34話目 海水浴と美少女水着コンテスト
ガンダーラの夜が明ける。
相変わらず身を焦がすような陽光が差しているこの地では、年がら年中海水浴が出来る。
「と、いうわけで、この銀風が主催となりまして、海水浴……と、水着コンテストを執り行いますッ!」
やたら気合の入っている銀風と、その前に整列する結城たち。既に全員が水着姿である。
即席のお立ち台から満足そうに彼らを見回す銀風は、妄想で顕現させたマイクを握る。
「注目するのは勿論女子ッ! エントリーナンバー1! 剣姫、レイラン・シルファン!」
銀風がレイランの方に手先を向ける。
「マスター、いかがでしょうか」
純白のビキニである。中央がリボンのようになっていること以外は何の変哲も無いシンプルな一品。
だが、レイランの無駄の無い極上の身体には、それだけで十分だった。
白い肌、着痩せから解放された豊かな胸、より引き締まった腰まわり、そこまでのバランスを崩さないベストサイズな白桃の桃尻。
手足の先端からあらゆるパーツが女神の総力を結集したような幻のように理想的なもの。
そして何より、恥じらいからなのか、普段の無表情さから頬に赤みが差している。
もはや非の打ち所が無い。見るのが勿体無いレベル。
「私ごときの粗末な身体で、お気に召していただけるか分かりませんが……」
「いや、全然……」
「ここまで来ると皮肉にしか聞こえないな」
申し訳無さそうなレイランと見惚れる結城とを見比べて、銀風は苦笑する。
「ではエントリーナンバー2! 最強の格闘王、蓮華!」
「へへっ!」
スマートな競泳水着だった。色は赤く、白いラインが両脇に描かれている。
肉弾戦ジャンキーとは思えない女の子らしい身体だが、胸はやや膨らみかけにとどまっている。だがそこがいい。
身体は無駄なく引き締まっていて、全体的にコンパクト。
健康的な四肢は競泳水着という頑丈さと機能性によってより活発に動けるようになり、持ち前の明るさと活発さを強調している。
下手に着飾るより似合っている。銀風は気になったので問うことにした。
「ところでなんでその水着を?」
「なんかカッコよかったからな! どうだ結城!」
「よく似合ってる」
蓮華はへへっと照れて笑う。そしてふと隣を見る。
「ローラも似合ってるぞ!」
「よし、エントリーナンバー3! 最高の魔法使い、ローレライ・アンジュ!」
「あう……うぅ……」
黒いビキニ、しかも面積はレイランのものよりも小さい。俗に言うマイクロビキニ。
普段がだぼだぼな服や魔女特有の外套で隠されていた分、真の身体のラインが露になった時の衝撃は凄まじく、その胸は確かに人を驚かせる爆弾の役割を果たした。
そのくせ余分な肉はほとんど無い、というわけではないが、太ももの少々あまり気味な肉は女性としての柔らかさを演出している。
蓮華の引き締まった身体とは対極を成す大人顔負けのふくよかなボディ。
そして今時珍しい丸眼鏡で、普段の地味さとの強烈なギャップが男心と百合心をくすぐってくれる。
「れ、蓮華ちゃん、恥ずかしいよぅ……」
「えー、すごい似合ってるぜ?」
「さ、さっきの水着の方が……」
「さっきの?」
銀風が問うと、ローラは頷き、蓮華が説明する。
「下がスパッツみたいになってて、上は私の奴に似てる。上下が分かれてるな」
「上下が分かれているスク水のようなものか……まあ、この露出度には敵わないだろうな。さて次は」
「待たれよ」
そこに待ったをかけたのは結城だった。
「ローラ、それに着替えてきてくれないか」
「えっ、はい。私はそっちのほうがいいですけど……」
「頼む」
「わ、分かりました」
そう言うと、ローラは急ぎ水着の貸し出し屋に走る。
「結城、どういうつもりだ? あれほどの蠱惑ボディをみすみす逃すなんて」
「ふふん、見ていろ」
無意識にノリノリな結城に、銀風は少し微笑んだ。
(しかし、どういうつもりだ? いくらスク水でもアレを越える魅力があるとは……ま、いいか)
「さて、ローラはまた改めて。エントリーナンバー4! 精霊使い、セレナ・アクエリアス!」
「えへへっ……あ、はい!」
砂浜でしゃがんでいたセレナは立ち上がる。
薄い水色に、白の水玉柄のワンピース。勿論フリルつき。
ローラのように恥ずかしがると思ったが、海水浴の楽しさが勝ったらしく、海の精霊の類と楽しくおしゃべりしていたようだ。
幼い身体を包むワンピース。背伸びせず、着飾らない自然体で、全力で海水浴を楽しもうとする少女らしさがかなり良い。特にイカ腹がたまらない。
控えめのキュっとしたお尻や胸は人々の父性をかき立たせる。
「た、竜人さん、どう、でしょうか……?」
「お、おお、似合ってるぞ……」
「うん、これは可愛らしい」
「ありがとうございます! ところで、海水浴って何するんですか?」
「それは海で泳いだり、砂で城を作ったり、日光浴したり、好きな人の身体にオイルを塗ったり、その流れで触りむぐっ!?」
銀風の口を塞ぐ新月。
「そう来ると思っていましたわ。いたいけな少女にくらい言葉を選びなさいな」
「むーっ! むぐぐっ、ぷはっ! エントリーナンバー5! パーヴァート、魅惑の新月!」
「ふん、まあ今回ばかりはあなたの催しに付き合って差し上げましょう。結城を射止めるチャンスですもの」
金色のスリングショット。露出度最大出力である。
しかも局部を隠す布以外はほとんど紐で構成されており、極限まで露出を高めている。
新月の身体はセレナよりも少し幼い。しかし雰囲気はなぜか大人の色気を匂わせている。きめ細やかな玉肌に、自らの身体を最大限発揮する仕草。蠱惑的な瞳に悪魔的な口元の笑み。
膨らみかけの胸と色気のある視線は扇情的で、大きすぎず小さすぎずの尻が合わされば、それはまるで黄金比。二つの未熟な果実は、しかし瑞々(みずみず)しく、未知数の魅力を秘めている。
ただでさえ強烈な魅力を持つ幼女体型ながら、己の妄想によってエロス度を底上げできる。
完全に完成された完璧なる幼女体型。
「ふふっ、私は魅惑の新月と名乗っていますが、それとは別にパーフェクト・ロリスタイルと呼ばれた時期もありましたわ。結城、遠慮なく私に見惚れなさいな」
さすがの結城も釘付けにならざるを得ない。何をどうしたらこんな水着を着て堂々としていられるのか。
「恥ずかしいと思うその心の有様が恥ずかしい。そう言っていたのはあなたですのよ?」
「いやそれは……そうか」
銀封のいう覚醒とは、つまりそういう意識の問題なのだろう。
「エントリーナンバー6! 我が戦友、黒の淫夢!」
「い、淫夢でいいよ。ナイトメアはちょっと臭すぎるよ」
そう言いつつ、くるりと回って注目を浴びようとしている。
淫夢を見て、銀風はゲスっぽい含み笑いを発した。
「ぐふふ、このむっつりめ。にしてもその水着はいったい……」
淫夢の水着は、紐が無かった。
下半身はIバックと呼ばれる股間を前後で挟んで隠すもの。上はバンドゥブラという肩紐のない胸当てでサラシのような見た目。
全体的にフリルが付いている為にふわりと柔らかい印象を受ける。色は水色。
黒髪はセミロングの長さを二つのポニーテールにしている。それはさながら猫又のようで、独創性溢れる意欲作だ。
胸の果実は中々に高度成長期のようで、将来が有望だ。
「これツインテールじゃないのか?」
「私もそう思わないこともないが、横じゃなくて後ろにあるしなぁ」
「それ私知ってますわ。確かツインポニーテールと聞きましたわね」
「まんまか」
「ふむ、まんまだな。さて、いよいよ最後のエントリーナンバー7ッ!」
同時に銀風は自らの服を脱ぎ捨てた。
「パーヴァートのレディトップッ、この私、彩の銀風!」
それはシンプルながらも衝撃的な、威風堂々とした姿。
上は晒、下は褌のド直球であった。
キツく、ピッチリと布に納められた胸は抑圧されたリビドーのように、奥深い底なしの谷間と滲み出る欲望の下乳を曝け出している。
下半身の褌はほとんどTバックのようなもので、しかし普通のパンツとは違う独特な雰囲気をかもし出している。
それが単純な布着れ一枚で出来ていることも含めて、その魅力は凄まじく、男の心を上手く煽る。
銀風の藍と金のオッドアイは男心をすべて見透かすかのようで、妖艶な微笑を浮かべる。
ふと銀風はあることに気付いた。
「隠しているのに晒とはなんとも」
「さり気なく身を寄せてくるな」
「さて、これで全員の紹介は……」
「お、お待たせしました!」
今の今までローラのことをすっかり忘れていた銀風。
ふと声のほうを振り向くと、そこには初めて見る類の水着を着るローラの姿があった。
「こ、これは……スク水、のような?」
それは下半身がスパッツのような形状で、上は普通のスクール水着。だが、腰の部分で上下が別れているように見える。
旧型スクール水着のような排水用の切れ込みではないように見え、銀風はただ驚くばかりだった。
「フフッ……これはセパレート型スクール水着。略してセパスクッ!」
「せ、セパスクだとぉッ!?」
不敵に口元を歪める結城と、驚きを隠せない銀風。
「これは上下が分割されているスクール水着だ。この意味が分かるか?」
「……なるほど。上下分割という特性から、新たなスタイルとプレイが生まれるということか……」
「そういうことだ。半脱ぎからナマで挟んでもらうことも出来るぞ」
意味深な発言はさておき、スク水になることで露出が減り、ローラは動きやすくなった。
そしてなにより、ローラが持つ地味さと露出度の低いスク水が絶妙にマッチしている。
恥じらいに身を悶えさせる姿も悩ましいが、恥じらいが消え、自由に、楽しさを満喫するその無邪気な笑みと、躍動するグラマラスボディが更なるギャップ萌えを生む。
「まさに新境地……さすが結城」
「フフフ……って、俺は一体なにを……」
結城が正気に戻りそうなところで、銀風は両手を握る。
「結城、大丈夫だ。何も心配は要らない。お前は私の及びも付かないところにいる。お前はそのまま、より強く、よりエロスの追求をしてくれ」
「お、おう……あっ、あとこれは脱ぐ時がいい」
「脱ぐ時?」
「脱ぐ時、必ず下乳になる。下乳派の俺に、その極限られた一瞬の下乳こそが極上のレアであり、最高の価値を持つ」
「っ!?」
水着の着脱。そんなところにまで妄想を張り巡らせ、尚且つそこに趣向を凝らす。
これが変態。これがパーヴァート。ただの変態ではない真の。
世界よ、これが変態だ。
そう言わん限りであった。銀風の求めて止まなかった、一人のパーヴァートの姿がそこにはあった。
「そうか、結城は下乳派か」
「横も捨てがたいが、横は片方分の魅力しかない。山脈を拝むなら下からよな」
あとそれを見下ろす美少女の視線。
「うん? 視線は平気なのか?」
「美少女ならな。三次、というか前世みたいなのだとちょっと」
結城は前世では二次元原理主義者だったので、三次元を恋愛対象として見れないのであった。
「さて、参加者も一通り揃ったところで、とりあえず、遊ぶぞぉッ!」
そこからはごく普通にバカンスだった。
蓮華がサイダーをイッキ飲みして喉を焼き。
銀風と新月にサンオイルを塗ったり。
レイランと日陰でじっとしたり。
ローラが蓮華に泳ぎを教えてもらったり。
セレナは精霊さんとのお喋りしたり。そして竜人も精霊と親しくなれたり。
ピーチパラソルの下、シートの上で結城は一休みしている。勿論、傍らにはレイランが控えている。
ふと、結城は蓮華と楽しそうに会話をする淫夢を見て問う。
「ところで、他の異能者はどこに行ったんだ?」
「彼らは自由にしてやった。彼らの理想がどういうものか知らないが、こちらに殺意があったわけではないしな」
「作戦は失敗したので、帰るって選択肢は無いと思います。私も帰りたいとは思いませんし」
無能は即座に切り捨てるらしいユートピア。ますます結城とは相容れない。
「いえ、私たちに異能をくれた人は与えるだけ与えて、実験結果さえ出してくれれば自由は保障するって言ってくれたんです」
つい先日まで敵だった淫夢は既に皆と馴染んでいる。他の異能者もそうはならなかったのか。
「でもユートピアはそうです。だから博士は失敗した人間をそのまま自由にさせているし、今回の作戦も実験の結果だけ得られれば良いって言ってました」
「博士、か」
「ところで、あなたが銀風の言っていた仮面さん?」
淫夢は首を傾げて言う。
「淫夢、結城は今は仮面という名では通ってない。結城は結城のままだ」
「あ、そうなんですか。じゃあ何か新しい二つ名をつけましょうよ」
二つ名。パーヴァートなら何かしら、その性的嗜好に準じた二つ名を名乗るなり、与えられるなりしている。
例えば<彩の銀風>、<魅惑の新月>、<幻の露出狂>、<疾風の盗撮魔>、<神御手淫>、<黄金の果実>、<薔薇の大淫婦>
「実は、この時に備えて私が考えていたピッタリの二つ名がある」
「ほう?」
結城は耳を傾ける。銀風は不敵に笑み、そして口を開いた。
「<七色の衝動>」
「せ、セブンズリビドー……ッ!」
不覚にも、結城の心は憧れのヒーローと対面できた少年のように弾んでいた。
「か、かっこいい……」
「フフ、そうだろう、そうだろう。結城の幅広い性癖と受け皿の広いストライクゾーン、そして虹の水晶をイメージしたんだ」
「ふん、まだまだですわね」
「なにっ!?」
横合いから新月が介入する。
「私にはもっと良い候補がありますわ」
「ほほう、ではどちらが結城の趣味に合うか、勝負と行こうじゃないか」
「勝負? そんなもの、決まったも同然ですわ。結城、貴方にピッタリの二つ名を用意しましたわ。その名も<ユーフォリア・ロード>。多幸の主」
「ユーフォリア・ロード。すごい語感が良いな」
「だがそれだけだ。結城の二つ名にしては地味すぎるだろう」
「ユーフォリアをそのまま多幸と訳してしまうから無粋なのですわ。ユーフォリア・ロード。森羅万性の主」
「おっ、おおっ!」
結城の興奮度がさらに上がる。
森羅万性の主。それはありとあらゆる性を統べる者。
その隠しだまに銀風は思わず奥歯を噛み締める。
「多幸をありとあらゆる性として解釈したというのかッ……」
「その通りですわ。故に<森羅万性の主>。どうかしら結城、素敵じゃありませんこと?」
「あ、実は私も考えてたんですよ」
銀風と新月が淫夢の方を見る。
「銀風から聞かされた話でなんとなく作ってみたんですけど」
「ほう……せっかくだ。淫夢も披露してみないか?」
「そうですわ。数少ないパーヴァート同士、交流を深めましょう」
「そうですか? じゃあ遠慮なく……<億兆の絶頂を御する者。マスター・オブ・ザ・トリリオンエクスタシー>」
(長い)
(長いな)
(長いですわ)
だが悪くはない、と三人が思った。
集いし四人のパーヴァート。三人の活躍により、結城は静かにその目を醒ましたのだった。
「そういえばレイランは水着でも剣は離さないんだな」
レイランは結城の傍らに正座している。その右手には一本の剣、直剣のタコーバがあった。
「はい。剣士は何時如何なる時でも剣を肌身離さず持つべきですから」
愛しそうに剣を撫でる。水着姿だからか、その様子が少々色気づいて見える。
ふと、レイランがこちらを見る。
「マスターはこの戦争が終わったら、どうなさるおつもりですか?」
急にそんな質問をされ、結城は返答に困った。
「えーっと……多分、戦争が終わったら、国からお金が貰えるんだったな。じゃあ、その金で旅でもするかな」
「旅ですか」
「ああ。ほかにやることもないし、俺の理想がどうやったら叶うのか見当も付かないし……だから、とりあえず色々なものを見て周りたい。前世で旅した時も、それが以外と面白かったし」
「なるほど。それは良いお考えですね……」
レイランは賛同するような口ぶりだが、なぜかその表情には僅かながら影があるように見えた。
思わず結城は問う。そうせずには居られなかった。
「何か思うところがあるのか?」
「いえ、そのようなことは」
「ははっ、そんな顔で言われても説得力は皆無だな。いいから相談してみなよ。一応は、俺はレイランのご主人様だからな」
するとレイランはくすっ、と笑って、ゆっくりと語り始めた。
「不安、なんです」
「不安?」
「私は、剣士です。出来ることは剣を振るうことくらい。そのような私が、戦いの場以外で、どのようにマスターのお傍に居ればよいのか、分からず……」
「えっ、料理上手かったじゃん」
至極、的確に指摘する。だがレイランは首を横に振った。
「あのような瑣末な技量では、王宮の調理師には遥かに劣ります。私がマスターに最大限に貢献出来るのは、この剣技のみ。これを活用できなくなった時、私はただの、一人のメイド程度の価値しかありません」
「こんな美人が並みのメイド程度なのか……」
「っ……!」
不意に口から出た言葉にレイランは驚き、途惑う。
「そのようなことは」
「まあでも、俺にとってレイランは特別な存在だし、心強いし、頼りになるしそんなに悩む必要ないと思うけどね」
「そう仰っていただけるだけで、救われた心地です」
「最強の剣技と、礼儀正しさ。容姿は女神も嫉妬するレベル。おまけに料理も上手い。誰を相手取っても特別な存在になれるさ」
そう、自分などとても釣りあわないほどに。
そも、彼女と釣りあう男性が存在するのかどうかも怪しい。
「もしそれが存在するのなら、それは……」
「それは彼女自身が選んだ相手に他ならない」
小さく口ずさむ結城の言葉を、思念でクリストが拾った。そして顕現し、結城とレイランの横に座る。
「そういえば、レイランはアルカ王に迫られていたんだったな」
「え、ええ、そうですね」
唐突な登場にレイランすら途惑うが、構わずクリストは続けた。
「さすがに相手は一国の王。ただ断って終わり、というわけにもいかないだろ」
「なんだよクリスト、もったいぶった様な言い方して。何が言いたいんだ?」
「だからな結城。王が結婚を断られたんだ。それ相応の理由が要ると言っているんだ。例えばそう、ほかに好きな人がいる、とか」
結城は少々考え、まさか、という風にクリストを見る。
「レイランもお前を主として認め、選んだ。お前が旅をするなら、新婚旅行と題して行くのも悪くあるまい?」
「ちょ、ちょちょちっ、ちょぉっと! ちょっと待て! 落ち着けクリスト待てっておいほんと」
「落ち着くのはお前だ結城。前世では人並みの幸せを最小限にして理想を追い続けたんだ。今回は人並み以上に幸せになって理想を追うと言うのも一興だ」
「私もそこには同意する」
銀風が急に会話に参加し始めた。
「だが、結城のファーストチェリーは私が頂く予定なんだ。悪いがレイランや他の者に渡す気はない」
「本当に恥ずかしげなく宣言しますわね銀風。とはいえ、その意見は私も同じでしてよ? 私の乙女としての純潔は結城との初夜に捧げると決めているんですもの」
「お前ら本当に自重を知らないなッ!」
結城がツッコミ役にまわるほどに、二人の因縁は深かった。
「私は別に結城の純潔を奪ってもいいんだが?」
「うわっ……」
銀風の発言に、まさか新月がドン引きし始めた。
「ど、どうするつもりですの。まさか……」
「パーヴァートの力を使えば、造作も無い」
銀風は左手の指で輪を作り、右手を銃の形にして出し入れする。
「確かに、あなたなら性転換くらい余裕でしょうけど」
「フフッ、フタナリも余裕だ。どうだ結城、私と新しい扉をこじ開けてみないか? 開くのは私のほうだが。いっそ結城が女性に性転換してみてもいい」
「ま、前向きに考えておくよ」
「まったく、銀風のセクハラにも困ったものですわね……ねぇ結城?」
そう言いながら、新月はごく自然な、違和感を感じさせない流れるような動きで結城の膝の上にちょこんと座った。
「こらこらこら!」
「あら、銀風にもツッコミができますの?」
「何をさりげなくやってるんだお前は」
「うふふ……まあ、私は童貞にそこまで重きを置いてはいませんわ」
言いながら新月は結城にもたれかかり、手の平で胸板を撫でる。
「確かに初めてというのはとても貴重で重要……しかし、それより肝心要な相性というものがありますわ」
「ちょっ!? 新げっ……」
新月は首筋に軽く口付けをし、耳元で囁く
「大事なのは、どれほど高く絶頂に昇り、どれほど深く快楽に沈めるか。どれほど濃い多幸感に浸り、どれほど長く衝動を共有しあえるか……」
蕩けるような声が、鼓膜を優しく愛撫する。
パーヴァートの力は、使用者の持つ煩悩と嗜好性によって指向性を発揮する
素肌と素肌が触れ合い、頭が奥から痺れ、全身の細胞が魅惑の新月という一人の女王に釘付けにされる。
「新月! それ以上はもう……」
「っ!?」
新月の頭に、結城の手が置かれた。
「ゆ、ゆうっ……あっ、だめっ! それはぁ……」
頭を撫でられているだけである。
新月の身体から力が抜け、脱力しきった身体は自然と結城にもたれかかる。
「俺の二つ名は決まった。<七色の妄想狂>だ」
「やっと辿り着いたか」
彼女の耳はエルフのように長く、その瞳はエルフのように碧緑の宝石じみた清らかさを放っていた。
つまりエルフであった。エル・フォレスト・メイヴは砂漠の熱気にやられていた。
額の汗を拭い、乗り物酔いでもしたかのように馬車の中で虫けらのようにへばっていた。
「情けないわねメイヴ。その姿をリューテに見られたら尽くバカにされるでしょうねぇ」
「五月蝿いぞ魔女。くさタイプは熱に弱いんだ」
「お疲れメイヴ。もう少しでガンダーラだから頑張ろう」
「クロードに言われては頑張らざるを得ないな」
むくりと起き上がるメイヴ。砂漠地帯に入ってから4回目である。
苦笑するクロードと魔耶。
その時、強烈な音が大地を揺らした。
「敵襲か!?」
止まった馬車から飛び出して、メイヴは馬車の前方に剣を構える。
そこには、大きな筋肉質な男と、炎を纏う小柄の男の姿があった。
「オマエのせいで負けたんだろうが! 責任取れやコラ!」
「…………」
片方の巨漢が無茶苦茶に暴れ、片方の小男が炎を自在に振り回している。
炎が巨漢に纏わり付くも、その豪腕が振り回されることで起きる風圧に消し飛ばされている。
とはいえ巨漢も熱さを感じているのか、近づこうとするも、やはり一歩後ずさるといった行動が繰り返されている。しまいには巨漢が大量の砂を投げつける。
その有様はまさに子供の喧嘩といったところであった。
「な、なんだこいつらは」
「魔力の感じはしないわねぇ。彼らはきっとユートピアの異能者よ」
魔耶が箒に乗って宙に浮きながら、あの二人に近づく。
「魔耶、大丈夫か?」
「心配はご無用ですわクロード。こんな粗末なものでは私に火傷一つ付きません」
「誰が粗末だゴラァ!!」
耳に付いた陰口の元へ、反射的に火炎を走らせる。火柱が魔耶を包み込もうとした、その瞬間。
「ウゴッ……ゴアッ……」
火柱は捩れ、歪み、更なる大火となった後に反転し、巨漢の身を焼いた。
巨漢はしばらく悶え苦しみながら暴れるが、なぜか振り払おうとしても大火は執拗に纏わりつき、やがて倒れて砂埃を巻き上げた。
「お、オレの炎が、持ってかれた……?」
大火は巨漢から離れ、魔耶がその身に纏った。
だが魔耶の身体や衣服はまったく燃える気配がなく、むしろ大火が服の一部のように飾られていた。
「あなたは、ユートピアの人間ね?」
「そ、そうだ。オマエらは一体……」
「安全無欠の勇者とその一行、と言えば理解してくださるかしら?」
至極丁寧に言葉を紡ぐ魔女。紫色の瞳を、呆けた小男に向ける。
「今、人を探しているのだけれど……ガンダーラの英雄、ご存じないかしら?」
「し、知らな……」
瞬間、小さな火が高速で飛び、小男の頬に薄く切り傷をつけた。
「火を扱う能力があるようだけれど、それじゃ私には届かないわよ?」
小男の身体が震えだす。
不条理、理不尽。その権化だと、目の前の魔女を見て思う。
どれほどの力を行使しても、赤子の手を捻るように呆気なく、その不条理は己を焼き、理不尽が命を奪うであろう。
「ほ、本当に知らないんだ! オレはが、ガンダーラを潰すように言われて、そしたら水を使う奴が現れて……」
「水? その水使いに負けたの? 特徴を教えてくれるかしら」
「ま、負けた。確かウォーロックって……オレは、まっ、魔法だの魔術だのなんてわからねぇから!」
「ウォーロック……精霊……どんな技を? あと落ち着いて喋りなさい」
「たくさんの、水の化物が、大群になって。川から、川からたくさん……」
「充分よ、ありがとう。怖がらせてごめんなさいね」
魔耶は大量の大火をその手の平に集め、両手で包み込む。
次の瞬間には、巨漢を焼いた大火はまるで手品のように消えうせていた。
そしてもう一度両手を合わせ、開くとそこには小瓶があった。
「この霊薬を飲ませれば、あなたのお友達は息を吹き返すでしょう」
放り投げて、小男の足元の砂に突き刺さった。
「お友達は大切にしなきゃね? それじゃあ」
「……悪いな。見ての通りこいつは魔女で性格が悪い。許してくれ」
魔女とエルフが馬車に乗り込み、再び馬車は動き出す。
二人の男を置き去りに、馬車はガンダーラへと向かう。
「あの一行で精霊使いといえば、確かセレナ・アクエリアス。確実に彼らはガンダーラに居るみたい」
「それは、置手紙もあったし」
「クロード、彼らを信用しすぎよ? 一時的に協力しただけであって、彼らとは仲間ではないのよ?」
「そういう言い方……でも、今回はちょっと強引なやり方になるな」
「それは彼ら次第だろう。彼らが素直にこちらの言うことを聞いてくれればそれでよし。拒むようならば力ずくで……」
「まるで悪役みたいだ」
「悪投だなんて。この世界は理想を、その在り方を貫き競う世界。彼らが私たちの障害となるならば、どちらかがその理想を折るほかない。ただそれだけのこと」
「勿論、僕も譲る気は無いんだ。それに、どういう経緯でも、彼とは一度戦ってみたかった」
砂の丘を越え、ガンダーラの街が見え始めた。
「待たせたな、セレナ」
「サリマ!」
水の精霊と砂の王国を完成させたと同時に、セレナは新たな友人と合流した。
「ごめん、今日に限って訓練が長引いた」
「ううん、大丈夫。それじゃ遊ぼっ!」
共闘していた時は気付かなかったが、セレナとサリマはほとんど同じくらいの年齢と容姿だった。
「水着というのも初めて着るわ。変じゃない?」
艶やかな黒褐色の肌に、モスグリーンのビキニ。黄緑色の大きな葉を重ねたようなパレオを腰に巻いている、
「サリマちゃん可愛いよ」
「っ! お、そ、そう? セレナも、似合ってる」
「えへへ、ありがとう」
「にしても、随分すごいものを作ったな」
サリマはセレナの力作である砂の国を見る。中央に高くそびえる城と、周囲を囲む城下町。それらをぐるりと囲む大きな外壁。
こういうのは確かジオラマと呼べるもので、それがほぼアルカディアを再現できていることは、製作者本人も気付いていなかった。
「おーい、ジュース買ってきたぞー」
「あっ、竜人さん!」
走ってくる竜人にセレナが手を振る。
「はい、オレンジジュース……その子は?」
「彼女がサリマちゃん。私と一緒に戦ってくれた人です。サリマちゃん、この人が竜人さん。私の、た、大切な人だよ」
「ふーん……」
サリマは値踏みするように竜人を見ていた。すると竜人は残りのジュースをこちらに差し出した。
「初めまして、俺は竜騎士の竜人だ。セレナを助けてくれたって聞いてる。その歳ですごいんだな。これからよろしく頼む」
「あ、ああ、こっ、こちらこそ」
予想外にフレンドリーかつ丁寧な自己紹介に面食らいながら、サリマはジュースを受け取る。
「自分のジュース買ってくるから、二人で遊んでてくれ」
そういい残して竜人は去ってしまった。残された二人、そして精霊一匹。
「とりあえず泳ぐか」
「あ、その、私は……」
うん? とサリマは首を傾げる。すると、あえて視界に入れないようにしていた水色のスライムが人型をしたような存在が言葉を発した。
「セレナ、泳ゲナイ」
「……セレナ、これは」
「妖精さんだよ。アクアちゃん。私の初めての親友!」
「ヨロシク……」
「よ、よろしく」
サリマは精霊と言うものをほとんど見たことが無い。魔物は難度か見かけたことはあるが。
「泳げないなら、私が泳ぎ方を教えようか」
「えっ、い、いいですよ別に! 楽しく遊んでいた方が……」
「遊ビノ幅モ広ガル。泳ゲルヨウニナルベキ」
「あ、アクアちゃん?」
「私モ、セレナト泳ギタイ」
「アクアちゃん……分かった。私、泳げるようになる!」
こうしてセレナは新たな友人、サリマに水泳を教わることになった。
「ローラ?」
海に半身浸かりながら、二人はビーチボールで戯れていた。
蓮華のパスしたビーチボールをスルーし、ローラはそのまま硬直していた。
「……蓮華ちゃん」
そのただならぬ雰囲気。しかし蓮華はいつもと変わらない。
「どうしたんだよ?」
「追ってきたみたい」
「だな。でも私たちの敵じゃないさ。数もこっちの方が多いし」
「でも……」
ローラは魔力を感じていた。ここからやや北方に、濃厚で強大な魔力が、一瞬だけ現れた。
「あの感じは、安全無欠の……」
すると、ローラの身体を二本の腕が抱き寄せる。
それは力強く、しかし優しい、安心を与えてくれる暖かさがあった。
「大丈夫だローラ。大丈夫……」
「れ、蓮華ちゃん」
「お前は私がちゃんと守るから。だから心配するな。なっ?」
後頭部をポンポンと撫でられるローラは、蓮華に身体を預けながら、頷いた。
「英雄と英雄。二つの理想がぶつかり合う。そして……」
暗闇の空間。その神父のような格好をした男は、何も映らぬ闇黒を見据えながら呟く。
「君は更なる進化を遂げるだろう。さぁ、人の可能性を示してくれ。神が作りし土人形が、神をも越えるその瞬間を」
男は冷淡な表情で、平坦な声のままそう呟くと、薄ら笑みを浮かべた。
それは至極、本当に無機質であった。




