が訪れた。






「強かにして頑なな、それぞれの理想がぶつかり合う。生き残るのは、より強い理想のみ」


 闇黒より深い闇……名づけるならば、虚無。

 その虚無の中に、唯一存在を保つのは、神父服の上に白衣を着た男。


「さて、そろそろ最後の選定が始まる頃か」


 虚無なる世界で唯一の存在たる彼は、まるで目の前に何かが存在しているかのように、視ていた。


「だが、今となってはどうでも良い。彼さえここに辿り着くことができれば……きっと君ならば、私の彼岸を叶えてくれるだろう」


 男は笑みを浮かべる。それは、無邪気な子供のような、明るい未来を約束された若輩のような、救いを見出した老人のような……


「さあ、真の英雄よ。私を、世界を、理想を救って見せ給え。真なる理想を見せ給え」

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